お道具箱日記

アシスティブテクノロジー・AAC・AIMについての情報を提供します。今年は支援技術4年(2012年が元年と私が勝手に決めました。

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 今から1年半ほど前のことです。私は海の見える図書室で、ある雑誌に掲載された論説の表題にくぎ付けになりました。

 そこには、"iPad"、"革命"、"AAC"という単語が並んでいたのです。ただ、私の語学力では10ページ程の欧文をその場で読む力もなく、新刊号であったためコピーサービスもできなかったので、残念ながら本文を読むことはできませんでした。

 それが、今回ご紹介する以下の論説です。

 iPadとモバイル技術革命:AACを必要とする個々の人にとっての恩恵と課題
The iPad and Mobile Technology Revolution: Benefits and Challenges for Individuals who require Augmentative and Alternative Communication(2013年)
著者 McNaughton D, Light J.
http://informahealthcare.com/…/pdf/10.…/07434618.2013.784930

 雑誌の名称は、Augmentative and Alternative Communicationで、国際拡大・代替コミュニケーション協会(ISAAC)の公式雑誌です。

 論説は、この雑誌の編集者であるペンシルバニア州立大学のDavid McNaughton教授とJanice C. Light教授が書いたものです。
(英語が苦手でない方は、是非原文を読んでみてください。英文としてはそれ程難しくなく、iPadを支援機器として使う上で、大変参考になります。)

 内容は表題からもわかるように、iPadに感心のある支援教育関係者にとっては、今でも新鮮でホットな、非常に興味深いものだと思います。

 つい先日、なんと公開されていることを知り、ダウンロードしてA3の用紙に印刷し(小さな文字が読み難い年齢になってきたので)、またiPadにもダウロード(意味のわからない単語を調べやすいので。)して貪るように読みました。

 論説の中で、iPadをはじめとしたモバイル技術革命は、障がいのない個々の人の日々の生活に大きなインパクトを与えているだけでなく、複雑なコミュニケーションニーズを持つ人にとっては、劇的な影響を与えていると著者は述べています。

 ところで、AACに広く公的保険が適用される米国の状況と、日本の状況ではとても大きな隔たりがある事をご存知の方も多いかと思います。

 しかし、iPadと他のモバイル技術は、日本においてもAAC技術の物理的なアクセスのしやすさに劇的な変化をもたらしているのではないでしょうか。

 今まで日本ではAACに関しては、ほんの一部のST・OTなど医療関係者や支援学校の教員、あるいは研究者が知っていて、機器はごく少数の業者だけが扱い、医療や支援教育で利用されていました。

 今、iPadなどのタブレットやiPhoneなどのスマートフォンを持っていれば、誰でもApp ストアからAACアプリをダウンロードし、iPadをAAC機器として利用することができるようになりました。
イメージ 1

 iPadなどを持っていれば、誰でもAAC機器をすぐに手に入れることができるのです。

 さらに、iPhoneなどを日常的に使っている教員や保護者のかたにとっても、支援者としてAACアプリを操作することに関しては、それほど困難はないでしょう。

 このような”革命的”なアクセスのしやすという恩恵などをもたらしたのが、iPadなどのモバイル機器なのです。

 しかし、この論説に書かれている恩恵を十分に活かすには多くの課題があります。

 論説ではその課題も的確に捉え、さらに進むべき研究開発や実践の方向も指し示してくれています。

以下、論説より。
●恩恵
(a)AACの社会的な認知度が高まった。
・iPadはAACを一般向けのものにした。
・ニュースで話題になることが増えた。

(b)消費者がAAC製品を手に入れやすくなった。
・SGD(VOCA)が医療モデルで提供されているのに対し、iPadは消費者モデルによって提供される。(米国ではSGDに保険の適用がある)
 ・SGDに比べて比較的低価格のため、家族や学校区が手に入れやすい。

(c)AAC技術の利用が増えた。
・以前には考えられなかったコミュニケーション障がいのある人や、年齢層の人もAACを利用するようになった。
 ・保護者や医療関係者にとっても、他のアプリの操作と類似性があり、SGDと違ってAACアプリの操作がなじみやすい。

