万葉集巻第十(1812〜2350) 1924 ・1925・1926・1927・1928・1929・1930・1931・1932・1933・1934・1935・1936
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1924 春相聞 [題詞]贈蘰 大夫之 伏居嘆而 造有 四垂柳之 蘰為吾妹 ますらをの ふしゐなげきて つくりたる しだりやなぎの かづらせわぎも ・・・・・・・・・・
「ますらを」は立派な男子。ますらおのこの私が 不器用な手つきで 伏したり座ったり ため息をつきながら作ったんだ しだれ柳のこの髪飾りを つけてみてほしい 愛しい人よ ・・・・・・・・・・ 「かづら」ば蔓性の植物や花で作った髪飾り、頭髪を補うかつらの語源。 1925 春相聞 [題詞]<悲>別 朝戸出乃 君之儀乎 曲不見而 長春日乎 戀八九良三 あさとでの きみがすがたを よくみずて ながきはるひを こひやくらさむ ・・・・・・・・・・
* 「を」は持続する時間などを示す格助詞。明け方 戸を出て行くあなたのお姿をよく見ずに別れて 長い春の一日を恋いしく思いながら暮らすのだろうか ・・・・・・・・・・ * 「きぬ‐ぎぬ」【衣衣/後朝】 1 衣を重ねて掛けて共寝をした男女が、翌朝別れるときそれぞれ身につける、その衣。 2 男女が共寝をして過ごした翌朝。翌朝夜明け前の別れは時代の慣わし。 1926 春相聞,序詞 [題詞](問答) 春山之 馬酔花之 不悪 公尓波思恵也 所因友好 [はるやまの あしびのはなの あしからぬ] きみにはしゑや よそるともよし ・・・・・・・・・・
* 「し・ゑ・や」ええそうよ、ままよ、 ん よかたい、♪春山の馬酔木の花のように素敵なあなたになら靡き従いましょう ええそうよ 関係があるって噂されてもかまわないわ ・・・・・・・・・・ <どんな発音だったのだろう。聞いてみたいものだ。> 1927 春相聞,奈良 [題詞](問答) 石上 振乃神杉 神備<西> 吾八更々 戀尓相尓家留 [いそのかみ] ふるのかむすぎ かむびにし われやさらさら こひにあひにける ・・・・・・・・・・
* 「さらさらに」は、いまさらながら。石上の神木の杉のように神々しくはないが いまさらながら古びてしまった私が また改めて恋に出逢ったよ ・・・・・・・・・・ * 「石上」は、奈良県天理市の石上神宮周辺から西の広い地域をさす。 * 「杉」→「過ぎ」 1928 春相聞,問答 [題詞](問答) 狭野方波 實尓雖不成 花耳 開而所見社 戀之名草尓 さのかたは みにならずとも はなのみに さきてみえこそ こひのなぐさに ・・・・・・・・・・
* 「佐野方(さのかた)」は「あけび」山林に生え、周囲の樹木にからまって伸びる落葉性の蔓植物。花は4・5月、新葉とともに開花。佐野方は実にならなくても 花だけでも咲いて見せてほしい 恋に苦しむ心を慰めるために ・・・・・・・・・・ 1929 春相聞,問答 [題詞](問答) 狭野方波 實尓成西乎 今更 春雨零而 花将咲八方 さのかたは みになりにしを いまさらに はるさめふりて はなさかめやも ・・・・・・・・・・
佐野方は実になってしまっているものを いまさら春雨が降って花が咲くことがありましょうか ・・・・・・・・・・ 1930 春相聞,福岡県,問答 [題詞](問答) 梓弓 引津邊有 莫告藻之 花咲及二 不會君毳 [あづさゆみ] ひきつのへなる なのりその はなさくまでに あはぬきみかも ・・・・・・・・・・
