岩本康志のブログ

経済,財政の話題を折に触れて取り上げます

財政

[ リスト | 詳細 ]

財政,予算の話題です
記事検索
検索

全12ページ

[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] [9] [10] [11]

[ 次のページ ]

「震災復興に向けて」の経済学者の共同提言

 伊藤隆敏・東大教授と伊藤元重・東大教授を代表として,多数の経済学者が賛同する「震災復興への3原則」(http://www.tito.e.u-tokyo.ac.jp/201105_ItoReconstruction.pdf )の提言が出されている。
 研究室が同階の隆敏教授から直々に私も賛同のお誘いを受けたが,財源に関する第1の提言に賛同すると,私の考えとの間で「齟齬が生じる」ので,残念ながら賛同者リストに名を連ねることは辞退させていただいた。
 単純に,私が第1の提言に反対,という意味ではない。共同提言は「復興コストのツケを将来世代に回すな」として,できるだけ早期に財源を確保するよう主張しているが,復興費用の財源のみを考えればこれは正しい。これは,4月22日の私のブログ記事「復興国債の日銀引き受けはそもそも財源か?」(http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/35427897.html )でのべた,
「震災は稀なショックであるから,ある程度長期に分散した税で財源調達するのは,「課税平準化」[2011年6月5日追記:「平準化」を「標準化」と誤記していました]と呼ばれる合理的な考え方である。つまり,国債を発行して時間をかけて償還していくことになる。ただし,今後に高齢化が進行することを考えると,償還期間は最長でも20年間程度だろう。償還期間は復興予算の規模との兼ね合いで決まるべきものである。増税はいますぐである必要はなく,現状の混乱期を避けて2年程度後からでもいいだろう。」
につながるものである。
 ただし,このブログ記事で考慮不足だったのは,財政運営全体から見た場合は違った考え方ができることである。この点は,『週刊東洋経済』5月21日号のインタビュー「日本激震! 私の提言」で補足したが,おおむね以下の通りである。
「千年に一度の意味」(http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/35336418.html )でのべた通り,復興費用は巨額であるが,社会保障費の今後の増加の方が財政にはるかに大きな影響を与える。現状はそれに備えずに逆に負担を先送りしており、課税平準化とは逆行している。そのときに復興財源だけの負担の平準化を実現させても十分ではなく,社会保障費の負担を長期で平準化することにしっかり取り組むことの方が優先順位は高い。それが実現できれば,復興財源は別に手当てするのではなく,財政運営全体のなかで取り組むこともできるだろう。通常の国債よりも早期に償還することが復興国債の1つの意図といわれているが,このときは復興国債とせずに通常の国債を発行してもよくなる。

 共同提言は,社会保障の財源確保がままならない現状の制約のもとで復興財源のあり方を示したものだと考えられる。しかし,私は社会保障の財源確保の制約を取り払うことに力を注いでおり,社会保障負担の平準化のために積立型医療・介護保険の導入や公的年金2階部分の民営化をかねてから提言している。したがって,目指す方向と違う前提をもつ提言に賛同すると自らの提言との整合性を保つのが難しくなるので,賛同を控えさせてもらった。社会保障の財源調達問題に深く関わっていることで,共同提言に賛同する経済学者とは若干違った立場にいる結果だといえる。
 社会保障と税の一体改革の検討も進んでおり,政策の現場では社会保障財源と復興財源が同時期に議論される形になっている。両者の関係,さらには震災の影響との関係をうまく整理することが大切である。

(参考)
「持続可能社会への市場活用」(伊藤隆敏,伊藤元重,日本経済新聞2011年5月23日朝刊)
http://www.tito.e.u-tokyo.ac.jp/KeizaiKyoshitsu20110523.pdf

「震災復興への3原則」(伊藤隆敏,伊藤元重,経済学者有志の提言)
http://www.tito.e.u-tokyo.ac.jp/201105_ItoReconstruction.pdf

「社会保障改革案」(社会保障改革に関する集中検討会議,2011年6月2日)
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/syakaihosyou/syutyukento/dai10/siryou1.pdf

(関係する過去記事)
千年に一度の意味
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/35336418.html

復興国債の日銀引き受けはそもそも財源か?
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/35427897.html

閉じる トラックバック(1)

