「暴走する原発」(広河隆一)
本書の刊行は、3・11から約二ヵ月後の昨年の5月。
著者は、20年以上にわたり、50回以上チェルノブイリ原発事故被災地の取材を重ねた、『DAYS JAPAN』の編集長。
放射能の大規模被害は人間の手には負えないことを、チェリノブイリ事故は教えた。しかし国策としての原発産業の甘い汁を吸った人々は、何の教訓も学んでこなかった。それにより被害は拡大した。数値が隠され、告げられなかったことで、被曝しなくてもいい人々が被曝した。これは犯罪ではないのか。(「おわりに そして、福島へ。」P.208) 第一章のベースは、『DAYS JAPAN』の2012年5月号の広河報告に大幅加筆したもの。
第二章から第六章は、絶版状態の『チェルノブイリの真実』(1996年講談社刊)の一部に加筆したもの。
それに、「はじめに 人々の生きる権利をないがしろにする国、日本」等を書き加え、最後に広瀬隆さんの「特別寄稿」がおさめられている。
なぜ、チェルノブイリかというと、人類初の原発事故であったチェルノブイリは、すべてが未知との戦いであったが、日本は今のチェルノブイリの状況こそ、25年後の福島だと認識し、今こそ学ばなければならないと著者。
この本の内容がこれからの福島原発事故に私たちがどう対処するべきか考える上で有益であると考えたからである。 まさに、その通りで、 四半世紀前の鉄のカーテンに覆われていた社会主義国旧ソ連の隠蔽体質の指導者達と、現代日本の政府や東電が事故後にした行動が如何に似通っているかを突きつけられ、唖然とさせられました。
日本の電力会社、学者、政府、マスメディアは、チェルノブイリ事故の経験から学ばないばかりか、逆に旧ソ連より酷い状態に突き進んでいるのではないだろうか。日本は「人間の命よりも原子力産業を守る」としているように見える。チェルノブイリ事故で旧ソ連という国家が下したよりもはるかにひどい判断を行なっていることは間違いない。なぜこんなことになってしまったのだろうか。日本という国は、旧ソ連よりも、はるかにひどい人権無視国なのだろうか。(「はじめに」P.10) チェリノブイリは対岸の火事と何も学ばなかった日本。 この進行中の大事故のさなかでさえ、日本の原発をすべて止めて、安全策の再検討をすることさえできない子の国の政府、政府や企業の言い分を垂れ流すテレビを中心とするマスメディア、安全発言を後押しする発言を繰り返す学者たちに対して、なぜ怒りを持たず、あきらめる人々がこれほど多いのだろうか。(「はじめに」P.11) 幸い、現在はすべての原発が稼動中止となっていますが、火力発電のコスト高などを理由に電気代の値上げを打ち出し、今夏の電気量が足りないと原発を再稼動させようと脅かす電力会社、それを後押しする経済界や学者や政府に怒りを持っています。
しかし、その怒りを、どこに、どうやってぶつければいいのか、わからず、本を読んで得た知識をこうやって記事にするしかない日々に臍を噛む日々…
事故後「想定外」という言葉が、電力会社や原子力推進政策を打ち出した国や学者達から連発されたが、彼らは災害を「想定」していた人々の警告に耳を貸さなかっただけだった。「想定」を無視したから「想定外」の事故になったのであり、「想定」していた学者たちは多くいたのである。しかし虚構の原発安全神話によってあらゆる警告は退けられた。(「第一章 チェルノブイリから福島へ」P.31) チェルノブイリ原発事故以降、ウクライナとベラルーシ、周辺諸国でどのように汚染が広がり、人々が食べ物から被曝していったか、数々のデータから5年後、10年後のデーターが載っています。
2011年5月1日現在、日本の子どもたちが通う福島県の幼稚園・小・中学校で暫定基準とされた放射線の年間被曝許容量は、ウクライナで強制避難地域とされた土地で年間に被曝する放射線量の4倍とのこと。
文科省が福島の子ども達の暫定被曝基準を年間20シーベルトに上げたことに抗議して内閣官房参与だった小佐古敏荘氏が悔し涙混じりに『行政側の都合だけで国際的にも非常識な数値で強引に決めていくのはよろしくないし、そのような決定は国際的にも非難されることになります。』辞意表明会見は、忘れることができません。(「第一章 チェルノブイリから福島へ」P.38) 細野豪志首相補佐官は国民のパニックを懸念して緊急迅速放射能予測ネットワークシステム(SPEEDI)の情報を隠し、その結果多くの人がしなくてもいい被曝をさせた。
温暖化論争を追い風とし、日本でも世界でも原発推進行政をとる政府の意図のもとに、原発産業は守られてきた。「ここで原発は危ないということを国民に知らせて、原子力産業の未来に悪影響をもたらし、莫大な損失を出すわけにはいかない」という考え方が、新たな危機に対する対応を絶えず後手に回らせ、被害を隠させた。(「第一章 チェルノブイリから福島へ」P.41) その国の方針のサポート役は、マスメディアで、理由は原発産業が大株主であり、大広告主だからだと指摘。
