下級役人のつぶやき

ロングテールと格闘する下級役人の仕事日記

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こんにちは。久しぶりの下級役人です。(第24回)

 しばらく自宅のパソコンの調子が悪かったので、それをいいことにのんびりしていましたが、前回やら前々回らで書いたフェアユースの関連で、いろいろ記事があがったみたいなので、少々書き込みを。題材は、よく読ませていただいている池田信夫氏のブログからICPFセミナーの様子を取り上げよう。


◆いきなり脱線だが、怖い時代になった
 昨日のICPFセミナーでは、中山信宏先生をゲストにフェアユース関連の話題を取り上げたようだ。なかなか国会期間中の行事だと、役人は(上級役人になれば別だが、下級役人は、国会関係の細々した連絡が入ったりするのでなかなか動けない)参加することが難しいが、是非、聞いてみたかった。
 ただそれは後で触れるとして、その前に気になってしまったのは、山下和茂著作権課長のコメントが引用されていることだ。
 いきなり脱線で恐縮だが、ちょっと怖いなと思ってしまった。

 というのも、役人というのは、このブログで何度も書いているが、結局のところ、利害関係者間の調整をして、双方の妥協点を探りつつ結論を出していくという仕事が一番多い。その中では、私のように調整能力の低い役人にとっては、「方便」というのが非常に便利なのだ。あっちの団体には、「いやー先方もなかなか堅くてですね」とか「いやー上司に怒られましてね」とかいう形で、相手方や身内を悪く言いつつ、当面の直接の相手方との交渉に臨むことは日常茶飯事だ(仲介者たる役人としては、相手方のスタンスを伝えるのは当然だが)。場合によっては、あっちにこう言い、こっちにこう言うこともしょっちゅうだ。
 もちろん役人も話を早くまとめる手段としてそれをつかっているので、それが外に出てしまうような場合や、交渉者間が互いに連絡が取れているような場合には、そういう手段は使わない(自分の信頼性を落とすだけなので)。互いの間が没交渉の場合にしかそういう手段は使わない。

 そういう条件下だが、どちらかの団体に聞こえのいいことを言っておくことは、ごく普通にやることだ。(もちろん、書面にしたり証拠が残る形でやるかどうかは別だが)
 むしろ、交渉ごとというものは、こういう間に入る仲介者がいなければ、ほとんどは円滑に進まない。
 例えば、法律紛争が起きたときに何より大事なのは、弁護士を間に入れることだ、と言われる。個人レベルの法律紛争は、大体が法律違反があったことそのものではなく、その後の対応に対する感情のこじれによって生じてくる。「すいません」で済むか、紛争に発展するかは、実は、ほとんど法律の争いの難しさでなく、感情のこじれ、食い違いなのだ(日テレの「行列のできる法律相談所」などを見ている人はよく分かるだろう)。気にくわないやつは、どういう手段をつかっても訴えてやる!、となるし、関係者間の関係が良好なうちは、法律処理に不備があっても、ああ、じゃぁ、事後的に書類を整えますかということで済んだりする。なので、感情のこじれが生じている当事者間で交渉するのでなく、間に弁護士を入れることによって、穏当に合理的に解決が図れることが多い。特に、弁護士間というのは狭い世界で、お互いに知り合いだったりする(少なくとも、1〜2回ノードを経由すれば大体知り合いにたどりつく)ので、間に入って解決するには非常に便利なのだ。

 そういう中で、仲介者たるべき役人が、片方の当事者団体に言ったことが、第三者によって全然別の場面で使われて広まってしまう、そういう時代になったということが、恐ろしい。もちろん、山下課長が仲介者としての立場で書いた文章かどうかは分からないが(書面に残している時点で、単なる方便ではないのかもしれない)。
 こっそりと片方の団体に聞こえのいいことを言ったつもりが、いつの間にかWebであちこちに広がったとしたら衝撃だろう。そういう形で広まる可能性があること自体が、恐ろしい(逆に、反文化庁の立場からすれば、これほど使いやすい資料はないだろう)。これは、仮に社会的に、「仲介」という立場の有用性が期待されているのであれば、それとぶつかるものでもある(詳しく知らないが)。

 ……もし、そういう弊害を防止しようとした場合に、どういう手段があるだろうか。

 交渉自体に、交渉経過の守秘義務をかけるのは、弁護士であれば、交渉代理人になる時点でそういう契約を結ぶかもしれないが、おおよそ、役所はそんなことはしていないだろう。だとしたら、契約違反で情報を漏らしたことを追及することもできない。

 ……著作権侵害で追及することになるか?