2011年度第1次補正予算の問題点

 東日本大震災対策4兆円を盛り込んだ2011年度第1次補正予算は22日に閣議決定され,28日に国会に提出される。対策の内容は,がれき処理をはじめとした当面に必要な経費であり,本格的な復旧・復興の経費は今後に回される。
 今回の補正予算には,既存経費の削減による財源確保が不十分,基礎年金国庫負担の停止は適切ではない,という2つの重大な問題がある。

 復興対策の財源としては,まずは既存経費の削減で確保を図るべきであるが,今回の補正予算はその努力が不十分である。例えば公共事業費は,事業計画を後ろ倒ししていけば,当面の復興経費を捻出できる。いま執行するべき緊急性が被災地のがれきを処理することよりも高い事業はそうはないだろう。ここへの踏み込みは進められていない。
 公共事業費は近年大幅に削減されており,すでに地方への打撃がないとはいえない現状ではぎりぎりの判断だ。しかし,政治家が「がれきを撤去するために,皆さんの周辺の公共事業を少しだけ待ってください」と言って,国民に理解を求める余地はまだあるだろう。東北地方太平洋沖地震が発生したのが個所づけ(総額が決まった予算を事業ごとに割り振っていく作業)の最中であったので,いったん個所づけを止めなければいけない。役所の手続きから見れば荒業が必要だが,政治主導ができる政権ならできたはずである。
 国会公務員人件費の削減も取り沙汰されていたが,盛り込まれなかった。もともと民主党のマニフェストは,国家公務員人件費の2割削減をうたっていたのだが。

 予備費8100億円を使用する他は既存経費を削減して国債を発行しないこととしているが,これはまやかしである。経費削減の大部分を占めるのは,基礎年金国庫負担のための年金特別会計への繰入の2.5兆円減額である。年金特別会計の方では,国庫負担が入らないことになり,その分,積立金が減少する。
 そこから生じる重大な問題は2つ。
 第1は,国債が発行されなくても,公的年金積立金が減るため政府全体では資産が減少している。つまり,純債務が増加しており,財政赤字が発生している。国債を発行しないことを強調することでこの事実が隠されてしまう。
 第2は,復興経費を公的年金で負担することになるが,このままでは将来の世代がどこかの時点でそのつけを払わされることになるだろう。復興財源を誰が負担するのか,を議論することなく,国債を発行しないという名目だけで将来の世代が負担することを決めてしまうのは正当な政策決定だろうか。
 日本学術会議経済学委員会が4月5日にまとめた「東日本大震災に対応する第三次緊急提言のための審議資料」では,経済政策立案のための5つの軸のひとつに「誰が負担するのか」をあげている。そして,復興財源について,
「世代間の公平性を確保しなければならないが、先述した若い世代のボランティア活動に対する返礼、さらに若い世代が災害後の日本経済・日本社会の復興の主体となるはずであることから、高齢世代が若年世代の活動を少しでも支援する方向性をもった貢献方法に重きを置くべきであろう。」
とのべている。

 年金特別会計への繰入減額については,もっと良い対応が2つ考えられる。
 第1は,デフレ下で先延ばしされているマクロ経済スライドを実施して,制度本来の水準以上にある年金給付を抑制することで財源を確保することである。現在の受給者の年金の多くが若い世代からの所得移転で支えられている現状を鑑みると,誰が負担するのかの視点では,少なくとも補正予算よりは合理性をもつ。
 このような改革がすぐにまとまらない場合には,第2の策として,国庫負担は当初予算通りにして補正予算では国債を発行する方がよい。そのことによって2.5兆円の国債が追加で発行されても,年金積立金が2.5兆円回復するので,そこで国債を保有すれば,政府以外の国債消化には変化はない。今回の補正予算が国債の消化に影響を与えなければ,基礎年金国庫負担を当初予算通りにする方法も,同じように国債の消化に影響を与えないはずだ。
 震災復興の全体では国債を発行することは確実で,第1弾の今回の補正予算で国債を発行しないことに強くこだわる必要はなく,逆にそのことで政策を歪めることの方が問題だ。

(参考)
「平成23年度補正予算」(財務省,2011年4月22日)
http://www.mof.go.jp/budget/budger_workflow/budget/fy2011/hosei230422.htm

