ノマドの足跡

旅、落語、本などなど。思いつくまま書いたものです。

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弘前の夜

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弘前では夕方に、福岡から来た友達と合流した。僕が福岡を離れてからもよく遊ぶ友達のうちの一人で、いつもこうやって「現地集合」で落ち合い、日本各地で宴会をやっている。
そして今日は、弘前で宴会だ。
弘前の夜は、下調べをしてあった郷土料理の店「杏」に行った。
店に着くなりびっくりした。どこかでみたおっちゃんがいるのだ。しかも店員で。いや、風貌からは店員ではない。店長かオーナーだ。
そうだ、昼間、冊子で見たラーメン屋に行ったときに、隣のテーブルで一人ラーメンをすすっていたおっちゃんだ。あまりに気になったので訊いてみたらやっぱりそうだった。うーん、なんとも奇遇なもんだ。
この寒さと豪雪のせいか、店内は比較的すいていたため、おっちゃんいやオーナーといろいろ話をすることができた。オーナーは、めかぶの炭火焼とか岩のりの雑煮とか、いろんなものをサービスしてくれながら、昔東京で会社員をやってたときに、マグロの解体販売を(おそらく日本で初めて)やって評判になった話とか、クリスマスシーズンにいちごの価格を高騰させようと思って大量に買い占めてしまった話とかをしてくれて、とても楽しかった。
この店の「売り」は、美味な食材や種類豊富な地酒もそうだが、なにより一流の奏者による津軽三味線の生演奏にある。一晩に二回、7時半と9時半にライブ演奏が行われる。
今日の演奏は、津軽三味線の名手、多田あつし家元の一番弟子といわれる、小山内薫さんだ。若干26歳の若手だが、将来有望な実力派らしく、オーナー曰く、最近人気の吉田兄弟なんかよりレベルがひとつ上なのだそうだ。
実を言うと、僕が津軽三味線の生演奏を聴くのは、今日で三回目だ。列車の中で聞いた後、「弘前ねぷた村」でもライブ演奏を聴いた。
しかし、そのいずれともまったく別物であることは、今日はじめて聴いた僕にもよくわかった。それは、250万円するという「名器」の違いもあるだろう。しかし、音色からテクニックから迫力から、まったく違うのだ。
津軽三味線は、鋭角の「撥(ばち)」で三本の弦を弾く。そこでは1ミリかそこらの繊細なタッチが勝負になる。と同時に、胴の部分に極限まで張り詰められた犬の皮には、弦だけでなく先の広がった撥もたたきつけられる。つまり津軽三味線とは、弦楽器であると同時に打楽器の要素もあるのだ。それが、弦を弾く1ミリの繊細さと同時に、激しく皮をたたきつける迫力をも弾き出す。
津軽三味線は本当にこの極寒の土地に似つかわしい楽器だと思う。
青森で会ったおっちゃんは、津軽三味線は2月の一番寒い時期に、できれば外で聞くのがいいといった。
本当にそうなのだろうと思う。
身を切るように鋭く張り詰めた極寒の外気と、極限まで張り詰められた皮と弦が弾き出す音色とが、とてもよくシンクロしているのだ。
しかも、何ヶ月も人々の生活を閉じ込めてしまう深い雪は、あらゆる音を吸収してしまい、冬の津軽はただただ静かな世界になる。そこで響くのは、こういった鋭角的な音色以外にありえない。
その刺すような音色は、暗く曇った空と一面の雪そして鉛色の海という色彩を失った単調で曖昧な世界に鋭く切り込み、そこに生きる人たちに、生きていることのリアリティを与えるのではなかろうか。
初めて生で聴いた津軽三味線は、どこまでもストイックで、繊細、そして刺激的で情熱的な楽器だと思った。
小山内さんは僕なんかよりずっと若い奏者だが、演奏の最中はずっと目を閉じ、ひたすらストイックに、そして極限まで演奏に集中する。オーナーは、「あいつは派手さがなくて、売り込みもうまくなくて、そして頑固だ」といったが、そこに僕はとても好感を持った。率直に、津軽三味線奏者として、もっと精進して、そして成功してほしいと思った。
その演奏を二回も聴いてしまうほど長居してしまって、お店を後にした。
すばらしい津軽三味線の演奏やオーナーの話、そして何より美味しい食べ物と地酒に心のそこから満足し、僕はすっかり浮かれて、雪の中に頭を突っ込んだりしながら、宿まで帰った。
しかし、気をつけないと。新雪はふわふわに見えて気持ちよさそうだけど、街の中、雪の中にどんなものが埋まっているかわからない。浮かれて雪の中に頭を突っ込んでみたり、新雪の上に大の字になって寝たりしてはいけません。よい子はマネしちゃダメなんです。




郷土料理 杏
 http://f18.aaa.livedoor.jp/~anzu/ 

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