ある法学生の勉強部屋

判例・時事・読書感想などなど。書庫を探ってみてください。

笠松宏至 『徳政令』 (岩波新書) を読む

 
『徳政令』   笠松宏至   岩波新書    1983/2007
 
 
一見してわかるとおり日本の歴史に関する本なのだが、
同時に、勝俣鎮夫『一揆』と同じく、
“中世日本の法律”に関する一冊でもある。
こちらもとてもおもしろい。
法律を勉強している人にもぜひ薦めたい。
 
 
「徳政令」という歴史上の事実を一つ取り出し、
そこから掘り起こして、中世の法文化について
様々なことが描き出されている。説明は順を追って丁寧であり、
古文書から歴史を紐解いていく過程を一部疑似体験することができる。
著者は「吾妻鏡」など中世史研究の権威の一人なので、
その見識も確かなはずである。
 
 
歴史学の本ながら、取りあげられる事件は生き生きと、
臨場感にあふれていて、飽きさせない。
中世鎌倉の人々が、どのように法律を使い、
訴えを起こし、主張立証をしていたかなど、
なかなか他では見ることのないエピソードが豊富。
利息の決め方や質権の考え方などにも触れいてる。
 
 
その上で徳政令がいかに日本の中世法の中で
特異であったかが説明されている。
徳政令は誰が見ても“非合理で、理解困難な法令だ”という
常識的な発想から出発して、にもかかわらずそれが
圧倒的な存在感を持ちえた理由を、
時代背景,社会背景から丹念に解き明かしていく。
やや言葉が難しかったり、叙述が錯綜して読みにくいところもあるが、
そういうのは適宜流して読んでも、
概ね興味深く面白いのではないかと思う。
 
 
安達泰盛の司法改革にも触れられている。
公平と迅速という、現代にも共通した目標を掲げる
民事訴訟改革が中世日本にもあったことには驚かされることだし、
それを途切れ途切れの数少ない古文書から読み解く作業も興味深い。
 
 
なぜ徳政令などというものが効力を持ちえたか、
なぜここまで人口に膾炙するまでになったのか。
すっきり正答が得られるものでもないし、
かなり限定された問題設定にとどまるが、
法制史学のおもしろさを端的に素描した
おもしろい一冊だと思う。
 
 
 
 
 
 

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『条解民事訴訟法(第二版)』 (弘文堂) を読む

 
『条解民事訴訟法(第二版)』    弘文堂   2011
 
 
 
日本における民事訴訟法の解説書としては
至高の一品といっていいと思う。
 
 
日本の民事訴訟法学を確立した兼子一が1951年に原書を書き、
その後1986年に、弟子である松浦馨,新堂幸司,竹下守夫の三氏が
大幅に改訂したものを、この度、さらにその弟子である
高橋宏志,加藤新太郎,上原敏夫,高田裕成の4氏が
手を加えて成ったのが、このコンメンタールである。
当初からの方針により分冊はせず、条文からはじめて
判例や学説の解説まで、1冊にぎゅっとまとめられている。
 
何かと情報が分散しがちな社会科学において、
こういうのが一冊作られて、引き継がれている
民事訴訟法学はすごいと思う。
 
 
そうそうたるメンバーを見れば一目瞭然だが、
“民事訴訟法の広辞苑”という感じである。
定義や通説的解釈などを知りたければ真っ先にこの本で
調べてみるのが王道とみていいのではないだろうか
(容量の都合上、必ず答えがあるとは限らないが)。
 
 
教科書的な重要判例や論点の解説ならほとんど網羅され、
多角的で詳しい解説がなされている。
条文にとどまらず、明文にはない部分の争点も
反対説を交えながらしっかり取り上げられている。
参考文献の注記も多いし、索引も一通り完備している。
1冊の本でできることは全部やっているという感じだ。
 
 
どのような本でも「これじゃ足りない」という意見は
不可避ではあろう。もちろん、今後、全5冊とか全10冊とか、
本書よりも詳しい注釈書が出てくることはあるだろうし、
実務家さんや学者さんはそういったものでないと
満足できないかもしれない。ただ、いずれにせよ、
「実務に向いている」とか「この点の解釈が詳しい」とか
「判例紹介が多い」とか、解説書の長所短所を語る上で、
本書がそういった価値評価の中心を担うだろうと推察される。
 
 
今後しばらくは、「民事訴訟法の体系書の決め手はどれか」、
「いいものは出ないのか」、などと(私のようにそういった
“不毛な品評会”を趣味にしている人もいるだろうが)
悩む必要はなくなった。
 
