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さる24日、長らく我が国の声楽界をリードして来られた、畑中良輔先生が逝去された。享年90。自分にとっては、慶應ワグネルや関学を指揮された合唱指揮者としての側面が大きい方だった。
同じステージに立つと、畑中先生(“ブルさん”というニックネームをお持ちだった)の演奏は地味に聞こえた。あまり派手には響かない、いぶし銀のタッチがあった。レパートリーも、かなり限定的だったと思う。
しかし、その限定的なレパートリーの演奏が、他の追随を許さない。
ドイツロマン派、特にワーグナーやブラームスの演奏は素晴らしかった。
自分が接した経験から言えば、82年の関学のリサイタルに於けるブラームス「Liebeslieder Waltzer(愛の歌)」と83年の東西四連に於ける慶應ワグネルの「Zigeunerlieder(ジプシーの歌)」は忘れ難い。あの2回の実演に接した事で、自分の中の何かが変わったような気さえする。
もう一つ上げるとすれば、85年に慶應ワグネルが大阪で演奏したベルリオーズの劇的物語「ファウストの劫罰」。凄まじい劇的緊張感をはらんだ演奏で、終演後に福永先生がスタンディングオベーションを贈られた記憶がある。
いくつかある演奏音源の中では、東芝から発売された多田武彦「柳河風俗詩」がベストではないか(写真)?この中では、慶應ワグネルが「柳河風俗詩」「中勘助の詩から」「草野心平の詩から」の三作を演奏している。
甲乙つけ難いのだが、強い印象を受けたのは「草野心平の詩から」だった。
終曲“さくら散る”の結尾は、“まいおちる”という言葉がc-mollのフォルテで鳴らされて終わるのだが、畑中先生はため息まじりにつぶやくようなピアニッシモで終わった。
この衝撃は大きかった。
当音源の初出時、福永先生が「日本には天才指揮者が二人いる。一人は山田一雄、もう一人は畑中良輔だよ」とお話しになったのが忘れられない(余談ながら、慶應ワグネルは間違いなくあの時代が全盛期だったと思う)。
リートや合唱、オペラといった演奏家としてのみならず、作曲家、文筆家としての側面も大きい。優れた歌曲がいくつかある。
「文章を書く人」としては、より偉大だったのではないか?
そんな気もしている。
著書を拝読して驚くのだが、誠に文章が上手い。
そして教養の範囲が極めて広く、深い(歌舞伎などの古典芸能、映画、美術etc.枚挙に暇がない)。
この辺り、音楽関係で文章を著す人間としては、吉田秀和に比肩しうるのでは?それほど深い、芸術的造詣をお持ちだったと思う(川端康成とタメで話せた方だった)。
手に入り易い著書として、「演奏の風景」をあげておこう(写真)。
中古ながら、アマゾンで何点か出品されているようだ。
これはエッセイ集だけれど、その興味の範囲の広さに驚く他ない。サイモン&ガーファンクルに関する章では、サンタナやピンク・フロイド、マハビシュヌ・オーケストラ(!!)への言及まである。
30年も前に出版された本ながら、いまだに新しく面白い。
個人的には名著だと思う。、、、とにかく文章が良い。
今ごろ天国で、福永先生や北村先生と「久しぶり!」とご挨拶を交わされているかも知れない。心より、ご冥福をお祈りする。
先生の演奏スタイルを偲ぶよすがとして、「東京景物詩(詩/北原白秋、曲/多田武彦)」をあげておく。YTにあげられた音源の中では、これがベストのように思える。抑制の利いた官能が、じわりとしみ込んで来るような演奏。
http://youtu.be/-fgdmqD5GHo
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