絶対 美人になってやる!

美人になりたいと思ってるヤツ みんな来い!!

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ついた女になるんだ (10)

(9)よりつづく
 
登場人物他の整理

 佐高和男=カズミ

 中野良男=ヨシミ:和男と同期入社

 大木課長=ケイコ:和男の直属の上司

“花園”:大木が私的に運営する能力開発のための倶楽部





 11月1日の金曜日が2回目の“花園”だった。先々週、大木からの渡されたメモはまだ実戦に移していなかっ

た。、仕事を終えて“花園”へ入ったのは午後の9時前だった。予め大木から大木自身は所用で来れないと言

われていたのではあるが、行けば何とか女装ができるのではないかと思って“花園”へ足を運んだ。

 既に中野も来ていて、もう既にヨシミになっていた。「うわっ かわいい。とうてい敵わない。」2週

間前の初めてのときもそうだったが、中野の女装には勝てっこないと痛感させられたと同時に、「今に見

てろよ」という嫉妬心もあったのは確かだ。しかし、身長165cmの中野に対して、和男は174cm。肩幅も

腕一本分くらいは確実に中野よりも広いし、体の各パーツはすべて和男の方が一回り大きい。ウエストの

くびれ具合もぜんぜん違う。和男のウエストも男としては細い部類の70cm前後ではあるのだが、中野のウ

エストは見ただけで和男のウエストよりも確実に細いどころか、和男の太腿よりもわずかに太いくらいで

はないかと思えるくらいだった。

 しかし、この敗北感、屈辱感の心地良さというのは何なのだろうか。これが女装というものなのだろう

か?しかし、大木課長から渡されたメモを信じて、ウォーキングと腹筋とスキンケアを実践するしかない

と、確信したのも確かである。

 この日の中野は紺のタイトスカートのスーツにインは淡いクリーム色のボウタイブラウスだった。仕事

帰りのOL。しかも、令嬢とまではいかないが、ちょっといいところ出の。といったところだろうだろう

か。コンセプトを聞いてみたら、やっぱりそうだった。女装にかかわった経験がある男であれば、さっそ

く着たことがあるか、もしくはいつかは早いうちに着てみたいと思うようなアイテムに違いないはずだ。

 今夜が、2回目の完全女装となる和男でさえもそう直感した。セルフでのメイクは、まだまだ、とうて

い無理なので、メイクをこの日も中野に頼むしかなかった。

「頼むよ。」

「何だ。それ。お前には客観性とか、冷静さというものはないのか?」

「?」

 この夜、和男は当然、レンタル用品を使わないと女装ができないわけであるが、そのレンタル用品の中

から選び出して着たのはセーラー服だった。

「お前、馬鹿か?」

 中野が言った。

「だって、セーラー服じゃないか。いいじゃないか。初初しいだろ?」

 和男のためにメイク道具を準備しながら、中野は

「いいか。セーラー服だぞ。セーラー服。」

「うん。だよな。これって、れっきとしたここのレンタル品だろっ?」

「どうしても着てみたいっていう会員の人がいるから置いてるだけだ。お前22歳だよな。22歳の本物の女

 がセーラー服を着たとしても周りは引くぞ。それをお前みたいな男が女装で着てどうするんだよ。もっ

と、もっと引くぞ。そもそも、メイクしてセーラー服を着てる女っているか? どう考えても不自然だろ

うが。」

「そう言われてみればそうかもな。」

「いいから、座れ。それでもセーラー服仕様のメイクをしてやるから。俺も今夜は忙しいからな。さっさ
と終わらせてやるから。」

 あきれ果てたように中野は続けて

「男だったら誰でも、セーラー服には憧れた思い出もあるだろうから、女装を始めたときに、真っ先に着てみたいと考えるのも有りかもしれないがな。それもいいかもしれない。でもな。冷静に考えてみろよ。メイクをしてセーラー服を着るというのは、どう考えてもおかしいだろ? それに、お前が着ているのはな。20号のサイズのセーラー服だぞ。」

「20?」

「体重が90とか100とかのオヤジさんがよくここに来て着てるよ。他にもナースとかスチュワーデスとかあるだろ? あれも同じようなもんだ。」

「なるほど、それで、ゆったりしてて、楽なはずだ。」

「何を着て女装するかは個人の勝手かもしれないが、何を目的にして女装しているかを考えたら、ちょっとな。大木課長からはとっくに、言われているとは思うが、 男の能力開発をするための女装だろ?その女装の先輩としては、あんまり、勧められないな。大木課長からはここで着る物については何か言われていないのか?」

「いや特には。慌てる必要はないとは言われているけど・・・。あ、痛い。痛いよ。もう少し手加減してくれよ。」

 髭隠し用のカバーファンデーションを和男の口の周囲にバッチン、バッチンと力を込めて叩き込む中野

の手つきは女装メイクにとっては当たり前のことではあるのだが、初心者の和男にはやはり抵抗があっ

た。

「女装のセットを一式揃えるのは大変だから、12月のボーナスが出たときに揃えたらいいと大木課長からは言われているけど・・・」

 と和男は呟いてみた。

「じゃあ、そういうことは外商の俺が揃えてやるよ。今度カタログを持って来てやるからな。」

「ぜひ、頼むよ。」

「で、お前、やってるのか?」

 和男のまつ毛をマスカラブラシで巻き上げながら、ヨシミが呟くように聞いた。

「えっ何」

「こらっ、まばたきするなよ。」

「あっ ごめん。」

「ほら、大木課長から言われてないのか?」

「ああ、腹筋とか、ウォーキングとかか?」

「ああ、そうだ。だから、まばたきするなって。」

「ごめん。来週ぐらいからやろうかなと思ってはいるんだけど・・・」

「やっぱりな。そんなことだろうと思ったよ。全然変わってないものな。せっかく大木課長が目をつけてくれたのに、やる気はあるのか。やる気は?ただ女の格好をして楽しんでいればいいってもんじゃないんだぞ。いい女装をすることで男としての能力を最大限に開発する。そのための女装なんだぞ。」

