新千暖荘

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2012年1月28日

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財務省の手先  岡留安則の「東京-沖縄-アジア」幻視行日記

■1月某日 開幕した国会だが、野田総理の施政方針演説を聞いても日本の先行きは全く見えない。岡田副総理を起用して税と社会保障の一体改革と称して消費税増税を画策しているが、当の岡田副総理が消費税増税は10%アップでは足りないとの発言もしている。この未曾有の震災の中で、景気の低迷、不安定な雇用、年金じたいの引き下げも囁かれる中で、消費税を増税するなんて正気の沙汰ではない。民主党・野田政権が早番行き詰るのは目に見えている。新党構想や政界再編も取りざたされている。政権交代時の公約をことごとく投げ捨て、公約破りの消費税増税を先行させるというのだから、野田総理の本音が、財務省と一体となった消費税増税にある事は、明白である。財務省の手先と呼んでもいい。メディアも基本的には財務省―野田政権と歩調を合わせているのだから始末が悪い。
 民主党は前回の参議院選挙でも菅前総理が消費税増税を打ち出して大惨敗を喫した。その反省は全く見られない。むろん、幹事長すら一切の責任を取らなかった。かつては消費税増税10%を主張していた自民党も、民主党の豹変ぶりに対して、徹底した自己批判が必要との立場にシフトしている。自民党としてはこれ以上、民主党に政権を任せていれば、日本の先行きが見えないという事もさることながら、自民党という政党のアイデンティティじたいも消滅する危機感を感じているのだろう。仮に、民主党が来年まで政権の座に居座れば、自民党じたいの財源も枯渇して潰れるとの見方もあるほどだ。それも、自民党が官僚任せの悪政を続けてきた結果なので同情する気はない。沖縄の基地政策や辺野古新基地建設も戦後の防衛・外務―自民党―米国の独断で進められてきた。今年で、沖縄の本土復帰から40年。沖縄は、日米安保維持のための最大の犠牲をいまだに強いられたままである。
 そんな中、辺野古新基地を推進するための環境アセスの内容に批判が集中している。むろん、日本全体の問題ではなく、沖縄の地元メディアを中心とした限定的な動きだ。アセスの調査・制作があまりにも杜撰だからだ。防衛省は一貫して欠陥機の噂が消えないオスプレイが配備されることもひた隠しにし、環境アセスにも盛り込んでこなかった。絶滅危惧種のジュゴンにしても、海中写真におさめてはいるが、確実に生存しているのは一匹だけで、環境に影響はないという紋切り型の報告で済ませている。むろん、オスプレイが発する低周波の影響についてもほとんど言及していない。
 その謎がばれたのが、沖縄タイムス(1月24日)が「アセス業者に天下り 防衛OBが顧問客観性に疑問」というスクープ記事だ。環境アセスの調査を受注した民間の調査会社に防衛省の天下り役人がいたのだ。しかも、随意契約で、癒着の構図が浮き彫りにされた形だ。ライバル紙の琉球新報も翌日の紙面で追撃。「アセス業者に天下り 防衛省OB 科学的客観性に疑義も」(1月25日)。新報は翌日も「辺野古アセス 受託全四社に天下り、競争入札なく高落札率」と追撃。むろん、火をつけた形の沖縄タイムスも一面トップで「アセス調査 二社独占 落札率99% 3年で34億円」とやり、27日の社会面トップで「アセス天下り6人に 防衛省契約の6業者」と追撃。この沖縄県地元紙の調査報道で、沖縄では「アセスそのものをやり直せ」という声が広がっている。当然のことだろう。 防衛省の田中前沖縄防衛局長の暴言、田中直紀新防衛大臣の無知と失言。防衛省という役所に対しては、根本的な人材教育と防衛予算の無駄遣いを徹底チェックすべきである。こんなメチャクチャな税金の無駄遣いを放置して、消費税増税なんて、野田総理の厚顔無恥ぶりも相当なものだ。
 それはともかく、このところ元気のなかった沖縄タイムスの調査報道がスクープを生み、ライバル紙の琉球新報にもいい刺激を与えている。中央メディアには切り捨てられている沖縄だが、地元二紙の相乗効果による奮起だけが県民に希望を持たせてくれている。それが日本のメディアの現実なのだ。
2012.01.28

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第7回「文芸思潮」エッセイ賞社会批評奨励賞 「牛の瞳」 池山弘徳

「牛の瞳」               

 幼いころ、私の家には二つの家があった。一つは人間の住む藁屋根、一つは牛の住む瓦屋根であった。牛小屋の方が堅固な構造であったから、台風の時は牛小屋に避難した。二階建ての牛小屋には、梯子を使って昇った。そこには藁がぎっしり積まれ、子供にとっては格好の「かくれんぼ」の場所でもあった。

 夏場は牛の餌は充足されていたが、冬場は緑の餌がなくなった。そこで、竹柴狩り、蓮華刺しは子供の仕事であった。兄たちは、藁切り機で裁断をした。その刃を研ぐのは父の仕事であった。

