勝手にメディア社会論

メディア論、記号論を武器に、現代社会を社会学者の端くれが、政治経済から風俗まで分析します。テレビ・ラジオ番組、新聞記事の転載あり

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ホリエモンのコメントを、たけしと厚切りジェイソンが激論

ここにきて、以前、物議を醸したホリエモンこと堀江貴文氏の寿司職人養成議論が再燃している。2月15日のテレビ番組『たけしのTVタックル』で、たけしと厚切りジェイソン、そして東京すしアカデミーの代表と寿司久兵衛の店主が議論を戦わせたのだ。

この議論、ホリエモンのツイートに端を発している。

「コロンビアで寿司屋を開きたいのですが、どう思いますか」

というネット上での質問に、ホリエモンが

「いいんじゃない、今は寿司アカデミーとかで数ヶ月でノウハウ学べるし。昔の『10年修行』は、弟子に教えないということ」

とコメントしたことが発端。

ホリエモンの主張を要約してしまえば、寿司の技術は徒弟制度などに頼らなくても短期間で養成できるというものだ。これがネット上で反響を生んだ。その多くがホリエモンの意見を援護するものだったのだけれど……。

番組ではホリエモンを擁護する側にジェイソンとすしアカデミー代表、反対側にたけしと久兵衛の店主を配置させた。

ジェイソンは修行など不要といって憚らない。
それに対して、たけしは「河岸に毎日通わないと魚の脂の乗りはわからない」と反論。
するとジェイソンは「そんなのはインターネットで調べればいいじゃん」と言い返した。

これだけの話を聞くと、修行害悪論に落ち着くのだが……はたしてそうだろうか?

ゲシュテルとテクネー、二つの技術

哲学者のM.ハイデガーは著書『技術への問い』の中で、技術の二つの側面「ゲシュテル」と「テクネー」について言及している。哲学ゆえ難解なので、ここは僕の超訳=超解釈で説明してみたい。
ゲシュテルとは「マニュアル的な技術」。指示書があり、それに従って段取りを踏めば原則、物事を完成することが可能なそれだ。取扱説明書を見ながら組み立てるなんてのが典型。

最も簡単な例として、インスタントラーメンの調理を考えてみよう。これを初めて調理する人間ならば、袋の後ろに書いてある説明を参照しながら作る。そうすると、まあ、それなりのものが出来上がる。

ただし、このインスタントラーメンをつくること、意外にバカに出来ない。中学生の時、友人宅に遊びに行った時のこと。そこで、友人の母親が昼食を用意してくれたのだけれど、それがサッポロ一番塩ラーメンだった。当時、僕が自分で作ってよく食べていたものだ。ところが、出されたものを口にした瞬間、驚いた。全然、味が違うのだ。これがいつものサッポロ一番であることはよくわかる。しかし麺のゆで加減といい、スープの加減といい、トッピングされているものといい、とんでもなくおいしかったのだ。種明かしは……友人宅は旅館で、その料理を一手に引き受けていたのが友人の母だったというわけ。興味を抱いた僕は、友人の母親に作り方を教わり、数日後、自分で調理してみたのだけれど……全くダメだった。

インスタントラーメンなんて誰が作っても同じと思っていたものが、なぜこんなに違うのか。それはこの母親が顧客に向けて何十年も調理を続けてきたからに他ならない。その中で身体に定着した様々な技術=スキルが、たまたま息子の友人の僕のまかないにも反映されていたというわけだ。こういった、長年の蓄積の中で身体に蓄積されたスキルをテクネーと呼ぶ(ちなみに僕が友人の母親に教えてもらったのを参考に作ったものは、ただのゲシュテルに過ぎない)。

そして、残念なことに、このテクネーは教えることが出来ない。個人が経験をスキルに積み上げる中で養ったものだからだ。言い換えれば、本人が知らないうちに身につけたもの。だから、なぜそうなったのか本人も解らない。なので、当然、教えられない。

学ぶ方法は一つしかない。それが、いわゆる修行と呼ばれるものだ。要するに対象と長い間ひたすら関わり合うことで身体に刻印される技術、それがテクネーなのだ。

たけしのテクネー、ジェイソンのゲシュテル

この技術の二つの側面を踏まえると、たけしとジェイソンの議論のズレが見えてくる。つまり、たけしはテクネーのことを指摘している。「河岸に毎日通わないと魚の脂の乗りはわからない」というのは、要するにそういうことなのだ。毎日河岸に通って魚を見続けることで、脂の乗りのよしあしが感覚的にわかってくる。一方、ジェイソンはこういった技術さえも「ネットで調べれば」体得可能と考える。しかし、ネットに書かれているものはゲシュテル。だから、どれだけ引っ張ってきてもテクネーにはたどり着かないのだ。つまり「魚の脂の乗り」はわからない。

