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吉川一義氏訳のプルースト「失われた時を求めて」第一巻刊行

プルースト。Marcel Proust
 
フランス語、フランス文学に興味のある方なら、この作家の名前をご存知でしょう。
そして、もう少し詳しい方ならば、20世紀フランス最高の作家といわれながら、なかなかとっつきにくい、ということも。
 
例の マドレーヌ。今では日本でもおなじみ。お茶に浸されたこのお菓子の小さなかけらを口にしたとたん、すべての幸福な時の記憶が蘇る、という「無意志的記憶」の場面はあまりに有名です。
 
でもそこから先は??
 
長編につきものの登場人物の多さ、またほとんど19世紀的な、上流階級の生活も現代の日本人にはかならずしもなじみがありません。
 
なんといっても日本語とは全然違ったフランス語をどう日本語にするか、という「読みやすさ」の問題が大きかったと思います。なにしろ、プルーストの作品は、関係代名詞につづく従属節が長々と展開され、そこに様々な比ゆ、考察がつまっています。
 
ところが、今回 吉川氏の訳、第一巻「スワン家のほうへ1」が出て、格段に読みやすく、しかも原文の精密さをそこなうことなく、「日本語らしい日本語」で書かれています。
 
第一に、翻訳ものにつきものの、彼は、彼女は、という言い方を
ぜんぜん使っていません。お母さんは、祖母は・・・、と書かれています。
 
(フランス語ランチの、同僚C氏にこのことを言ったら、それはありがたい、時々、elle, il など、なにを指しているのかよくわからないことがある、などと冗談半分に言ってました。
なにしろフランスのFolio版=文庫本でも、うしろに2,3ページごとのあらすじが載っています。フランス人にも必要なのでしょう)
 
第二に、抽象的な記述の場面でも、わかりやすい言葉で身近に感じられるように訳されています。それは吉川氏の深い理解によるものでしょう。
 
最近、ブログの更新が遅れているのも、ひとつには、プルーストにはまっているから。(甥っ子の結婚式のため実家に行き、翌日母を見舞ったなど家の行事のせいもあり)
 
でも、ともかく、この小説の素晴らしさをやっと味わえる幸福がやってきた、と皆様にもお知らせしたくて。
 
この岩波文庫では、
 
最初に登場人物の紹介、1900年当時のフランス、パリ、などの地図があり、また「プルースト美術館」で絵画との関連を論じた氏らしく、絵画に言及があるところは、プルーストが目にしたはずの図版がたくさん載っています。かくして、妊娠中の「台所番女中」の記述も、ジオットーのフレスコ画と比較されているところが、高尚でわかりづらい箇所ではなく、
「笑える」場面となっています。
 
==============
以下、翻訳などについて。わずらわしい方はスルーしてください。
 
プルーストは共訳が出たのち、井上求一郎氏の個人訳があり、最初の部分はずっと前にこちらで読みました。でも、フランス語の文体を尊重するあまり、長々とした文で、わかりづらかった。
 
それから、集英社文庫で出ている、鈴木道彦氏の全訳があります。
 
鈴木氏の訳では、「花咲く乙女たちの陰に」をこの夏読みました。小説の舞台となっているバルベックことカブール(Cabourg) に、ソフィーたちと行くかもしれないことになったので(実際には行けなかった)、「読んでいなければ一生の恥」と思い。それ以前に、小説の後半にあたる「囚われの女」を読み、また文庫の出る前に「ゲルマントのほう」を一部読みました。主人公(プルーストの分身のような男性)はまだ少年で、ジルベルトに淡い恋心を抱いています。
 
鈴木氏の訳は、井上訳よりもっとわかりやすく、「囚われの女」の冒頭など悪くはありません。しかし、抽象的な記述になると十分にこなれていない、というのがわたしの印象。
 
それから光文社の普及版というか、「超訳」がでているようですが、これ読んだことがありません。近くの本屋さんで見ようと思いましたが、生憎なかった。
 
また、フランスではマンガにもなっているそうで、はじめの二巻のみ日本語訳がでているそうです。
======================
 
プルーストは、1871年パリに生まれ、1922年、51歳でなくなりました。生涯喘息に悩まされ、しかし父親が著名な医者であったこともあり、職業につかずみずからの文学を追求し、膨大な著作
「失われた時を求めて」 A la recherche du Temps perdu の創作に一生を費やすことができました。
 
わたしも他の部分と関係なく読める「スワンの恋」は、フランス語でざっと読んで(フランス滞在中にシュレンドルフの映画、「スワンの恋」を見るための予習) その後帰国してから日本語訳で読み(鈴木氏のものだったと思います)それからもう一度フランス語で読みました。
 
プルーストは専門的に勉強したわけではありません。あたまから、尻尾から、好きなように読みます。
 
あるフランス人の先生によると、プルーストなんてどこでもパッとページを開いて、すきなだけ読めばいいのよ、とのこと。でも、それが出来るには、人物、時代背景をある程度知り、また文体への慣れが必要・・・。
 
ある程度訳を読むと、人物、人間関係がわかってくるので、あとはフランス語のリズムに乗って、単語のでてくる順に内容を追っていけるようになりました。そうはいってもじっくり時間をとって読まないとその良さが入ってきませんね。La Fugitive ( Albertine disparue ) から、また原文で読み始めました。素晴らしい・・・この一言につきます。
 
 
実は、個人的に吉川さんを(さんづけにします)ある程度存じ上げています。以前某大学で同じ日に教えていたことがあるので。
フランスアカデミーからも賞をおもらいになり、フランス文学学会の会長でもある現在、誠実で、謙虚ともいえるお人柄はいまでも変わっていないだろうと思います。それは、あとがきのフランス語についてのコメントからも感じられます。
 
あと、13巻、あとがきでもご本人が書いていらっしゃるように、どうか無事翻訳を最後までなさって下さい。とささやかなエールを送りたいと思います。
 
このプルーストを本屋さんでぜひ手にとって、気が向いたらぜひ読んでみて下さい。
 
失われた時を求めて  第一巻
スワン家のほうへ 1  プルースト作 吉川一義訳
岩波文庫  900円+税
 
よければクリックも^^
 
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「失われた時を求めて」これから読むにあたり、どの方の訳にするか、大変参考になりました。

2011/7/19(火) 午後 0:06 [ rus*lka ] <<コメントに返信する

お役に立てれば何よりです。

震災以後はプルースト(原文)あまり進んでいません。でも、また夏休みに読もうと思っています。

2011/7/19(火) 午後 2:55 [ michiko ] <<コメントに返信する

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