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「暴走する原発」(広河隆一)

  暴走する原発 
    チェルノブイリから福島へこれから起こる本当のこと
     DAYS JAPAN編集長 広河隆一            小学館
 
本書の刊行は、3・11から約二ヵ月後の昨年の5月。
著者は、20年以上にわたり、50回以上チェルノブイリ原発事故被災地の取材を重ねた、『DAYS JAPAN』の編集長。
 
 放射能の大規模被害は人間の手には負えないことを、チェリノブイリ事故は教えた。しかし国策としての原発産業の甘い汁を吸った人々は、何の教訓も学んでこなかった。それにより被害は拡大した。数値が隠され、告げられなかったことで、被曝しなくてもいい人々が被曝した。これは犯罪ではないのか。(「おわりに そして、福島へ。」P.208)
 
第一章のベースは、『DAYS JAPAN』の2012年5月号広河報告に大幅加筆したもの。
 
 
第二章から第六章は、絶版状態の『チェルノブイリの真実』(1996年講談社刊)の一部に加筆したもの。
 
それに、「はじめに 人々の生きる権利をないがしろにする国、日本」等を書き加え、最後に広瀬隆さんの「特別寄稿」がおさめられている。
 
なぜ、チェルノブイリかというと、人類初の原発事故であったチェルノブイリは、すべてが未知との戦いであったが、日本は今のチェルノブイリの状況こそ、25年後の福島だと認識し、今こそ学ばなければならないと著者。
 
この本の内容がこれからの福島原発事故に私たちがどう対処するべきか考える上で有益であると考えたからである。
 またチェルノブイリ事故当時の指導者たちの動きは、日本での動きを考える上で多くの示唆を与えてくれると信じている。
 
まさに、その通りで、 四半世紀前の鉄のカーテンに覆われていた社会主義国旧ソ連の隠蔽体質の指導者達と、現代日本の政府や東電が事故後にした行動が如何に似通っているかを突きつけられ、唖然とさせられました。
 
 日本の電力会社、学者、政府、マスメディアは、チェルノブイリ事故の経験から学ばないばかりか、逆に旧ソ連より酷い状態に突き進んでいるのではないだろうか。日本は「人間の命よりも原子力産業を守る」としているように見える。チェルノブイリ事故で旧ソ連という国家が下したよりもはるかにひどい判断を行なっていることは間違いない。なぜこんなことになってしまったのだろうか。日本という国は、旧ソ連よりも、はるかにひどい人権無視国なのだろうか。(「はじめに」P.10)

チェリノブイリは対岸の火事と何も学ばなかった日本。
 
 この進行中の大事故のさなかでさえ、日本の原発をすべて止めて、安全策の再検討をすることさえできない子の国の政府、政府や企業の言い分を垂れ流すテレビを中心とするマスメディア、安全発言を後押しする発言を繰り返す学者たちに対して、なぜ怒りを持たず、あきらめる人々がこれほど多いのだろうか。(「はじめに」P.11)
 
幸い、現在はすべての原発が稼動中止となっていますが、火力発電のコスト高などを理由に電気代の値上げを打ち出し、今夏の電気量が足りないと原発を再稼動させようと脅かす電力会社、それを後押しする経済界や学者や政府に怒りを持っています。
 
しかし、その怒りを、どこに、どうやってぶつければいいのか、わからず、本を読んで得た知識をこうやって記事にするしかない日々に臍を噛む日々…
 
 事故後「想定外」という言葉が、電力会社や原子力推進政策を打ち出した国や学者達から連発されたが、彼らは災害を「想定」していた人々の警告に耳を貸さなかっただけだった。「想定」を無視したから「想定外」の事故になったのであり、「想定」していた学者たちは多くいたのである。しかし虚構の原発安全神話によってあらゆる警告は退けられた。(「第一章 チェルノブイリから福島へ」P.31)
 
チェルノブイリ原発事故以降、ウクライナとベラルーシ、周辺諸国でどのように汚染が広がり、人々が食べ物から被曝していったか、数々のデータから5年後、10年後のデーターが載っています。
 
2011年5月1日現在、日本の子どもたちが通う福島県の幼稚園・小・中学校で暫定基準とされた放射線の年間被曝許容量は、ウクライナで強制避難地域とされた土地で年間に被曝する放射線量の4倍とのこと。
 
