勝手にメディア社会論

メディア論、記号論を武器に、現代社会を社会学者の端くれが、政治経済から風俗まで分析します。テレビ・ラジオ番組、新聞記事の転載あり

類似する舛添要一とアイドル襲撃犯の精神性

舛添要一都知事の政治資金不正運用疑惑とアイドル・富田真由さん襲撃事件。どちらも常軌を逸したと思える蛮行だ。一見するとこの二つ,違った種類の事件に思える。しかし、この事を起こしている二人の精神性,実は共通ではなかろうか。今回は、現在、巷で騒がれている二つの事件を共通項で括って考えてみたい。これはE.パリサーのフィルター・バブルという用語を用いて考えるとスッキリと理解できるのではないだろうか。

フィルター・バブルとインターネット社会

フィルター・バブルは情報化社会の中で個人が自らが構築した情報の殻=泡の中に閉じこもり、情報の取捨選択を自らの好みに応じたフィルターを通して外部から入手しようとするような傾向を指す。都合のよい情報だけを選択し,悪い方は無視したり拒絶したりする心性だ。

こうなってしまう典型的な例を挙げてみよう。2014ブラジル・ワールドカップの日本チームへの期待がそれだ。日本はグループCで対戦相手はコロンビア、コートジボワール、そしてギリシャだった。グループ内のランキング的は3位(最下位はギリシャ)。ということは予想されるのは3位。イギリスのブックメーカーのオッズもコロンビア=1.7、コートジボワール5.1、日本5.6、ギリシャ8.3と、やはり同じだった。ところがメディアはそのようには捉えていなかった。ヨーロッパで活躍する香川、岡崎、本田、長友、川島といった面々が揃っている。よって今回は最強とみなされ、ファンの多くは決勝トーナメントに楽々進めるものとタカを括っていた(本田のビッグマウスがこれに拍車を駆けた)。しかし、フタを開けてみれば一勝も出来ず,ギリシャの引き分けるのが精一杯。勝ち点はたったの1で、「見事な」リーグ最下位敗退だった。

日本人はなぜ日本チームが決勝トーナメントに進出できると思ってしまったのか?これはつまり、メディアが日本チームに都合のよい情報だけを集め、反面都合の悪いものは無視して、結果として「最強ジャパン」を作り上げてしまったからだ。イメージと現実が大きく乖離していたのだ。(ちなみに、これは2006年のジーコジャパンの時もまったく同じ認識だった)。

この例はあくまでも「メディア誘導型」のフィルター・バブルだが、こういった事実を都合のよいように歪曲して「自分だけの真実」を主としてネット情報を介してねつ造してしまうのがこの言葉の本来の運用法だ。かつて詳細な情報収集は一部の技術を備える一部の人間だけが可能だったが、現在はインターネットを通じて誰もが容易に情報を入手することができる。そこでわれわれは都合のよい情報だけを収集し,それ以外のものを排除してしまう。自らの形成したバブルの中の「現実」を否定する情報がバブルの中に入り込もうとする際には、それを防ごうと自らの現実を補強する情報を入手して、これをフィルターとし、都合の悪い情報の入手を遮断してしまう。(詳細をお知りなりたい方はTEDでのパリザーのプレゼンを参照のこと。https://www.youtube.com/watch?v=B8ofWFx525s)。また,現在では価値観が細分化されているため、これら価値観を真っ向から否定することが難しくなってもいる。もはや批判者が不在の状況が生まれつつあるのだ。こういった循環を続けていけば,現実とは関わりなく、自らの小宇宙を作り上げることができる。そして,こちらの方に絶対の価値観を置くようになれば当然ながら自閉的な世界が構築されてしまう。

