「美しき日々」〜未来の風〜

TV放送最終回後の二人を辿る創作ストーリーを綴っていきます。

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月と光の狭間(6)

ミンチョルは朝から仕事に没頭していた。
チョニョンのことは先日ソンジェと相談して決めた通り探す行動を表向きには抑えていたが、
決して手を緩めたのではなく連日ソンジェと連絡を取り合いながら秘かに動いていた。

キュソクとの打ち合わせを終えて一息ついたころ、
デスクの上に置かれたミンチョルの携帯電話が鳴った。
「兄さん?僕だよ。」
電話の相手はソンジェだった。
「何か分かったのか?」
ソンジェは少し躊躇いながら話を続ける。
「うん・・・やっぱりチョニョンさんはソウルに戻って来てるみたいだ。」
その言葉にミンチョルは驚かなかった。むしろ当然の展開だった。
だがソウルという街に馴染みがないはずなのに、ここまで姿を隠せるとは思っていなかった。
「今どこに居るんだ?」
「兄さんは覚えてるかな?ほら、昔セナが世話になってたカラオケ店の店長のこと。」
ミンチョルはそんなに昔のことではないはずの出来事を思い出した。
「あぁ。火事騒動の時のカラオケ店だろ?」
そこで自分とミンジ、ヨンスとセナの4人が初めて顔を合わせた。
興奮して暴れるそれぞれの妹を落ち着かせようとする互いの姿にどれほど驚いたことか。
そして運命の糸がはっきりと絡み合い始めた瞬間だった。
「あの辺にも旅館とか多いから試しにそれとなく聞いてみたんだよ。」
「それで?」
ミンチョルは少し期待を込めて聞いた。
「最近、安旅館に出入りするようには見えない身なりをした美人が居るって噂が有るらしいんだ。」
「それがチョニョンだと?」
「そこなんだけど、店長も自分が見たわけじゃなくて噂で聞いただけだって。」
「噂?どういう?」
「それが本当に噂程度らしくって、どう聞いても店長の話が曖昧すぎてね。
だから期待は出来ないと思いつつ、もう少し詳しく調べてもらうよう頼んでみたんだ。」
「おい、大丈夫なのか?あの店長、あまり信用出来るようには見えないが・・・」
「こっちの事情は詳しく話してないから大丈夫だよ。ま、それなりの理由は話したけどね。」
「それで?」
「写真を渡せばすぐに分かるだろうけど必要以上に大騒ぎされて気付かれたら困るから、
とにかく居場所と風貌を教えてくれるよう頼んでおいたんだ。」
「分かったのか?」
「うん。店長から聞いた話から考えてチョニョンさんに間違いないと思う。」
「それはどこなんだ?」
「新村の裏通りにある安旅館だったよ。」
「だった?」
「ごめん。やっぱり素人に頼んだのが悪かったんだ。もう一歩のところで感付かれたみたいで、
僕らが行った時にはもうチェックアウトした後で・・・」
ソンジェの声が小さくなり落胆の溜め息が漏れる。
「そうか・・・」
「兄さん、ホントにごめん。」
こういう時のソンジェは本当に率直に素直に自分の気持ちを言葉にする。
ミンチョルはソンジェのこの性格が心配だった。
ソンジェの持つ優しさは普通の暮らしの中では最強の武器と言える。
だが企業のとトップとしては最大の弱点でしかない。
もちろんそれらのバランスを狡猾なまでに上手くコントロール出来れば最高の手駒になる。
しかしソンジェは他の誰も傷つかなくて済むのなら、自分が傷ついても構わない。
そう考えるはずだ。だがそれはたとえ一時的であったとしても[自分]という存在を殺すことになる。
(それを自覚しているのだろうか・・・)
このミンチョルの杞憂が現実となるのはもう少し先のことである。
「いや、これでソウルに居る可能性が高くなったんだ。
それに本当にチョニョンだったのなら動きづらくなったはずだから、
すぐに大きな行動には出ないだろう。時間的に有利になったのはこちらの方だと考えて良い。
だけど油断は禁物だな。より慎重に行動しないと。」
ミンチョルの声がいつも通り落ち着いていることにソンジェは少し安心した。
「そうだね。これからどうする?」
「まだ新村に居たのがチョニョンだとは言い切れないだろ?」
「確かに・・・旅館の宿帳には彼女の本名は無かったからね。」
「とりあえず現状維持を続けよう。チョニョンも遠くに移動することは無いだろうからな。」
「分かった。じゃ、また何か分かったら連絡するよ。」
「ソンジェ。」
「ん?」
「すまない。」
唐突過ぎる兄の言葉にソンジェは戸惑った。
「き、急に何?」
「俺の問題にお前を巻き込んでしまって・・・」
ソンジェはミンチョルの言葉に何も答えないまま携帯電話を切った。

ミンチョルとの会話を終えたソンジェは携帯電話を複雑な思いで見詰めていた。
チョニョンのことがあってからミンチョルと話す機会が確実に増えている。
それはかつて一緒に暮らしていた15年の間に交わした会話数を遥かに超えているだろう。
ミンチョルの父ソンチュンが自分の実父であるヨンジュンの命を奪ったことを知った後も、
ソンジェは変わらずミンチョルのことを『兄さん』と呼んでいた。
それに特別な意味がある訳ではなかった。
ソンチュンへの気持ちはともかく、ミンチョルに対して憎しみがなかったかと言えば嘘になる。
実母であるミョンジャを忌み嫌い蔑み、その母は最愛の夫の命だけでなく、
自らの命を奪われるまで追い込まれた。
何よりソンジェ自身が初めて愛した人を奪っていったその人だった。
もちろん『兄さん』と親しく呼び続けるには酷く傷ついていた。
しかし15年という時間はあまりにも長く、ミンチョルをそう呼ぶ以外に思いつかなかった。
ただそれだけのこと。ソンジェはずっとそう思っていた・・・そう思おうとしていた。
でも本当は違う。
他人行儀な呼び方に変えることは否応無しに天涯孤独になったことを実感させる。
それが何よりも恐かった。
(僕たちの関係は自分たちが傷ついた分だけ良くなっていくみたいだ。
まるで傷を塞いで強くなる瘡蓋(かさぶた)のようにね。)

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