文科省が福島の子ども達の暫定被曝基準を年間20シーベルトに上げたことに抗議して内閣官房参与だった小佐古敏荘氏が悔し涙混じりに『行政側の都合だけで国際的にも非常識な数値で強引に決めていくのはよろしくないし、そのような決定は国際的にも非難されることになります。』辞意表明会見は、忘れることができません。(「第一章 チェルノブイリから福島へ」P.38)
 
細野豪志首相補佐官は国民のパニックを懸念して緊急迅速放射能予測ネットワークシステム(SPEEDI)の情報を隠し、その結果多くの人がしなくてもいい被曝をさせた。
 
温暖化論争を追い風とし、日本でも世界でも原発推進行政をとる政府の意図のもとに、原発産業は守られてきた。「ここで原発は危ないということを国民に知らせて、原子力産業の未来に悪影響をもたらし、莫大な損失を出すわけにはいかない」という考え方が、新たな危機に対する対応を絶えず後手に回らせ、被害を隠させた。(「第一章 チェルノブイリから福島へ」P.41)
 
その国の方針のサポート役は、マスメディアで、理由は原発産業が大株主であり、大広告主だからだと指摘。
 
これに関しては、田中優さんの「原発に頼らない社会」をはじめとする多くの書籍で指摘されています。

 
このままでは、チェルノブイリの被曝の悪夢が、日本で再現されると警告。
 
その悪夢とは、小児の甲状腺がん橋本病(自己免疫性甲状腺炎)などの増加、頭痛や貧血や鼻血や疲労感などの健康被害です。
 
「甲状腺癌は被曝後三〜五年から増加し始め、一五年〜二五年後に最大出現率をとると言われている。広島、長崎の原爆被害者では、非被爆者に比べ甲状腺がんの発生率が、被爆者で有意に高い。女性に有意に多い。被曝時の年齢が二〇歳未満の人に発生率が有意に多い。(「第五章 小児甲状腺がんの激増」P.155)
 
このように広島や長崎のデータがあり、チェリノブイリでも激増しており、事故後の放射性ヨウ素の汚染地図と小児の甲状腺がんの発病率が重なるにも関わらず、91年5月、国連のIAEA国際諮問委員会(代表は広島の放射線影響研究所の重松逸造理事長)は、チェルノブイリで小児の甲状腺がんの多発と甲状腺結節も見れなかったと発表したという
 
広島では、その後も広島市と件が後援するHICARE(放射線被曝者医療国際協力推進協議会)のシンポジウムで、汚染地での小児甲状腺がんの多発の報告を行なった医学者たちに対して、重松理事長以下のIAEA調査に参加した医学者たちが、猛烈に反発した。私はこの話を聞いて、世界の被爆者のために広島市民と県民のお金で運営されているHICAREが、むしろ世界の被爆者の訴えに水を差す場として用いられていることに、言いようのないいら立ちを感じたものである。(「第五章 小児甲状腺がんの激増」P.165)
 
広島だけではなく、長崎でも長崎大学の長滝重信教授が甲状腺がん多発の原因を特定できないと発表。
 
広島に次いで長崎がいったい何をしているのだろうかと思わざるを得ない。広島や長崎が、世界の各産業の利益を守ってしまっているという声を、私は広島の被爆者から聞いたことがあるが、これではその言葉が信憑性を帯びて聞こえてしまう。(「第五章 小児甲状腺がんの激増」P.169)
 
この重松逸造のことを、広瀬隆さんは巻末の「特別寄稿 広河隆一氏に期待する」の中で、『原子力産業の手先』と広瀬節炸裂で手厳しく非難。
 
原子炉時限爆弾」で、元通産省技官・衣笠義博と、その上司で所長だった垣見敏弘、御用学者の斑目春樹が『悪意をもってした』ことと「原発震災は人災である」と激しく糾弾されていたのと同じ調子でお怒りになっていました。
 
 
重松に育てられた人物が、現在の原子力安全委員会のメンバーとなって、福島第一原発事故の被曝を許容する暫定基準を決めているのだ。
 その連中の言葉を信じて、日本人は、放射能にまみれた空気を吸い込み、放射能汚染食品をむしゃむしゃ食べているのだ。(「特別寄稿 広河隆一氏に期待する」P.219)
 