「東日本大震災に対応する第三次緊急提言のための審議資料」(日本学術会議経済学委員会,2011年4月5日)
http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/1bu/pdf/09economics.pdf

「『マクロ経済スライド』発動の遅れ」(ニッセイ基礎研究所)
http://www.nli-research.co.jp/report/pension_strategy/2010/Vol166/str1004b.pdf

閉じる トラックバック(1)

国債整理基金特別会計への定率繰入

 1996年に日本経済新聞の「やさしい経済学」で「隠れ借金」(http://www.iwamoto.e.u-tokyo.ac.jp/Docs/1999/KakureShakkin.html )というシリーズを執筆した。
 Twitterで黒木玄・東北大学助教が4月24日に,この拙稿を引用し,

【経済】1996年に岩本康志さん曰く「定率繰り入れの停止は,ストックの隠れ借金には積み上がらない」 http://bit.ly/ejVshq はい、国債整理基金特別会計への定率繰り入れの停止に御墨付が出てますよぉ(笑)。
http://twitter.com/#!/genkuroki/status/62065130468409344

とツイートされ,高橋洋一・嘉悦大学教授は25日に,

当時の担当者は私で話を聞いてくれたのにRT @genkuroki: 【経済】1996年に岩本康志さん曰く「定率繰入の停止は,ストックの隠れ借金には積み上がらない」 http://bit.ly/ejVshq はい、国債整理基金特別会計への定率繰入の停止に御墨付が出てますよぉ(笑)
http://twitter.com/#!/YoichiTakahashi/status/62372981711712256

とツイートされている。いずれにも間違いが含まれている。
 まず,国債整理基金特別会計への定率繰入停止に私が賛成しているというのは誤りである。
 1995年まで続けられた隠れ借金の評価を翌年にまとめたのが拙稿であるが,その最終節にあるように,私の評価は,

「会計の透明性を失われたこともさることながら,隠れ借金の最大の問題は,財政運営の目標を混乱させたことにある」

と否定的である。このような手法をとるべきではない,という私の考えは当時も今も変わっていない。黒木助教が引用した個所は,単に事実関係をのべているだけである。引用された文章の周辺は,隠れ借金の現れ方が複雑で,当時の議論で錯綜していたものを整理することを目的としている。
 つぎに高橋教授の書き振りは,私が高橋氏の説明を受けて拙稿を書いたかのようであるが,これは事実ではない。高橋教授と私の出会いは,氏が大蔵省理財局在職中の1998年1月のことであり,1996年の拙稿が高橋教授の説明の影響を受けるわけがない。

 ついでというわけではないが,震災復興財源として国債整理基金の定率繰入停止(ないし余剰金の取り崩し)が利用できるか,を簡単に論じておこう。
 定率繰入停止がストックとしての隠れ借金にならないというのは,粗債務が変化しないという意味である。一方,定率繰入停止分を支出すると,国債整理基金の資産が減少し,純債務は増加する。つまり,財政赤字が発生する。当然,財政赤字は財源ではない。ならば,そのことが明確にわかるように国債発行するのが,現行会計制度でのもとで透明性を高めるやり方だ。
 現在の公債償還ルールでは償還資金を国債整理基金に積み立てていくので,国は国債を発行し,国債を保有する形になる。こういう両建てが馬鹿馬鹿しいという意見には一理ある。しかし,この資産が財政支出に回せる財源と見なすのは不適当だ。「『霞が関埋蔵金』の使い方」(http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/231809.html )でのべたように,国債を買入消却することで,資産と負債の両方を減らすのが望ましい。
 定率繰入停止は,現行の公債償還ルールを放棄することになる。放棄するならば,それに変わる財政規律ルールと政府会計の改革が必要である。それが同時になされなければ,単に財政規律の放棄になる。これは財政運営の作成と予算制度改革のなかで考えていくべき課題であり,上記の拙稿はそのひとつの提言である。
 復興財源を考える場に予算制度改革を持ち出しては混乱するだけである。その場では現在の公債償還ルールを所与して枠組みをまとめればよい。公債償還ルールを改革するなら,適当な別の場で進めるべきだろう。

(参考)
隠れ借金
http://www.iwamoto.e.u-tokyo.ac.jp/Docs/1999/KakureShakkin.html

(関係する過去記事)
「霞が関埋蔵金」の使い方
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/231809.html

