【屍鬼SS】田中昭の数日間
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こんばんわ
yukuです。
田中姉弟が結城夏野と結託し
起き上がり退治に乗り出してからの
あの数日間について
昭目線で妄想の羽をはばたかせてみました☆
黄昏時、夕暮れの迫ったグラウンドには
昭と夏野以外に人影はない。
かおりは「これ以上留守番をすっぽかせない」と
先に帰って行ったのだ。
「もしも、もしもだ。
起き上がりに遭遇したとして
それが自分の親しい奴だったりしたら
それでも昭は杭を――打てるか」
「打つ!・・・・・・ていうか打つしかないんだろ。
だってそうしなきゃどんどん
起き上がりたちは増えてくんだし。
だったら親しい友達だってなんだって、やらなきゃ。
おじけづいてなんかいられないよ」
「そうか」
そう答える夏野の声は暗い。
「兄ちゃん、どうしたんだよ。
なんか今日、本当に元気ないよ」
昭は昨日とは違う夏野の様子に
不安げな表情でそう尋ねた。
「いや・・・
最近いろいろあってさ、ちょっと寝不足なんだ」
夏野は弱弱しく笑いながらそういうと
「昭の言うとおりだな。
たとえどんな親しい奴でも
起き上がりは起き上がりだ。
やらなきゃこっちがやられる。
打つしか、ないよな」
「兄ちゃん・・・・・・」
すでに陽はつるべ落としに傾き
昭と夏野の影は足元に長く伸びる。
昭はふと思い立ったかのように
ブランコに腰かけてうつむき加減に
何事か思案している風の夏野に向かって
腕を突出し、
「兄ちゃん、約束だ。
俺たちは起き上がりたちを倒すまで
絶対に死なないこと。たとえどんなことがあっても。
かおりにも言っとくよ。
もし起き上がった恵がかおりに会いに来ても
ビビらずちゃんと杭を打つように。
かおりのヤツ、恵が大好きだったからな。
いざとなったら、ワタシそんなことできないとかっていって
襲われても抵抗できないかもしれないからさ」
夏野はのっそりと顔を上げる。
逆光で昭の表情までは窺がいかねたが
その眼だけはキラキラと輝いていた。
「・・・わかったよ」
夏野は苦笑してからゆっくりと片腕を上げ
昭の伸ばした腕のげんこつに自分のげんこつを当てた。
――約束だ
たとえ、親しい誰かが起き上がってこようとも
自分たちは杭を打ち、鬼を退治し
生き延びるんだ。
絶対死なない。
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次の日、夏野はさらに具合が悪いようで
足元もおぼつかない様子だった。
貧血でついにうずくまってしまった夏野を
かおりとふたりで抱え、自宅まで送り届ける。
のっぴきならない事態が自分たちに降りかかろうとしている。
なのに夏野の両親はちっとも事の重大さを分かってないみたいで
ただちょっと体調を崩しただけだろうという態度を崩さない。
昭は急に起き上がり退治に対し、
高揚していた気分がしぼんでいくのを自覚していた。
かわりに昭の小さな胸をどす黒く覆うのは
大きな不安。
「兄ちゃん・・・大丈夫だよな」
昭は夏野のことを思うといてもたってもいられなくなる。
まだ知り合って数日だが
昭は夏野という人間が好きだった。
両親や姉、学校の教師、クラスメイト
そのいずれにも感じたことのない
情景の念を夏野に抱いていた。
だから昭は、夏野と結託し
行動を共にすることがうれしくて仕方がなかったのだ。
夏野の隣を歩けるのが誇らしく、昭の胸は熱いもので満たされた。
・・・・・・失いたくない。
そう思ったあと、昭はいったん思考を中断させる。
――失いたくない・・・などとは縁起の悪い。
自分が夏野を失うわけないじゃないか。
そんなことはありえない。
絶対にあってはならないことなのだ。
*******************************
「――そっとしておいておやりよ。
その家は息子さんが亡くなられたそうだよ。
今朝、葬儀屋の車が来ていたから」
どこか悄然とした風の夏野父に門前払いをくらった
昭とかおりは、それでも未練がましく勝手口に佇んでいるところへ
そのように近所の住人に声をかけられた。
「・・・死んだ???嘘・・・結城さんが・・・」
かおりは真っ青になりながら昭の方を見遣る。
昭は声が出ない。
ただ、喉の奥の方で何やら熱い塊がつかえて
それが昭をひどく息苦しくさせていた。
――もう二度と、夏野には会えない
あれほど死なないって約束したのに。
どうして、どうして。
昭は血がにじむほど強く
こぶしを握りしめた。
かおりはしくしく泣き出した。
昭も思いっきり泣きたかった。
だが・・・・・・自分はまだ泣けない。
夏野を失望させたくなかった。
ここでめそめそ泣いても
なんら事態が好転するわけはない。
今、自分がしなければならないこと。
それは起き上がりの正体を暴いて
杭を打つこと。
夏野が逝ってしまった今
かおりを、両親を、そして村を守れるのは
自分しかいないのだから。
泣いている暇など寸分たりとも昭にはないのだ。
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「水口の郁美さんちもさ。
あそこは空き家だっていうのに
ときどき物音がするそうだよ。
しかも前田の巌さんを見たって人もいて
