不幸が不幸を呼ぶ不幸 パートII
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人生に不幸な出来事はつきものです。一見すると、不幸な出来事は(幸福な出来事と同様に)誰にでも公平にやってくるような気がします。 全くの偶然に降りかかってくるものであると考えられがちです。 ところが、よくよく調べてみると、どうやらそうではないのです。
この問題は、当初は、私たちが普通に生活している中で経験する、普通の「生活上のストレス」、「ありふれた不幸」に関して見いだされました。 例えば、仕事がうまくいかないとか、結婚生活がうまくいかないとか、対人関係がうまくいかないとか、そうしたごくごくありふれた、日常生活レベルでの「ストレス」や「不幸」です。
こうした日常生活レベルでの「ありふれた不幸」・「ありふれたストレス」は、どうやらそれをやたらとたくさん経験してしまう人と、それほどでもない人というものが存在することがわかってきました。 よく知られたところでは、いわゆる「神経症的性格 neuroticism」と呼ばれる性格傾向がある人は、そうでない人よりも「ありふれた不幸」に見舞われやすいことがわかっているのです。 どうやら、そうした「不幸」な出来事を引き寄せてしまう行動パターンを性格的に持っているようなのです。 このため、「今までこれだけ不幸なことがあったのだから、これからはきっと良いことがあるよ」とはならず、むしろデータを冷静に解釈すると「今までこれだけ不幸なことがあったのだから、これからも不幸続きになる可能性が高いよ」と言えてしまうのです。 身もふたもないひどい話です。 のび太君の人生です。
では、日常生活レベルの「ありふれたストレス」、「ありふれた不幸」ではなく、もっと非日常的な、それこそ心的外傷後ストレス障害 PTSDを起こしうるようなひどく外傷的なストレス(暴力的犯罪被害、レイプ被害、命や身体の危険のおよぶようなひどい事故など)だったらどうでしょうか?
Breslau先生たちは、実に執念深く、幾つもの研究を通じて、この問題に取り組んできました。
そのうちの1つの研究では、米国のミシガンに住む1200名もの人たちを3年間追跡調査し、その間にPTSDを引き起こしうるようなひどい「外傷的ストレス体験」をしてしまったかどうかを調べてみました。 すると、3年間の追跡期間の間に、19%もの人が「ひどい外傷的ストレス体験」を経験していましたし、そのうち11%もの人がPTSDを発症していました。
ところで、こうした「ひどい外傷的ストレス体験」がまったくの偶然によって降りかかってくるのかどうかを見てみると・・・
そこには明らかに「偶然」ではない傾向がありました。
つまり、以前にひどい外傷的体験に遭ったことがある人、神経症的性格傾向がある人、衝動的・攻撃的性格傾向があるような人、はそうではない人に比較して、明らかに高い確率で「ひどい外傷的ストレス体験」に遭っていたのです。 事実、「過去にひどい外傷体験に遭ったことがある人」は、そのような体験がない人に比較して2倍もの確率で、またしても「ひどい外傷的ストレス体験」に遭遇してしまうのでした。
Breslau先生たちは、その後幾つもの研究を行い、過去にひどい外傷的ストレス体験に遭い、なおかつそのためにPTSD症状を起こしてしまった人は、特に高い確率でまたしてもひどい外傷的ストレス体験に遭い、またしてもPTSDになってしまう傾向があることをつきとめたのでした。
(当然、自然災害や全くの巻き込まれ型・居合わせ型の犯罪被害などは「まったくの偶然」によってふりかかかってくるでしょう。しかし、これまでの研究で自然災害による「外傷的ストレス体験」は、暴力犯罪被害のような他人による「外傷的ストレス体験」に比較して圧倒的にPTSDを引き起こしにくいことがわかっています。 そして、その人の性格傾向によって「引き寄せてしまう」のは、こうした「他人による外傷的ストレス体験」が多いようなのです。)
不幸がさらなる不幸を呼ぶ、そんな不幸なことが本当にあるのか?
ひどい話ですが、どうやらそれが真実なのです。 さらに、以前に『生まれと育ち』の『PTSDの遺伝性』の中でもとりあげましたが、Stein先生たちは、PTSDには明らかな遺伝性があること、つまり遺伝子的・体質的にPTSDになりやすい人というのは確かに存在するのであり、そのような人は「ひどい外傷的ストレス体験」を経験するという不幸なことがあったときに心が折れやすいというだけでなく、そもそもそのような「ひどい外傷的ストレス体験」に遭いやすいような行動パターン、破局的な不幸を引き寄せやすい傾向を性格的に持っているようだ、ということを示唆しているのです。
こうして考えていくと、不幸を呼び寄せてしまう、そんな「不幸体質」のようなものをなくしていくことも、PTSDの治療においてはとても重要なのかもしれません。 不安症状を中心とする、わかりやすいPTSD「症状」を治療するだけではなく・・・。
(そんな「不幸体質」のような、性格的な問題を「治療」によって改善することなど出来るのか? その辺の問題は、いずれ「パーソナリティ障害」を議論するときにまた取り上げるつもりでいます。)
参考書:
(1) Breslau N, et al. Traumatic events and posttraumatic stress disorder in urban population of young adults. Arch Gen Psychiatry, 1991; 48: 216-222.
(2) Breslau N, et al. Risk factors for PTSD-related traumatic events: a prospective analysis. Am J Psychiatry, 1995; 152: 529-535.
(3) Breslau N, et al. Previous exposure to trauma and PTSD effects of subsequent trauma: results from the Detroit area survey of trauma. Am J Psychiatry, 1999; 156: 902-907.
(4) Breslau N, et al. A second look at prior trauma and the posttraumatic stress disorder effects of subsequent trauma. Arch Gen Psychiatry, 2008; 65: 431-437.
(5) Stein MB, et al. Genetic and environmental influences on trauma exposure and posttraumatic stress disorder symptoms: a twin study. Am J Psychiatry, 2002; 159: 1675-1681.
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