閉じる トラックバック(0)

千年に一度の意味

 今回の震災が財政にどのような意味をもつか考えてみよう。
 自民党の中川秀直氏は1日のブログ(http://ameblo.jp/nakagawahidenao/entry-10848167123.html )で,復興債の日銀引き受けを支持し,「1000年に一度の大震災と津波に加え、原発災害が起こっている今が財政法第5条の「特別な事由」でなくして、何が特別な事由なのか」とのべている(注1)。しかし,財政の対応は千年に一度のものでなくていいだろう。
 千年に一度というのは,日本海溝(北米プレートと太平洋プレートの境界)で発生した巨大地震として今回の東北地方太平洋沖大地震と西暦869年の貞観地震の類似性が指摘されたことに由来している。極めて大きなエネルギーを発するプレート境界地震は,日本列島近辺では他に相模トラフ(北米プレートとフィリピン海プレートの境界)と南海トラフ(ユーラシアプレートとフィリピン海プレートの境界)で発生する。相模トラフでは2300年程度の周期の元禄型関東地震(直近のものは1703年の元禄地震)と200〜400年周期の大正型関東地震(直近のものは1923年の関東大震災)がある(注2)。首都圏に近いことから,発生すれば首都圏に大被害が生じる。南海トラフでは,東南海・南海連動地震が110年程度の周期で発生する[(直近のもとは1944年の昭和東南海地震と1946年の昭和南海地震):2011年4月5日追記]。これに東海地震が連動すると,さらに大きな地震になる。人口集中地帯が地震・津波に襲われるので,被害は今回の東日本大震災を上回るだろう。南海トラフでの地震では浜岡原発の危険性はかねてから指摘されている。また,阪神・淡路大震災のような直下型地震は,日本中いつどこで起こるかわからない。
 大規模な震災被害は,千年よりもはるかに短い間隔で生じるだろう。
 では,復興にどれだけの財政支出が必要になるのか。今回の震災ではまだ正確に積算できてはいない。原発事故の被害はまだ先にならないとわからないが,20兆円に達するかもしれない。かりに20兆円程度だとすると,国内総生産(GDP)の4%程度になる。巨額の財政需要が生じたといえるが,大規模な景気対策をすると(自動安定化装置の分も含めて)1回の景気後退の局面でこれを上回ることは起こる。つまり,財政需要から見ると,震災復興は極めて大規模な景気対策を打つのに相当するが,景気対策の周期は千年に一度ではなく,十年から数十年に一度のものになるだろう。
今回の震災復興のような規模の財政需要は,短い周期で発生するものだといえる。

 千年に一度の対応は要らないというのは冷静すぎると見えるかもしれないが,これには他にも理由がある。私は以前より高齢化の進展で増加する社会保障費をどう財源調達するかという問題を考えていた。昨年発表した,福井唯嗣・京都産業大学准教授との共同研究(http://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/10j035.pdf )では,2050年までに医療・介護保険のための公費負担額がGDPの4%程度増え,その後も20年程度増加を続けると推計している。震災復興は1回限りのGDPの4%だが,こちらは毎年の4%である。一定の前提を置いた予測なので幅をもって見るべきだが,かなり控え目に見積もっても,高齢化にともなう財政需要というのは今回の震災復興経費が2年に1回発生するようなものである。その状況でどう財政を運営するのか,という問題にわれわれはもうすぐ直面するのである。
 以上のことを念頭に置いて,千年の一度の地震に対する財政の対応を考えないといけない(注3)。

(注1)
 ブログの日付は4月1日だが,エイプリルフールではないと思われる。
(注2)
 固有地震の周期については,地震調査研究推進本部ホームページの説明にしたがった。
(注3)
 震災復興経費をどう財源調達するかは,別の機会に論じたい。この記事は,それを取り巻く状況を整理したものである。

(参考)
「増税派のみなさんは30兆円規模の財源をどこから捻出するのか(中川秀直)」(2011年4月1日)
http://ameblo.jp/nakagawahidenao/entry-10848167123.html

「地震動予測地図ウェブサイト全国版」(地震調査研究推進本部)
http://www.jishin.go.jp/main/yosokuchizu/index.html