(d)より多くの機能性と総合接続性
・単に顔と顔を付き合わた会話だけでなく、ソーシャルメディアを使ったコミュニケーションなど多機能なコミュニケーションができる。

(e)AAC研究開発が大きく広がった。
・AACの開発研究が、支援技術の開発会社だけでなく、様々なプログラマーによってなされるようになった。たとえば、家族や学生・医療従事者、一般のプログラマー

●課題
(a)焦点を当てるべきなのはコミュニケーションであって、技術(iPad)それ自体ではない。

(b)モバイル技術に合ったAACアセスメントと、介入の革新的なアプローチを開発する必要がある。
 ・AACの専門家からアドバイスなしにAACアプリを購入にしている。
 ・AACのアセスメントや介入を受けていない。
 ・AACとしてiPodやiPadを利用している人で、たった54%しかもっとも適した代替コミュニケーションは何であるかの評価を受けていない。
 ・多くの言語聴覚士は、AACに関して知識やスキルが欠けている。特にAACアプリに関しては。

(c)AACを必要とする全ての個々人が簡単に利用するための方法を保証する。
・モバイル技術の代替アクセス手段が少なく、もっとも複雑なコミュニケーションニーズを持つ人たちが、疎外されてしまう。
 ・AACアプリの多くが、利用するためには運動機能や認知機能、感覚知覚機能の高度なスキルを要する。
 ・AACアプリの値段は安く、研究開発に使える資金が少ないため、対象が平均的なユーザになる恐れがあり、より複雑なコミュニケーションニーズを持つ人が利用するための開発が行われない。

(d)iPadなどが提供する様々なコミュニケーション機能をサポートするため、AACによる解決策を最大限に増やす。
・モバイル技術の多様な機能を、複雑なコミュニケーションニーズを持つ個人のために活用できていない。
 ・iPadなどを用いた現在のAACは、ある制限された範囲の限られた会話の補綴(義手や義足などのこと)でしかない。

●実践の方向
AACのエビデンスに基づいた実践
1.効果的なAACの介入には、熟知したチームによる利用者のニーズとスキルとともに、利用者が置かれた環境内のバリアやサポートの機会について、注意深いアセスメントが必要である。
2.AACシステムは、個々人のニーズやスキルを基に選択されなければならない。また、これらのニーズやスキルに合致するようにカスタマイズされなければならない。
3.単にAACアプリへのアクセスを提供するだけでは、効果的なコミュニケーションを保証できない。むしろ、学校や家庭、地域での一致協力した介入が必要。
4.介入を最適に効果的にするためには、コミュニケーションの相手にも広げる必要がある。コミュニケーションの相手が、AACを必要とする個人を効果的にサポートするために必要な知識やスキルを持つことを保証することが必要である。
以上。

 皆さん、米国だけでなく日本にも当てはまることが多いと思われませんか。

 日本では、周りが気づいていないだけで、実際にはコミュニケーションエイド(iPadなど)を必要としている子どもたちが多数いると思っいます。

 また、スマートフォンなどが広まり、私たちの生活の中で、従来の顔と顔を付き合わせた会話以外の、新しい様々なコミュニケーション方法が使われるようになっています。

 ニーズのある子どもたちに、単にAACを広めるだけでなく、新しいコミュニケーション方法に対応したAACが行われることが必要なのではないでしょうか。

 それによって、様々なコミュニケーションニーズを持つ子どもたちに合った支援が行われるのではないでしょうか。

 日本での支援技術の状況は、厳しい向かい風あと、やっと追い風が吹いてきたように私は思います。

 この風に乗って、皆さんも一緒にAACを広めませんか。

 私も、自分のスキルを活かして"追い風に乗って"、進んで行きたいと思います。


冠雪した富士を横に、東国に向かう新幹線の中で。)

※画像は、bo-symbolを使わせていただきました。ありがとうございました

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