このような御用学者たちが台頭している限り、日本は間違いなくチェリノブイリと同じ過程を辿るのでしょう…。
 
しかし、健康被害が出ても、広島や長崎の被爆者同様、原発との関連性を証明出来ないとして、政府も東電も責任を取らないと思う。
 
これ以上の放射能被害をださないために、私たちの出来ることは何か
 
 どうすればいいのだろうか。私たちに残されているのは、浜岡だけではなくすべての原発と各施設を無事に停止させ、無事に冷やすことしかない。その先には核廃棄物の永久保存が必要だが、これは世界でどこの国も見通しが立っていない。『一〇万年後の安全』というフィンランド映画があるが、そんな気の遠くなる未来まで安全な施設を作れるわけはない。(「おわりに そして、福島へ。」P.200)
 
この映画の監督のマイケル・マドセンさんは、岩井俊二監督の「friends after 3.11」に出演され、果てしない未来にまで負の遺産を押し付けていることに対する疑問を投げかけていらっしゃいました。
 
 
環境省が風力発電を施設したら40機分の原発を削減できると試算したことに触れ、広瀬氏の『エネルギーの熱効率を二倍にするシステム』という説を紹介。
 
 今こうした日本の構造そのものが問われている。福島原発事故は、日本の根幹を揺るがす事件であり、多くの人に大変な被害をもたらし、大地と海を汚染しつつあるが、同時に巨大な変化への一歩となる可能性も秘めている。それは変化なしには、もはや生存は保たれないと認識した人々が増えたからである。(「おわりに そして、福島へ。」P.201)
 
 
原発というものは、ありえない産業だということが、学べば学ぶほど分かる。そうした事実に覆いをかけることで、これまでの原発は推進されてきた。それを多くの錚錚たる肩書きの学者たちが支えてきた。
 こうした人々は、チェルノブイリ事故から、「都合の悪いことは隠す」ということしか学ばなかったといえる。世界の原子力産業にとっては、日本の政府などどうにも操れる存在だと考えるかもしれないが、もう私たちは泣き寝入りするわけにはいかない。徹底した人間の命の軽視の上に成り立つ原発産業を、これ以上甘んじて受け入れるわけにはいかない。(「おわりに そして、福島へ。」P.202)
 
私も、原発関連の書物を読み、学べば学ぶほど、命を脅かす、ありえない産業だと認識しました。
 
土の放射能汚染の報道で、土作りに人生をかけてきた、「リンゴが教えてくれたこと」の木村秋則さんのような有機農家のことを思いましたが、福島の有機農家経営者が自殺していたことが記されているのを読み、確かに原発事故の被害者だと怒りを新にしました。
 
 
広瀬氏は、こう結びます。
 
 多くの人々の健康と命より、原子力産業が優先される日本の構造が変えられるかどうか、私たちは今、試されている。(「おわりに そして、福島へ。」P.209)
 
昨日、郵便受けに電気料の明細書と共に値上げの通知が入っていました。
 
我が家は数百円から千円くらいの値上げになると見込まれますが、原発が再稼動するよりはマシ。
 
しかし、東電しか、選択肢がないことに、何とも言えない怒りがこみ上げてきます。
 


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「虹色ほたる」(川口雅幸)

  虹色ほたる  永遠の夏休み
               川口雅幸        アルファポリス
 
ユウタの父は、一年前の夏休みの最期の日、オートバイで事故死してしまったため、父の声が沢山録音されている古い携帯を形見としている。
 
その携帯を持ち、夏休みのある日、父との思い出の場所である蛍ヶ丘ダムに、カブトムシを獲りに一人で遊びに行く。
 
喉が渇いて座り込んでいる老人にスポーツドリンクを渡すと、快晴なのに嵐が来るか気をつけろと言われ怪訝に思うが、老人の言うとおり、嵐がやって来て足をとられたユウタは気を失ってしまう。
 
