「人質の朗読会」(小川洋子)
人質の朗読会 某国で、日本人のツアー参加者七人と添乗員の計八人が反政府ゲリラに拉致され、その数ヵ月後に全員死亡する事件が起きる。
その二年後、特殊部隊の一人が、個人的判断で、人質たちが開いていた朗読会の盗聴テープを遺族に渡し、それがラジオ番組で公開されることとなる。
第一夜 杖自動車事故で足を大怪我し意識不明の重態に合った時、少女の頃、世界を崩壊させようとしていると思い見守っていた鉄工所の、足を怪我した工員が夢の中で足を治しにやって来てくれ、杖を探してあげたことを思い出す…。
(インテリアコーディネーター・53歳・女性/勤続三十年の長期休暇を利用して参加)
第二夜 やまびこビスケットビスケット会社の工場に勤務する女性とケチで偏屈者の「生理整頓」をモットーにしている大家との不良品アルファベットビスケットを介した交流の回想。
(調理師専門学校製菓コース教授・61歳・女性/研修旅行のオプショナルツアーで参加)
実は不良品こそが本来あるべきビスケットの姿ではないか、と思うことさえあった。無事ベルトコンベヤーの最終地点までたどり着き、袋詰めされ、トラックに載ってどこかへ運ばれてゆくのがやまびこビスケットだとしたら、途中でつまみ出され、厄介者扱いされ、片隅に追いやられるアルファベットビスケットは、私のためのビスケットだ。大家さんと私の仲間だ。 第三夜 B談話室通りすがりに外国人に公民館の道案内をし、受付の女性に促されたことがたことがきっかけとなり、B談話室で開かれる様々な会合に参加するようになる、ささやかなつながりを持つ少数の人々の物語。
(作家・42歳・男性/連載小説のための取材旅行中)
第四夜 冬眠中のヤマネ手作りの、自分と同じ片眼の奇形な縫ぐるみを売っている露天商の老人と、ひょんなことから参加する羽目になった夏祭りのイベントで、彼からお礼に貰ったヤマネの縫ぐるみは未だ僕の一部。
(医科大学眼科学教室講師・34歳・男性/国際学会出席の帰路)
第五夜 コンソメスープ名人ガスレンジが故障し、自分の作ったコンソメスープしか口にしないという年老いた母親のために台所を貸して欲しい言う隣家の娘と過ごした、八歳の時の留守番の回想。
(精密機械工場経営者・49歳・男性/国際見本市参加の帰路)
第六夜 槍投げの青年出勤の電車内で奇妙な荷物を抱えた青年を彼に悟られないように手助けし、気付くと彼の後を追い、競技場にいた…。あの日以来胸の中に住み着いた槍投げの青年の物語。
(貿易会社事務員・59歳・女性/姪の結婚式出席のための旅行中)
第七夜 死んだおばあさん若い頃から、自分の死んだおばあさんに似ていると何度も見知らぬ人から声をかけられる、『死んだおばあさん』になれなかった女性が聞かされた、さまざまなおばあさんの話。共通点は『全員死んでいる』ということ。
(主婦・45歳・女性/夫の赴任先からの帰路)
第八夜 花束紳士服店の契約社員だった若者が最終日に葬儀会社に勤める客から貰った花束のおさまるべき場所は
(ツアーガイド・28歳・男性/勤務中)
第九夜 ハキリアリ子どものころ、ラジオで放送される日本人物理学者のノーベル賞受賞のスピーチを聞かせてくれと訪れた、ハキリアリを研究している三人の日本人は、お礼として祖母に日本の書物を渡し、それは今では私の祖母の形見。
(政府軍兵士・22歳・男性/Y・H氏の通訳により放送) 静かに心に沁み入る物語。
ストーリテラーの小川ワールドに耽溺する。
最終章に出てくる通訳の、『
いや、もっと深遠な物語だ』という言葉が的確に現していると思う。 この章の語り手である兵士の言葉
彼らの朗読は、閉ざされた廃屋での、その場限りの単なる時間潰しなどではない。彼らの想像を超えた遠いどこかにいる、言葉さえ通じない誰かのもとに声を運ぶ、祈りにも似た行為であった。その祈りを確かに受け取った証しとして、私は私の物語を語ろうと思う。 朗読のラストに添えられている人質たちのプロフィールを読み、語られた話を反芻し暫し黙考。
「物語の役割」で『
物語がそこかしこにある』と書かれてあったのを連想。 『物
語がそこかしこにあるという証明』として、アメリカ人の作家ポール・オースターがラジオ番組で視聴者から募った物語を本にした「ナショナル・ストーリー・プロジェクト」が紹介されていました。 もしかしたら、本書はそれにヒントを得て書かれた一冊なのかも
ああ、何故、かくも物語は私を惹き付けてやまないのでしょう…。
できることなら、私も、人質たちの朗読をいつまでも聞いていたかった…
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