下級役人のつぶやき

一言メッセージ :ロングテールと格闘する下級役人の仕事日記

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私的録画、タイムシフトと権利者の損失

こんにちは、給料日前で困窮中の下級役人です。

 さて、第7回。前々回(第5回)……は、私的録音録画補償金がドンブリ勘定で不公平だという部分について、私なりの疑問をぶつけてみたが、今回は、私的録音録画で権利者に不利益が生じるのかという点についても、ちょっと考えてみたいと思う。


◆私的録画では、損失はないのか。
 周辺の議論を見てみると、MIAUのアンケートでは、特に録画については、権利者の損失があるのかという点から補償金制度への批判が強いようだ。(Copy&Copyrightさんのアンケートでは、損失がないという意見が圧倒的に優位とまでではないようだが)
 もちろん、何らかのデータに基づく検証ではなくて単なるアンケートなので、それが実態かどうかは別だ。境真良氏のブログでは消費者の希望として当たり前の結果だと評されている。私も同感だ。消費側は欲しいものが安い方がいいというのは当然のことで、それ自体、何も新しいものではない。
(しかし、MIAUという団体も、私は勉強不足にして最近まで存在を知らなかったのだが、下級役人の目から見ると、どういう立ち位置を取ろうとしているのか、戦略がよく分からない。ロングテールの民意に悩まされてる下級役人にとっては面白い素材なので、回を改めて書いてみたい。)

 前々回も書いたように、私的録音録画によって、本当にコンテンツビジネスに影響が出ないのかについては、考え方がいろいろあると思う。今回は、その2回目として、タイムシフト目的の録画を題材にしてみよう。


◆タイムをシフトさせれば、価値が生じる。
 私的録画で損失が生じないという主張でよくあるのは、本来タダの地上波TVがタイムシフトしたらお金がかかるというのはおかしい、というものだろうか。有料放送の場合には、既に視聴のための代金を払ったのだから、後はそれを別の時間帯に視聴しようが自由だろう、金をさらに取られるいわれはないという感じか。

 後者の主張はよくわかる。ただ、前者の方は、本当にそうだろうかと思ってしまう。前々回も書いたが、無料放送といってもタダじゃない。放送のコストは広告収入で賄われているし、なんらかの形で費用を回収しなければならないのはコンテンツ事業者としては当然のことだ。

 費用を回収するためにどういう仕組みを取るかは、各事業者の戦略による。コンテンツビジネスの収益構造は詳しく知らないが、見ていると、多様な市場を組み合わせて収入を得ていると思われる。
 例えば、映画は、映画館での上映を一次市場とすれば、その後の放送、DVD等のパッケージでの二次、三次市場がある。(映画製作者連盟)のデータによると、映画館での上映(約2000億円)より、DVD等(約4000億円)の売上の方が大きいようだ)

 演奏家も、ライブという一次市場、それを収録したDVD等の二次市場……いろいろあるだろう。単純な足し算だけでなく、ある市場はプロモーションだと割り切って(経費だと割り切って)赤字でやりつつ、他の市場で回収を図る場合もあるだろう。(岩戸佐智夫著「著作権という魔物」(アスキー新書)では、演奏家にとって放送番組での演奏は赤字なのだが、プロモーションと捉えているという旨の佐藤剛氏(ファイブ・ディー代表)の発言が紹介されている。)

 こういういろいろな市場が考えられる中で、放送やライブのように、その時に手に入れないと形に残らない性質のものでは、それを時差で入手するとの需要はもちろんあるだろう。さらには、ライフスタイルの多様化なり、いろいろな種類のエンターテイメントが出てきたり、コミュニケーションに費やす時間が増加したりしている中で、時間に自分を合わせるのではなく、自分のライフスタイルに合わせて好きなときに好きなものを見るという欲求が高まっているのは、誰しもが認識していることだ。

 タイムシフトの需要は増加している。ということは、タイムをシフトさせることでコンテンツには別の価値が付加されているし、それ自体に独自の価値があるとすれば、取引の対象にもなりうる。
 コンテンツ事業者としては、タイムシフトでのコンテンツ提供で収益を図るということも視野に入ってくるだろう。

 ……と、ここまでは、皆が(少なくとも感覚的には)分かっていると思われる当たり前の話の復習。私的録画がこのタイムシフト市場にどういう影響を与えるかが、今回の本題。


◆私的録画がタイムシフト市場に与える影響を考える。
 既にタイムシフトをターゲットにしていると思われるビジネスもたくさんある。例えば、GyaOなんかは、タイムシフトのために配信されていると思われる番組もたくさんある。GyaOは広告収入モデルで運営されているようなので、こちらは権利者にも収入が入るだろう。それに比べて、私的録画によるタイムシフトならどうなるだろうか。私的録画補償金を抜きにすれば、権利者には収入は入らない。(この点は、コピーワンスだろうと、ダビング10だろうと同じである。)

 タイムシフト市場で、この無料(機械の購入費と電気代はあるが権利者に対しては無料)の私的録画と、コンテンツ事業者のタイムシフト提供とが、競合しているのであれば、これは興味深い。

