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介護人材不足問題の正しい解決策

 妻のサバティカルに付き合って、しばらく、アメリカ・ミシガンに滞在しておりました。日本は、首相も変わって、選挙ですか。経済財政諮問会議も八代先生が退任なのですね(本当に、お疲れ様でした)。まだ、ちょっと浦島太郎状態におりますが、アメリカ滞在中に完全にお休みしていたブログを、今日から再開します。


○要約
・介護労働力不足問題の主因は、「景気回復」と「2006年の介護報酬引下げ」にある。

・これに対して、社会保障国民会議や厚生労働省の審議会で行われている議論は、本質的な原因を見間違えている。

・間違った診たてを元に立てられた厚労省の対策(社会福祉事業に従事する者の確保を図るための措置に関する基本的な指針)は、人材不足問題をほとんど解決しないばかりか、むしろ人材不足を拡大する懸念がある。

・対策としては、介護報酬単価を大幅に引き上げること以外に無いが、介護保険財政の問題が立ちはだかる。そこで、財政と価格を切り離す対策である「混合介護」の導入を行なうべきである。

・つまり、介護報酬単価は単なる保険給付計算上の目安価格にして、介護サービスの価格は完全に自由化すべきである。


○本文
 社会保障国民会議でも盛んに議論されている「介護労働力不足問題」であるが、社会保障国民会議や厚生労働省のこの問題への議論や対策を見る限り、どうも、その原因の分析を見誤っているように思えてならない。


 この問題の主因は、2004-2007年ごろまでに起きた「景気回復」と「2006年の介護報酬引下げ」にあることは明らかである。まず景気回復であるが、介護サービスの分野では、2000年に介護保険が開始されて以降、完全失業率が悪化し、一時は5%を上回る状況が続いたために、労働力不足を感じることなく、多くのヘルパーを雇用することができた。ところが、2004年ごろから景気回復とともに失業率が低下し始め、2005年、2006年は4%台前半、2007年に入って3%台の失業率まで景気が回復した。


 このため、介護サービス以外の産業の労働力逼迫によって賃金が上昇し、介護ヘルパー達は高い賃金を求めて、スーパーのレジうちなどの小売業やサービス業へと移って行ったのである。本来であれば、他の産業の賃金上昇に合わせて、介護産業も賃金を上げるべきであるが、介護産業は介護報酬という「統制価格下」にあり、人件費もそれに頭を抑えられているために、引き上げることができなかった。それがまずもっとも大きな原因である。


 それに拍車をかけたのが、介護報酬単価の2006年の引き下げである。介護報酬単価が引下げられれば、需要は増加し、供給は少なくなるから、さらに介護労働力不足が拡大することは自明である。そもそも、介護報酬単価が引下げられた理由は、介護保険財政を何とか維持し、介護保険料を上げないようにしたいという政策的意図である。このように、財政の論理という市場原理と無関係な要素で、市場の価格に政策介入すると、市場から思わぬしっぺ返しを食らう。経済学が大昔から教えるところである。


 しかしながら、介護労働力不足の原因として、社会保障国民会議や厚生労働省の審議会、検討会の場で議論に上ったのは、むしろ、_雜邯従譴力働環境が悪い、介護サービス業者の雇用管理能力が低い、2雜醢働者が高齢化社会を支えるという生きがい・働きがいを感じられなくなった、げ雜醢働者のキャリアアップの仕組みが出来ていないために定着が促進されない、ゲ雜酳〇禹里篌匆駟〇禹療の有資格者が介護現場に居なくなったといった各要因である。経済学的観点からみると、これらは「原因」というよりは、むしろ「結果」であるといった方が良い。


 ところが、厚生労働省は、この,らイ凌芭てを受けて、人材不足対策を策定してしまった。すなわち、厚生労働省は、福祉分野の人材不足対策として、2007年に「新人材確保指針(社会福祉事業に従事する者の確保を図るための措置に関する基本的な指針)」を策定しているが、この指針では、(ア)労働環境の整備の推進、(イ)キャリアアップの仕組みの構築、(ウ)福祉・介護サービスの周知・理解、(エ)潜在的有資格者等の参入の促進、(オ)「多様な人材の参入・参画の促進」という5つの方針が立てられ、現在、それぞれの方針にそって具体的な対策が実施されている。


 例えば、つい先ごろ、福祉・介護の仕事の魅力を伝えるシンポジウム「福祉人材フォーラム」(7月27日)が開催されたらしいが、これは「(ウ)福祉・介護サービスの周知・理解の政策」の柱だそうだ。もう一つの柱が、国民の「介護」に対する理解を深める「介護の日」(11月11日)も創設ということだから、冗談のような話である。


 そのほかでは、都道府県福祉人材センターにおいて無料職業紹介や潜在的有資格者の再就業研修がスタートしたり、(財)介護労働安定センターにおいて、潜在的有資格者を新規雇用することに対する助成金事業(介護基盤人材確保助成金)や、職場の雇用環境改善に対する助成金事業(介護雇用管理助成金)が開始された。しかし、これらは「焼け石に水」といった程度の事業規模であり、効果がほとんど無いか、あっても非常に小さいもので、根本的な対策にはならない。