これに関しては、田中優さんの「原発に頼らない社会」をはじめとする多くの書籍で指摘されています。
![]() このままでは、チェルノブイリの被曝の悪夢が、日本で再現されると警告。
その悪夢とは、小児の甲状腺がん、橋本病(自己免疫性甲状腺炎)などの増加、頭痛や貧血や鼻血や疲労感などの健康被害です。
「甲状腺癌は被曝後三〜五年から増加し始め、一五年〜二五年後に最大出現率をとると言われている。広島、長崎の原爆被害者では、非被爆者に比べ甲状腺がんの発生率が、被爆者で有意に高い。女性に有意に多い。被曝時の年齢が二〇歳未満の人に発生率が有意に多い。(「第五章 小児甲状腺がんの激増」P.155) このように広島や長崎のデータがあり、チェリノブイリでも激増しており、事故後の
放射性ヨウ素の汚染地図と小児の甲状腺がんの発病率が重なるにも関わらず、91年5月、国連のIAEA国際諮問委員会(代表は広島の放射線影響研究所の重松逸造理事長)は、チェルノブイリで小児の甲状腺がんの多発と甲状腺結節も見れなかったと発表したという 広島では、その後も広島市と件が後援するHICARE(放射線被曝者医療国際協力推進協議会)のシンポジウムで、汚染地での小児甲状腺がんの多発の報告を行なった医学者たちに対して、重松理事長以下のIAEA調査に参加した医学者たちが、猛烈に反発した。私はこの話を聞いて、世界の被爆者のために広島市民と県民のお金で運営されているHICAREが、むしろ世界の被爆者の訴えに水を差す場として用いられていることに、言いようのないいら立ちを感じたものである。(「第五章 小児甲状腺がんの激増」P.165) 広島だけではなく、長崎でも長崎大学の長滝重信教授が甲状腺がん多発の原因を特定できないと発表。
広島に次いで長崎がいったい何をしているのだろうかと思わざるを得ない。広島や長崎が、世界の各産業の利益を守ってしまっているという声を、私は広島の被爆者から聞いたことがあるが、これではその言葉が信憑性を帯びて聞こえてしまう。(「第五章 小児甲状腺がんの激増」P.169) この重松逸造のことを、広瀬隆さんは巻末の「特別寄稿 広河隆一氏に期待する」の中で、『
原子力産業の手先』と広瀬節炸裂で手厳しく非難。 「原子炉時限爆弾」で、元通産省技官・衣笠義博と、その上司で所長だった垣見敏弘、御用学者の斑目春樹が『
悪意をもってした』ことと「 原発震災は人災である」と激しく糾弾されていたのと同じ調子でお怒りになっていました。 重松に育てられた人物が、現在の原子力安全委員会のメンバーとなって、福島第一原発事故の被曝を許容する暫定基準を決めているのだ。 このような御用学者たちが台頭している限り、日本は間違いなくチェリノブイリと同じ過程を辿るのでしょう…。
しかし、健康被害が出ても、広島や長崎の被爆者同様、原発との関連性を証明出来ないとして、政府も東電も責任を取らないと思う。
これ以上の放射能被害をださないために、私たちの出来ることは何か
どうすればいいのだろうか。私たちに残されているのは、浜岡だけではなくすべての原発と各施設を無事に停止させ、無事に冷やすことしかない。その先には核廃棄物の永久保存が必要だが、これは世界でどこの国も見通しが立っていない。『一〇万年後の安全』というフィンランド映画があるが、そんな気の遠くなる未来まで安全な施設を作れるわけはない。(「おわりに そして、福島へ。」P.200) この映画の監督のマイケル・マドセンさんは、岩井俊二監督の「friends after 3.11」に出演され、果てしない未来にまで負の遺産を押し付けていることに対する疑問を投げかけていらっしゃいました。
環境省が風力発電を施設したら40機分の原発を削減できると試算したことに触れ、広瀬氏の『
エネルギーの熱効率を二倍にするシステム』という説を紹介。
私も、原発関連の書物を読み、学べば学ぶほど、命を脅かす、ありえない産業だと認識しました。
土の放射能汚染の報道で、土作りに人生をかけてきた、「リンゴが教えてくれたこと」の木村秋則さんのような有機農家のことを思いましたが、福島の有機農家経営者が自殺していたことが記されているのを読み、確かに原発事故の被害者だと怒りを新にしました。
広瀬氏は、こう結びます。
多くの人々の健康と命より、原子力産業が優先される日本の構造が変えられるかどうか、私たちは今、試されている。(「おわりに そして、福島へ。」P.209) 昨日、郵便受けに電気料の明細書と共に値上げの通知が入っていました。
我が家は数百円から千円くらいの値上げになると見込まれますが、原発が再稼動するよりはマシ。
しかし、東電しか、選択肢がないことに、何とも言えない怒りがこみ上げてきます。
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