正直2万円もする高い本なので買う人は少ないだろうが、
民事訴訟法のこれまでの総まとめとして、
手元において損はないと思う。
 
 
最近、法律情報もどんどん電子化されていて、
紙の本は減少していく運命にある。そんな中でも、
こういうメルクマールとなる注釈書・事典には
末永く生き残ってほしいと思う。
 
民事訴訟法は本書を含めてコンメンタールは多く、
会社法や刑法も解説書が豊富。『条解破産法』もすごそうだ。
となると、あとは『条解憲法』とか『条解民法』(全3冊くらい)
が出たらいいのになあと強く思うしだいである。
 
 
 
 
 

 

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橋爪大三郎・大澤真幸 『ふしぎなキリスト教』 を読む

 
 
『ふしぎなキリスト教』  橋爪大三郎・大澤真幸  講談社現代新書   2011
 
 
中央公論の新書大賞2012において、
2位以下を引き離してぶっちぎりの一位を獲得した作品。
特に興味はなかったのだが、圧勝1位ということで
さっそく購入して読んでみた。
 
 
この論者二人で“キリスト教”というのが
まずちょっと違和感を感じるはずのところだが、
当のお二人はきわめて強気である。
大澤氏は橋爪氏を「日本でもっとも信頼できる宗教社会学者」
と賞賛し、自身も知識を多く持っていると自負する。
そしてできあがった本書は、“初心者から知識人まで納得できる”
“まちがいなく面白い本”と言ってはばかるところがない。
そして本の目的は“無知な日本人に対して、
近代の常識をお教えする”というものなのである。
ここまで自信満々な本はなかなかないのではないか。
 
 
しかし、好調な売り上げに反し、
聞くところによると専門家からの評判はすこぶる悪いらしい。
「橋爪大三郎が宗教社会学の第一人者だって?、なんぼの者だ!」
と反発があがることは、素人目に見ても大いに同感である。
ただ、キリスト教をまじめに、でも宗教者との軋轢に
屈することなく論じるのはかなりやっかいなことであって、
なかなかそんな人はいないのも事実。宗教者になることなく、
社会学として宗教を語れる人は誰かと消去法で探していくと
橋爪氏しか残らないということだろう。
大澤氏が、「痛快で笑ってしまった」というのは
そんな“しがらみのなさ”にあるのかもしれない。
 
 
ただ、そのように人選を大目に見ても、
はしがきのようなすごい内容にはほど遠いと思う。
文献を多く駆使したり、各方面に取材することにより
実証的に研究した業績というわけでもなく、
二人の社会学者が、ほぼ即興で予想と推理によって
長々と対談しているだけの本だから。現に、
「おそらく…だと思います」とか「…と思われるが、
よくはわからない」という発言がほとんどで、
大澤氏はときにちゃかした感じすらにじませる。
 
例えれば、“東大生の秀才二人が放課後に
楽しくおしゃべりしたものをノートに書き起こした”
ものに近いといっても、あながち間違いではないだろう。
読んでいても、なるほどそういうことかと納得いくわけもなく、
解釈論もそれで本当にあっているのか確信の持ちようがない。
 
 
肝心の「キリスト教を理解せずして、近代は理解できず」
の説明もはなはだ不満足な内容である。というか
ロックとかルソーとかカントとかいった思想家と
キリスト教の関連性が大いに論じられるものと期待していたのに、
それがぜんぜんない。これでよく日本人に近代を教授する
なんていう大仰なコンセプトをぶち上げる気になったのか、
そっちが不思議である。“唯一絶対の一神教”も
“偶像崇拝の禁止”もどんどん例外と応用が投入されて、
一貫性がぐずぐずな宗教にしか見えなくなってしまっている。
 
そして、終盤駆け足で著者の持論が叩きつけられるが、
「キリスト教を知らないとどう社会生活で困るのか」という
当初の趣旨はすっかりぼやけてしまっている。
 
 
確かに西洋近代が歴史的にキリスト教を
下敷きにしていることは否定しえない。
しかし、この本を読んでも、現代社会にキリスト教原理が
津々浦々に決定的影響を保持しているようには思えないし、
日本人が今からキリスト教教義を学習する意味があるとも、
結局思われなかった。
 
 
 
 
 
 

 
 

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『新基本法コンメンタール憲法』 (日本評論社) を読む

 
『新基本法コンメンタール憲法』  芹沢・市川・阪口編  日本評論社  2011
 
 
 
日本国憲法に関する現時点で数少ない
注釈書・コンメンタールである。
2006年の第5版から大幅にリニューアルされた。
かなり力の入ったすばらしいできである。
今回のリニューアルで横組みに一新された。
 