目を覚ますと嵐は跡形もなくなく、夢だったのだと納得し、失くしてしまったらしい携帯を探していると、さえ子(奥山爽愛子)という少女に話しかけられる。
 
彼女は一緒にいたケンゾーに、ユウタを自分の従兄弟だと紹介し、祖母と二人暮らしの自分の家に連れ帰る。
 
彼女たちの村は、三十年前にダムに沈んだはずの、奇蹟を起こすという七色に光る蛍の神様・虹色ほたるの伝説が残る深山井村だった
 
 ──「いっその事このまま時間が止まっちまえばいい。夏休みのまんま…」

 
現在公開中の「虹色ほたる 〜永遠の夏休み〜」 の人物画は、生憎好みではなかったのですが、ストーリーがとても魅力的だったので、原作が読みたくなり、読んでみました。
 
サイト上で連載していた作品だそうで、川口さんは、本書で出版デビューされたそうです。
その上、映画化までされたのだから、すごいですよね。
 
それだけ、魅力的な作品だということだと思います。
 
ダムに沈んだ村という設定は、郷愁を感じさせ、素通りできない何かがある。
 
子どもの頃行ったダムの底に村が沈んでいて、水位が低くなると建物が見えると聞かされた時、その村に引き込まれてしまう自分を想像し、恐怖を感じたのを思い出しました。
 
本書の舞台となるダムは、工事が途中で打ち切りとなっている設定で、名水や蛍の名所だった村を立ち退かねばならなかった村人や、御神体を置いていく覚悟をした神主・青天狗(辰三郎)の無念や心中を知れば知るほど、より切なくさせられました。
 
 「俺たち、夏休みが終わったら皆バラバラになっちまうんだよな。ここから花火を見ることなんて、もうないんだろうな…」(ケンゾー)
 
三十年前の村の生活や、自然を満喫できる夏休みに、ノスタルジーに浸る。
 
 「蛍はねぇ、運命の相手を探すために光を出しているの」
 
と言う、さえ子のロマンチックな言葉。
 
 「オレ、さえ子ちゃんのこと必ず見つけるから、会いに行くから。そしたら、また遊ぼうね」(ユウタ)
 
漢字にルビが振られているので、児童書と思いきや、ラストはラブロマンスも予感させる。
 
デビュー作ということで、会話主体の構成や、擬音語などの使い方に拙さを感じる箇所はあります。
しかし、日本の現代ファンタジーは、なかなか良作に巡り会えない中、本作はとてもいい
 
映画は意外にも台詞などは忠実だったと知り、つくづくあの絵が残念でしかたありません…。
 
映画ではわかり辛かった、青天狗と、的屋の元締め・伸太郎の、虹色ほたるに纏わる過去の出来事や、さえ子の家庭環境などを、カバーすることが出来て満足です。
 
特に、何故さえ子が、そんなにも兄といることを望んだのかが疑問だったのですが、父は仕事が忙しく、母は病死ししており、若い後妻はネグレストで、兄に頼るしかなかったという設定だったので納得。
 
 そう。それは未知の世界に旅立つことへの覚悟であり、現実世界で生きられる権利の放棄だったのだ。
 
映画は、この設定が削られていたので、違和感を感じたんですよね…。
 
欲を言えば、梶原の奥さんの旧姓が知りたかった。
芳澤さんだったらいいのになぁ…。
 
まあ、この程度に匂わせているほうが余韻があっていいのかも
 
本書、東野圭吾さんの「ナミヤ雑貨店」と、“リンク&シンクロが一つに繋がり大団円”という展開の、読む人によってはご都合主義ととらえられるかもしれない作品をたて続けに読みました。
 
 
この手の作品の大ファンなので、二冊続けて幸せな読書の時間を過ごさせてもらえました
 
先日、挙式した式場から、庭園に蛍が舞うようになったというメールが届いたので、蛍を見たことがない次女連れて行ってあげようかな蛍よりお食事がメイン
 
 

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虹色ほたる 永遠の夏休み 上


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「ナミヤ雑貨店の奇蹟」(東野圭吾)

  ナミヤ雑貨店の奇蹟
               東野圭吾         角川書店

第一章 回答は牛乳箱に

児童養護施設『丸光園』で育った三人組、翔太敦也幸平は、ある理由から強盗を働き、廃屋・「ナミヤ雑貨店」に逃げ込み、一晩過ごすことに。
 
すると、シャッターの郵便口から、オリンピックの選手入りを目指す『月のうさぎ』からの人生相談の手紙が投げ込まれ、返事は牛乳箱に入れて欲しいと書かれていた
 
置かれていた四十年も前の週刊誌に店主・浪矢雄治(72)が子供の口げんかをきっかけに始めた人生相談に関する記事が載っていて納得。
 
敦也が反対するにも関わらず翔太と幸平が返事を書くと、誰も近づいていないはずの牛乳箱からすぐに返事が消え、二通目がシャッターに投げ込まれる
 
翔太はシャッターの郵便投入口と牛乳箱は過去と繋がっていて、裏口を閉めていると家の中の時間の進行がゆっくりになるのではないかと推測する
 
敦也たちが怒りと苛立ちをこめて書いた手紙が、『月のうさぎ』から感謝され、感慨に浸っていると、次の手紙が届く

第二章 夜更けにハーモニカを

松岡克郎は、両親の反対を押し切り大学を中退してミュージシャンを目指していたがなかなかプロになれず途方に暮れていたところ、父親が倒れ家業の魚屋『魚松』を継ぐしかないかと悩む。
偶然、ナミヤ雑貨店の前を通りかかり、子供の頃のことを思い出し、つい相談の手紙を投入してしまう。
 