では、ジェイソンはわかっていないのか?そうではない、半分わかっていないが、半分はわかっている。番組中、ジェイソンは「失敗したら何度でもやり直したらいいじゃん」と繰り返し発言しているのだけれど、これってテクネー取得の基本的やり方。つまり、トライ・アンド・エラーを繰り返す中で、次第にテクネーが身体に染みついていく。言い換えれば二人の修行に関する立ち位置はまったく同じ。異なるのは師匠につくか、それとも自力でやるかの違いに過ぎない(ジェイソンは自力でテクネーを養う能力に優れている。それゆえ起業して成功するし、お笑い芸人にもなれる)。だから、二人の議論を聞いて「修行など非合理的なもの」と一蹴してしまうのは「浅はか」なのだ。

ホリエモンの二つの身体

それじゃ、議論の発端となったホリエモンはどうだろう?彼は「浅はか」なのか?

そんなことはないだろう。

ホリエモンには二つの身体がある。マキャベリストの身体とロマンチストの身体だ。そして、このコメントは、専ら前者のマキャベリストの身体に基づいたものだ。もう少し噛み砕いて表現してしまえば「マネタイズするためにはどうしたらよいか」という立ち位置だ。で、すしアカデミーがやっていることは授業料を徴収して1年程度で寿司の技術(マネージメントも含む)を提供し、海外に出て寿司職人になるというものだが、こういった指導を受けた人間のうまい寿司を握る(ネタ仕込みの目利きや、店のメインテナンスを含む)技術の程度はたかがしれている。それこそ、回転寿司レベルに毛の生えた程度だろう。技術論の言葉を用いればゲシュテルにテクネーがちょっと加わったくらい。

しかし、これで十分なのだ。寿司は食の世界遺産である和食の、いわばフラッグシップ。海外では和食といえば先ず寿司が思い浮かぶ。ただし、そうは言っても、現地の人間には本当の味はわからない。いわば「寿司リテラシー」はきわめて低い。そういった人間たちからすれば寿司アカデミーで教育を受けた寿司で大満足のはず。立場を変えれば、寿司を握る側からすれば、それくらいの技術で十分オッケーという、WIN―WIN関係が成立する。ホリエモンはこのことを指摘したかったのだ。このレベルでビジネスは十分に通用する。言い換えれば、味のことなんか二の次なのである(まあ、日本人のほとんどが百円寿司で満足しているので、これは日本にも該当するのかもしれないが)。

だって、考えても見てほしい。もしホリエモンがマキャベリズムだけの身体しかないのであれば、彼は百円寿司か持ち帰り寿司しか食べないはずだ。……そんなことはないだろう。相撲を見に行ってもキッチリ桟敷席の先頭を座っているくらいなんだから、寿司だって高価でうまいものを楽しんでいると考える方が筋が通っている。つまり、ホリエモンのもう一つの身体=ロマン主義のそれは、桟敷で相撲を楽しみ、ロケット開発に入れ込み、うまい寿司を食い、テレビに出たがるという行為を彼に志向させている。で、こうやって高価でうまい寿司は、要するに修行した、つまりテクネーが高まった身体の指先から生まれているわけで、寿司ロボットが握っていたり、大量安価に仕入れている寿司ネタを使ったりしているのとは、わけが違うのである。

というわけで、ホリエモンの発言を、ただ単に「修行は意味がない」「寿司職人になるのは簡単だ」と理解した人間が、実は、一番寿司、食文化、さらに突き詰めて表現してしまえば「技術とは何か」についてのリテラシーが低いということになる。

たけしはベタに職人(彼の場合は芸人になるが)が何なのかを語っただけ。それが師匠、あるいは協会などの組織を軸にする修行=徒弟制の世界において成立するといいたかったのだ(もちろんこのシステムが、この世界に入った人間全てに十全に機能するというわけでは無い。おそらく、その多くはこのシステムがゲシュテル的には不合理と考え、脱落していく。また技術を提供する側が全くどうしようもないと言うこともままある。)。一方、ジェイソンはテクネーの獲得を、たけしが指摘するようなシステムではなく、自力でトライ・アンド・エラーを繰り返しながら獲得していくということをいいたかったわけだ(ただし、この時、ジェイソンは自らがどうやってテクネーを獲得したのかを、恐らく対象化していない。だから徒弟制に基づく修行が理不尽なものに思える。そして「修行」という言葉を、そういった師匠―弟子からなるシステムを意味するものでしかないと勘違いしている)。一方、ホリエモンは二つの身体の内、マキャベリズムの身体で寿司の修行は1年もあれば十分と指摘し、その一方で高度な技術についてはテクネーを要する修行の世界を肯定し、高価な寿司の世界を堪能している。

で、最後に一番面白いのは、これを放送したメディアが、このことをわかっていないと言うことだろう(笑)

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