「医療・介護保険の費用負担の動向」(岩本康志・福井唯嗣,RIETIディスカッション・ペーパー)
http://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/10j035.pdf

閉じる トラックバック(0)

2011年度予算概算要求基準

 野党は予算を作らない。予算を作るのは,政権党の責任である。
 民主党政権が最初から携わるものとして初めて概算要求基準が26日,閣議決定された。
 昨年までとは予算編成のプロセスが大きく変わった。経済財政諮問会議で「骨太の方針」が作られた時期には,政府が何をしたいのかが首相主導により「骨太の方針」で示されてから,概算要求基準が決められていた。今回の概算要求基準では,「元気な日本復活特別枠」は,マニフェストの実現,デフレ脱却・経済成長に特に資する事業,雇用拡大に特に資する事業,人材育成、国民生活の安定・安全に資する事業と何でもあり。予算の削減は一律1割と,政権が何をやりたいのかがまったく見えてこない。
 経済財政諮問会議は,いまも内閣府設置法で設置することとされている組織である。諮問会議は違法に廃止され,予算編成は密室で決められている。概算要求基準では,特別枠が「1兆円を相当程度に超える」等,多くの懸案が玉虫色の決着となっており,密室でも決められてない状態となっている。いかに議論が詰められていないかは,昨年の自公政権時の概算要求基準の文尾と比較してみればわかる。昨年は「行う」,「実現する」という表現が目につくが,今年は「全力で取り組む」,「全力をあげる」だ。

 昨年の衆院選マニフェストには,新規施策の財源の確保策についても記されていた。「【政権選択選挙】民主党マニフェストの財源」(http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/28842144.html )で指摘したような問題点はあったが,一応は政権を担当する責任を示したものであった。予算はつけるよりも削ることがはるかに難しい。既存の歳出削減による財源の確保がなければ,マニフェストの新規施策は実現できない。ところが,概算要求基準には,歳出削減の具体策はない。各大臣が「査定大臣」になって歳出削減に取り組むそうだが,マニフェストでの歳出削減を実現する責任者は誰なのだろうか? 結局,マニフェストは単なる机上の空論だったことが露呈した形だ。例えば人件費は,衆院選マニフェストでは2割削減としていたが,概算要求に具体的な数値目標はない。「各大臣において抑制・削減に取り組むと同時に、政府全体でも抑制・削減に全力で取り組む」とだけ書かれている。

 復活した民主党政策調査会は,特別枠を2兆円とするよう要求するなど,歳出削減は「査定大臣」に任せ,族議員化する兆しを見せている。官邸は官邸主導の「演出」に腐心していることが意味するように,実際に主導するのは財務省になるだろう。かつての,族議員対財務省,という図式が復活しそうだ。
 自民党の族議員は長年の政権経験で,落とし所をわきまえていた。それは傍目には官僚依存とも見える。民主党の「政治主導」による予算編成は,懸案が決められなかった昨年末の混乱が再現しそうな予感を抱かせる。財務省主導がせめてもの幸い,というのは不幸な状態である。
 政治家個人は,自分の思う政策を実現させたい,という熱い思いで動いているのだろう。だが,一般会計・特別会計合わせての業務費用124兆円(2008年度,『国の財務書類』)になる巨大組織にはさまざまな思惑が働く。それを整理して,予算に落とし込むまでの様々な工夫が長年にわたって積み重ねられている。政治主導で簡単に予算が組める,とそれらを安易に取り除いたことで,結果的に退行した予算編成プロセスが進行している。

(参考)
「平成23 年度予算の概算要求組替え基準について」(2010年7月27日閣議決定)
http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/h23/sy220727.pdf

「平成20年度 国の財務書類」(財務省)
http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/fs/2010.htm

(関係する過去記事)
【政権選択選挙】民主党マニフェストの財源
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/28842144.html

「ままごと」と「まつりごと」の間
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/33244085.html

閉じる トラックバック(0)

全12ページ

[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] [9] [10] [11]

[ 次のページ ]


.

岩本ゼミ同窓会
人気度

ヘルプ

Yahoo Image

検索 検索
  今日 全体
訪問者 70 336832
ブログリンク 0 41
コメント 0 3
トラックバック 0 28
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31

開設日: 2007/12/1(土)


プライバシーポリシー -  利用規約 -  ガイドライン -  順守事項 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2012 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.