あなたの曲によって、救われる人がいると思います』という返事を支えに音楽を続け、クリスマスの慰問に訪れた児童養護施設『丸光園』で、親からの虐待を受け心を閉ざしていた水原セリが克郎の『再生』という曲に感動しメロディを完璧に再現したので驚くと共に、セリとその弟・タツのことが気にかかるが火事が起きて…

第三章 シビックで朝まで

浪矢貴之は実家で独り住まいの高齢の父・雄治に店を閉めて自分たちと同居するよう提案するが、人生相談が生甲斐の雄治はなかなか納得しない。
 
しかし、肝臓がんを患い同居の末、入院し、死期が迫った雄治は、未来からの回答を受け取るために一晩だけ一人でナミヤ雑貨店で過ごさせて欲しいと言い、ある奇妙な頼みごとをし、男と男の約束をする。
 
雄治は、不倫相手の子を生んだ相談者の川辺ミドリが幼子を残して死亡した責任を感じ、それが店を閉める原因となり、今までの相談者の人生が気になって仕方なくなったという。
 
雄治に届いた最後の手紙は白紙だった…
 
浪矢駿吾は、故・祖父の貴之と交わした男の約束を果たす

第四章 黙祷はビートルズで

木彫刻家・和久浩介は、ナミヤ雑貨店にある手紙を投函するため、四十年ぶりに中学生まで住んでいた町を訪れる。
時間潰しに入ったバー『Bar Fab4』は、亡くなった兄の店を継いだ原口恵理子がやっている、中学生の頃まで浩介が心酔していたビートルズ専門の音楽バーだった。
 
浩介は子供の頃ナミヤ雑貨店に初めて深刻な内容の悩みを相談した子だった。
店主の回答にしたがっていたが、父親の一言で考えを変え、過去を捨て『丸光園』で、藤川博として新たな人生のスタートを切った過去を持っていた…。
 
バーで手紙を書き終えたが、恵理子から兄から聞いたという驚くべき話を聞き、書き直す。
 
 今夜、何人の人間がここを訪れるのだろうと浩介は考えた。『ナミヤ雑貨店』の存在が人生の中で大きな意味をもつという者は、案外多いのかも知れない。

第五章 空の上から祈りを

携帯で『ナミヤ雑貨店』と検索をかけた翔太は、浪矢雄治の三十三回忌である九月十三日の午前零時から夜明けまで、相談者達に回答が役立ったかを問うための相談窓口が復活するという『ナミヤ雑貨店 一夜限りの復活』というのがヒットし、驚愕すると共に不思議現象の理由を納得。
 
復活の邪魔をしないよう、『迷える小犬』からの相談を最後に退散することにする。
しかし、水商売や愛人で楽に金儲けしようという世の中を甘く見た相談に、彼女のような母親に捨てられた敦也は憤慨。
 
武藤晴美は、両親が交通事故死したため丸光園に入っていたが、大伯母に引き取られ、慕っているフェンシングでオリンピック出場を目指している静子が、ナミヤ雑貨店の人生相談により迷いを取り去ってもらったと聞き、手紙を書き、回答を信用し従うと…
 
オフィス・リトルドッグ」社長になった晴美は、丸光園の火災のニュースを聞き駆けつけると、お守り代わりにしている木彫りの小犬をくれた藤川に再会する。
 
館長・皆月良和から丸光園の創設者であった姉・暁子の『私は空の上からみんなの幸せを祈っているから』という最期の言葉を聞いた上、生涯大切にしていたという駆け落ちをしようとして叶わなかった相手・浪矢雄治手紙を見せられ、浪矢の郷里に近い場所に丸光園を作ったと聞き驚く。
 
その皆月館長が亡くなり、館長代理の副館長・刈谷が何らかの不正を働いているのではないかと疑った晴美は行動しようとした矢先、強盗に入られ、浪矢宛の礼状も盗まれてしまう…
 