梓弓 引津の辺なる なのりそも 花咲くまでに いも逢はぬかも あの引津のあたりのなのりその花よ 花をつけるまで 長い長い間 あなたは 逢ってはくれないんですね こんなにわたしを ひきつけたまま ・・・・・・・・・・ (歌経22) * 「なのりそ」は海藻ホンダワラ。ホンダワラには花は咲かない。 なのりそ 莫告藻/神馬藻 ホンダワラの古名。和歌では「な告(の)りそ」の意に掛けて用いられたり、「名告る」を導く序詞を構成したりする。 1931 春相聞,序詞,問答 [題詞](問答) 川上之 伊都藻之花乃 何時々々 来座吾背子 時自異目八方 [かはのうへの いつものはなの いつもいつも] きませわがせこ ときじけめやも ・・・・・・・・・・
川の上のゆつ岩群に草生さず常にもがもな常処女にて 川のほとりのいつ藻の花よ いつもいつも来てください あなた 季節はずれなどありませんから ・・・・・・・・・・ (万葉 22 吹黄刀自) 川の上のいつ藻の花のいつもいつも来ませ我が背子時じけめやも (万葉491 吹黄刀自) * いつ藻:藻の美称。上古、藻は水中植物の総称。 上二句は「いつも」を導く序詞。「いつ藻」の「いつ」は藻を讃美して言う。 「川上のいつ藻の花の」から「いつもいつも」を導く。 1932 春相聞,問答 [題詞](問答) 春雨之 不止零々 吾戀 人之目尚矣 不令相見 はるさめの やまずふるふる あがこふる ひとのめすらを あひみせなくに ・・・・・・・・・・
春雨が止むことなく降り続いています まるで恋しいあの方に 一目も会わせないようにしているかのように ・・・・・・・・・・ 1933 春相聞,問答 [題詞](問答) 吾妹子尓 戀乍居者 春雨之 彼毛知如 不止零乍 わぎもこに こひつつをれば はるさめの それもしるごと やまずふりつつ ・・・・・・・・・・
あの娘に会いたいと恋しく想っていると 春雨がそれを知っているかのように 止むことなく降り続いています ・・・・・・・・・・ 1934 春相聞,問答 [題詞](問答) 相不念 妹哉本名 菅根乃 長春日乎 念晩牟 あひおもはぬ いもをやもとな [すがのねの] ながきはるひを おもひくらさむ ・・・・・・・・・・
もと‐な [副]《「もと」は根本の意。「な」は形容詞「無し」の語幹》 わけもなく。みだりに。お互いに心を通わせているわけでもないのに あの娘のことをわけもなく愛しみながら 長くなったこの春の一日を 思い過ごしていくのだろうか ・・・・・・・・・・ 1935 春相聞,問答 [題詞](問答) 春去者 先鳴鳥乃 鴬之 事先立之 君乎之将待 はるされば まづなくとりの うぐひすの ことさきだちし きみをしまたむ ・・・・・・・・・・
(鶯…啼く) 鶯は春の最初に鳴く鳥。鶯は春の最初に鳴く鳥だけれど それより早く君に逢いたい 私は君をこそ待っているんだよ ・・・・・・・・・・ (郭公…語らふ) 郭公はその初声が夏への推移をつげ、死出の山の彼方から訪れる鳥。 1936 春相聞,問答 [題詞](問答) 相不念 将有兒故 玉緒 長春日乎 念晩久 あひおもはず あるらむこゆゑ [たまのをの] ながきはるひを おもひくらさく
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* 「たまのお‐の 玉の緒の」 [枕]1 玉を通す緒の意で、その長短から「長し」「短し」、乱れたり切れたりすることから「思ひ乱る」「絶ゆ」「継ぐ」、玉が並んでいるようすから「間(あひだ)もおかず」などにかかる。あの娘とはお互いに心を通わせているわけではないからこそ 長い春の一日を思つめながら暮らしてしまうのだよ ・・・・・・・・・・ |

