近代建築青空ミュージアム

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2009年2月6日

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“夢のかけら” 遊覧記 〜そごう百貨店心斎橋本店

いろいろな本でよく見かける、村野藤吾さんの「そごう百貨店本店」(1935年竣工)。
以前は、このように美しいそごうに、いつか行くのを夢見ていました。

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現存しないことを知ってからは気にも留めなかったこの百貨店ですが、ある日、この百貨店の天井を飾っていたモザイクが、現在のそごう百貨店に存在すると記されている本を見つけたのです。(大阪歴史博物館編 「煉瓦のまちタイルのまち」2006年)http://www.mus-his.city.osaka.jp/news/2006/brick-tile/brick-tile-item33.html

それ以来、そのモザイクに出会える日を心待ちにしていました。

そして、その日がやってきました。

地下鉄御堂筋線心斎橋駅をあがってすぐのところに、そごう百貨店の本店があります。

現在の建物は、竹中工務店の設計、内装設計はアメリカ・シアトルのキャリソン・アーキテクチャー社が担当。

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オープン時以来のの広告キャッチフレーズは「なにわ遊覧百貨店」。ショッピングだけでなく、屋上庭園、劇場、レストラン街、昔の心斎橋を復元した「こだわり趣味の街」を歩くことができるようになっています。

私は、ショッピングもそっちのけに、村野藤吾さんの旧建物がのこしてくれた“夢のかけら”を追い求めて、「遊覧」してきました。

そごうの歴史は、初代十合伊兵衛さんが天保元年(1830)、「大和屋」を創業したことに始まります。

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そして2代目伊兵衛さんが明治10年(1877)、この心斎橋の地に「十合呉服店」を開業したのです。

これ以後2つの建物を経て(そごう百貨店HPより)、
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昭和10年の開店に向けて、百貨店の設計を依頼されたのが村野藤吾さんでした。

「そごうを担当したいきさつはこうなんです。あの百貨店の創立者で、現在顧問をしておられる木水栄太郎社長が私ともう一人の候補者から設計図を提出させて、最後に、村野は工業学校を出ているから機械室のことがわかるだろう、と私に決められたというのです。当時、隣の大丸はすでに完成して、はなばなしく開店していたし、御堂筋はまだ拡張工事中で舗装もできていない。そごうとすれば、文字どおり、のるかそるかの瀬戸ぎわだったのですね。」

そごう側は、村野藤吾さんに会社の命運を託していました。その信頼の度合いは、限りなく大きかったのです。

そごうの命運は、「6割が設計、4割が商売」による、と木水さんは言いました。
木水さんの熱心さに打たれた村野藤吾さんは、
「この人のためになら、そごうの建築に自分の建築生命を投げ出してもいい」
と、思われました。

このそごうの設計のため、欧米外遊(1930)。
外壁はイタリア産トラバーチン大理石(戦前)、藤川勇造さんの「飛躍」の像。
御堂筋から見た景観に配慮した、縦縞のデザイン。
エレベーターの扉には、島野三秋さんの蒔絵。
鶴丸梅太郎さんの天井モザイク。
上野リチさんの天井ガラス装飾。

名建築家の名建築の中に、有名芸術家の傑作がちりばめられたのでした。

建物が解体されれば、その一部でも残ることは稀な今日、そごうでは村野藤吾さんの建物を「モダニズム芸術の大聖堂」と捉え、現在の建物内にこれらの芸術作品をよみがえらせています。

急にここに来る幸運に恵まれ、それぞれの場所を把握していなかった私に、店員の方々は親切に教えてくださり、感謝しました。

まず、7階の「ロイヤルサロン」には、島野三秋さんの
「鉄地漆螺鈿装飾扉」。

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島野さんは金沢生まれの蒔絵美術工芸家。
これは、旧そごうで、1階エレベーターの扉を飾っていた作品です。
島野さんの作品の中では、「鉄板に色漆と螺鈿」という試みが新しい作品。

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次に、「飛躍」の像を求めてエスカレーターに乗っていると、14階から窓越しに見えました。
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屋上庭園「そごうパーク」への自動ドアを入ると左上に雄々しい「飛躍」の像。

