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震災後に飲んだシャトー・デュック

少し落ち着いてきた所で「その時」と「その時以後」の話をしよう。
 
「その時」にはいつものPC前、今このブログを作成している場所でキーボードを叩いていた。僅かな揺れでモニターが揺れた。デスクトップ式だから感じたのだ。その瞬間、反射的にワインセラーまで走っていた。初期微動だったら大変な規模の地震になる、と直感した為そういった行動に出たのだ、と我ながら思う。
 
セラーまでは家2件分、距離にして30mくらいある。(そこが泣き所だねぇ)鍵をあけるのももどかしく急いでワイン棚に向かって両手を伸ばして抑えた。もう既に大きな揺れがセラーに襲来していたがそこからが実に長い時間だった。隣の4階建ての軽量鉄骨のビルははでな音を出して軋んでいる。このまま揺れが続けばこちらに倒れてきそうな予感さえもする中で「頼むから早く揺れが収まってくれよ〜」と叫んでしまった。そんな姑息な事でM9規模の地震が許してくれそうも無かったのは分かってはいたのだが。本当に10分間くらいいつまでも揺れていた様に思えたもんだ。
 
幸いにも揺れが収まった時点でのワインの破損事故は無かった。だが余震ってのがあるぢゃないか、といつもの如くにあらず聡明にも直感し、手早く棚の2段目(こやつらが滑って落ちてくる)のワインを空き箱に収納して床に並べる作業に移る。もう納品直前のボジョレーヌーボーの作業とはこんなものか、と言うくらいに手早く敢行する。20分くらいで終わった直後に案の定と言うか本当にデカい揺れが襲ったね。我ながら冴えていたと自我自賛しとこうか。
 
やれやれとお店に戻ると陳列棚から一本だけ(焼酎)が割れていた。我が家の被害第一号だ。家の中では家内が収納しそこなっていた雛飾りの内裏様が行方不明になっていた。これも我が家の被害者第一号として捜索。これはサイドボードの裏から無事救出した。
 
地震の直後に停電したが深夜に復旧。停電下にラジオで聞いた消息では東北地方は津波で大災害とは知っていた。が、それからが我が家の「その時以後」の話の始まりであった。電力復旧の後にTVで流される東北各地の被害情報で娘婿の実家のある岩手の港町が津波で全滅、との第一報が飛び込んだ。母親と祖母が住んでいるのだ。我が家の近くに住む倅は「うちは比較的高台にあるから大丈夫かもしれない」なんて言うが報道を見る限りそんなレベルじゃない。町内のいたる所で津波で家が流されその上点々と火災が起きている。
 
全く音信が途絶えたまま2日過ぎ、当地では避難所に続々と被災者が集まっている、と聞き避難者名簿のHPを閲覧しようとしたが昼間はまるで繋がらない。夜間になってようやく名簿を見る事が出来た。一通り探しても全く名前が見当たらない。あくる日もその次の日も。絶望と言う文字を覆い隠すように家人には「未だ全員の名簿のが出来ていないのだろう」くらいしか答えられなかった。本当に辛い。
 
実はかの地には12月にご挨拶に赴いている。TVの変わり果てた町の景観はショッキングでこんな状況では生きていてくれさえすれば良い、とも思った。毎日家では重苦しい空気が取り巻く。商売なんて思いもよらない。
イメージ 1
 
5日目の夜、被災者名簿の更新を頼りにHPを繋げた所に娘から電話があった。「無事だって!今連絡があったよ」 告白するが、嬉しくて涙が流れたのはこの時が初めてだ。自分ではどうにもならない現実下での偶然ともいえる幸運は嬉しい。ほっとして今まで忘れ去っていたワインでちょいと祝杯を挙げる事にした。こんな時あけるワインはシャトー・デュックだろう。バランスのとれたふくよかな丸みのある味わいは飲む者すべてが癒されるはずだ。
 
デュックを訪れた思い出は今も忘れる事が出来ない貴重な体験だっイメージ 2た。初めて会った当主ベルナールはまるで旧友を迎える様なもてなしをしてくれ、味わったワインは優しさに満ちていた。話をするほどに「こいつの造るワインには間違いは無い。」との確信すら持ったものである。そんな彼の自信作“シルヴィアンヌ”を飲んでささやかなお祝いをした。2004VTが今美味い。
 
 

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