 
短編集かとガッカリしたのも束の間、関連短編集で、終盤にかけてリンクやシンクロが見事に収束していく様がたまらない、とっても面白い作品で幸せ気分に
 
こそ泥が、三人組だったことから、トミー=アンゲラーの「すてきな三にんぐみ」を、連想。
 
 
浪矢が人生相談を始めるきっかけになった、子ども達の質問からは、「生協の白石さん」を連想。
 
 
ナミヤ雑貨店の郵便口はまるで、「ゲゲゲの鬼太郎」の妖怪ポストみたいだと思ったら、
 
 
手紙はタイムスリップしているらしいとわかってきて、東野作品の「時生」を連想。
 
 
過去と未来との文通の様には、万城目学さんの「ホルモー六景」の「長持ちの恋」を連想しました。
 
 
迷える小犬』からの相談は、内容が内容だけに、マツコ・デラックスさんの「あまから人生相談」を連想。
(あまりにも相談内容がくだらなかったので記事にしておらず読メにだけ感想を記載。4月の読書メータ参照http://blogs.yahoo.co.jp/konpeitou_06/52698327.html
 
 
三人組の回答も、マツコさんに負けじ劣らず辛らつで、( ̄ー ̄)ニヤリとした一方、雄治の回答には胸温まりました。
 
それは、次のような心構えで書いているからです。
 
 「嫌がらせだろうが悪戯目的だろうが、『ナミヤ雑貨店』に手紙を入れる人間は、ふつうの悩み相談者と根本的には同じだ。心にどっか穴が開いて、そこから大事なものが流れ出しとるんだ。その証拠に、そんな連中でも必ず回答を受け取りに来る。…(略)…。一生懸命、考えて書く。人の心の声は、決して無視しちゃいかん」
 
 
 「長年の相談を読んでいるうちにわかったことがある。多くの場合、相談者は答えを決めている。相談するのは、それが正しいってことを確認したいからだ。…(l略)…」
 
 「これも人助けだ。面倒くさいからこそ、やり甲斐がある」
 
三人組みがどうストーリーに絡まってくるのか予想がつかなかったのですが、彼らの推測通り『ナミヤ雑貨店』と『丸光園』を結ぶ何かである、空の上から『目に見えない糸』で、操られていたとしか思いようがない、驚くべき絡み方をしてきて感服。
 
彼らも、雄治から返事を貰え、それは雄治の最後の回答でもあり、胸打つものなので覚書。
 
 地図が白紙では困って当然です。誰だって途方に暮れます。
 だけど見方を変えてみてください。白紙なのだから、どんな地図だって描けます。すべてがあなた次第なのです。何もかもが自由で、可能性は無限に広がっています。これらは素晴らしいことです。どうか自分を信じて、その人生を悔いなく燃やし尽くされることを心より祈っております。

児童虐待や、克郎、浩介の両親の件など、辛く切ない箇所はありましたが、「奇蹟」という題名に相応しい作品。
 
晴美と三人組みが、『丸光園』に関して新たな「奇蹟」を起こしてくれるのではないかと、祈らずにはいられないラスト。
 
暁子さん、雄治さんと力を合わせてあと一つだけ「奇蹟」を、お願いします
 
 

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ナミヤ雑貨店の奇蹟 / 東野圭吾 ヒガシノケイゴ 〔単行本〕


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「ストレイヤーズ・クロニクル ACT−1」(本多孝好)

  ストレイヤーズ・クロニクル ACT−1
               本多孝好         集英社
 
は常人とはかけ離れた脅威的な能力を有する兄弟たちを守るため、政治家・渡瀬浩一郎の裏の仕事をさせられている。
 
人気急上昇の売り出し中の政治家の渡瀬だが、『言うことを聞く愚かな犬と、言うことを聞かない賢い犬。お前ならどちらを愛せる?愛することが政治。そして愛情の対象を育てるのが、政治の仕事だよ』と昴には裏の顔を見せる。
 
大病院の医院長で衆議院議員・三上淳一の、ドラックに手を染めた中学生の息子・を救い出し、未来の渡瀬の兵隊つくりに協力させられた後、一億円で『アゲハを捕まえないか?』と持ちかけられる。
 
アゲハとは昨年から、厚生労働省の役人、マルチ商法の役員、暴力団、参議院議員、臓器売買のシンジケートらを次々に殺害し、遺体に羽を背負った髑髏のシールを貼る殺人グループだ。
 
