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2012年2月9日

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「一体改革」では赤字は全く減らない (下)

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「一体改革」に関する政府試算の最も甘い部分は、厚労省が試算した「社会保障の機能強化」の2.7兆円という数字である。


厚労省は奥ゆかしくも、消費税5%引き上げで得られる税収のうち、わずか1%分しか使いませんと言っているわけであるが、そんな金額で済むわけがない。厚労省に騙されてはいけない。


ダムではないが、小さく産んで大きく育てるというのは、介護保険制度でもわかるように、厚労省の「常とう手段」である。まずは法案を通すために少ない予算に見せかけておいて、法律が通った後は、やっぱり1%では足りませんでしたとして、追加の請求書を回すのである。法律を通して制度が動いている以上、政府も追加予算を認めざるを得なくなる。


具体的に、機能強化分の2.7兆円とは、「社会保障の充実分」3.8兆円から、「社会保障の効率化」で削減されるとしている1.2兆円を差し引いた金額となっている(3.8兆円−1.2兆円=2.7兆円(四捨五入の関係で一致せず))。



■社会保障の充実3.8兆円は過少計算

しかしながら、まず第一に、この充実額の3.8兆円は明らかに過少計算である。


このブログで以前書いたように、「成案」の中で「幼保一体化」による子育て支出増として挙げられている7000億円は、単に厚労省の予算のみが計上されているにすぎない。しかし、それだけでは、保育所やこども園は建たず、運営もできないのである。


<参考>消費税引上げの言い訳に全くならない「子育て支援」
http://blogs.yahoo.co.jp/kqsmr859/35868864.html


なぜならば、現在の認可保育所の運営費は、厚労省予算の保育単価だけではなく、実際には保育士の給与等に、地方が相当額の公費を入れてようやく成り立っている状態であるからである。


また、待機児童対策には、新しい施設の建設や旧幼稚園の調理施設新設等が不可欠であるが、7000億円の中には、こうした施設整備に対する公費負担分が全く入っていない。こうした地方負担分と施設整備費交付金分をきちんと考慮すれば、かなり少なく見積もっても1.1兆円ぐらいを追加計上する必要がある(表の中の(1))。



■社会保障の効率化分1.2兆円は過大計算

第二に、「効率化分」として挙げられている1.2兆円は明らかに過大計算である。


効率化分とはいったい何を指すのか。「成案」にある内訳試算を見ると、まず、病院の平均在院日数減少で4,300億円削減できると書かれている。


しかしながら、これはまさに「空想の世界の話」であり、過去、病院の平均在院日数が減って医療費が減少した事実はない。


2003年から、DPC(診断群分類別包括制度)という入院医療費の定額払い制度が導入され、現在、1000あまりの病院で入院の在院日数を減らす実験が行われている。その検証結果をみると、在院日数が減っても医療費は全く減少していない。


それは当然の話で、病院にとっては医療費収入が減ると言うことは、病院の経営がその分苦しくなると言うことである。病院は、在院日数を減らされても、赤字経営にならないように、さまざまな対抗措置を講ずるのである。


具体的な対抗手段としては、まず、これまで入院してから行っていた諸検査を外来時に行うことが挙げられる。MRIやCTスキャンなど、入院医療費をかなりの部分押し上げているのは、入院後の検査費用であるが、DPC病院では、在院日数を減らすために、外来で検査を行うようになった。これでは、総医療費は変わらない。


また、在院日数を減らす分、入院患者の回転率を上げることも行われる。診療報酬が高いうちだけ入院させ、どんどん患者を入れ替えて、一度退院させた患者も、しばらくしたら再入院させれば、医療費を減少させずに済む。


さて、「成案」には、この平均在院日数減少の他、生活習慣病予防や介護予防でそれぞれ1200億円、1800億円もの費用が減少するとも書かれている。しかしながら、これも「全く絵に描いた餅」であり、予防で医療費・介護費が減ると言う事実はほとんど存在しない。


意外に思われるかもしれないが、医療経済学、公衆衛生のアカデミックな論文で、予防で医療費・介護費が減ったことを報告している論文は、私の知る限りほとんど存在しない。多くは、むしろ予防で費用が増えるというものである。


