宇宙とブラックホールのQ&A

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名古屋大学の小澤正直教授は、量子力学の根幹をなす不確定性原理に関してこれまで受け入れられてきたハイゼンベルクの式は誤りだと主張し、それに代わる新しい式を提唱してきました。
今回、小澤教授とウィーン工科大学の長谷川祐司准教授らの実験により、ハイゼンベルクの式が誤りであるのに対し、小澤教授の式は成り立つことが、確認されました。

まずは新聞記事の見出しとURLを並べておきます。いずれも1月16日付です。
・朝日 物理の根幹、新たな数式 名大教授の予測を実証
http://www.asahi.com/science/update/0116/TKY201201150398.html
・読売 不確定性原理に欠陥・・・量子物理学の原理崩す成果
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20120116-OYT1T00076.htm
・毎日 量子力学の基本法則に欠陥 名古屋大教授ら実証 教科書の書き換え迫る
http://mainichi.jp/select/science/news/20120116ddm003040063000c.html
・msn産経 不確定性原理の欠陥実証 現代物理の常識覆す 幅広い分野への応用期待 名大教授ら
http://sankei.jp.msn.com/science/news/120116/scn12011613140002-n1.htm
 同 「測定速度の壁」破る より普遍的な理論に (k:前半は相対論と混同しているような見出しですね)
http://sankei.jp.msn.com/science/news/120116/scn12011613150003-n1.htm

朝日以外は「不確定性原理に欠陥があった」という書き方です。
これは、名古屋大学の発表がそうなっているためです。
・名古屋大学 現代物理学の根幹である不確定性原理の破れを観測―ナノの世界の深淵を語る基本原理に穴(pdf)
http://www.nagoya-u.ac.jp/research/pdf/activities/20120116_is.pdf?20120117

私は最初、小澤さんご本人が謙遜するのは分かりますが、マスコミ報道としては朝日のように従来の不確定性原理の不等式に代わる新たな式を提示してきた小澤さんの手柄とすべきではないかと思いました。
しかし、よく考えると、ハイゼンベルクの式は否定されましたが、小澤の式が実証されたといえるのかどうかは難しいところです。
(理論の反証は可能だが実証は不可能だというポパーの科学理論を思い出してください。)
ただ、今現在は小澤の式と代替的な式(理論)が存在しない以上、小澤の式がハイゼンベルクの式にとって代わったと言えそうには思います。

このテーマについては日経サイエンスが何回か取り上げ、それらはネット上で読むことができます。
・物理学の常識に挑む数学者 小澤正直 ― 日経サイエンス2004年9月号 素顔の科学者たち(要約)
http://www.nikkei-science.com/200409052.html
・同記事本体(pdf)
http://www.nikkei-science.com/wp-content/uploads/2004/07/200409_052.pdf
・新たな不確定性原理を求めて ― 日経サイエンス2007年4月 特集 不確定性原理(要約)
http://www.nikkei-science.com/page/magazine/0704/heisenberg.html
・ハイゼンベルクの不確定性原理を破った! 小澤の不等式を実験実証(2012年1月16日)
http://www.nikkei-science.com/?p=16686

ちゃんと読むのなら、まず日経サイエンス2004年9月号のpdfで小澤さんの新たな不等式を理解してから、同じく今回の記事で長谷川さんたちの実験内容を確認すればよいでしょう。
(新聞や名大のpdfではどんな実験か分かりません。)

URLを貼り付けるだけでは芸がないので、一応簡単に要約しておきます。
不確定性原理に関するハイゼンベルクの不等式は次のとおり。
   Δq・Δp ≧ h'/2
同じく小澤の不等式は次のとおり。
   Δq・Δp +σq・Δp +σp・Δq ≧ h'/2
ここで、Δq は位置の測定誤差、Δp は測定による運動量の乱れ、 σq は位置の量子ゆらぎ、σp は運動量の量子ゆらぎで、いずれも3次元ベクトルです。
・ はベクトルの内積をとる記号。
h'は、本来はhの上半分を斜線が横切る記号で、プランク定数hとの関係は h' = h/2π。
(ですから、h'/2 = h/4π です。)
仮に σq = σp = 0 であれば、小澤の不等式はハイゼンベルクの不等式に等しくなります。

ハイゼンベルクの不等式によると、位置の測定誤差と測定による運動量の乱れの積が一定以上になりますから、両者を同時にどんどん小さくすることはできません。
しかし、小澤の不等式によればそれは可能です。

今回の長谷川さんたちの実験は、中性子のスピン(自転に相当)の直交する二方向の成分(x成分とy成分)についても不確定性原理が成立することに着目しています。
ハイゼンベルクの不等式が正しければ、x成分の測定誤差がゼロのときにはy成分の乱れが無限大に発散する(逆にy成分の乱れがゼロのときにはx成分の測定誤差が無限大に発散する)はずです。
しかし、実際にはy成分の乱れはh'/2の1.5倍弱に収まっており、それどころかどの実験条件でもxの誤差とy乱れの積はh'/2より小さくなって、ハイゼンベルクの式はまったく成立しません。
一方で、理論的に求められたスピンの量子ゆらぎから計算すると、小澤の不等式は確かに成立しているということです。

さて、今回の成果により近いうちに教科書が書き換えられるのは間違いないとしても、われわれ素人としては小澤さん(あるいは小澤さんと長谷川さんのお二人)がノーベル物理学賞を受賞できるかどうかが関心事となります。
理論だけを考えれば、量子力学の枠組みに影響を及ぼすものではないため、ノーベル賞級の業績というには力不足のように思います。
しかし、進展著しい量子情報技術への応用で広範な有用性が認められれば、ノーベル賞受賞は十分あり得るとおもうのですが、いかがでしょうか。

この記事に

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はじめまして
karaokegurui様のこの記事を私のブログにリンクを載せました。 削除

2012/1/18(水) 午前 8:34 [ ghsobo ] 返信する

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ghsoboさん、はじめまして。
(お互い「様」はやめましょう(^_^)

そちらにも書き込んだとおり、私は決して量子力学に詳しくはありませんが、多少なりともご参考になれば幸いです。
今後ともよろしくお願いします。

2012/1/19(木) 午前 1:03 karaokegurui 返信する

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karaokeguruiさん自分も時々行きますのでよろしくお願いします。

2012/1/19(木) 午後 7:30 [ ghsobo ] 返信する

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