不思議なお話59
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福山での仕事を終え、今日那須の自宅に戻りますが、明日は北海道に向けて出発です。 忙しいことはいいことなのか。 今月は、自宅に5日しかいないことになります。 さて、ちょっと変わったお話となる臨死体験編の後編です。 「あっ、気付いたわ。大丈夫、紀英。」 母の問いに、紀英は直感的に答えました。 「大丈夫。おもちゃは諦めた。」 美奈子は、わけがわからず聞き返しました。 「体のことよ。どこか痛いところはないの。」 紀英、自分の体については自覚していなかったのですが、母に聞かれて、自分はどうやら病院のベッドの上であり、頭の後ろが痛いことをようやく自覚した。 「ああ、後頭部が痛い。」 「そうよ。紀英、後頭部に切り傷があるのよ。でも、それだけで済んだのが奇跡よ。」 そうか。自転車ごと空を飛んで岩に激突したんだっけ。普通なら死んでるよな。 「自転車でダイビングしたんだった。ところで、自転車どうなった。」 紀英、自分よりも自転車のことが心配になった。 「自転車の方も、木の枝にひっかかって奇跡的に無事だったわ。」 母美奈子の答えに、紀英は安心しました。 「よかった。父さんに買ってもらった大事な自転車。」 「あんたねえ、自転車なんてどうでもいいわ。どうしてあんなことしたのよ。」 そうそう、すごい勢いで坂を下ってきて、この勢いでジャンプしたら空を飛べるかって一瞬考えてしまったのでした。 「あはは、つい空を飛べないかって考えてしまったんだ。」 正直に答えると、母は目に涙を溜ながらも怒りの表情に変わった。 「あんたねえ、死んだらどうすんのよ。しょうもないことして。」 紀英、眼前の母に、本当にありがたいと感謝の気持ちがわきました。 「そういえば、三途の川見てきたよ。」 「三途の川だなんて、大丈夫なの。」 「うん。大丈夫だ。心配かけてごめん。」 美奈子はほっとしていましたが、三途の川のことは気になりました。 「ほんとに大丈夫かしら。紀英、今、三途の川って言ったやないの。」 「うん。三途の川見てきたよ。」 「紀英正気。」 「大丈夫だと思うけど。」 「不思議ね。お父さんも同じ様な経験あるらしいわ。」 美奈子は、夫俊一郎から、2歳にもならない頃の臨死体験のことを聞いていました。 「うん。閻魔さまじゃなくて、イギギさまって転生を看視している神様かな、が、父さんは、僕よりももっと凄かったって教えてくれた。」 美奈子は、笑顔で答えました。 「そうだったの。でも、よかったわね、帰ってこれて。」 「うん。三途の川勝手に渡ろうとして怒られたけどね。」 「もしかして、臨死体験ってやつをしてきたんじゃない。」 「うん。きっとそうだと思う。でも、まだ来るはずじゃないからって、帰らせてもらえたんだ。」 「もう。二度と無茶するんじゃないわよ。」 「もうしないよ。何だかとっても大切なこと教えられた気分だし。」 「父さんも、そうだったみたいよ。」 母に言われ、紀英、イギギさまから教わったことを話すことにしました。 「うん。イギギさまから聞いたよ。父さん、その経験がなかったら、もともな人生歩むことができなかったんじゃないかって。」 「あはは、それわかるわ。」 美奈子は、子供の頃の、天才ながら傍若無人な俊一郎のことを聞いていましたから、つい笑ってしまいました。 「でも、不思議だな。」 「何が。」 「いや、何故死ななかったのかなあ。どう考えてもあの勢いでまともに岩にぶつかったんだから、生きているはずがないんだけど。」 「そうね。たまたま見ていて、救急車を呼んでくれた人も同じことを言ったわ。頭からぶつかったから、生きているはずがない。ましてや、後頭部の軽傷だけで済むはずがないと。」 美奈子、目撃して救急車を呼んでくれた近所の農家の人から連絡を受けて病院に駆けつけたのですが、その人は、紀英が生きていることがどうしても信じられないと何度も美奈子に話したのでした。 「そうよねえ、私も現場見てきたけど、あんただけでなく、自転車が無事だったことも奇跡だわ。」 美奈子、夫から聞いたことも続けた。 「お父さんは、2歳にもならない時に同じ様なことしてるわ。お父さんの時は、本人、頭が砕けた感触まであったって言ってたわ。でも、紀英と全くおんなじで、後頭部の切り傷だけで済んだのよ。」 「そんな小さい頃のこと、父さんよく覚えていたね。」 紀英、複数の前世記憶を持っている父でも、2歳にもならない時のことを覚えているのは不思議でした。 