カカシのこんにちは、こんばんは。

立ち寄りやすく、立ち去りやすいブログです。

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一日の過ごし方

腹いっぱい食べ、腹がよじれるほど笑い、腹割って語り尽くした。似つかわしくない祝いの宴。人を寄せ付けない人生なんていうと偏屈そうで語弊があるが、遠からず付き合いがへたくそな僕なんてのもまとめて囲んでくれる人たちが居てくれて、そうして過ごしただらしない一日を僕はわざと誇りに思う。
楽しても一日、苦労しても一日、どうあれ一日。大切なのはその一日を使ってなりたい自分に近づいていけるかで、仕事であれ家族であれ遊びであれ、自己満足の暇つぶしをどう極め合うかが僕らの生き方なのではないだろうか。ご安心を。シラフです。
一日を極め日々精進し、品格と力量が求められる『大相撲最高位の称号』を、日本人として十九年ぶりに勝ち得た男。縁もゆかりもないが、年齢だけは同い年。
新横綱・稀勢の里(きせのさと)に会った日の話。

 
1月27日。明治神宮に降り立った。プロレス以外ではほぼ使わない東京方面の電車を駆使し、予定通りの到着。元旦に初詣を済ませたばかりか、お守りとおみくじ(小吉)まで獲得している完全体の僕が
今さら神社に何用かって、稀勢の里の『奉納土俵入り』が行われた。
『土俵入り』とは、勝負の前に力士が土俵の上で身を清める一連の儀式で、『奉納土俵入り』は、新しく横綱になる力士が神様の前で土俵入りを初めて披露することらしい。
相撲初心者の僕でさえ興味をくすぐられた奉納土俵入り。当日は多くの相撲愛好家が横綱の勇姿を求めて訪れることは、容易に想像できた。

 「せっかくなら近くで会いたい。」
 
長らく相撲を見守ってきた愛好家を押しのいて絶好のポジションで横綱を拝もうという浅ましい野心が、僕を午前十時の明治神宮へ向かわせた。土俵入り開始は午後三時。すでに熱心なファンは待機していると思われる。


早々に列に並ぼうと、本殿へ向かう道を、持ち前のマッハ徒歩で進んだ。この先を右折すると奉納土俵入りが行われる本殿が目に入るはず。
「!!!!」
待ったがかかる。ゴールよりだいぶ手前の現在地。通路の右側がカラーコーンで仕切られ、役員の掲げるプラカードには、とても分かりやすく『稀勢の里関・土俵入り観覧・最後尾』と書かれていた。本殿内はまだ一般の参拝客に開放していて、我々は時間まで入場を待たされるようだ。

イメージ 4列の顔ぶれは概ねご年配の男性女性。
それにしても、前に何人並んでいるのか見当がつかない。
50、いや100人ぐらいか?
すると、トランシーバーで状況を確認
する役員の声。
 
役員「え〜、ここまでで
大体800です〜。」
 
自然にへたり込みそうになったが、列の相撲ファンは表情を変えない。

800人も前に居たら稀勢の里見えないんじゃないか…?」という僕の的確な不安も相撲ファンは意に介さず、持参のおにぎりを配る人、お喋りする人、さらには格の差を見せつけるように自家製の折り畳みイスを開いて読書を始める人といたく優雅な面々。ある人は見知らぬ人と交代制で食事へ立ち、例えば前の誰かが凝った体を伸ばしにしばらく列を離れても、その空間を詰めたりしない。品格と力量を備えた横綱のファンだけあって、応援する方々も思慮深く格式高い精鋭だった。

僕にもプロレスファンとしての誇りがあった。相撲を愛する皆さんに、魂で根負けするわけにはいかない。プロレスと相撲の知られざる決戦の一日。800人の相撲ファンに紛れ込み、僕はこの場所で五時間を棒に振る覚悟を決めた。
 
一時間、二時間、三時間、四時間。文字にすればたったこれだけの苦行。

真上の木々を徘徊していたカラスは飽きてどこかへ飛び去った。おにぎりも食べ終わり、お喋りの話題も尽き、自家製の折り畳みイスもお尻が痛くなったのか小さく畳まれた。
最近の中では一番の寒さも相まって、全員が疲れ果てている。経過した時間を表すかのように、振り返ると僕の後ろには、下りた駅まで続く長蛇の列ができていた。
後日ニュースで知った来場者数は、膨れ上がって18,000人。そして入場制限のかかった本殿敷地内に入れたのは、わずか5,500人。いざ、はっけよい本殿。
 