しかし、渡瀬が国家治安のために言い出すはずがなく、狙いが読めない昴は、アゲハの鮮やか過ぎる手口から自分たちと同類の作られた存在ではないかと疑っており、口を濁す。
 
昴は、渡瀬の与党の大物政治家・大曽根誠つぶしのために、重要書類を持ち出し家出中の中学生の娘・悠里確保を命じられる。
 
元全共闘の闘士で、マニア向けの零細出版社社長・三井徹が、スカウトマン・佐倉伸吾の紹介で悠里の写真集を出したことを突き止めるが、三人は逃亡。
 
しかし、悠里を追うのは昴たちだけではなく、大曽根の部下と、ボウイナイフを使う謎の金髪の少年がいた
 
少年はアゲハの一員なのか
アゲハの目的とは
 

えっ〜、これ本当に本多作品
 
どこで騙されるのか緊張しながら読んでいたら、別の意味でハラハラドキドキさせられ通しでした。
いつもの作風も好きだけど、新鮮で面白い
 
キャラ立ちした登場人物が魅力的。
自らを傍観者と言う、本書限りの脇役に思える三井すら、キャラが立っている。
 
「社会の中で自らの力を顕示しようとする者。それに仕えることで自分の一生を全うしようとする者。もっと大きな視点から自らの意思を具現化しようとする者。それらをただ批評する者。本人が意識しようとしまいと、社会の中で生きている以上、ヒトはそれぞれ役割を持ちます」
 
ただでさえキャラ立ちしている登場人物を、より効果的に演出しているのは、田島昭宇さんの表紙絵や挿絵。
 
「今日を生きのびるために動いているだけです」
昴は彼らを生き延びさせるために動いている。自分の意思を捨てたところに自分のすべてをかけて。
 
しかし、その昴は、アゲハたちの予想では特化した能力の持ち主達を統べることから命名され、持っている能力をまだ見せていないらしい
 
彼らの最初の実験体、昴。
私たちの最後の実験体、学。
 
同類ゆえにアゲハたちの動きを読む昴。
 
しかし、沙耶や隆二や良介を守るため、渡瀬も、小田桐も、自分も、殺さなかったことが、アゲハ達との違いだと悟っている。
 
昴の、自分たちは人か、人ではない者かと苦悩する様から、大好きな映画「ブレード・ランナー」を連想。
 
 
まさにストレイヤーズのお話。
 
これがどのようなクロニクルとなっていくのか、楽しみ。
 
本作は、三部作だそうで、序章といった感じ。
ACT-2刊行の10/5が待ち遠しい
 
は、10月に読み返せるよう、登場人物の覚書
荏碕昴:23歳。九年前、錬金術師と呼ばれた故・荏碕孝雄の法律上の息子。端正な風貌の青年。小田桐医院長の施設で育つ。兄弟たちを守るため、渡瀬の下で殺意を抱きながら仕方なしに働いている。能力は未知で明かされていない。
玄馬沙耶:20歳。女子大生。灰色の瞳の、鋭敏な聴覚の持ち主。
秋山隆二:18歳。未来を読む超人的な運動能力を持つ高校生。秋山夫妻に愛され育つが、高校卒業後は昴の家へ。
良介:13驚異的な視覚記憶能力を持つ。引き子守気味の中学生。昴と同居。
寛人:昴たちと同じ施設で育つ。クリスチャンの川原夫妻に育てられたため内なる欲望を恨み…
:昴たちと同じ施設で育つが、病気治療のため渡瀬に預けるしかなく実質的な人質状態。

渡瀬浩一郎:野党の若手人気政治家。爽やかな顔の裏に、大きな野心を隠し、目的のためには手段を選ばず、昴たちを使って何でもするという冷酷で計り知れない面を持つ。
小田桐:昴たちがいた施設の医院長。九年前までは親代わりで唯一の庇護者だった。天才科学者だったが、自ら作ったものたちからの復讐を恐れ、自分の意志で精神疾患を装い精神病院に入院。
 
:母の代からの荏碕家のお手伝いのシングルマザー。
優実:幼稚園児。岬の娘。

ドバト:裏の世界に通じている謎の男。昴にある借りがあり、恐れている。

アゲハ:正義の仕置き人か狂信的殺人集団か世間の評価を二分する残虐な殺人事件を起こしているグループ。死体に羽を背負った髑髏のシールを貼る。昴たちとは違うラインで作られたプロトタイプ。渡瀬を狙っている。
:金髪に緑色の瞳。隆二と同様の運動能力を持つ。残虐。
:女子高生風。眼鏡をかけいてる。
:OL風
ヒデ:チンピラ風 。耳に金色のピアス。
モモ: 大学生風。歯列矯正装置に見える銀色の金属をしている。
: 大学生風
:車椅子。中学生風。昴に共感
 