しかし、賢明ながらも破天荒な面を併せ持つ父らしいなとも思いました。 「僕の場合、頭に岩が食い込んだところで記憶が途切れているんだけど、どう考えても後頭部に傷があるのは変なんだ。前向きに岩に向かってダイビングしている体勢だったから、ぶつかる直前に空中で反転しないとあり得ない。時間を止めて、体の向きも変えて、ゆっくりとぶつかるように調整し直したとしか思えない。」 美奈子は、紀英が助かっただけで十分でした。 「わけのわからんこと言ってないで、助かったんだから、頭が少し切れただけで済んだんだから、神様に感謝しなさい。」 「うん。確かにそうだな。まずは感謝だ。神様、仏様、イギギ様に感謝。」 美奈子、最後のイギギ様がわけがわからなかったので、聞き返した。 「さっきから言ってるけど、イギギさまって、なあに。」 「ああ、三途の川で遊んでたら、叱られて、その後いろいろ教えてくれた神様かな。転生を看視する存在って説明してくれたけど、姿は見えなかった。」 「紀英、大丈夫か。」 勤務先から呼び戻したわけで、紀英、心苦しかった。 「ごめんなさい、父さん。」 「父さん、仕事休んで大丈夫だったの。」 美奈子も心配した。 「あのなあ、息子よりも大事な仕事はしとらん。それよりも、本当に大丈夫か。」 「ああ、紀英、後頭部の切り傷だけだって。CTも撮ったけど、脳には異常ないそうよ。」 「絶対死んだはずなんだけどなあ、頭に岩が食い込んだ感覚もあったから。」 妻と息子の報告に、俊一郎、何故か苦笑した。 「父さんと同じだな。当時はCTなんて便利なものはなかったが。」 「そうなの。母さんにも言われたし、イギギさまにも言われたんだけど。」 「何、お前、イギギ様にもあったのか。」 驚く父が何か知っていそうなので、紀英聞いてみた。 「あれ、お父さんも、イギギさまのこと知ってるの。」 「お父さんも、臨死体験したんだよ。」 「うん。母さんに聞いた。」 「その時、蒼い光の満ちた空間にしばらく居て、帰るように言ってくれたのが、イギギ様だったんだ。」 「あはは、お父さんには困ったってイギギさま言ってたよ。」 「別に困らせた覚えはないのだが。」 俊一郎、素直に言葉に従って帰ってきただけで、困らせた覚えは無かった。 「いや、普通の亡者というか、死んだ人の霊魂は、三途の川の手前でチェックされるんだって。」 「された覚えは無いな。」 俊一郎、正直に答えました。 「そう。父さんはそのとおりだったらしいんだ。イギギさまが言うには、どこをどう間違ったのか、父さん、三途の川を飛び越えて、中間生まで直接行ってしまったんで、慌てたって言ってたよ。」 「そうだったのか。父さん、三途の川には全く覚えがないが、何だか蒼い光の満ちた空間に居た覚えがある。あれが、中間生って言うのか。」 「そうだって。そこで癒やされて、多くの霊魂は現世での記憶を忘れてあの世に行くんだって。」 「あなた、そんなところまで行って戻ってきたんだ。」 妻の美奈子にも呆れたように言われて、俊一郎はまた苦笑した。 「でも、残念ながら2歳にもならない時だったから、どういう状況だったのか、余り理解はできなかったな。その点、お前はいろいろ聞き出してきたんだ。」 「うん。気付いたら三途の川のほとりに居たんだ。どうせ死ぬんだったら何でもやってみるかと思って、川に飛び込んで見たら、めちゃくちゃ浅くて、歩いて渡れそうだったんだ。だから川の中走り回ってたら、イギギさまに叱られた。」 「何だそれは。ところで、お前はイギギ様の姿を見たか。」 俊一郎、興味を覚えたので確かめてみた。 「いや、声だけだったよ。転生を看視する者だって名乗ってくれたけど。ところで、イギギって何か意味があるの。」 「父さんも声しか聞いていないな。でも、確かイギギって、古代のシュメール語で、見まもる者、看視する者という意味だ。」 「うん。僕には、転生の看視者だって教えてくれた。」 「してみると、お前はずいぶんお世話になったようだな。」 「そうかもね。イギギさまも、面白がっていたようだったよ。親子して、掟破りだからって。」 「まあよい。二度とはお世話にならないように、気を付けることだ。」 結局、紀英は軽傷で、検査の結果も異常無しと判明したため、そのまま退院し、家に戻ることができました。 しかし、父と違って相変わらずあまりいい子にはならなかったところが、紀英の個性だったのでしょう。 結構人なつっこく、まわりをうろうろしていたのですが、巣立ってから間もないのか、まだ餌くれーと鳴いているような感じでした。 |