それは良く考えれば当たり前の話で、予防のメインは健診を徹底化することである。しかしながら、健康診断を受けようとしない人々とはそもそもどういう人かと言えば、生活習慣に何か後ろめたいことがある人、病気をもっている可能性があると自分で思っている人である。


こうした人々に、強制的に健診を行えば、かなり高い確率で、何かしら病気を見つけてくるのである。病気が見つかれば治療をせざるを得ないので、予防で返って医療費は増えることになる。さすがに、「がん」ぐらいは予防で早期発見する方が医療費が減りそうに思うかもしれないが、多くの論文は「がん」でさえ、予防でむしろ医療費が増えることを報告している。


これは、健診せずに「がん」に気づかなかった人々は、気づいた時には既に手遅れの状態となっているからである。手遅れなので医療費をあまりつかわずに亡くなってしまう。その意味で、医療費が例えかかっても、がん検診などで早期発見をすることは患者にとっては良いことであるが、しかし、それで医療費が減ると言うのは間違いである。


介護についても、残念ながら、予防で介護費が減ると言う事実は、アカデミックな論文ではほとんど報告されていない。効果があるとする論文も、費用的にはほとんど無視しうる大きさであると報告されている。こうしたことを考えると、表中の(2)にある金額は全て、効率化分1.2兆円から削除する必要がある。


■成案の負担を削った追加費用が計上されていない

最後に、昨年7月の「成案」から今年1月の「素案」作成までの間に、民主党が削り落とした分の国民負担増案について、きちんと追加費用を計上する必要がある。その内訳は、表の(3)の通りである。年末に決まった介護報酬の大幅プラス改定も、一体改革に含んでいたものではないから、きちんと計上すべきである。


このように、表の(1)から(3)の金額を合計すると、2兆5499億円が、機能強化分として追加計上されなければならない。これを厚労省が機能強化分として挙げている2.7兆円に加えると、金額は5.3兆円に増えることになる。


つまり、機能強化分として厚労省が使う消費税率は、実際には1%ではなく、2%なのである。小宮山厚労大臣をはじめ、素人ぞろいの野田政権では、こうした試算のチェックすらできない。


せっかく消費税を5%引き上げても、このように社会保障のさらなる拡大、バラマキに使ってしまえば、財政再建効果は無くなってしまう。社会保障費はむしろ今よりも効率化、削減するぐらいでないと、とても財政再建の達成は無理である。

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「一体改革」では赤字は全く減らない(上)

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野田政権が進める「社会保障と税の一体改革」において、「消費税5%引き上げ分の使途内訳」として発表されている試算が、実に胡散(うさん)臭い。


「増税の必要性を国民に真摯に説明する」と野田総理が言っている割には、全くありえないほど、いい加減で雑な試算内容である。実は、きちんとした前提で計算をし直すと、消費税5%引き上げで得られる税収を、そのまま右から左に、使い切ってしまうことがわかる。


これでは、今回の消費税引き上げでは全く財政再建にならないことは明らかだ。驚くべきことに、野田総理のよく言う「子や孫に負担を先送りしないための消費税増税」は全く「偽りの看板」であり、5%もの消費税増税をしても、実際には何の効果もないのである。



■半年前の「成案」と同じ「素案」の試算

詳しく見てゆこう。私がまずはじめに驚いたのは、昨年7月にまとめられた「成案」と、今年1月にまとめられた「素案」の消費税5%分の使途内訳が、全く「同じもの」であったことである。

・「成案」の使途内訳(24ページ(別紙3の2ページ))
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/syakaihosyou/kentohonbu/pdf/230630kettei.pdf

・「素案」の使途内訳(9ページ)
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/syakaihosyou/seihu_yotou/kourou.pdf