イメージ 5役員のメガホンで敷地内へ促された。
静まっていた列は活気を取り戻し、
相撲ファンらしくすり足で徐々に前進。敷地を囲むように列は二股に分かれ、
許された空きスペースに各々が自由に
場所をとった。本日二度目のマッハ徒歩も功を奏し、中々の好位置を確保。
心配された見通しも、

「うん、わるくない。」

五時間立って、また立ち見。一見すると残酷だが、僕らは入場できた喜びに浸っていた。


開始予定の午後三時。土俵入りの進行は遅れていた。何時間も立ちっぱなしだった僕らに残された気力はもう僅かだったが、同じ一日を過ごした戦士たちに囲まれていると、もう少し強く居られた。
 
試し打ちの太鼓に歓声が上がり、時折脈絡のない手拍子が弾んだ。
相撲ファンも、紛れ込んだプロレスファンも、一様に互いの健闘を讃え合うかのようだった。相撲と
プロレスの決戦は引き分けで構わない。
 
いよいよ主役の登場だ。土壌入りで締める出来立ての綱を収めるべく、まずは袴姿の稀勢の里が姿を
現した。
 
イメージ 6待ちわびた相撲ファンが稀勢の里目がけて姿勢を変え、バランスを崩して起こるドミノ倒しの波を必死で食い止めた。
しまいには近くの何人かが僕につかまる始末。そんな中、

「見えませーん。。見えませーん。。」

 遠くの後ろから、しゃがれた声が聞こえた。見えないのもそのはずで、僕の位置でさえ腕を目いっぱい伸ばしてカメラを構え、他の人がレンズを向けた方向に勘でシャッターを押すしかなかった。
 


「少しでいいので、、しゃがんでくださーい。。」

一瞬やってみようかと思ったが、ぎゅうぎゅうのすし詰め状態で自由は利かず、
通勤ラッシュの満員電車内で全員がしゃがめるのかという難しい状況だった。
 

「老い○短い私に、、前を譲ってくださーい。。」
 

 
プツン・・・。
 
 
 





普段なら、なんとも思わなかっただろう。人さまが何を考え、何を言葉にしようと、他人に対してどうこう思うことが僕にはあまりない。それが僕の小さな長所であり大きな短所でもある。ただ、今日一日で僕が勝手に作り上げた全知全能の相撲ファン像を曇らせる禁じ手の発言に、とてもがっかりしてしまった。
長時間の行列で疲弊し、あるいは僕も冷静ではなかったのかもしれない。僕の心の化粧まわしに、雷鳴が轟いた。
 
「ちょっと待ちなさいな。老い○が長くても短くても関係なくて、今日の『一日』は誰にとっても違わず大事ですよ。いいですか?僕らより前に並んでいる方々は、一日を僕らよりも早くスタートしていて、稀勢の里に会うために早朝六時から時間の対価を払ってあの場所に居るんです。後ろの我々がおいしい所だけ譲れってのは、お門違いも甚だしいですよ!」
 

と、危なく言いそうだった。もちろん、実際は何も言っていない。個人の激情を吐露しても、場の空気をわるくするだけで誰も得をしないし、第一、体の向きさえ変えられないまま前の人の後頭部に思いをぶつけても、後頭部が困惑するだけ。最低限のわきまえは僕にも残っていた。
しかし、その人は諦めずに交渉を続けた。
 
「お願いしまーす。。お願いしまーす。。」

大半の人が寛大に流していたが、相撲が許してもプロレスはそれを許せなかった。僕は長時間行列のうっぷんもまとめて晴らそうと、その人の心の大銀杏(おおいちょう=まげ)にハサミを入れんばかりにとうとう、