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作者の藤川勇造さんは、高松市出身、巨匠ロダンの助手もつとめました。
まさに、そごう、村野藤吾さん、そごうに集うお客様、そして大阪のまちの「飛躍」を願うような像です。

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ステンドグラス作家、鶴丸さんの作品は、なかなか見つかりませんでした。
「花岡哲象日本画展」開催中の、12階美術画廊の方々のお時間とお手間をとりやっとたどりついたのは、数分前に蒔絵を見た7階のロイヤルサロンでした。

「ロイヤルサロン」は、会員専用のスペース。
モザイクがある受付カウンターへは、一般の方々は足を運ばないところでした。
「昔のそごうのモザイクがこちらにあると伺って…」
と、話しながらも視界には美しいタイルが広がり、そこには大きな星が2つ輝いていました。

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写真を撮ろうとするとすぐに受付の方は移動してくださいました。
ご案内くださった皆様に大感謝。

しかしこのモザイクは、もともと天井にあったものを一度解体し、再構成したものということでした。

私がもっとも見るのを楽しみにしていた夢のかけらは、このモザイクです。
なぜなら、この作品の原画を、村野藤吾さんが描かれたからです。
星座の原画です。

このモザイク作品から、村野藤吾さんの、この百貨店に託された夢を、うかがい知ることが出来るのではないかと思ったからです。

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星座はもう見えませんでしたが、その夢は、いまだにこの百貨店を包んでいるような気がしました。

いまのそごうにあるいくつかの芸術作品は、旧そごうの「断片」ではなく、村野藤吾さんの“夢のかけら”でした。
そう思えるのは、百貨店の人々の心の中に旧建物への感謝と、明るい未来を切り開こうとする意欲が存在し、その思いがこれらの作品を「よみがえらせて」いるからです。
その証拠に、そごうではホームページで「復活」ということばを使って作品を紹介しています。http://www2.sogo-gogo.com/common/516/history/history_2.html

そこに、解体されてもなお息づく村野藤吾さんの「命」の声を聞きました。

「そごうをつくったときは、まったく捨身でしたね。デパートというものは大衆にアピールしなければならない商業建築の極限にあるもので、一歩踏み誤れば人間感覚を悪用した堕落した建築になりかねない。そごうと討死するつもりで、設計にあたりましたよ。」

商業主義に陥ることなく芸術性、利便性を追求し、なおかつ経済社会の発展を実現しなければならないという思いは、村野藤吾さんの「夢」であり、同時に現代への警鐘でもあるのです。

命を懸けるほどまでに、このそごうは村野藤吾さんにとって、特に、大切だったのか、力を入れた建物だったのか…と思ってしまいそうですが、決してそうではないと思います。

広島世界平和記念聖堂の設計の際も、聖堂が完成したら「死んでもいい」と思っておられました。
常に、建築家としての持てるすべてを注ぎ込んだ命の建築、それが村野藤吾さんの建築なのです。

しかし、はっきりと、村野藤吾さん自身が「命を賭けてもいい」と思われた建築、そしてそのお心を私たちが知ることができる最初の建築、それがこの心斎橋そごうなのかもしれません。

なぜ、このように、すばらしい建築家の人生を賭けた建築が、未来永劫受け継いでゆかれないのか…

あたたかい店員の皆様の対応や和やかな百貨店の雰囲気に心安らぎながらも、日々消えることのない疑問が、さらに大きくなった「遊覧」でした。

夢のかけらに出会えた余韻にひたる間もなく、2つの事実に気がつきました。

ひとつは、現在のそごうの建物の設計監修は…「MURANO design」が担当されていること…
そうでなければ、村野藤吾さんの「命」が新しい建物の中で、こうまで息づくことはできなかったかもしれません。

もうひとつは、「遊覧」に見落としがあったこと。

上野リチさんのガラス装飾です。
14階、ホールホワイエ。

ほかの建物でも村野藤吾さんと関係の深かった上野リチさんという女性について、もう少し勉強して、また夢の遊覧へ誘われる日を待ちたいと思います。

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写真
冒頭写真、旧そごう階段手摺:「村野藤吾 建築とインテリア」(株式会社アーキメディア、2008年)
2枚目そごう写真:「村野藤吾作品集 1928‐1963」(新建築社、1983年)

引用文はすべて「村野藤吾著作集」(2008年、鹿島出版会)より

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