すなわち、成案では、消費税5%引き上げの使途は、

(1)社会保障のさらなる充実や、高齢化による自然増、基礎年金の国庫負担引き上げ分である「社会保障の機能強化」に3%、

(2)地方税分や消費税引き上げによる政府の支出増である「消費税引き上げに伴う社会保障支出等の増」に1%、

(3)それ以外の財政赤字穴埋め分に向かう「機能維持」に1%

であると称していた。


なんとも国民を小バカにしたラフな計算であるが、それはさておき、昨年7月に決まった成案から今年1月の成案まで、何があったか思い出してみよう。


まず、7月の成案では、社会保障制度の改革として、(1)年金の支給開始年齢引き上げや、(2)高所得者の年金給付見直し、(3)70〜74歳の医療費自己負担引き上げ(2割→1割)、(4)外来時に毎回100円を徴収する「受診時定額負担」など、国民に痛みの伴う負担を迫る内容が盛り込まれていた。


しかしながら、その後、昨年末にかけて民主党内での協議を続ける中で、選挙に不利と感じた民主党の政治家によってこうした負担増部分はすべて削り取られ、給付拡大やバラマキばかりが残ったことは記憶に新しい。


また、昨年12月に決着した「国と地方の協議」によって、消費税増税分の地方の取り分は、現行の1%ではなく(国4%:地方1%)、1.54%(国3.46%:地方1.54%)に増やすことが決まった。


このような重要な変更が行われたのにもかかわらず、今年1月「素案」の厚労省試算において、「社会保障の機能強化」3%、「消費税引き上げに伴う社会保障支出等の増」1%、「機能維持」1%と、全く「成案」と同じ試算内容となっているのは、あからさまにおかしい。こんな単純なことでさえ、民主党政権の政治家は、チェックができないのであろうか。


その後、こうした指摘が私などから行われたせいであろうか、新しく就任した岡田副総理・一体改革相は、1月20日に、「5%引き上げ分は全てを社会保障に使う」として、その内訳を「社会保障の充実が1%、現在の社会保障制度の維持が4%」と言い直した。そして、冒頭に挙げた表の「政府試算」の具体的な金額を、テレビなどで盛んに発表し始めたのである。



■財政赤字の改善幅は7兆円?

そこで、表の政府試算の内容を確認してゆこう(表の左側の列)。まず、一番上の(1)収入合計は、消費税5%引き上げ分の税収で、13.5兆円である。1%分の税収を2.7兆円としているのは、少し大きすぎる気もするが、これには目をつぶっておこう。支出面の方がさらに問題が大きいからである。


支出内容は、合計が12.1兆円。その内訳は、a.社会保障の機能強化が2.7兆円、b.基礎年金の国庫負担引き上げ分が2.9兆円、c.地方分が2.7兆円、消費税引き上げに伴うコスト増が0.8兆円、高齢化に伴う自然増が毎年1兆円とのことなので2015年までに3.0兆円の自然増となる。


つまり、収入合計13.5兆円から支出合計12.1兆円を差し引いて、収支差が1.4兆円となるから、まず第一に、この収支差の黒字分が財政赤字の穴埋めに使われ、財政再建が進むという目論見である。


もっとも、岡田副総理は「後代への負担のツケ回しの軽減」として「7.0兆円」という数字を盛んに挙げている。つまり、プライマリーバランスの財政赤字の改善幅が7.0兆円だと言っているわけであるが、これは、c.地方分2.7兆円+e.自然増3.0兆円+収支差1.4兆円の合計額7.0兆円のことであるとみられる(表の黄色部分左側)。



■甘すぎる政府試算

しかしながら、この数字は、いろいろな意味で間違っている。右側の鈴木試算と見比べながら確認してゆこう。


まず、支出内訳のa.機能強化であるが、後で詳しく説明するように(「一体改革」では赤字は全く減らない(下)を参照)、これは2.7兆円ではなく、少なくとも5.3兆円と見積もるべきである。厚労省の官僚が作った数字は、相変わらず政治的で、きわめて甘いものとなっている。


次に、c.地方分であるが、消費税1%分の2.7兆円ではもはやありえない。地方との協議で消費税1.54%分と決着したのだから、表の右側のように、0.54%分を増やして4.2兆円となるはずである。


次に、e.自然増も、毎年1.0兆円ではなく、民主党政権になって以来、毎年1.3兆円、1.4兆円というペースで増加している。今後も、「団塊の世代」が大量退職してますます自然増は大きくなるとみられる。したがって、固く見積もっても毎年1.3兆円、3年で3.9兆円とするべきであろう(表の右側)。


