小説を書きながら。

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空ちゃん家の事情すりー

木之下空たち鬼の一族は、幼少の頃より「戦いとは何ぞや」を叩き込まれる宿命にある。
が、それは決して虐待的な訓練を強いるものではなく、基礎は遊びの中から学んでいく。
鬼、というと分厚い肉のような手で、お世辞にも器用なイメージはない。
しかしながら、ここに住まう鬼たちは5才の頃より引き抜いた守り刀で、様々な工作に励む。
たとえば、適当な木の枝を削って、川魚を捕獲するためのモリを作ったり。
 
空がまだ6才の頃だった。
季節は夏。
川の底に潜むアユを捕るのが、鬼の子どもたちの間でブームになった。
「それ以上は深い、流れが速いから行くな」。
監視役の成人した鬼が数名付き添い、子どもたちは必死になってアユを追う。
川の水は煮沸するだけで飲めるほどに清らかだ。どこまでも澄み渡り、アユの黒い背中がよく見えた。
ほとんどの鬼の子は手で捕まえようとやっきになる。
動体視力および反応速度を遊びながら向上させることが出来る。
そんな中、空だけは違った。
アユ捕りは今日で三日目で、二日目までは彼女も手による捕獲を頑張っていた。しかし成果はなかった。
「わけてあげるよ」と幼子といえど鬼の握力で掴まれ、爪を立てられたせいで血だるまになったアユを差し
出されても、空は初日も二日目も受け取らなかった。
そんな彼女は懐から守り刀を取り出して、木の枝を削って先端を尖らせている。
二本目を削り終わったところで疲れが出たらしく、空は作業を終了した。
無理もない、天然木というものは加工が極めて難しいのだ。
だから何年と乾燥させて、木材となった上で加工する。
しかし空の作ったそれは対人兵器として通用するほど鋭い木の槍だった。
空は短刀の手入れを監視役に頼むと、木の槍を持って川へと入っていった。
このとき、監視役は「自分の足を突いて、えらいことにならないか」と心配したそうだ。
が、その心配は杞憂に終わった。
空は出来るだけ尖った部分の近くを持ち、十分に足を開いて、気配を絶った。
「鬼のかくれんぼ」で身に着けた気配遮断能力は「断つ」というより「絶つ」。
野生のアユとて気付かない。
「……やっ!」
まるで積み上げた瓦を下段突きで割るような、そんな動きだった。
そして空は嬉々とした顔で槍を高々と持ち上げた。
アユのエラを斜めに貫き、自身初の成果をあげたのだ。
このような捕り方をしたのは空だけだった。
それゆえに空は周囲から注目を浴びたが、
「でもこれなら、おてても汚れないし、アユも苦しくない」
と、さらりと言ってのけた。
きっと手掴みでも捕れていたのだろう、しかし、アユが苦しむこと、自身の手が必要以上に血で染まる
泥臭さを気高い王族の血が許さなかったのだ。
だが、いつの時代、どこにでも難癖をつけたがる者はいる。
 
「それなら守りの短刀で済むだろ、バカだな」
こんな具合に、ガキ大将の男子が言った。
もっともだ、と賛同するのはガキ大将の弟分たちだ。
「大体、道具を使うなんて卑怯だ」
こんな声まで上がり始め、しかし一部の男子と女子全員が空を擁護し、ガキ大将とその弟分たち、そし
て大半の男子が空のことを「卑怯者」と呼び、口論になった。
でも、その口論の原因である空は涼しい顔をしている。
「ほら、空ちゃんも何か言い返しなよ!」
「やっかむんじゃねえよ、男のくせに!」
空の正当性を主張する声が上がれば、その逆の声が上がる。
監視役はこのような争いには一切関わらない。
「あー、空の持ってる槍、あれをケンカの道具にされたらなあ」
「ほっとけ、ほっとけ。空は一度だって里の子に怪我させたことねぇよ」
「まあな、むしろ、あのガキ大将がなあ」
「アレだよ、空のことが好きなんだろうよ」
こんな調子で、「子どものケンカなんて知るか」と言わんばかりの放任主義者たちだ。
 
