勝手にメディア社会論

メディア論、記号論を武器に、現代社会を社会学者の端くれが、政治経済から風俗まで分析します。テレビ・ラジオ番組、新聞記事の転載あり

東京オリンピックがUberを普及させる!

アメリカでものすごい勢いで普及している乗り合いタクシーUber。日本でも首都圏ではアクセス可能だが、今のところ爆発的な勢いとまでには至っていない(というか、あまり知られていない)。今回はUberの日本での普及の可能性についてメディア論的に考えてみたい。

Uberは「白い白タク」

最初に、先ずUberについて簡単に紹介しておきたい。「乗り合いタクシー」と最初に表記したけれど、これを解りやすくするために、似て非なるものとの比較で説明しよう。それは「白タク」だ。ご存じのように白タクは営業許可を得ていないタクシーのこと。この名称が生まれた頃、タクシーには色がついていて、一般の自家用車の主流が白だったことから命名されたらしい。要するに一般人が勝手にタクシー業をやってしまうことを指しているのだけれど、いろいろと問題があって禁止されている。問題とは、これが暴力団の資金源になっていたりしたこと。またメーターがないので適正価格がなく、場合によってはボッタクリに合うというトラブルが発生することなどが挙げられる。モグリなので事故に遭遇した場合の問題も当然、ある。

Uberも一般人が自家用車を利用してタクシー業を始めてしまうのだから、この部分では白タクと同じだ。だが根本的に異なるところが一つある。白タクと違ってトラブルフリーのシステムが徹底されているところだ。現在僕が暮らしている米ロサンゼルスの状況を踏まえながら説明してみよう。
先ずドライバーについて。これは白タクと同様一般人。たとえば僕の知り合いも仕事の合間に「Uberで一稼ぎ」ってなことをやっている。ただし、採用にあたっては審査がある。犯罪歴、所得、事故歴などがチェックされる。だから一般人だからと言って、白タクみたいにドライバーがアブナイ人になるかもしれないということはない。

次に料金。完璧にクリアーなシステムで支払いが管理されている。利用者はUberアプリをスマホにインストールしサインアップする。その際、支払いのためのクレジットナンバーなどの請求先入力を要求される。利用に際しては、現在地と目的地をアプリで入力し(MAPをタッチするだけ。グーグルマップでの検索をイメージしていただきたい)、車のカテゴリー(ベーシックなものからゴージャスなものまで。また乗り合いを許可するかどうかの選択も)を選ぶと乗車料金が提示される。これを選択し予約が完了すると、やってくる車の車種(色も)とドライバーの写真が現れ、およその待ち時間が提示される。まあ、かかっても5分以内だ。支払いは、アップに提示された料金のみ。チップはない。そして決済はアプリを介してなのでドライバーとの金銭のやり取りはキャッシュもクレジットカードも一切無い。ドライバーは料金を決定できないし、その場で受け取ることもできない。つまり金銭の授受はすべてアプリを介したやりとりになる。だからドライバーは一切悪いことができないのだ。乗車後には即座にメールを介して領収書が発行される。「領収書ご入り用ですか?」なんてやり取りも、もちろんない。税金対策も簡単だ(笑)

いや、この素人ドライバーの管理はこれだけに留まらない。乗車後にはドライバーについての評価を五つ星で要求されるが、もし仮にこの評価が低ければドライバーはクビになってしまうのだ。加えて乗客の安全も確保されている。全て保険に加入済み。ようするに一般の白タクが悪徳かつ危険で、これを「黒い白タク」と称するならば、Uberは「白い白タク」ということになる。

早い、安い、安全

そして、ここからがスゴイところなのだが、とにかく料金が安い。現在、自分が住んでいるトーランス市のアパートからロサンゼルス空港までは15キロメートルほど。一番安い乗り合いを利用すると、料金は二人で$15程度。これがスーパーシャトルというミニバンの送迎サービスを利用した場合、価格は同程度だが課金は一人あたりなので$30を超える。タクシーなら$45ドル+チップで$50程度になる。そうUberはバカ安なのだ(ただし渋滞やニーズが高いときには料金がそれに合わせて変更される。もちろん高くなる)。ちなみにスーパーシャトルの場合、ずいぶん前から予約を入れなければいけないし、タクシーもそれなりに待ち時間がかかるけれど、Uberはホントにすぐにやってくるので、乗り込む場所に到着してから予約するということになる。

つまり、利用する側にとっては「早い、易い、安全」と、いいところしかない。一方、利用してもらう側からも、手軽にカネ稼ぎが可能という点では一般人にとって便利この上ない(営業時間をドライバーが自分で決められる)。使われていない自動車を有効活用するという点でもメリットは多い。

