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【柚子の坂】

12月11(木)晴れ

短編小説 「柚子の坂」

■斉藤良子さんの作品
 柚子の時期が来るまではと、この季節を待っていました。
これを読んだのは半年前のことです。
夏に、作者の斉藤良子さんから手渡された夜、ベッドでドキドキしながら読みました。
全部読んでしまうのがもったいない、ちょうどおいしい料理が出されても、すぐには手が出せなくて最後まで仕舞っておきたくなる、あの気持ちに似ています。

私は、この短編小説集が25編からなり、最初のページが「柚子の坂」であることを知ります。
「柚子の坂」は本の題目にもなっています。
文章の一部を少し、ご紹介します。


イメージ 1■国道を横切ってから、細い路地が緩やかな坂となり、がま蛙の太い泣き声がどこかでしていた。坂の途中に右へ降りる石段があって、どんずまりに隠れ家のような家があった。
美沙がここを気に入ったのは、一目から隠れるような2部屋だけのアパートで、窓からは家主の庭が広々となり、落ち着いた環境だからだ。(中略)-------------筒木は一見とっつきにくいタイプで、美沙も初めは苦手だったが、話をしてみると深い湖のように神秘的で、いつも風邪を懐に現れてくるような感じがしていた。
覚めているわけでもなく、じんわりと温かさを感じるところもある。
 筒木が原稿用紙を埋める文字の美しさ、文章の持つ品格、雰囲気が美沙にはたまらない魅力だった。
 物を創造する人間特有の激しさ、我慢、利己心、冷淡さも随所に感じるところがあり、人間的には欠落した部分も多かった。反面それも筒木の魅力なのかもしれないと思っていた。
(中略)--------12月の早い夕暮れの坂は、柚子がたくさん実をつけている。濃い葉の間から色づいた実は匂った。妻ではないが妻と同じ暮らしが続いた。
いつまでか判らないがこのままでも良いと思っていたので筒木に何も言わなかった。
 
 柚子の坂で振り向くと筒木が上ってくる。家から運んできた数冊の本と硯箱と他にもたくさん抱えていた。
「おい この柚子 ひとつ貰わないか。今晩鍋にしないか」 コートのポケットから肉の包みまで出てきた。
二人の表札の出ているドアの前で筒木の熱い息が首筋にかぶさってきた。


◇道ならぬ道や茨の実が残る

◇そこだけの賑わひ秋の陶器市


・・・・と、俳句2句添えての申し分のない作品で、私は感心してしまい何度もうなずきました。
普通の主婦の顔も持ちながら、コツコツと書き続けておられます。
旭川の厳しい冬に耐え、読む人をひきつけるだけの苦しくも、楽しい仕事に打ち込まれる彼女を知ったことは、自分にとってもとっても大変、励みとなりました。
ものを書くという行為の厳しさを考えさせられました。
言葉をよく考えて選んでおられます。
読む方が引き込まれていくのは言葉の確かさ、話の運び方の巧さですね。
輝きを持った作品を生み出す感性と才能、そして努力あるところに、こういう作品が生まれるのだと思わずにいられません。斉藤さん、これからも素敵な作品を書いてください。
あなたの描く世界には、女性ならでは感じる繊細な描写があって楽しく読ませてもらいました。
読んだ友達が、「もっと読みたいと思わせるところででお話が終わるので、ぜひもっと長い話も書いてほしい」と言っていました。
あなたの小説を読んでいると、大好きだった宇野千代さんを思い出してしまいます。
イメージ 2

短編小説 「大人の絵本」

イメージ 3■宇野千代さんの作品。
東郷青児が挿絵を描いている。
原本は昭和6年に刊行されているが、これは角川春樹事務所から1997年に出た現代仮名遣いによるもの。
15編の短編から成る。これは某図書館のリサイクル本の1冊で、どうしてこのようないい本がリサイクルに出されてしまうのかとちょっと不思議であった。
東郷青児の画を楽しむだけでも楽しいが、宇野千代さん、古い時代の人とはいえ、日本語を操り、男女の心の淵を覗かせてくれることでは、時代を超えて新しい。
 私は若い頃、宇野千代さんのファンであり、ほとんど彼女の作品は読んだ。
当時の女性達も、千代さんの奔放な生き方に憧れていたようだが、実際、彼女はすこぶる美しかった。
しかし、文章は、決して派手ではなく、はかなさを感じさせつつも、優しさがあふれ、読み終わると、切なさと哀しさが漂ってはいても、幸せな気分がじんわりやってくるような、そんなささやかな喜びをもたらしてくれる作家であったと思う。

女優さんかしらと思う顔立ち、身のこなし、これには当時の文人、画家達がほおって置くはずはなかった。
尾崎士郎、東郷青児、北原武夫らに愛された、時代の兆児だった。
映画では吉永さゆりが「おはん」を演じていた。
ご存命中に、一目お会いできる機会に恵まれなかったことを悔やんでいる。
世間体を気にせず、自分の生きたいように、思い切り生きた女性たちが残したものからまだまだ私達は学ぶことがたくさんある。
 

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