メタル馬鹿一代!

最近、ガリバー旅行記に出演している、俺の偽物が出没しているので注意

『AGAIN』25話 最終回

 飯田は、あせっていた。踏切内に、人影がある。
「自殺者か?」
 飯田は、列車を減速させた。
 立って乗っている乗客が居る以上、必要以上に急ブレーキをかけることは出来ない。
 乗客に怪我人が出てしまうかも知れないからだ。
 最大限、ギリギリのラインでブレーキをかけ続けた。

 それでも、到底止まれる距離ではない……

「くそう、退いてくれないかな?」飯田は、プワーーーーンと警笛を鳴らした。
「うん?二人いる? おいおい、冗談じゃないぜ」飯田は、多少のリスクを覚悟して、強くブレーキを掛けるべきか否か、迷った。
「くそう、もう間に合わない」飯田は、もう一度警笛を鳴らし、ブレーキを強めた。
 ギィィィィィィィィと軋む音を発ててブレーキが鳴る。しかし列車の膨大な慣性力は、そう簡単に無くなってくれる物ではなかった。
「もう駄目だ!……あれ?」飯田の目の前で最初に立っていた方の人影が、忽然と消えた。
「馬鹿な!」ひとつの人影が消えた瞬間、もう1つの動かなければ事故にならない位置に居た人影がドンドンと中央に寄ってきた。
「何やってんだよ、逆だろ!……ええぇっ!!」飯田は、見てはいけない物を見てしまったと思った。

 その人影を無数の手のひらが、突き飛ばした。
 その人影は、警察官だった。
 そして本当に最後の最後、運転席の飯島の顔を見た。

 ギィィィィィィィィィィ!!
 列車は、踏切を50m程通過して止まった。
「どうした飯田?」車掌が、業務連絡を入れてきた。
「ただいま、踏切内で人身事故が発生しました」
「なに! 飛び込みか? 了解しました」
「私は、今から救出に向います」そう言って、飯田は外に出た。
飯田が歩くと、ザッザッっと砂利を踏む音がした。
 飯田は、目視による点検と事故者の救出を行った。と言っても列車の前では、人なんか水風船みたいな物。救出とは名ばかりの、人間であった欠片を拾い集める作業だ。
 飯田は、さっきの幻のような光景を思い出した。
「やっぱりあれって、テレビでよく見るあれかな? 地縛霊ってやつ……」飯田は、怖くなってきた。
「あれだよな、確か、関係ない人も巻き込んじゃう邪悪な霊も居るとか……自殺の名所ってそう言う念みたいな物が渦巻いているから、自殺が後を絶たないとか……うわっ」飯田は、物音に首をすくめた。
「まさかね……」恐ろしくて、キョロキョロと周りを見回した。
「……」かすかに何かが聞こえた。自分の西側の草むらだ。
 その草むらは、セイタカアワダチソウが鬱蒼と茂っていた。
 飯田は、セイタカアワダチソウを掻き分けてみた。
 そこには、鳩尾から上の部分の木島がいた。
 両腕も無く、美術室のブロンズ像のようだった。

 出来たてのブロンズ像は、微かに口を開くと……
「いてぇ……」と言った。

「うひぃ!」飯田は、二、三歩後退りして振り返り、「わーーーーー」と言いながら走り去った。

「なんだあの野郎?……」木島は、毒を吐いた。
「くそったれ。職務怠慢だ! 俺は生きてるぞ、助け呼びやがれ!」木島は、下半身が無く、両腕も無い、まさに手も足も出ない状態だった。

「驚いたね、あれで生きてるんだ」真奈美が木島の顔を覗き込んだ。
「てってめぇ!」木島は、首を何とか動かし真奈美を見た。
 不思議な事に、喧嘩がメチャ強い例の高校生もいた。
 その高校生の影に隠れるように、もう一人の真奈美がいた。
 そっちの真奈美は、なるべく木島を見ないようにしていた。
「なんだ? なんで二人いるんだ?」
「いんだよ細けぇ事は」そう言って、涼は木島の即頭部をカカトで軽く蹴った。
「いてぇ! なにしやがる! 怪我人には、優しくしろ!」
「馬鹿野郎! てめぇの痛みなんざ、この人達の痛みに比べりゃ屁でも無え!」涼がそう言うと、どこからともなく、4人の亡霊が現れた。
 亡霊は後藤を囲うように立ち、憎悪の表情で木島を睨んだ。
「しかしタフだね。死んでくれなきゃ、俺が上から叱られる」調整者は嘆いた。
「調整者さん、コイツにはこのまま生きて貰いましょうよ。どうせ下半身無いから、悪さも出来ない」
「うーん」調整者は、腕組みをして考え込んだ。
「それも悪くないかもね、恐らく死より厳しいからね」
「死なずに、コレまでの罪を償ってもらいましょう」
「そうだな」

 涼と二人の真奈美と4人の亡霊は、その場から立ち去った。

「ちょっと、何それ……おい! ねぇってば!」木島は、置き去りになった。
 カラスが一匹飛んできて、木島の胸の上に止まった。
 カラスがカーカーと鳴くと、遠くからカーカーと返事が返ってきた。
 暫くすると、一匹、また一匹とカラスは増えていき、遂には7、8匹が木島を囲った。
 一匹がカァーーと合図すると、カラス達は、一斉に木島に襲い掛かった。目を突く者、はみ出た臓物を引っ張る者……

「やめろーー!!」木島の悲鳴は、空虚に響いた。

 翌日の新聞には「自殺者を助けようとした警察官、列車に轢かれるが奇跡の生還」と報じられた。
 その日はマスコミの報道も木島を英雄の様に扱ったが、その数日後、真奈美と後藤、西島の証言より、木島の別荘が調査され、庭から4体の死体が発見された。
 マスコミは「自殺者を助けた英雄の素顔は、連続レイプ殺人犯だった」と報道。
 ワイドショーでも連日取り上げられ、ああでもないこうでもないと勝手な憶測が飛び交った。
 木島の父は、代議士を辞任した。
 警視庁始まって以来のゴシップに、警視総監のクビすら無事ではなかった。

 木島の生命力は、相変わらず凄まじかったが、さすがに欠損した下半身と両腕は再生されず、下半身と両腕を失ったまま生き続けた。
 そんな木島に降りた判決は「死刑」だった。
 数年後、死刑執行されたが、木島が死ななかったことは、言うまでも無い。


 さらに数年後……
「ねぇ、ママ。なんで僕にはパパが居ないの?」真奈美は、息子の翔に言われた。
 涼は、やはり長く生きることは出来なかった。
 翔は、涼と真奈美の間に生まれた子だった。
「翔は、神様からの授かり物なの、それじゃ駄目?」
 真奈美は、翔を抱きしめた。

 部屋のステレオから『More Than Words』が流れていた。
 

                                    了

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開設日: 2006/9/23(土)


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