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達之助は、ひさしぶりで以前通っていた飲み屋に入っていった。
「いつもの、」女将に言った。
「あら、おひさしぶり、1年ぶりかしら・・・・」
「そんなになるかな、忙しくてね。」
「まだ、脂が乗ってないけどいいの。」
「いいよ。」
達之助が飲み始めてから、酔いが少し回った頃、端っこで飲んでいた若者がトックリを持
って彼の横に座った。
「おひさしぶりです、達之助さんじゃないですか、」青年は言った。
「ごめん、顔は承知だが、名前が思い浮かばない。」
「阿須ですよ。」
「そう、アズ君だ。」
「あのころはまだ学生だったんですが、今は社会人ですよ。」
「何をしているの。」
「新聞記者ですよ。」
「へえ、君が。」
「君が、ってえことはないでしょう。新聞といってもピンからキリまで、いやけが差して
来たのでなんとか打開しようと、ある人物にあって相談しようとしたんですがね、勢い付
けにここでちょっと飲んでいたら、酔っ払ってしまって・・・・どう思います、こんな酔
っ払いが相談に来たら・・・・」
「そりゃ、相手は不快に思うね。」
「ところが、今日会いに行く人物は、そんな人じゃない。酒臭い相手にでも平然と相談に
乗ってくれる。これからいっしょに行ってくれませんか。」
「おいおい、それじゃ私が勢いづけじゃないか。」
「その通り、さ、参りましょう。」
「まだ、好物を、半分も食べていないのに・・・・」
「わかりました、それを充分に味わってください、それまで待っています。」
達之助はこの酔っ払いのために独り飲みの雰囲気をすっかり壊され、イライラした。
そのとき、中年臭い男が飲み屋を覗き込み、青年をにらみつけ言った、
「アズ君、こんな所で飲んでいたのか、先生はもうとっくに来ておられるぞ、多忙な人だ
から次ぎ会えるのは来年かもしれないぞ。」
「す、すみません、ちょっと立ち寄って見たら、なんとここに達之助さんがおられたので
・・・・」
青年は達之助のせいにしてしまった。
「いや、ひさしぶり、正岡さんじゃないでか、紺野です。軍医になられる前はよく議論し
たものですね。」
「ひさしぶり、」達之助は相手の顔をしっかりと見た、「・・・・」
しかし、いろんなことがよみがえってき、後の言葉が出てこなかった。
「そうだ、先生に会ってください。あなたのほうが、先生も喜ばれる。」
「ええ、僕はどうなるんですか。」
「君は、達之助さんの添え物、わきじ(脇侍)だ。」
「そんな・・・・わかりました・・・・」
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