原発全部停止でもリニア営業に問題ないなら節電も原発再稼動も必要ないじゃん!?

南アルプスの自然破壊について再検証しようかと思いましたが、たいへん気になる記事を見かけたのでそちらの話題です。
 
 
 
国内の原子力発電所が全て停止し、関西を中心に夏場の電力不足が大きな懸念となっています。政府は関西電力管内では15%の節電が必要とし、沖縄を除く日本全土で数%の節電を求めています。また、福井県大飯原発の早急な再稼動を模索し、東電の再建計画では新潟県柏崎刈羽原発の再稼動を予定しています。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
超電導リニアは、1列車あたり現行新幹線N700系の3.5倍、勾配を考慮すると4倍の電力を消費し、大阪開業時の営業運転時には最低でも74万kWhの電力消費を見込んでいます(JR東海作成の環境影響評価方法書より)。勾配を考慮するとこれより大きくなるでしょうし、瞬間的な消費を考慮して電力会社が供給すべき電力は100万kWh台になるだろうと見込まれています。
 
100万kWhというのは、30Aで契約している世帯の33万軒分に相当します。大雑把にみて、政令指定都市1つ分に相当します。また、リニア中央新幹線の通る中部電力管内の総発電量の4%、東京電力管内総発電量の2%に相当します。
 
このことを頭に入れて、次の新聞記事(5月24日朝日新聞)をご覧ください。
 
 
リニア活用を論議 甲府市が懇話会
2012年05月24日
   ■初会議 現場視察など提案

 リニア中央新幹線の停車駅建設地が甲府市大津町周辺に事実上決まったことから、甲府市はリニアを市の活性化に結びつけようと、「リニア活用推進懇話会」を設け、23日に初めての会議を開いた。
 懇話会は経済界やPTA連合会、女性団体などの代表委員20人でつくる。会長に選ばれた宇野善昌・副市長はあいさつで、「中央線や中央道開通が県の発展に結びついた右肩上がりの時代とは状況が異なる。何もせず待っていたのでは、享受できるものはない」と述べ、「委員の知恵でプラスに結びつく策を練り上げてゆこう」と呼びかけた。
 会議では委員から、JR甲府駅へのアクセス方法や消費電力について質問が出た。事務局を務める市リニア交通室の担当者は「県の利用客予測結果が出た段階で協議していただきたい」「原発が全機停止した現状でも使用電力は十分まかなえる」などと答えた。
 停車駅予定地周辺の自治会代表委員からは、今年度に入ってようやく市から地元に説明があったことに対し不満の声があがった。さらに、後継者がいる農業振興地域であることを考慮してもらいたいという注文もあった。
 
以下省略。

なんてことのないベタ記事のようですが、非常に意味の深い一文を含んでいます。原発が全機停止した現状でも使用電力は十分まかなえる」という部分です。
 
原発が全停止しても74〜100万kWhの使用電力を十分にまかなえるのなら、現在、政府が原発の再稼動を求めていることも、数%の節電を求めることも、全くナンセンスということにほかなりません。
 
現在、原発が完全停止した日本でも、100万kWhの余裕があるといことを、甲府市が公言したともいえますし、節電対策で大きな社会的混乱を招くことも全く必要ないということになります。

なんかヘンですね。
この発言は、おそらく山梨県で行われた環境影響評価方法書審議でのJR東海関係者による発言が下敷きになっていると思われます(2011年12/26審議http://www.pref.yamanashi.jp/kankyo-sozo/documents/20111216gijiroku.pdfの6ページ目)。
 
抜粋しますと、「首都圏と中京圏で見ますと、中央新幹線で約27万kWの消費電力に対して、電力供給力は今夏(注:2011年)の時点で8153万kWあったということですから、(中略)安定的な電力供給が行われていくと考えます。(中略)このリニアのために、例えば原発1つ必要だといったような機運にはあたらないのではないかと考えております」という発言です。
 
すなわち、関東で節電が求められた昨年夏でも27万kWh程度の余力はあったから、将来的には大丈夫だろうという意味合いであり、上記記事はこれに基づいているのだろうと思います。
 
でも微妙にズレていますね。
 
27万kWhは名古屋開業時の最低限の消費電力であり、実際に供給すべき電力はこれより大きなものです。しかも、1%単位での節電を求められている「現状」を考えると決して無視できる数字ではなく(27万kWhでも中部電力管内総発電量の1%に相当)、「原発が全機停止した現状でも使用電力は十分まかなえる」とは絶対にいえるものではありません。節電を依頼している自治体側からの発言としては不適切ともいえます。まして大阪開業時のことは想定していません。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
 