 こうした中、一番心配されるのは、「(イ)キャリアアップの仕組みの構築」である。実はこれは、介護労働力不足問題が起きるずっと以前、労働力が豊富であった時代に策定された政策なのである。本来は、労働力不足対策とは無縁の内容なのだが、どういうこじ付けが行なわれたのか、労働力不足対策に含まれている。しかしながら、これらは全て、資格高度化によって労働者の参入障壁を引き上げたり、研修によって労働者の費用負担を高めるという話であるから、労働力不足対策としては「完全に逆効果」である。


 例えば、2006年から、介護労働者は、500時間の講習と実習からなる「介護職員基礎研修」を受けることが必要になった。この研修費及び研修中の機会費用は全て労働者が負担するから、単純に考えて、これは介護労働の賃金を引下げたことと同じ効果を持ち、供給曲線が左にシフトした分だけ、介護人材不足は拡大する。また、厚生労働省は、将来的には介護職員を「介護福祉士」の資格取得者に限る方針を打ち出しているが、これも参入障壁を挙げることに他ならないので、供給曲線を左へ移動させるため、介護労働力不足を拡大する。


 以上の考察から、この介護不足問題への処方箋は明らかであり、介護報酬単価を大幅に引き上げるより他に手は無い。そもそも、市場で決まるべき価格に対して、財政の論理で、介入することがおかしいのである。また、介護報酬単価の改定が政治的な要因で決まったり、あるいは、3年に1度しか行なわれないという状況を考えると、市場の需給はスムーズに調整されず、今後も同じような問題が持続するであろう。その意味では、「介護報酬単価を自由化する」ことが本質的な解決策である。介護の分野は、医療とは決定的に異なり、「情報の非対称性」が重要ではないので、医療のように価格規制を行なうことがそもそも正当化されない。


 それでは、財政問題はどう解決するのか。それは、「混合介護」の活用ということになるだろう。つまり、介護給付としては、「介護報酬単価」に対する9割を払うが、実際の「介護サービスの価格」自体は自由につけて良いとするのである。つまり、サービスの質水準や市場実勢に応じて、「介護サービスの価格」と「介護報酬単価」の間に乖離が生じるが、それは自己負担で対処するのである。「介護報酬単価」は目安の価格に過ぎなくなるが、財政的なものを反映させる。このやり方では、「介護サービスの価格」がいくら高くなろうと、財政的な負担はある範囲内におさめることができる。自己負担と保険を組み合わせるので、混合診療と同様、このようなやり方を「混合介護」と呼んでいるのである。このように、財政の論理の介護報酬単価と、市場状況を反映した実際の価格を切り離し、つまり財政と価格を切り離すことが重要である。

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処方箋が価格の自由化であるとはなんともお粗末である。
福祉に必要なのは、自由ではなく安定である。
「介護サービスの価格」がいくら高くなろうと」なんていうのは価格が高いと利用できなくなる利用者のことを考えておらず、福祉を否定する考え方である。
経済学者に求められるのは、あたりまえの経済の仕組みを論ずることではなく、どうすれば、貧困をなくし国民の不安をなくせるかという解を示すことである。
「自由」と「不安」はまさに同義語である。
自由化すると価格を上げるどころか、もともと福祉事業は下げ圧力のほうが大きいので、経営がさらに圧迫される。職員の給与は不安定になり、さらに職場を離れる人が増える。
ワーキングプアといわれるほど福祉に関わる職員の給与が低すぎるのが問題であって、国民の平均的な年収が得られる安定した給与体系を作らないと人材不足は収まらない。
ホームレスの人も介護はやりたがらない、それだけ介護職員には生活不安があるからである。
資格の撤廃をせよとは、とんでもない話。介護サービス自体に価格による格差がでて悪質な業者が増える。貧乏人はまともな介護も受けられなくなる。 削除

2009/1/12(月) 午後 7:25 [ mas_voice ]

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、_雜邯従譴力働環境が悪い、介護サービス業者の雇用管理能力が低い、2雜醢働者が高齢化社会を支えるという生きがい・働きがいを感じられなくなった、げ雜醢働者のキャリアアップの仕組みが出来ていないために定着が促進されない、ゲ雜酳〇禹里篌匆駟〇禹療の有資格者が介護現場に居なくなったといった各要因である。経済学的観点からみると、これらは「原因」というよりは、むしろ「結果」であるといった方が良い。

その通りだと思います。

介護に携わる人の給料をまず450万円は、最低保証する仕組みが必要だと思います。
又、元気な高齢者による有償ボランティアの活用も不可欠だと思います。(高齢者の85%は、支援認定のない元気な人です。)
24万円の有償ボランティア(月2万円)
12万円の有償ボランティア(月1万円)
6万円の有償ボランティア(月5千円)
とし、地域で支える仕組みを併用しないと税金や受益者負担だけでは無理なような気がします。

マルマ

2009/11/18(水) 午後 1:26 [ 松本 ]

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2013/10/9(水) 午後 0:05 [ yh ]

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