 上に例として出した「行列のできる法律相談所」ではないが、大体の法律紛争というのものは、訴えたいという希望があって、それに応じた請求権が法律上保障されるか、という順番で考えていくものだ。そういう思考回路で考えていった場合、今の(フェアユース導入前の)著作権法というのは、非常に便利だ。 もちろん、引用として使うことは今の著作権法上も可能だが、それから逸脱してアジテートに使われるような場合に対しては有効な対抗手段になるだろう。

 著作権法の話題での対応策として著作権が用いられるとしたら、まさに著作権の面白いところ(自分が権利者にも利用者にもなりうる)で、著作権の神髄とも言うべきところだろう。文化庁の対応が注目される。……ただ、役所が仲介者としての立場を維持したいのなら、そこまでのことはしないだろうが。


◆「コモンロー」とフェアユース
 風呂に入ってビールを飲んでいたら、最初のインスピレーションで書こうと思っていたことを忘れてしまった。せっかく中山先生の発言で何か書こうと思っていたのだが、もったいないことをした。また思い出したら書こうと思うが……。いや、悔しい。

 だが、どうしようもない些末なことだけは、覚えていたりする。

 池田信夫氏のブログで、フェアユース規定について「英米法のコモンローの考え方」と述べられていることは、馴染みのない人には誤解を招くかもしれない。
 「コモンロー」というと、広い意味で、判例を法源として認める英米などの法体系の総称として使われる場合や、いろいろな意味合いがあるが、狭い意味で使った場合には、ローマ法と異なる法理念によって解決が図られた判例の集積というような意味合いもある。そういうことで考えると、フェアユースは、実は、「コモンロー」ですらないらしい。

 私も先日のフェアユースについての書き込み以降、いろいろ調べている途上なのだが、フェアユース規定は、導入された1976年の米国の著作権法改正の議会資料を見ると、エクイティの原理の一つとして適用されてきたものらしい。エクイティについては詳しくは、リンクを張ったWikipediaの解説を読んで欲しいが、要するに、コモンローとして判例で集積されてきた法体系でも解決ができなかった事柄について、そういう例外的事例について解決を図るための法理らしい。
 (しかし、いつも思うが、Wikipediaのコモンローの解説も含めて、Wikipediaはよく書けている。余裕のある大学関係者が書いているのだろうか。)

 ……これについては、私も調べ途上なので、もしかしたら間違っているかもしれない。英米法の専門の人に教えを請いたい。だが、英米法の体系でも、漏れてしまっていた事柄を解決するための他の法理(しかも皮肉なことにローマ法!)の導入ということが、フェアユースの本質なのだとしたら、これを日本のような制定法の世界に持ってくることは……、いや、大変だ。エクイティが、王政のような集権権力を前提として、行政・立法・司法の三権の分立の狭間の法の欠如をカバーする理念ということなのなら、そもそも、制定法主義の日本とは、根本からぶつかることになるかもしれない。
 少なくとも、中山先生の言うような米国法と同様のものを、ということにはならないだろう。やったとしても、米国法と同様の文言のものを、新たに制定法として設けるということに過ぎず(※)、効果は大きく違ってくるかもしれない。いやはや、今から3ヶ月で次期通常国会にフェアユースを、というのは、殺人的作業だ。議員立法ならできるかもしれないが、内閣提出法案でこれをやろうとするのは、ほんとに大変だろう。(議員立法の立案を実質的に行う議院法制局には失礼な話かもしれないが)せっかくなので、役所と議院法制局も合同、さらには官民合同のプロジェクトチームでもできれば、面白いが。

 ※ これは、全く意味合いが違う。制定法文化の中では、制定法で書いた要件は、その要件に従って解釈されるだけだが、米国法のフェアユースが、元々が制定法でも判例法でもカバーしきれない範囲を、別法理によって解決する仕組みなのだとしたら、同じ要件で日本法にフェアユースを導入したとしても、その妥当範囲がまるっきり異なることになる。


……すいません、やっぱり書くことが思い出せないので、また今度。

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英米法上ではフェア・ユースの基礎付けがエクイティにあるとしても、だからといって大陸法系の日本で導入が不可能ということにはなりません。言うなら、コウモリでもスズメでも羽があれば飛べる、ということです。もちろん、きわどいケースでは「基礎づけ」が影響するでしょうけど。

余計なお世話ですが、「英米法の体系でも、漏れてしまっていた事柄を解決するための他の法理(しかも皮肉なことにローマ法!)の導入ということが、フェアユースの本質」は、フェアユースをエクイティ(均衡法)に置き換えれば(素人的レベルでは)おおむねOKです。フェアユ−スはしょせん著作権法上の一基準にすぎないのですが、なぜそう大仰に。。。 削除

2008/10/26(日) 午前 11:28 [ 真実一郎 ] 返信する

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とおもって、リンクをたどってみると、池田信夫blogとやらが「誤解」の源泉のようですね。一見した限りでは、このblogはトンデモですね。たとえば、「現在のようにコンテンツが動かなくて誰の得にもならない状況に比べればPareto improvingなので、理論的にはナッシュ均衡として実現可能だ」ってありますが、もし経済学に詳しくないようでしたら、囚人のジレンマについて周囲の人(経済学部卒くらいでもわかるでしょう)におたずねください。

重ねてコメント失礼 削除

2008/10/26(日) 午前 11:30 [ 真実一郎 ] 返信する

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>真実一郎さん

こんにちは。エクイティの件はもう少し勉強して、また書き込みたいと思いますが、要は「法源」の問題ですね。日本法では、制定法以外に法源(裁判所が裁判の根拠にできる規範)がほとんど認められていないということですね。法の適用に関する通則法の第3条やら、裁判事務心得の第3条とか、一部の例外しかないわけです。
だから、どんなに日本法にアメリカと全く同じフェアユースの条文を置いたとしても、アメリカのフェアユースと同じ効果(法に書いてあること以外の結論を出す効果)は出ないと思われるのですよね。

2008/10/26(日) 午後 11:47 [ 行路(@kouro16) ] 返信する

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