全体表示

[ リスト ]

「極楽寺殿御消息」に見る「女性の扱い」/鎌倉武士の心構え(下)

 
イメージ 2
 
 
 
 
050:人の妻をば心をよく/\見て、

一、人の妻をば心をよく/\見て、一人をさだむ(定む)べし。かりそめにも、其外に妻をさだめて、かたらふ事なかれ。ねたましきおもひつもりて(妬ましき思ひ積りて)、あさましくあるべし。されば其罪にひかれて、必(カナラズ)地獄にもおちぬべき也。聖(ひじり)などの一生不犯(フボン)なるはいかゞし給ふ。一人をおかす(犯す)だにも仏性をたつ(絶つ)事うたがひなし。ましていかばかり罪ふかゝるべき。六歳(斎)日十歳(斎)日(*仏教のウポーサタ・布薩にちなんだ精進潔斎日)に女にちかづく(近づく)べからず。此日子生ずれば、その身かたわ(片輪)にあるべし。又おや(親)のおんてき(怨敵)となる也。

極楽寺殿御消息 北条重時

 
「一夫一婦制」のススメ、だと言われている割と有名な項目です。その宗教的根拠がキリスト教の「使徒パウロ」の言葉と近似するという指摘もあります。
だいたい武家はこの一夫一婦制の原則を守っていますが、あくまでもそれは公称での話し。妾さんや「傾城(プロ)」さんとの関係は禁じられてはいません。しかも重時自身が一夫多妻だったこともあって、なかなか説得力には欠ける一文かと思います。まぁ、心構えの話なので、女性的に見ても男性のそういった悪癖(?)を抑制できる方法などないのが現状だったり。

 
049:女の心をもつべき事、

一、女の心をもつべき事、むかしより今にいたるまで、女はやさしく、事ののびやかなるをほん(本)とせり。よくよく心得給ふべし。物をねたむ事、是を返々心せばき(狭き)とす。一河のながれをくみ、袖のふりあはせだにも多生のちぎり也。一夜のかたらひなりとも、先世のちぎりふかゝるべし。いまをはじめとおもふべからず。又えん(縁)つきなば、いかばかり契ふかかれ(深かれ)と申候とも、かなふべからず。来るも去も因果なりと心えてあるべし。されば心にはんゑんとて、せうせうおもはずなる事あれども、心ざまのよきにははぢ、あしきにははなるゝ也。物に心得やさしければ、男もはづかしくおもひ、いとをしみふかし。昔今ひきかけおほし、よそにて見るもきくもやさしきことに申候也。佛神もあはれみをたれ、今生後生めでたきなり。

極楽寺殿御消息 北条重時

現代語意訳
一、女性はどんな心を持てばよいのか。昔から今に至るまで、女性はやさしく、何につけても柔軟に生まれついている。この美点を忘れないようにしなさい。何かと妬み深いのは、心の狭いことだから気をつけなさい。男女の仲は、ひとつの河の流れを汲み、袖ふれあうも多生の縁というだろう。たとえこの世で一夜だけ男女の仲になる場合でも、前世からの深い因縁があるものだ。初めて会ったなどと思うものではない。また因縁が尽きてしまえば、どんなに一緒にいたいと願っても、別れることになるのだ。出会いも別れも、因果のなせる業だと心得ておきなさい。心は諸々の縁によってあるものだから、自分の思うようにならぬものだが、しかし心がきれいな女性のことは男も大切に尊重するし、心が汚い女からは男も自ずと離れてゆくものだ。女がやさしく接してやれば、男もその女への愛情が深くなる。昔も今もどこに縁があるかわからないが、その女性の評判を左右するのは、やさしさだよ。心やさしい女性はホトケサマ、神様もお守りくださるので、この世でもあの世でも幸せになるのだよ。
 
 
「極楽寺殿御消息」において、それが家訓であるという性質上、この一条は非常に珍しいと思います大体が男性子孫に対するメッセージである中で、女性子孫に対する心構えが書かれているからです。同時に「男女の仲は〜」にも言及されていて、その哲学世界は現代においても理解されるものだったりもしますね。
 
しかしこうやって抜粋してみると、北条重時翁は(現代的視点においても)相当なフェミニストに見えちゃいます(実際は家庭内で「相争わぬ」ことが目的になっているんですけどね。)
 
048:経文には、

一、経文には、女は佛になりがたきととかれたれども、八歳の竜女をはじめとして、女佛になり給ふ事、そのかず(数)をしらず。ことに女人は心ふかき性あるによて(*よって)、一ぺん(一遍)に念佛し、後生をねがひ給候はゞ、極楽往生うたがひあるべからず。

極楽寺殿御消息 北条重時

 
「女性差別の撤廃」(笑)
もともと「歌の元の平等」が日本文化の基幹
にはあったのですが、これは仏教上の平等を意識して書かれた一条。仏教が鎌倉武士の規範の源であることは、史実を見ても間違いはないのですが、その仏教の及ぶ範囲を女性の存在まで拡大した一条であるかと。
引用文を見ればわかりますが、「極楽寺殿御消息」は心構えである以上、鎌倉時代初期の現実社会は「そうではなかった」場合もある、つまり特筆されるべくして書かれた「心得の書」であるということは、それに反する現実が少なからずあったことが言えると思います。仏教的な理由で女性が差別されることが、この時代あったということですね。