 とは言っても、GyaOの収入がどのくらいあるのか、私的録画によってそれがどのくらい影響を受けているのか、データがないので、よく分からない。それ以外で、コンテンツ事業者によってタイムシフト提供されているものというと、私のような旧世代の人間からすると、土曜日のNHKの大河ドラマくらいしか思いつかない。
 なので、ちょっとレトロなデータだが、私的録画の影響を調べるために、データを拾ってみた。

イメージ 1
オリジナルのサイズの画像を見る場合はクリックしてください。


 文字がつぶれてしまっているが、これは日曜日の大河ドラマの視聴率と、土曜日の再放送の視聴率の比率を経年変化にしてみたものだ。(視聴率そのものは、ドラマの人気によって左右されると思うし、事実、ビデオリサーチ社の調査を見ると、年によって大きく数字が異なるので、土曜:日曜の比率の変化を見ることにした)

※出典は、日曜は上記ビデオリサーチ社の数字だが、土曜は同社の数字が公開されていないようなので、仕方なくNHK調べの数字を使った。というわけで、ちょっと正確ではないのでご注意。

 これを見ると、1989年くらいまでは、概ね、右肩下がりに土曜日の再放送の比重が減ってきていることが見て取れる(わずかだが)。

 この時期は、録画機器が急速に普及していた時期だ。ベータやVHSが登場したのは、1970年代の半ばのようで、文化庁の報告書(総理府調査)によれば、録画機器の保有率は、1978年: 2.3%、1985年: 38.9%、1991年: 84.9%という具合のようだ。(1990年前までは概ね一直線に増えており、その後は鈍化)

 1989年以降は、録画機器の保有率がある程度安定期に移った後なので数字変化の要因はよく分からないが、週休2日制の影響などもあるのかもしれないし、仮にそうだとすれば、多くの人にとって日常的に土曜日に見られるようになることで、土曜日放送が、単なる再放送以上の意味を持ってきたということもあるだろう(土曜日の昼に見て、日曜日の夜は遊びに行くというライフスタイルも可能になった等々か。※週休2日制についてのWikipediaの解説

 どうだろうか。

 ということで、私の目から見ると、タイムシフトであれば損失が発生しないという論には、ちょっと疑問がある。私的録画があるおかけで、コンテンツ事業者が提供するコンテンツへのアクセスが減るという競合関係が多少なりとも、あるのではないだろうか。
(NHKは受信料収入なので、視聴率が落ちても収入減ということにはならないだろうが、同じ構図が民放の再放送や、その他のネットでの再放送・配信との関係でも当てはまるなら、いくばくかの損失(収入機会の逸失)が生じうる)

 ライフスタイルの変化等によって、シフティングの市場には大きな価値が出てきている。価値が生じるなら、財の取引が成り立つ余地があるのだから、そこをビジネスチャンスにしていくという発想もあり得ると、私は思っている。一次市場、二次市場等々、どこの市場からどれだけ利益を得るか、どう組み合わせるかは、事業者の判断の余地を残した方が面白い業界に育つのではないだろうか。
 情報財の場合は、権利を設定しないと取引が成り立ちにくいので、言い換えれば、私的録画補償金の請求権という権利を設定をすることも正当化しうる余地があるのではないか(……と言ってしまうと、ちょっと飛躍か? もちろん、前から書いているように、タイムシフトに損失があるとしても今の補償金の徴収額すべてを正当化できるかどうかは別問題で、徴収額そのものは別の議論があり得る。例えば、有料配信は補償金の対象から除くそうだが、そういうことを前提としての話)。

 ※6/16追記。有料配信については、損失がないという意見もよくわかると直感的に納得してしまったが、よく調べてみたらちょっと議論がズレているような感じだ。また回を改めて書いてみたい。

 少なくとも、私的録画機器の発祥地たる日本で、お見逃しサービスなどのサービスの発達が遅れているという点は、確かだろう(この問題の原因は、著作権処理の問題があるとよく言われるが、コンテンツ事業者側は、お見逃しサービスの収益性が低いことも理由として主張しているとも聞こえてくる。この収益性が低い、ということの背景の一つに、日本の私的録画機器の普及や習慣もあるのではないか、というのが私の問題意識。)


 どうだろうか。もしここまで読んでくれた人がいるなら、コメント欄で感想を聞かせてもらえるとありがたい。


◆録音の場合は?
 録音の場合は、録画よりも機器の普及の歴史が早くて古いので、ちょっと録音の普及前後でのビジネスの変化を拾えるデータがなかなか見つけにくい。音の場合は、コンテンツ提供の仕方のルートが多様なので、議論が難しいですね。

 また、思いついたら何か書き込みをしたいと思う。


 ※6/16追記。上記グラフの出典を記しました。

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はじめまして☆彡
よかったら立ち寄ってください 削除

2008/6/16(月) 午前 10:59 [ きよたん ]

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ご訪問ありがとうございました
なにか参考になりましたか。
それにしても これだけの記事書くのは
大変でしょうね。
これからも宜しくです。

2008/6/17(火) 午後 8:27 [ mukku_aoba ]

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>muk*u_a*baさん
こちらこそありがとうございます。私のは、写真もなにもないですし、まだまだです。役人は普段、自由に発言できないので、仕事を離れると筆が自然に進んでしまうのですよね。
またよろしくお願いします。

2008/6/18(水) 午前 1:47 [ 行路 ]

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