地下アイドルに向けられたストーカーのフィルター・バブル

アイドル・富田真由さんを襲撃した岩崎友宏容疑者はこの典型だろう。岩崎容疑者はストーカーとしてどんどん富田さんと自分の関係を親密なものへと作り替えていった。この際、まずかったのが富田さんが、いわば「地下アイドル」的な存在だったことだ。そんなに知られていない、しかし富田さんはアイドル活動を行っている。こうなると,周りが彼女のことあまり知らない分、岩崎容疑者にとっては集めた情報を否定してくるような情報や他者がいなくなってしまう。好きなように彼女のイメージを構築可能なのだ。また、マイナーであることはアクセス可能性が高いということでもある。実際,岩崎容疑者は富田さんに腕時計をプレゼントしている。そして、このプレゼントに富田さんが反応せず、怒った岩崎容疑者が返却を要求し、これを富田さんが送り返している。しかし、これがまずかった。生身の富田さんの反応だからだ。彼はフィルター・バブルの中で形成したアイドルと交流可能になってしまった。こうなると、もはや富田さんと全く関係のないところで岩崎容疑者は富田さんをフィルター・バブル的に作り上げ、言うことをきかない生身の富田さん(この時点で富田さんはアイドルと言うよりも恋人くらいにまで格上げされていたはずだ)を不都合なものとして抹殺する必要が出てきてしまった。このへんは、まさに金閣寺を焼き払った林養賢やジョン・レノンを射殺したマーク・チャップマンと同じ精神構造だが、こうした思い込みをネット環境はフィルター・バブルによって容易に可能にする。

桝添氏に備わった「権力」という名のバブル

同様の精神構造が桝添都知事にも該当する。現在、彼が政治資金の私的流用について述べている弁解は一般には荒唐無稽という以外に表現のしようのないものだ。ただの公私混同なのだが、自らの行動をそのようには全くとらえず、説明が出来るものとし、さらに追及が行われると、今度は「厳しい第三者の目で調査」すると発言した。ちなみに、この「厳しい第三者」として選ばれたのが,自らが指名した弁護士。しかし、これもどうみてもおかしい。弁護士というのは,自らの弁護を依頼する専門家なので、桝添都知事に都合のよい情報がフィードバックされてくることは目に見えている。しかも,名前が明かされていないのも変。ところが,桝添氏は一点の曇りもなく、こう言ってはばからないのだ。

なぜか,彼もまた典型的なフィルター・バブルの世界に住まう人間だからだ。この言葉自体はインターネット時代の自閉症的な傾向を指している。だから,言葉のまっとうな使い方自体では桝添氏は該当しない。しかしながら、桝添氏はずっとフィルター・バブルの世界の中で暮らしてきた人間だ。東京大学で政治学を専攻し,その後パリやジュネーブなどで研究を行った後、東大教養部教員に就任。その後政治家としても活躍し、その能力を駆使して大きな権力を獲得してきた。いわば,かなりの状態で「やりたい放題」といった文脈での活動を当然のこととしてきたはずだ。しかも桝添氏にはネットがなくても詳細な情報を収集、駆使する力があった。こうなると権力というバブルに基づいたフィルタリングが行われるようになる。そして,権力を所有しているので,周辺がこれを咎めることが難しくなる。さらに膨大な情報に基づいて理論武装も行う。よって「自分は絶対に正しい」ことになる。

こうなれば、われわれ一般人が現実的感覚で桝添氏の政治資金不正運用疑惑を本人に指摘したところで,聞く耳など持たない。バブルの中では,自分のやっていることは一点の曇りもなく「絶対に正しい」からだ。だからこそ,桝添氏は,自分の行っていることが滅茶苦茶であったとしても,そのことを疑うことを全く知らないのだ。今回の弁護士に調査を依頼させるというのも,その手続きは全うだが、やり方が完全におかしいということに本人が気づいていない。どんなにツッコミをいれられても「なんで?」みたいな怪訝な顔をしてしまうのは,実はこういったフィルター・バブル的認識があるからではなかろうか。また、もし仮に、桝添氏が都知事を辞任するようなことがあったとすれば,その際の会見もおそらく,騒動自体には迷惑をかけたというだろうが、騒動の内容(つまり桝添氏がやったこと)に対しては,全くその非を認めないのではなかろうか。要するに、桝添氏は自分で自分を騙している。僕にはそんなふうにしか思えない。

こういったフィルター・バブルは一般人の認識にも広がりつつある。この二人がやっているフィルター・バブル的行為。ちょっと自分の胸に手を当てて考えてみても、よいかもしれない。

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