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「マドンナ」(奥田英朗)

  マドンナ
               奥田英朗            講談社文庫

マドンナ

課長・荻野春彦(42)は、結婚15年の間三回、部下の女性を好きになり、頭の中で恋愛物語を楽しんだことがあったが、異動してきた倉田知美(25、6)への恋煩いは今までと違い重症化。
妄想に押しつぶされそうになり、妻・典子にも悟られ、部下の山口の恋路も妨害するように
 
 
妄想族なので春彦には苦笑。
私も、妄想の度を越さないよう気をつけようっと

ダンス

田中芳雄は妻・千里から、高二の息子・俊輔が大学には行かずダンススクールに通いダンサーになると言っていると聞かされ、飯島部長の降格人事の対象となっている同期の自由人・浅野と重なり、行使共々悩まされることに…。
 
 
 冒険しない人間は冒険者が憎い。自由を選択しなかった人間は自由が憎い。
という一文、うまいなあと感心。

総務は女房

営業畑で出世コースにあった恩蔵博史(44)は、昇格を前に恒例となっている異動を受け、二年間総務で羽を休めることに。
 
しかし、松田商店との癒着に呆然とし正そうとするが『女房と総務は敵に回すな』とから上司から圧力をかけられる
 
 
毎日会社にいて、鬱屈がたまりやすいんだ。総務は女房だ』という部長の言葉に苦笑。
確かに主婦業を会社組織に当てはめると、総務部に近いものがあるかもしれませんね。
 
でも、家で一人で過ごす時間をこよなく愛しているプチヒッキーとしては、家に居ても鬱屈はたまりません

ボス

大手総合商社勤務の田島重徳(44)は、部長に昇格を期待していたが、海外帰りの同い年の浜名陽子が抜擢され落ち込む。
 
完璧な陽子のそつのない改革で、「男の戦場」というカラーは一新され、男達の不満を背負わされた田島は苦心するが、女子社員を始め、妻の美佐子まで陽子を信奉。
 
「男の世界にたった一人で放り込まれて、浜名さんだって大変なのよ。上からは期待され、下からは反発されて、きっと夜だって眠れないはずよ」
陽子は、一体どうやして弱音も吐かずに生きていけるのか
 
 
野球好きの奥田さんらしいオチに( ̄ー ̄)ニヤリ
でも、完璧な女性管理職のノー残業デー徹底の理由が公私混同とは如何なものかと…

パティオ

土地開発会社勤務の鈴木信久(45) は、閑散としているパティオに人を集めショッピングモールを活性化するプロジェクトに参加することになるが、パティオの藤棚の下を特等席に読書を楽しんでいる父と同世代の紳士のことが気になるようになる…。
 
 
 きっと世間の同世代は、大半が自分と同じだろう。半分楽観的で、半分現実を見ないようにしている。親に関しては、モラトリウムなのだ。
 
母が他界し郷里で一人暮らしをしている高齢の父親のことを心配しているが素直に様子を伺うことができずにいる息子の図から重松作品を連想し、奥田作品では珍しく切なくさせられました。

本書の姉妹編「ガール」の映画化・映画「GIRL」が、今週末の2012年5月26日より公開されます。
 
 
そのため、最終章・「パティオ」で、客を誘致するための策として、映画の撮影現場として提供したらどうかというシーンの次の台詞に苦笑。
 
「だめですよ、日本映画なんて。ミニシアターで一月やって終わりじゃないですか」
 
果たして、映画「GIRL」は、どうなるのでしょうね
 
その、「ガール」の「ひと回り」の、小坂容子と、本書の第一章・「マドンナ」の荻野春彦が、
「ガール」の「ヒロくん」の武田聖子と、本書の第四章・「ボス」の浜名陽子が重なりました。
 
「ガール」に、『女と女は合わせ鏡』とありましたが、男と女も合わせ鏡のような存在かも、と、思わされました。
 
最終章の「パティオ」は、重松作品を思わせる切なさで特に好き。
 
悩み多き四十代が描かれていて、四十が不惑とは、昔の人はなんて人間が出来ていたのだと、思わず溜息をついてしまいました。
 

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