リニア計画は莫大な電力供給を前提としているため、昨今の電力事情をふまえて電力消費のことを考えると、どうも論理的に破綻している点が多いように思われるのです。

原発全停止でもリニア走行分程度は供給に余裕がある
 →節電や早急な原発再稼動は全く無意味
実は現状では電力不足
 →原発再稼動
   →リニアとは別の大きな問題発生
  火力発電でまかなう
   →「航空機に比べてCO2排出量が少ない」というリニア推進の建前が崩れる
  再生可能エネルギーでまかなう
   →100万kWhを安定的にまかなえるなら、リニア計画にかかわらず原発を再稼動する意味はない
将来は人口が減少するので電力供給に余裕
 →電力問題以前にリニア利用の需要という別次元の問題
JR東海が自社で発電
 →やらないと明言
将来的に電力供給は回復する
 →そうなってもらわなければ困るが、全く見通しの立たない現段階ではただの願望

どうなっているんでしょうか?
電力ひとつをとってもこんなに矛盾点の多い「国家的プロジェクト」なんて信頼できるのでしょうか?

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南アルプスを壊すべからず

登山雑誌「岳人」に、トピックス記事としてリニア中央新幹線南アルプス貫通計画について書かれています。
 
最近あまり話題にもならなくなった感のある南アルプスぶち抜き計画ですが、自然破壊の大きさもさることながら、日本の自然保護行政と環境アセスメント制度のあり方を根本から問うことにつながる、大きな問題を含んでいると思います。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
記事は長野県大鹿村での取材に基づいているようですが、最大級の自然破壊は静岡市側の大井川源流部で起きる可能性があります。
 イメージ 1
リニア中央新幹線は、連続する3本の長大トンネル群で南アルプスを通り抜ける計画です。東から巨摩山地を貫く13km前後のトンネル、南アルプスの核心部である大井川減流域を貫く20〜24kmの最長トンネル、伊那山地を貫く16km前後のトンネルです。それぞれに数本づつ斜坑(工期短縮のために地上から本坑に向けて掘られる作業用トンネル)が設けられる予定です。
 
 
この工事により、自然保護上、景観の保全上、数多くの懸念が生じます。
 
 まず、南アルプス中心をぶち抜く最長トンネル東西坑口が設けられるのは、上の地図で、山梨県側は新倉、長野県側は釜沢と記してある場所です。深い深いV字谷にへばりつくように集落の立地した場所です。そこに、わずか100〜200m足らずの橋梁をはさんで、13km超の長大トンネル坑口が設けられます。このごく狭い谷に1日数百台のダンプカー等の工事用車両と、膨大な残土、大量の建設資材とが集中します。小さな集落ですから、村の存亡に関わるような大きな問題です。

 南アルプス最長トンネルの斜坑が設けられるのは南アルプスの核心部、3000m級の峰々に囲まれた静岡県静岡市大井川の源流部の二軒小屋とよばれる地点です。山小屋と小規模な水力発電所しかない、完全な無人地帯の秘境です。それゆえ満足な道さえなく、原生的な自然環境が残され、貴重な生態系の息づく場所です。国立公園の拡張も予定されています。特に静岡・長野県境の赤石山脈主稜線上には、延長100kmにわたってこれを横切る人口構造物は存在せず、このような場所は本州においては南アルプスにしか残されていません。
イメージ 2

わが国においてこれほど原生的な自然環境の残る地を破壊して鉄道が建設される例は、戦前の北海道開拓時代以来であり、そのような意味では時代錯誤だといわざるを得ませんし、まして国立公園特別地域として指定された地域を貫くような路線建設の例もほとんどありません。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇

次に、工事によって予想される具体的な自然破壊を挙げてみます。

トンネルや斜坑の掘削により、地下水の流動が遮断される可能性が高い。岩盤内部の割れ目にある地下水の流れは、一度破壊されたら復元は物理的に不可能(詳しくはこちら)。
 
●地下水の探査には、浅いところでも本来ならば数年を要するが、JR東海は2014年着工を目指すとしており、時間的に不十分な調査に終わらざるを得ない。まして南アルプスのように深さ数百メートルの位置にある地下水の動きを把握することは原理的に不可能。JR東海は問題はないとしているが、山梨リニア実験線延伸工事において、2ヶ所で実際に川の水を枯渇させてしまったったという実例もある。
 