こうした点を修正すると、支出合計は政府試算の12.1兆円ではなく、右側の17.0兆円となる。収支差は、政府試算の1.4兆円から大幅にマイナスとなり、マイナス3.5兆円である。


もっとも、プライマリーバランスの赤字改善幅(後代への負担のツケ回しの軽減)という意味では、このマイナス3.5兆円に、自然増分の3.9兆円を足す必要があるから、差し引きでプラス0.4兆円となる(表の黄色部分右側)。しかし、これはほぼゼロと言うべきであり、消費税引き上げはほとんど財政再建に結びつかないと解釈すべきである。



■地方分は赤字削減に含めるべきではない

ちなみに、政府試算(表の左側)の「後代への負担のツケ回しの軽減」7.0兆円には、地方分の2.7兆円が加えられていたが、右側の鈴木試算では加えていない。これは、地方分の税収増は当然、地方が歳出すると考えられるからである。政府試算がなぜ、地方分をプライマリーバランスの赤字削減になると考えているのか、私には理解不能である。


ひょっとすると、「地方分も使途を社会保障に限定するから、予算規模を増やさず、社会保障の赤字穴埋めに使うだろう」という淡い期待を持っているのかもしれない。しかし、地方の社会保障支出は、地方単独事業だけでも6.2兆円と、今回の地方分1.54%分より大きい。


当然、使途が限定されても、既にある単独事業を消費税の増収分で賄っていると会計操作するだけである。お金に色はついていないから、実際の消費税の増収分は、他の項目の支出増に振り向けたり、さらに社会保障の支出増に振り向けるなど、自由自在である。そして、こうした地方の歳出増という裁量に、国は口出すことはできない。「後代への負担のツケ回しの軽減」分に地方分を入れるべきではない。



■消費税還付を考えると、財政赤字は返って拡大する。

ところで現在、一体改革の説得のため、安住財務大臣が全国行脚を行っている。その中で、低所得者への消費税還付や、住宅投資分の消費税を徴収しないという発言を行っている。当然、その分も一体改革の収支に考慮する必要があるだろう。


低所得者への還付は、最終的には「勤労付き税額控除」にするという話であるが、これは国民共通番号制導入や歳入庁創設をした上でしか実施できない。そこで現在考えられているのが、高齢者や障害者などへの簡素な現金給付である。先日、「年額1万円の現金給付」を予定しているとの報道がなされたが、政府内ではまだ、どのようなものになるか固まってはいないようである。


そこでとりあえず、97年の消費税2%引き上げの時に行われた「臨時福祉給付金」程度の小規模な給付を想定すると、年額2370億円(2%分の948億円を5%分に換算)の予算規模となる。


また、住宅投資分の消費税を徴収しないということであるから、この分も計算する必要がある。昨年度のGDPの消費+住宅投資に占める住宅投資の割合を計算し(4.4%)、これを消費税増税額に掛け合わせると、5979億円である。これを、住宅投資分の消費税控除の予算規模と考えることにしよう。


すると、低所得者還付と住宅投資控除を合計して8349億円となるが、この金額を先ほどのプラス0.4兆円から差し引くと、表の一番下にある「(5)税還付分を含むツケ回し軽減」右側の金額、つまり、マイナス0.4兆円となる。消費税をせっかく5%引き上げても、それ以上に浪費してしまうので、全く財政再建にならないのである。


注意しなければならないのは、この計算には、消費税引き上げで景気が悪くなり、法人税や所得税収が返って少なくなるという景気要因は全く含まれていないと言うことである。実際にはあり得ないことであるが、5%の消費税引き上げ分13.5兆円が、まるまる全て税収増につながると想定しても、それでも、財政赤字は減らず、財政再建にはならないのである。


まさに、大義なき「一体改革」としか評しようがない。何のための消費税引き上げなのか。今週からは、野田総理までもが、今回の5%引き上げに加えて、次の5%引き上げに言及し始めたようであるが、そんなことを言う前に、一体改革における社会保障費拡大を止めるべきである。

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鈴木亘
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開設日: 2008/5/20(火)


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