人と水−日本からアジア太平洋地域へ−
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第1回アジア・太平洋水サミット開会式における皇太子殿下記念講演 平成19年12月大分県別府市 人と水−日本からアジア太平洋地域へ− 水問題に対するこのような関心の下で,2003年に京都・滋賀・大阪を舞台に開催された「第3回世界水フォーラム」の名誉総裁を務めさせていただきました。その際,「京都と地方を結ぶ水の道」と題して,日本のかつての都であった京都を支えた水運についてお話をいたしました。また,昨年メキシコ市で開催された「第4回世界水フォーラム」では,東京がかつて江戸と呼ばれていたころ,その発展に水がいかに密接にかかわっていたかについてお話をさせていただきました。 今回は,ここ大分にも関連する瀬戸内海の水運の話を皮切りに,日本人と水とのかかわりの歴史や世界の水問題についても触れながら,私の水に対する思いを述べてみたいと思います。 2 交流を支える水(1)古代・中世の瀬戸内海水運(2)アジアや世界との交流 3 水の多様な性格と役割(1)水の恩恵(2)「足りない水」と「多すぎる水」 (3)日本人と水の様々なかかわり 日本の他の地方に目を転じると,瀬戸内地方とはまた違った形で,人と水とのかかわりを見ることができます。とりわけ,国土の5分の4を占める山々は,各地域の水循環に大きな影響を及ぼしています。 これは東北地方に位置する鳥海山です。昨年この山に登った際,案内の方から鳥海山に積もった雪の雪解け水がブナ林を涵養し,伏流水となって山麓の田畑を潤し,やがて日本海に注いで岩牡蠣をはぐくんでいると伺いました。 日本海に面してそびえ立つ2,236メートルのこの山の稜線はそのまま海に入り込み,海中まで山麓が広がっています。山に降った雨や雪が川の水となり,また,地下に潜るなどとその姿を変えながら,自然を育て,農業や漁業を営む人々の生活を支える。そして,それを大切に守っていこうとする人々がいる。水循環と人間とのかかわりを改めて感じ取った次第です。 また,大分県の西に位置する熊本県では,県土の約6割を占める森林が良質で豊富な地下水をはぐくんでおり,上水道の約8割が地下水で賄われています。 特に,古くから「水の都」と呼ばれる熊本市では,阿蘇山の火砕流堆積物などでできた地層に蓄えられる地下水でそのすべてを賄っているということです。 このように,日本では,人々がその多様な自然条件に合わせて水との付き合いを続けてきたのです。 水は人の心とも深くかかわっています。日本の古い都である奈良の東大寺には「修二会」と呼ばれる行事があります。 「お水取り」はその中で執り行われるもので,毎年3月12日の深夜に,遠く離れた若狭の国(現在の福井県)から送られてくるという伝説のある水を若狭井からくみ取る神秘的な行事です。これは,来るべき春に向けて,この水をくむことにより邪気を払う習俗とかかわるものと言われています。 修二会は,大松明(おおたいまつ)が堂内を駆け巡り,激しく床に叩きつけられるなど,勇壮な火の祭りでもあります。水と火という人間にとって最も根源的なものを組み合わせながら,1250年もの長い間,一度も絶えることなく続いているのです。人々の心の奥底に水への敬虔な思いが潜んでいるからこそでありましょう。 4 水をめぐる世界の状況と今後の取組(1)ミレニアム開発目標ここで世界の水問題について考えてみたいと思います。 国際社会が2015年までに達成すべき8つの目標を掲げた「ミレニアム開発目標」を見ると,そのすべてに水問題が深くかかわっていると言っても過言ではありません。 例えば,女性の地位向上や初等教育の完全普及といった目標の達成のためには,女性や子どもたちを水くみ労働から解放し,また,コレラや腸チフスなど非衛生的な水に起因する病気を減らしていかなければなりません。水にかかわる病気のために約10秒から20秒に一人,子どもの命が失われているという事実には胸が痛みます。 しかし,安全な飲み水と基本的な衛生施設に関する目標について見ると,水供給の分野は比較的順調であるものの,衛生の分野では立ち遅れが見られ,特に,地方部では深刻な問題となっています。アジア太平洋地域においてもこの傾向が顕著です。 (2)国際衛生年皆さんご承知のとおり,来年は「国際衛生年」です。立ち遅れの目立つ水と衛生の問題への取組と啓発が一層推進されることが望まれます。そして,こうした取組を進めるためには,国家間の協力だけでなく,水供給や衛生施設の供給を担う地方自治体や,実際に現地で活動している市民団体の間のネットワークの構築が何よりも重要です。こうした動きは既に始まっており,「国際衛生年」をきっかけに,今後大きな流れとなっていくことが期待されます。 また,こうしたネットワークの構築だけでなく,衛生施設の整備そのものについても今までとは異なる発想が求められているのかも知れません。 例えば,近年,水の消費を抑え,屎尿を肥料として再利用する「自己処理型トイレ」に注目が集まり始めていると聞いています。これは富士山の山小屋に設置されている自己処理型のバイオ・トイレです。 この会場にもこのようなトイレが置かれ,参加者が試すことができるようになっています。開発途上国での普及を図るためには,大幅なコスト削減などまだ多くの課題を抱えているようですが,こうした新たな技術の今後の進展に期待したいと思います。 (3)地球温暖化問題水問題は,気候変動との関係でも大きな問題となっています。地球温暖化の結果,海面上昇や異常気象の頻発はもとより,災害の激化や大規模な水不足など,人類の諸活動に様々な悪影響が生じる可能性が危惧されています。近年は,世界的に大雨が増加する一方,干ばつの影響を受ける地域も一部で拡大しており,アジア太平洋地域で頻発する水関連災害による大きな被害に私も心を痛めています。 今年公表されたIPCCの第4次評価報告書においても,ヒマラヤ山脈の氷河の融解による洪水や雪崩の増加など,アジア太平洋地域への深刻な影響が予測されています。 また,この場にも多くの太平洋地域の首脳がお集まりですが,特に島嶼部では,海面上昇による浸水,高潮,侵食などの沿岸災害の増加と利用可能な淡水量の減少が強く懸念されているところです。 いずれも,このサミットでの重要な検討テーマだと伺っており,その解決に向けて建設的な議論が行われることを期待しております。 5 おわりに以上,交流を支える水,水の多様な性格と役割,そして水をめぐる世界の状況と今後の取組についてお話をしてまいりました。日本においても,地域の置かれた自然条件や地理的条件を踏まえつつ,海外の知識と経験も活かしながら,人と水との豊かなつながりを築く努力を積み重ねてきた歴史があるということを少しでもご説明できたらと思う次第であります。 水問題はすべてが相互に関連しています。水供給,衛生,洪水対策などと,それぞれが独立して存在するものではありません。 その解決のためには,水が有する多様な性格をできるだけ幅広く認識し,総合的・統合的な観点を持ちながらも,関係者の創意工夫と連携の下で,地域の実情に合った取組を一つ一つ着実に進めていくことが重要かと思います。 このサミットにおいてアジア太平洋地域の抱える多様な背景を踏まえた議論が行われ,地域共通の課題の解決に向けた具体的提言が発信されるとともに,それが世界全体の水問題の解決にも資するものとなるよう心から願って,私の話を終わらせていただきます。
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