 
012:女房などのたち忍たる所をば、

一、女房などのたち忍(シノビ)たる所をば、返々(カエスガエス)見ずしてとほる(通る)べし。見ぬよしをすべし。ぐ(具)したらんずる下部(シモベ)までも、見るべからずとかたく申(まうし)つくべし。

極楽寺殿御消息 北条重時

意訳:ご婦人方がひそかに隠れているような場所は、くれぐれも見ないで通ること。見ぬふりをすること。お供の従者にも、見てはダメだときつく申し渡すこと。

男性に見られちゃいけないことってのは、女性には多々あるわけでして、そういった女性の事情に斟酌した配慮とも受け取ることができます。女性的に見るなら、そういった所をジロジロ見たりする男性ってのは陰口の対象にもなりますから、その意味でも控えるべき行為であることは認められますね。
セクハラなんか重時翁には想像すらできない世界の言語道断な行為ってことにw

仏教的根拠はともかく、「極楽寺殿御消息」の内容というのは現代人が見ても納得できる「心得」が書かれた資料だと思います。しかし、この「極楽寺殿御消息」が現代においても「心得」となりうることは、以下2つの点が言えることにもなるんですね。

・幾多の政治的変革が日本国内にあっても、日本人が理想とする「立ち居振る舞い」自体に変化がないこと。(理想的社会性の慣習化)

・哲学・思想をはじめとした現代日本社会の雛形は鎌倉時代武家社会には既にあった。
 
 

こう見ると、現代社会で展開される「フェミニズム活動」や「男女同権運動」なんかは底の極めて浅い、まさに「女わらんべ(童)のならひ(習ひ)なりとおもふべし。」って重時翁がおっしゃられた通りの帰結にしかなっていないんじゃないかとは思います。

 
■現代語意訳・参考資料:naagitaさんのブログ
※関連記事※
 
 
こちらも応援クリックよろしくお願い致します☆
↓↓↓
イメージ 1
 

 

閉じる コメント(4)

Yahoo!アバター

( ..)φ( ..)φ( ..)φ

すごい参考になりました。

2012/1/11(水) 午後 2:49 KABU

顔アイコン

今日はこの嬉しい記事に応援の☆ポチですよ!参考になります!

2012/1/11(水) 午後 3:40 [ 清水太郎の部屋 ]

顔アイコン

>KABU先生

ありがとうございます

2012/1/11(水) 午後 6:36 桜乃宮アリス

顔アイコン

>清水太郎の部屋さん

ありがとうございます

2012/1/11(水) 午後 6:36 桜乃宮アリス

コメント投稿
名前パスワードブログ
投稿

閉じる トラックバック(3)

トラックバックされた記事

覚書★妻の姓名乗る「女姓婚」増加、あるいは、「専業主婦」減少の意味

    ◆妻の姓名乗る「女姓婚」増加 “主夫”願望、男性の経済力低下 結婚して女性の姓を名乗るカップルがゆるやかに増えている。名付けて「女姓婚」。男性の経済力の低下と“主夫”願望、女性の結婚後も姓を変えずに働きたいという両者の理由が背景にある。社会学の研究者からは「格差社会や少子化を打開する妙薬となるのでは」と注目を集めている。   夫婦は同じ姓を名乗ることが民法で定められている。「女姓婚」は女性側の親との養子縁組を前提とする...

2012/1/11(水) 午後 2:32 [ 松尾光太郎 de 海馬之玄関BLOG ]

第二の中世の“今”考える「中世とは何か」−平清盛が先鞭をつけ足利尊氏が確立した日本(上)

    昔、京都は河原町今出川に 『金八』 という居酒屋がありました。そこは、同志社や京大の学部生・大学院生の溜まり場の一つで、分野を越えた<雑談>が楽しめた空間。後になって思えば、皆(私も例外ではなく/私をその典型として)、読んだばかりの知識や聞いたばかりの見識を「見てきたように」披露していたにすぎない。でも、結構、真面目に、皆、背伸びして「大風呂敷」を拡げていました。   実は、昨日アップロードした記事(↓)で「登場」し...

2012/1/11(水) 午後 2:33 [ 松尾光太郎 de 海馬之玄関BLOG ]

第二の中世の“今”考える「中世とは何か」−平清盛が先鞭をつけ足利尊氏が確立した日本(下)

      ◆中世武士の社会意識 確か小学生の頃、平清盛に叛旗を翻した源頼朝の家来の多くは板東平氏だった、あるいは、建武のクーデターに際して足利の軍勢の大部分は三河(愛知県)で調達され、尊氏公が鎌倉幕府打倒の旗幟を内外に鮮明にされた京都亀岡の地は足利家の領地または勢力圏だったと聞いて違和感を抱いたことを覚えています。   えっ、足利って栃木県だよね、と。 群馬県と栃木県を間違えるのは、中学お受験定番...

2012/1/11(水) 午後 2:33 [ 松尾光太郎 de 海馬之玄関BLOG ]

トラックバック先の記事

  • トラックバック先の記事がありません。


.

桜乃宮アリス
人気度

ヘルプ

Yahoo Image

  今日 全体
訪問者 167 351010
ブログリンク 0 131
コメント 6 13697
トラックバック 0 605

国家☆思想哲学

軍事★歴史

政治★社会

文芸☆創作

標準ブログ

ブログバナー

1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31
検索 検索

開設日: 2008/10/26(日)


プライバシーポリシー -  利用規約 -  ガイドライン -  順守事項 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2012 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.