 
私は、第5版からこの本を読んでいる。
憲法全条文を網羅していて、ほどよく詳しい
コンメンタールというものはこの本くらいしか
ないので、とても重宝している。
条文の細かい言葉の説明はもちろん、
沿革から最新の解釈や判例も十分に解説されている。
書店等で手に入るような教科書・解説書類に
書いてあるようなことならほとんどカバーしているので、
極端な話、この本だけあれば標準的なことはほとんど
すべてわかるといっても過言ではないかもしれない。
 
 
もちろん内容は刷新されたわけだが、
注目されるのは執筆者の大幅な交代である。
若返りを図ったそうであるが、東大勢をはじめ
気鋭の学者が多数参戦している。第5版までは、
メンバーのマイナーさがひっかかるように思われたが、
今回かなりメジャーな人が参加していることが
個人的に非常に興味深い。
東大からは石川、宍戸、林氏が、京大から毛利氏、
慶大から駒村、小山氏、早大から中島、西原氏など、
それ以外にもよく名前を目にする人が
たくさん加わった豪華競演となっている。
これは基本法コンメンタールではあまりない状況である。
 
 
今までも便利だったが、これまで以上に、
幅広い人が日本国憲法を調べるときに読む本として
ベストな信頼の一冊になったといえるだろう。
 
内容もサイズも人選もうまいことかみ合った注釈書といえる。
民法や刑法もこのような感じでぜひリニューアルしてほしい。
前に『新基本法コンメンタール刑事訴訟法』が
なんか非常に残念な感じになってしまったと書いたが、
そのことは本書と比較してみればよくわかると思う。
(あくまで私の嗜好に過ぎないのかもしれないが。)
 
 
ところで、本書にいい人材が流入したのは、
有斐閣の『注釈憲法(全6巻)』計画が
沙汰止みになっていることと関係があるのかもしれない。
本書もよいが、『注釈憲法』計画もぜひ再始動をして
ほしいと思うが、無理なのだろうか。
 
 
 
 

 
 
 

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野沢正充 『セカンドステージ債権法』 (日本評論社) を読む

 
『セカンドステージ債権法Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ』  野沢正充  日本評論社  2011
 
 
 
債権法の総論から各論までを書き下ろした全三冊の教科書。
法学セミナーでの連載をまとめたものである。
 
法律学を勉強しようと思ったときにとかく困るのがテキスト選びだが、
今現在、この分野を勉強しようと思い始めた人には
このシリーズをおすすめしたい。良作だと思う。
 
 
本書は、一人の著者が、シンプルな体裁で、
全面的に判例,通説を中心として債権法を説明したものである。
そういうときわめてオーソドックス(ふつう)に聞こえるが、
実際にはここまで割り切ったテキストはなかなか存在しない。
 
民法をかじった人ならわかるだろうが、
重厚すぎたり、独自すぎたり、詳しすぎたり、薄すぎたりと、
法律学の教科書は、数が多い割には、
“これ”というものが実は少ないと思う。
そういう意味ではこの本は相対的にかなり良くできていて、
貴重とすらいえるかもしれない。
 
中でも判例の扱いが丁寧な点がよい。
シンプルながら重要な判例は原文を引いて詳しく説明されている。
そして学説は、いまどき珍しく基本的に「我妻説」一筋であり、
それをあくまで補強する形でその他の学説も盛り込まれている。
やや淡白とも感じるが、おおむね明快でわかりやすい記述である。
無駄なところがほとんどない。
 
 
ただ、本書の特長として、“論理的な思考力も涵養されて、
試験問題の解答力も向上する”といったようなことまで
うたわれている(そのため「セカンドステージ」か)が、
その点はやや疑問だ。そこまでテクニカルで、
懇切丁寧だとは思われない。その点をいうならば、
他に読むべき参考書はいろいろあるだろう。
 
やはり本書のすばらしいところは、“当たり前の基本を、
オーソドックスに説明してくれる基本書”というところにあり、
演習書的性格まで請け負うのは限界があるだろう。
そういう意味では、「セカンドステージ」というネーミングは、
ややミスリーディングで不適切だし、損していると思う。
タイトルから取り払った方がいいだろう。
 
 
それはそうと、迷っているなら読んでみてもいいテキストだ。
債権法(債権総論,契約法,不法行為法等)について、
これから勉強をし始める人、または、
混乱したのでもう一度勉強し直したいという人に、
ぜひお薦めしたい。
 
 
 
 
 
 

 
 

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