もうどうなっているのやら・・・」
タケムラの前でたまっている老人の一人の言葉に
昭は立ち止まった。
「それ、どこ?!」
昭は走る。
杭を片手に。
ようやくつかんだ起き上がりの手がかり。
――俺はやるよ、兄ちゃん
勇気がほしい。
賢さがほしい。
夏野がいなくなって寂しくて寂しくてたまらない
それでも孤独に負けず鬼に立ち向かえる強靭な心がほしい。
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目が覚めたらいつの間にか時計の針は
夕方の5時をさしている。
そろそろ起き上がりの領分の刻限だ。
昭はどうやら何者かに背後から襲われ
今まで気絶していたようだ。
柱に括り付けられた体は
抜け出そうとしてもぴくりともせず
目の前には獲物を見つけた獣の気配を漂わせ
まさに前田巌が起き上がり昭をじっと見据えていた。
――だめだ、やられる・・・
前田巌はゆっくりと起き上がり
身動きの取れない昭に歩み寄り
そして昭の首筋に牙をあてる。
「んんんんん!!」
あまりの恐怖に昭は悲鳴を上げ
しかし、しっかりと口元をガムテープで閉じられていたため
くぐもった音しか出なかった。
そして昭は再びそのまま意識を失った。
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「昭・・・・・・昭・・・・・・」
だれかの呼ぶ声がする。
ひどく懐かしい。
この声は・・・。
昭はゆっくりと目を開ける。
陽の光がまぶしい。
ということは今はもう夜明けなのか。
縛られていたロープも消えている。
だが手足がしびれて思うように動かない。
「昭・・・。目が覚めたか」
昭はそう声をかけてきた目の前の人物を見て
驚きのあまり「あっ」と声を上げた。
そこには、昭が会いたくて会いたくてたまらなかった
夏野が立っていた。
「兄ちゃん!無事だったんだね」
昭は目を輝かせた。
少しでも動くたびに
体のあちこちが痛んだが
もはやそんなことは気にならない。
「心配したんだ。
兄ちゃんは死んだって聞いてたから。
一緒に帰ろう兄ちゃん。
かおりが家にひとりでいるんだ」
「・・・・・・いや、俺はいっしょに行けない」
夏野はひどく複雑そうな顔をしていた。
「俺はまだやることがある。
昭、お前はいったん病院に行って療養するんだ。
迎えの車を表につけてある。なんとか立てるか?」
そういって夏野は手を差し伸べる。
「兄ちゃん、俺大丈夫だよ。
病院なんか行かなくても平気だし」
昭はそう強がって行ったが
実際のところ腰が抜けて立ち上がれそうにない。
さらに気分は最悪で、ともすれば意識が飛びそうなほど
頭はもうろうとしている。
「兄ちゃんのやることってなに?俺手伝うよ!」
昭は立ち上がろうとしてふらついた。
「昭、お前は起き上がりに血を吸われてかなり衰弱している。
あとのことは俺に任せろ。そのかわり、ひとつ頼みがあるんだ」
「なに?!なんでもするよ俺」
昭は勢い込んで言う。
「昭、俺はもう招待がなければ家に入れない。
俺をおまえんちに招くと言ってくれ」
「・・・・・・兄ちゃん、それって」
夏野がこくりとうなずく。
昭は悟った。
夏野はやはりあのとき死んでしまったんだと。
今、目の前にいるのはもはやあのときの夏野ではない。
遠く隔たったものに変えられてしまった。
「昭、落ち着いて聞くんだ。
近々、お前たちの親父さんがおそらく襲撃に来る」
「!」
「そのときにかおりを守らないといけない事態になるかもしれない。
だから田中家は俺にとっても開かれた家にしておく必要があるんだ」
「・・・・・・わかった。兄ちゃん、じゃあ、いつでもうちに来て」
「ありがとう、昭」
それから夏野はぽつりぽつりと話し始めた。
起き上がりたちの実情。
そして、いまの夏野の体について。
今後の展望。
起き上がりたちを倒すためのシナリオ。
もうろうとした意識の中で
昭の耳に入ってくる夏野の声は
どことなく甘い響きを持つ。
もっと話をしていたかった。
だけど昭の意識はこれ以上長くもちそうにない。
眠ってはいけない。
いま意識を失えばこれが夏野との今生の別れになるかもしれない。
そう思うのに、まるでもやがかかったように
ぼんやり視界が薄れていく・・・・・・
――さようなら、昭。元気で。
意識が飛ぶ直前、
そう、夏野が言ったのを昭は耳にしたような気がする。
強く生きるんだ。
意識が戻り、体力が回復したらかおりを迎えに行って
そうして、すべてが終わったらふたりで夏野の弔いをするのだ。
だから死ねない。たとえどれほどのつらく悲しい現実が
昭たちを待っていようとも。
そう、約束したのだから。
fin
※漫画版で、かおりが田中をバットで撃退した後、
夏野がなぜ、田中家にすんなり入ってこれたのだろうと
ずっと疑問でした。
かおり父がかおり母に招かれてて開かれた家だったからとゆう説も
アリでしょうが、だったらなぜすでに江渕が招かれた家だったのに
その後起き上がったかおり父は、招かれないと家に入れなかったのかという
疑問が残り、だったら夏野はきっと昭から招待をもぎ取ったんかなという説で
妄想をしたためてみました☆★
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