 何で俺が同期のこいつから説教されなくちゃいけないんだよ。偉そうに能力の開発だとよ。

 和男にとっては2回目の女装であったが、セーラー服女装が、その夜、“花園”のサロンで浮きっぱな

しになって終わってしまったことについては和男も認めたところであった。ただ何でも着さえすればいい

というものでもない女装というものの奥深さを思い知らされた和男だった。


 11月8日の金曜日。トイレで、偶然、大木課長と会った。和男がハローワークと社会保険事務所の用事

を済ませて帰って来たときだった。

 小便器へ放尿していると

「背中が曲がってるぞ。そんなことではいい女装はできないぞ。」

 和男の背中をポンと軽く叩いて隣の小便器の前に立ったのは大木課長だった。

小便器に向かって放尿するときは、誰でも前傾の猫背だろうと思うのだが、大木は違っていた。

「今晩、来ないか?」

「え? 花園へですか? いいんですか?」

「うん。」

「それでは、よろこんで、伺います。」

 先週の金曜日の11月1日が2回目だったから、「溺れてはいけない」「2週間に1回にしろ」と大木に言わ

れたとおりにすれば3回目は来週のはずだが。

「飯に行くか? まだだろ?」

「はい。」

イメージ 1

 あれ以来、大木課長から昼飯に誘われることが多くなったような気がする。

「実はな、今夜。お客さんがあるんだ。2人。」

「お客さんですか。」

「女装子さんのお客さんだ。年に2回ほど来てくれるんだ。2人とも東京から出張でこっちへ来たときにい
つも寄ってくれる。今回たまたま2人とも日程が重なってな。2人ともたしか、社会人になって2年目か3年目だったはずだから、いろいろと為になるいい話が聞けるんじゃないか?」

 かつ丼を前にした大木が割り箸を割って続けた。

「で、どうだ。やっているのか?」

 和男には大木課長が言った「やっているのか?」が何のことか直感的にわかった。毎朝の腹筋100回とウ

ォーキング30分のことだろうと。しかし、

「えっ。何でしょうか?」

 反射的に応えてしまった。言われた通りに実践していなかった後ろめたさにそうさせられた。

「腹筋100回とウォーキングのことだ。」

「あ、いいえ。」

「そうだろう。なぜ、やらないんだ?」

「申し訳ありません。」

「能力開発としての女装だぞ。やる気はあるのか、やる気は? 現状に満足することなく、常に自分を自分で高めていこうという向上心はないのか?お前には。」

「申し訳ありません。」

 謝るしかなかった。何も言い訳ができない。先週も中野に指摘されたばっかりだったのに、なぜあの次

の日からでもやらなかったのか悔やまれるが、この日の大木課長は治まらなかった。

「あのワンピースは着ているのか?」

「(声が大き過ぎ)・・・」

 あのワンピース・・・あのワンピースのことだ。体型シェイプのチェックのためにと初めて“花園”に

行った夜の帰りにケイコ姉さん(大木課長)から手渡されたあのワンピースだ。古典的デザイン・ホワイ

ト・プリンセスライン・後ファスナー・5部パフスリーブ・ウエストリボンの・・・。“花園”で女装に

よる能力開発に取り組んだ先輩達が代々必死に袖を通した跡が窺える9号サイズのワンピース。

「着ているのか? 着ているのかと聞いているんだ。」

「いいえ」

「なぜ着ないんだ。」

「いえ、そのサイズが・・・」

 確かに、デザイン的には憧れるワンピースではあるが、両脚を背中から入れて、両腕を袖に通すところ

までが精いっぱいの9号サイズだ。

「サイズが無理なことは初めからわかっていることじゃないか。そこに納まりきれない自分の体をしっか
りと自覚するために渡したんだ。今すぐに着こなせなんて、そんな無茶なことを言っているんじゃないんだ。」

「はい。」

「しょっちゅう着ろと言ってるわけでもない。1日1回ぐらいなら苦になることもないだろう。2日に1回でもいいじゃないか。寝る前に1回でいいじゃないか。それぐらいのことがどうしてできないんだ。」

「はい。」

 大木課長の言う通りだ。まず女装には体が基本だ。11号や13号でも女装はできるが、女性服のバリエイ

ションに富むのは圧倒的に9号だ。9号に納められる体を獲得すれば、自分の女装を思い描くうえで自ずと

創造の幅も広がるし創造力も高まる。それは、ひいてはビジネスのうえでの創造力にも繋がる。

「やる気がないのならいいぞ。」

「いいえ。」

「いい女装をすることで男としての能力を最大限に開発して、それをビジネスの舞台で発揮する。そのための女装だぞ。今夜も来たくなければ無理をして来なくてもいいぞ。」

「・・・い・・・行きます。」

 と、大木課長とまともに目を合わせることができないまま、絞り出すのがやっとだった。

「先に出るからなっ」

 先に食べ終えた大木課長は出て行ってしまった。まったくかつ丼が喉を通らなかった。しかし、大木課長は

しっかりと2人分支払ってくれていた。

(11)へつづく

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