 牛は、牛小屋にいないときは、庭の西洋梨の器に繋がれていた。牛が、ボタ、ボタ、大量に排糞する様子は、面白くて仕方がなかった。四本足の牛は、蠅や虻の攻撃にはしっぽを使った。しなやかな箒は右に左に鞭のように揺れた。

 さらに、牛の鳴き声はおかしかった。牛は「モウモウ」とは鳴かない。「ン、モー」と鳴く。このンの音素が、のんびりした昼下がりによく似合った。麦藁帽子をかぶった私はシルクのように柔らかい牛の下首を撫でながら「ン、モー」を牛と唱和した。

 しかし、私が一番に興味を持ったのは、牛の瞳であった。青い玻璃宮のような澄んだ瞳には、色々なものが写った。青い空、ゆっくりと流れる雲、点在する菜の花、自転車、荷車、藁屋根。私は、実物よりも、牛の瞳に言語を覚えた。つまり、ジャック・ラカンの理論による鏡像段階を終え、原初抑圧、象徴界に至る時期が、牛の瞳と共にあったことになる。そして、牛の瞳に学んだのは、体感としての優しさだった。

 獣医者が来た時もあった。牛のお尻に鉗子を差し込んで、医師は「坊や、見てみろ」と言った。それが、種付けの手段であることはおぼろげながら理解していた。その暗黒に感じたのは、子宮や性に対する原初の不安であり、茫洋たる闇であった。

 時が、少し経つと、耕運機が田園の見られるようになった。その頃、馬喰がバイクに乗ってやってきた。父と馬喰は談笑しながら、鳥打ち帽子の下で、「もぞもぞ」を始めた。父の口元の笑いと眼差しの厳しさは、今でも脳裏に残っている。帽子の陰で価格交渉があったのだろう。しばらくすると牛小屋には、誰もいなくなった。断言する。牛のいた時間彼女は決して畜生ではなかった。家族を支える縁の下の生き物であった。

 時が経ち、平成二十二年四月二十日、宮崎県に口蹄疫が発生した。最終的に二十八万八千三百頭の牛と豚が亡くなった。

 マスコミ報道に流れる家畜、畜生、畜産、の活字には嗚咽にも似た不快感を禁じえなかった。画一性、合理性が上からの言語ならば言霊を信じる文学の言葉には、心が有ってもよい。家畜排泄物法、家畜伝染病予防法の家畜、畜生という表現を改めることはできないのだろうか。インドでは、牛は神である。仏教の畜生道という言葉をいつまでも保存する必要性は何もなかろう。ペットが愛玩動物を呼ばれるのにそれより人間にとり重要な存在である牛や豚が、何故に畜生とよばれなければならないのか。

 八月十二日、薄曇りの中、カシオペア座の近く北東の空に、ペルセウス座流星群が舞った。「微かな微粒子の秘めたるエナジー」。見事に狂おしく燃えつき消えていくさまに、心が激しく揺れ動いた。口蹄疫は人類に対する獣類の反逆だったのだと。

 口蹄疫は、早急に且つ本質を見抜いて対処しなければならない。国際化の中での検疫及び入管体制、瑞穂の国の藁をも含む稲作のあり方、生物多様性の視点、飼育方法の衛生上の課題、国立家畜衛生研究所でしかウイルスを扱えない中での研究開発の問題等。人間の心と科学の総力を賭けた真摯な営み以外には解決の方法はない。

 口蹄疫の口蹄疫がようやく収斂に向かったころ、地元放送局は、特設番組を組んでいた。その番組をみて、詩を書いた。

 

 「静かに」

風吹き渡る 空っぽの牛舎

 

農夫が語る

「食べられることもなく

死んでいった牛達

見届けるのが使命と思い

最後まで、最後まで、見送りました」

 

農夫が語る

「みんな一言の泣き声も出さず

静かに、静かに、死んで行きました」

 

牛の綺麗な青い瞳の眼差しに写った

最後の人たちの

美しい真実の言葉

静かに死んだ牛の沈黙のみが

何かを語る

 

死ぬことで 守る命

死ぬことで 守る矜持

死ぬことで 死ぬことで

殺処分された牛豚

 

口蹄疫ウイルスと戦うために

自己を犠牲にして

静かに 静かに

死んでいった者達

 

牛の瞳 みほとけのこころ

人間は もう

牛や豚を 畜生と呼んではいけません

     家畜と呼んではいけません

 

人間と動物が同じ生き物であると、ひたすら書き続けた宮沢賢治。動物が人間のように自由自在に話をする安房直子の世界。この作家達が日本の文化にどれだけ豊饒な世界をもたらしたことだろうか。宮沢賢治や安房直子が一度でも、牛や豚を畜生と考えたことがあるだろうか。

 口蹄疫がもたらした悲惨な光景を決して風化させてはならないと同時に、牛や豚を畜生と呼称することを人間はなくしていかなければならないのです。畜産ではなく養牛、養豚と呼称して表記すべきなのです。

 

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