「あのですね・・・。他の人が言わないなら僕が言いますよ。あなたは何も見えていない。
『一日一日を懸命に』。僕は二十年間見続けたプロレスから学びました。
そしてそんな僕と、相撲ファンの方々は引き分けでした。相撲にもプロレスと同等の力があるのに、あなたは何を見てきたんですか?自分がっかりっす。横綱が泣いてますよ。なんなら自分も泣いてます。後ろで嘆くだけで
どうなるの?どうなりたいんですか?そうやって一日一日油断してると、
ただ昨日と同じ日になっちまうぞ!」
 

と、声を荒げる寸前だった。もちろん実際は何も言わないし、どちらかと言えば結構おとなしくして
いた。
心の中で繰り広げた一方的な舌戦に快勝し、きれいな状態に戻った僕。
 

やんやの声援が本殿を包んで、横綱・稀勢の里が歩いてきた。

イメージ 2
見よ。万感の一時間遅れ。
 
一つ一つ手順を噛みしめるように、奉納土俵入りが始まった。
 
「よいしょ〜!よいしょ〜!」
 
横綱の四股に合わせて、数千人の合いの手が入る。『ぺしゃん、ぺしゃん』と
人が石を踏み締めて沈む音は不思議な
ほどに心地よく、これまでの地味な苦労が報われる気分だった。


稀勢の里。白状すれば、昨日まで顔と名前が一致するかも疑わしかった。

イメージ 3稀勢の里が横綱に至るまでに重ねた努力や苦労を僕は何も知らないし、知ろうともしてこなかった。その努力が報われ、支えた人たちが一斉に祝う、僕はそこに便乗しただけではある。
それでも、宇宙とか深海とか神秘のなんたらにはまるで気持ちが進まない僕が
稀勢の里に会いにきた事実には意味があって、『人間』の持つ凄みを、
改めて知れた日だった。
 
稀勢の里の勇姿を、可能な限りカメラに収めよう。果たしてメモリの容量は
足りるだろうか。
 

おや?
 
イメージ 1

え、終わり・・・・?!





正味五分、いや、もっと短い気もする。

この後、まだあるの?
あれ・・・何時間待ったっけ・・・?
 
 
満足げに帰っていく横綱の大きな背中。

猫だましを食ったように、呆気にとられる僕。
今しがた横綱に会ったのが真であると、恐る恐るデジカメを確認した。すると、
 
 
 
 
「おーい、、稀勢の里―。。」

またさっきの人だ。何か文句があるなら僕の代わりに言ってやってくれ。
 
 







「ありがとー。。すてきだったー。。」







つかえていたものが、さっぱり消えた。
 
目に映るものには限りがあって、それは万物のほんの一部。その場に身を置き、音や空気から取り込んで映す心の目。その目に映った稀勢の里は、『すてきだった』らしい。見えない見えないとカメラばかり覗いていた僕には、見ていながら見えなかった姿。そっとデジカメを閉じた。
 
「まさかあなたは、僕にそれを伝えようと・・・?」
 
 
と、声になる寸前だった。元々見える位置に居なかったその人は、当然探してもどこにも見えなかった。
 
 
 
特別に、色々と考えさせられる日だった。
考えずに有耶無耶にしていた自分の面倒も、考える時間が贅沢にあった。

『ただ、同じ日になっちまうぞ』か。

立ち返れば他ならぬ自分に向けた言葉だった。一日一日に分かりやすく実りがあったらどんなに素晴らしいだろう。もしも、同じに繰り返しても後悔ない一日ならそれこそ眩しく、人生を達観した暁には
いくつかそんな日があるのかもしれない。けれどまだ、そうも甘えていられないなら、一日一日四股を踏もう。
 
これは僕が僕に宛てた日記。

イメージ 7

自分と他を比較して心の中で勝ったり負けたりしたちっぽけな一日。
プロレスと相撲の決戦も結局は僕の中でしか起こっておらず、冷静になると日本プロレスも源流を辿れば相撲なもんで、決戦する前に争う相手ですらなかったのかもしれない。完全なる勇み足。

珍しい空気に触れて慌てて自分を高めようと、色々ちょっと気負い過ぎたか。


一人相撲とは、このことだ。
 
 

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深みのある心の動きが、よくわかりました。
久しぶりに、まっとうな心の持ち主さんにお会いできたような気がしました。それにしましても、素晴しい1日でしたね。

2017/3/18(土) 午後 4:35 [ suz***** ] 返信する

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