●南アルプスの奥地に、合計400〜500万立方メートル(東京ドーム4〜5杯分)にもおよぶ膨大な残土が発生する。静岡・長野県の環境影響評価審査会でも特に懸念されている問題。静岡市側では完全な無人地帯であるため土砂の活用方法は全くなく、長野県大鹿村では、その膨大な土砂が村の中心部に集まってしまい、大変な事態となることが心配されている。
 
●この残土の搬出や建設資材の運搬のために、大井川源流部に沿って伸びる貧弱な林道を、延々30㎞以上にわたって大規模に整備する計画がある。大井川源流部で大規模な道路工事が実行されることは、次のような新たな大規模自然破壊に他ならない
  ・斜面が削られ、直接的に植生が破壊される。昆虫等の生息地が失われる。
  ・谷が埋め立てられる。
  ・土砂崩れ対策のために、斜面が広くモルタルで固められる。
  ・土砂の掘削と運搬、道路工事に伴って大井川源流部に土砂が流入し、水質が悪化する。
  ・道路の舗装、U字溝の設置により、森林と川とのつながりが絶たれる。
  ・砂防施設を設けることにより、河川の生態系も分断される。
  ・川岸の森(渓畦林)の消失は深刻な問題。特に大井川源流部の渓畔林のように太平洋岸の山岳渓流に立地した例は全国的に見ても少なく、かつ規模も大きいものなので、その保全は絶対的に不可欠。
これは自然破壊林道として名高い南アルプススーパー林道の二の舞です。
 
●南アルプスではイヌワシ(天然記念物・絶滅危惧ⅠB・国内希少野生動植物種)やクマタカといった希少な猛禽類の繁殖が確認されている(環境省HP)。工事が行われれば、大規模な人工物の出現、ダイナマイトの爆破音、車両の騒音等により猛禽類の繁殖に悪影響を及ぼす可能性がある。特に国内のイヌワシ生息地は東北・北陸の多雪山地に偏っており、太平洋側の少雪山地での繁殖地は南アルプスと鈴鹿山地、九州山地程度と、ごくわずかしかない。南アルプスはその大変貴重な太平洋側繁殖地のひとつであり、特に貴重な個体である。
 
●斜坑工事により、地下深くの地熱により温まった地下水が河川源流部に流入し、生態系を破壊するおそれがある(ボーリング調査でも温水が出たらしい)。
 
●車両の通行や資材搬入に伴って外来の動植物が侵入し、生態系が乱される。
 
●谷底での大規模工事や道路整備により、斜面と渓谷との生態的なつながりが絶たれる。
 
工事やトンネルの存在による影響が、どこまで及ぶのか全く定かでない。例えば谷間での工事により生息地を追われた動物が高山帯へ移動し、高山植物やライチョウ等のきわめて希少な動植物からなる脆弱な生態系を破壊する可能性がある。
 
 なお、新幹線が長大トンネル群で山地を通り抜ける例として、上越新幹線の高崎〜長岡、東北新幹線の盛岡〜八戸間等が挙げられますが、これらとは全く沿線の自然条件が異なります。こんな狭い谷を挟んで10km超のトンネルが連続している区間は、今までの鉄道・道路建設において例はありません(たまにスイスアルプスでのトンネル工事の例が持ち出されることもありますが、地形・地質・生態系が全く異なるので比較にならないと思います)。古くから峠越えの交通が整備され人々の生活の場となってきたてきた谷川岳周辺と、全く交通インフラの存在しない無人地帯の南アルプスとでは、工事が自然に与える影響も全く性質の異なったものとなります。
 
繰り返しますが、南アルプスのようにほとんど人工的な改変の行われていない、貴重な生態系の息づく山岳地域で鉄道建設を行った例は、日本にはありません。そればかりか、このような場所で大規模な工事を行うこと自体、昭和30年代の黒部川電源開発と南アルプススーパー林道以外に例はありません。
 
南アルプスは、高度成長期やバブル期の乱開発からも免れ、人口稠密で狭い日本列島に21世紀にまで原生的な空間を残した貴重な場所です。この環境を残せずして、日本の自然保護制度に存在意義はあるのでしょうか。

長くなるので次回に続きます。

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「他人は口を出すな」は自然・環境破壊容認に他ならない

とかく「民間事業だから政府や株主以外が文句を言う権利はない」という主張が見受けられるリニア中央新幹線計画。
 
某巨大掲示板、一部鉄道マニアのサイトなど無責任な発言が目立つネット空間ならともかく、計画を審議する国土交通省中央新幹線小委員会の議事録でもこのような進め方を容認するかのような発言が目立ちました。