ようやく、空は口を開いた。
「ナっちゃんは、そらのこと、嫌いなの?」
ナっちゃんとは空がガキ大将を呼ぶときのあだ名だが、
「その呼び方やめろ、ナツキだ、バカ空!」
「あー、またバカって言ったあ、空ちゃんに悪いと思わないの!」
「うるせえ、空以外は黙ってろ!」
それで静かになるような連中ではない。
そして空を擁護していた子どもたちは空に発言を求めるようになった。
空は、ため息まじりに、しかしちゃんとナツキの目を見て言った。
「そらは、ナッちゃんのそういうとこ嫌い」
「え……」
「そらが『たたかいのおう』の"しかく"をとられたとき、石ぶつけたの、ナッちゃんだよね」
「そっ、それはもう、謝っただろ!」
空はそれについては無視してこう続けた。
「なんでさ、なんで、いつもいつも、そらに意地悪するの? そらが『おうぞくのむすめ』だから?」
その発言にナツキより早く反応した人物がいた。
空やナツキより一つだけ年上、7才のシンという鬼の男子だった。
いつも大人しくて地味な印象だが、腕っぷしもナツキに劣る。が、里でも利口で知られる少年だ。
「空、そんな難しい話じゃないよ」
「シンくん?」
「簡単だ。ナツキはお前のことが好きなんだ。でも、上手に言えない。だから、意地悪をして少しでも
空と関わりたいんだよ」
「そらはナッちゃん嫌い。威張るし、意地悪だし、なんか、そらより『おうさま』みたいだし」
シンは笑った。
そこへ、
「このやろう!」
ナツキは顔を真っ赤にして、シンの頭を殴った。
「いっ、てッ!」
シンはよろめいて、空は慌ててシンを抱きとめた。
そのとき初めて空の目に怒りの炎が宿った。
あのとき、継承権剥奪のことをバカにされて以来の、空の本気の怒り。
殴られた箇所が悪かったらしく、シンは涙をこらえるあまりに変な息の仕方をしていた。
そのことをナツキの弟分たちは笑う。
空はアユの刺さった木の槍を河原へ投げ、シンが一人で立っていることに気付くと、ずいっとナツキに詰め
寄ったかと思うと、その頬に渾身の平手打ちを喰らわせた。
ナツキの頬が完熟トマトの色に染まり、腫れあがった。
ガキ大将としてのプライドはズタズタだった。
顔がくしゃっと丸めた紙みたいになって、両目から大粒の涙がこぼれそうになった瞬間、
「泣くな!」
監視役の鬼らさえ驚くほどの空の怒声だった。
「威張りたいなら威張ればいい、意地悪したいなら意地悪すればいい、でも! 関係ないシンくんを殴るなん
てバカすぎるよ!」
「お前は女のくせに生意気なんだよ!」
「じゃあチンチン買ってくるよ!」
その場にいた全員が凍った。
空と仲の良い、アカネという女子が、
「空ちゃん……、その、買ってくるって、どこで?」
「チンチン屋さん。知らないけど、市場に行けばあると思う」
「あの……買えないと思う」
「徹夜で並ぶよ?」
「いやいや、ゲーム機じゃないんだから」
「さつまいもを持っていこう」
「それ水飴工場に行くときね」
「そっか。じゃあ、チンチンのお金と、奉納するためのお金だね」
「うん、それ収穫祭だね。あのね、空ちゃん、アレは、あの、生えてるものだから……」
「えっ、アカネちゃん生えてるの? 触らせて!」
素早く空はアカネの鬼装束の裾に手を入れて、彼女の股間をまさぐった。
女子の鬼装束は性器を布で覆わない。
アカネは大変面倒見の良い子らしく、空の気が済むまで触らせた。
「……つるつるだ、生えてない。空といっしょだ……」
「うん、その、男の子のアレは、元々なんだよ、きっと」
「えっ、じゃあ、そらは一生、女なの?」
「うん、一生。死ぬまで」
「そっか、わかった」
「あと、女の子はあんまり人前でちんちんとか、言っちゃだめってお母さんが言ってた」
「はい、わかりました」
と言った上で、改めて硬直しているナツキに彼女はこう言い放った。
「ナッちゃんは威張ってもいい、意地悪してもいい、けど、そらは自分の好きにやりたい! だから、生意気
でも何でもいい、ナッちゃんのチンチンちょうだい!」
「空ちゃん!」
「なにさ、アカネちゃ……あ、ちん……じゃない、早速、NGワード言っちゃった」
「それもそうだけどっ、アレは自由にもらったり、あげたりするもんじゃないの!」
「ちゃんと大事にするよ? きれいに洗うよ?」
「だから、取り外しが出来ないの! 生えてるから!」
そんなやりとりを見ていたナツキは、いきなりケラケラと笑い出した。
「はははっ、そ、空、お前、面白いなあ!」
空も笑った。
シンも殴られた痛みが治まったのか、肩を震わせて笑っていた。
アカネは少し心配そうだったが、笑った。
気が付けば、皆、笑っていた。
 
 
 
あとがき
空ちゃん家の事情すりー、お届けしました。深夜だよ、もう。
しかし鬼の里の話はめちゃくちゃ書きやすいし、面白い、楽しい。
話の雰囲気としては「あずみ」をモデルにしてるんだけど、こう、今、現実世界にあるモノと、太古の自然、
あと、僕が祖父母から聞いた昭和の話を融合させると「鬼の里」が生まれます。
徹夜で並んでゲーム機を買う(現代)
さつまいもを工場に持っていくと水飴にしてくれる(昭和)
天然(養殖の可能性もあるが)アユの住んでいる川(失われつつある太古の自然)
 
忘れてた、僕の子供時代の思い出。
これくらい無邪気だったなって今なら思える。
美化しているのかもしれないけれど、いつの時代も子どもってこんなんじゃね?みたいな。
ただ「鬼の一族」なので、そう簡単に泣きわめいたり、めちゃくちゃなケンカに発展しないっていうのがある
し、小説作法も守っていないから、自己満足の範疇だ。
でもこうやって自由気ままに物語を書く、それが未来への糧となる。
この自己満足がもし誰かの目に留まって、少しは楽しめたら嬉しい。
以上です。

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