都市の活性化ツールとしての可能性

いや、それどころかUber、場合によっては社会構造に大きな影響を与える可能性も高い。たとえば交通インフラが充実していないエリア、言い換えるとクルマがないと生活できないエリア、その典型は地方都市だが、では人々がこれを利用して廉価で街中を歩き回ることが可能になる。一例として、僕が以前生活していた宮崎市を挙げてみよう。宮崎市の繁華街は郊外のイオンなどに客を取られてしまった結果、典型的なシャッター街となっている。これは駐車スペースが十分ではないところにも大きな理由がある(かつての商店街なので駐車場が少ない。しかも料金を取られてしまう)。その一方で飲み屋街としての勢いは続いている。比較的遠くから飲みに出てくる人間の典型的なパターンは自動車利用。だが、当然帰りは運転できない。そこで代行タクシーが普及しているのだけれど、これがUberに取って代われば不要になる、といった具合だ。また駐車場が確保できなくても人々がショッピングにやってくることができる。要するに街を活性化させるツール=メディアとしても機能する可能性を持っているのだ。これは最近、コミューターとして再注目されつつある市電なんかよりももっと現実的だ。初期費用は僅かで済むし、利用者はどこでも拾えるんだから。

Uber普及を妨げるもの

というわけで、とにかく便利この上ない交通手段Uber。日本でもすでにいくつかの場所で登場しているが、残念ながら普及していない。日本はタクシー料金がバカ高なことで有名。だったらもうとっくに普及していてもよさそうなものなのだけれど(たとえばタイ・バンコク市内だったらUberの普及はかなり難しい。初乗り35バーツ(100円)で400メートルおきに6円ずつあがっていくバカ安システムなので)。

理由は二つある。ひとつは一般人がUberを知らないこと。僕みたいにたまたまアメリカなどの外国でその利便性を知った人間がブログなどで紹介するようなことをしてはいるけれど、一般人にはなんのことやらさっぱりわからない。ヘタすると「白タクじゃん、それ!」ってなことになる。ところがシステムを理解して利用するようになると、Uber利用は不可逆的なものになっていく。つまり、一度使ったらもうやめられない。タクシーなんかバカバカしくて使えない、ってなことになるくらいUberは魅力的な交通手段なのだ。だから、先ず存在を認知させることから始めなければならない。

ただし、認知しようにも何処で使えるのかすら解らないというのが現状。こういったUberインフラの整備を妨げているのが、ようするに行政なのだ。行政としては既存の産業の保護をする必要がある。つまりタクシー業界を守らなければならないという前提がある。実際、もしUberが普及するようなことがあれば、ものすごくたくさんの数のタクシー業社が倒産するだろう(実際、大アメリカ大都市圏での移動手段利用についてはドラスティックな変化が今起きている。とりわけクルマがなければ暮らしていけないようなロサンゼルスはその典型だ)。いやタクシー業という職種自体が消滅する可能性すらある。そうなると、これを保護するのが政治屋さんのお仕事ということになる。だから、かつての音楽配信サービス(サブスクリプション・サービスと呼ばれる定額聞き放題サービス)と同様、政府とか既存の民間がタッグを組んで、これを徹底排除するという図式が出来上がっていると考えるのが妥当だろう。そして、そのひとつとして、とにかくUberの存在を一般人に知らしめないというやり方が、現在やられていると僕は見ている。そう「寝た子は起こさないようにしよう」というわけだ。

オリンピックがUberというパンドラの箱を開ける?

現在、わが国でUberは「黒船は浦賀までやって来ているが、まだ通商条約が締結されていない」といったところだろう。ただし、いずれパンドラの箱が開き、一気に普及する状態になるはずだ。そもそも、現時点で大幅に規制が緩和されUber自体が大々的に普及に乗り出せば、一気に普及してしまうだろう。一度使ったらもうやめられない。Uberはそれくらい利用する側にとってもされる側にとっても不可逆的で魅力的な新しいシステムなのだから。いずれ行政や民間も抗うことができない状況がやってくるはずだ。何かのきっかけで、堤防は必ず決壊する。で、こういった新しいシステム(そしてインターネットが生み出したシステム)、賽が投げられるのは早ければ早いほどよいと僕は考えている。

ただし、現実的に考えた場合、実質的なUber普及元年がやってくるのは2020年あたりだろう(もちろん、これに遡って普及が始まるのだけれど)。言うまでもなく、これは東京オリンピックの開催年。おそらく、海外からやってくる客の利便性を考慮し、様々な規制がどんどんと撤廃されるのがこの時期なのではなかろうか。

ただし、それによってタクシー業界は運営方針を見直さなければならない、あるいは廃業せざるを得ない、あるいはまたUberに吸収されていくことになる、ということになるのだろうけれど。システムとは、そしてメディア(この場合ヒトやモノを運ぶメディアという意味で)とはそういうものなのだから。

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