しかし事業者任せの進め方を容認するということは、環境アセスメントという制度を正しく理解していないことの証ともいえます。環境対策は、経済学用語では外部不経済と呼ばれ、つまりカネにはならないものであり、事業者任せあるいは市場任せにしておいては有効な対応ができないものです。それを制御するのが環境アセスメントという制度。できる限り早い段階から一般国民やNGO、各自治体の環境行政機関そして環境省とが事業者に意見を述べ、事業者はそれに適切に対応し続けることではじめて意味を持ちます。
 
環境に与える影響という点では、ことリニア計画においては①新技術の導入が多いということ、そして②南アルプスというとりわけ貴重な自然環境を有する保護地域でとりわけ大きな工事を行うという大きな矛盾、この2つは絶対に事業者まかせにしてよいはずがありません。後者は交通政策と自然保護政策という相反する2つの政策に絡む大きな問題です。
 
世界に前例のない技術を多く導入するということは、環境への影響についても未知なことが非常に多いということを意味しています。
 
16両編成の列車が時速500㎞で、例えば品川〜相模原間の長さ50㎞の長大な大深度トンネルを走行したときに、5〜10㎞間隔の縦穴から地上に対してどのような騒音、振動が伝わるのかなんて前例がないので確かめようがなく、いかに予測を立てようと机上の空論になりかねません。時速500㎞というのはプロペラ旅客機の速度に相当しますが、そんなものがごく狭い密閉空間を移動するわけで、押し出された空気はどのような挙動をするのでしょうか?
 
列車から生ずる磁界の生態系への影響、超高速走行が生態系に与える影響等(野鳥の衝突、動物の行動への影響)もJR東海は全く分かっていないとしています(愛知や山梨での環境影響評価方法書審議議事録より)。
 
500㎞/hで流れる車窓(っていうか、トンネルの壁)を眺め続けたときに、視覚を通じて人体に影響が現れるのか否かも、全くわかっていません。将来の電力供給が不透明な中の高度成長期さながらのエネルギー大量消費という構想、岐阜県美濃地域で発生が予想されるウランを含んだ残土の処理方法、大深度地下でのトンネル工事が地下水流動や水質に与える影響などなど枚挙にいとまがありません。
 
10兆円つぎ込むだけでも前代未聞なのに、これだけ多く環境への影響が未知なる要素を抱えているのです。リニア中央新幹線そのものが超巨大な実験装置というわけではあるまいに…。
 
そして国民の財産である南アルプス国立公園をぶち抜き、一日数百台も行き来する大型工事用車両が川や草木を踏み散らし、膨大な残土を生み出すとあっては、「民間事業」だからといって好き勝手に行ってよいはずがありません。南アルプスの急速な隆起、周辺の糸魚川-静岡構造線、中央構造線という大断層の存在、崩壊しやすい地質など立地条件そのものにも大きな疑問がつきまといます。そもそも環境省が南アルプス国立公園の拡張計画を打ち出した直後に、国交省が南アルプスルートを認めたという経緯が不透明です。
 
これらの問題は、そもそも実用化の事例のない超電導リニア方式という技術的な性格、ルートの選定過程という計画の根本に直接的にかかわる問題であり、小手先の環境対応でどうにかなるものではありません
 
これら根本的な問題は、リニア計画の根本である整備計画の決定過程でどうにかしなければならなかったはずです。
 
整備計画は国がつくるものです。全国新幹線鉄道整備法第4条にきちんと明記されています。
 
国土交通大臣は、鉄道輸送の需要の動向、国土開発の重点的な方向その他新幹線鉄道の効果的な整備を図るため必要な事項を考慮し、政令で定めるところにより、建設を開始すべき新幹線鉄道の路線(以下「建設線」という。)を定める基本計画(以下「基本計画」という。)を決定しなければならない。

だから、国民も政治家も、きちんと口を出さなければならないはずです。っていうか、言ってもらわなければ何のための議員なのか分かりません。国家的巨大プロジェクトを「民間企業」にやるだけやらせて、負の側面-自然破壊、環境破壊そして失敗したときの尻拭い-は国民(正確には数十年後の子孫)に押し付ける…「民間事業だから政府や株主以外が文句を言う権利はない」という主張は、このような悪しき構図を生み出す元凶になりうると思います。

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