小説「SAP=AR(GOB)」-2
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太古の咆哮(Ancient roar) 第8章 本の女神(Goddess of Books) Chapter 20 見星イブが、古書店で買い求めた論文集は博士論文集だった だが、その内容は信じられないほど稚拙なものだった 「これが博士論文だって。。?」 フィンが呆れたように言った クレアも同じのようだ 人には見せられない恥ずかしい「修士論文」とは比べようもない こんなものを論文などと言うにはおこがましいではないか フィン・ハイラインとクレア・マリンドルフは、鈴木直子と鈴木美和のガーディアンとしてTH大学に共にあった そして、一緒に講義を聴く毎日を送っていた その中で、その内容をレポートに書くようになった それを見た美和と直子は、大学にいるのだから、修士課程でも受験したらと言ったのだった フィンとクレアは、共にUCLAの学士課程を修得しているのだから、受験資格があるというのだ その言葉に乗せられて、受験したところ、共にめでたく合格してしまった それで修士を履修することになったのである それを1年で終えて、論文を書くことになった ところが書いてみたまではいいのだが、できあがってみると、美和や直子の論文に比べてみると、そのできは無残なものだった だが、提出期限がせまり、不本意ながらそれを提出したのである ところが、それが「優」になり、修士号を得ることになってしまった 人に見せられない恥ずかしい論文は、修士論文集に掲載され、保管されることになってしまったのだった それで、この二人は、このような論文にはうるさいのだった そして、今日一日、都内をイブに引き回されて得たものは、その古びた論文集1冊だった だが、当のイブはご満悦なのだ そこは見星イブが投宿してるホテルの一室である いつものとおり、その部屋はホテルで最も広いVIPルームである なぜなら、この部屋がSAPの前線基地になるからだ そして、クレアとフィンは、イブの監視と補助を兼ねて、この部屋に同宿していた 応接セットの主人席に座って、テーブルに置いた古い論文集を見ている 「イブ。。 こんな稚拙な論文集など、何の意味があるんだ?」 クレアが尋ねると、イブが応えた 「それの32ページを見てみなさいよ」 それに応じるように、クレアが論文集を開いた それに寄り添うようにフィンがのぞき込む それには、論文の要約が記載されていた その標題は、「人類復古による能力開発に係る考察」となっている その内容は次のようになっている 「時代の流れとともに、人類は弱体化している そして、進化の名のもとに多くのものを失っている 過去に遡れば、その歴史が語るように強者のみが生き残ってきた 今、存在する日本国民は、淘汰された強者の末裔にもかかわらず、弱体化が進んでいる 皇国を守るべく存在する国民が弱体化し、それはそのまま兵員の弱体化につながっている これは由々しき問題である 我々の魂は、輪廻によって循環し、転生して誕生する これに基づき、人類史の回帰をおこない、世代を遡上することにより、かつて失った強靱な体躯、精神力及び能力を取り戻すことができる それによって、兵員の能力を十数倍にすることが可能である 兵員の強化は、兵員各個への化学的な処方によって行い、その投与の平準化を行うことによって、一度に大量の強化兵員を生み出すことが可能である この強化兵員を仮に復古兵士と呼称する 当該復古兵士を前線に配置するならば、白兵における戦況を優位にできることは明確である これによって、皇国の国是たる八紘一宇の元に大東亜圏の覇者の一助たり得ると確信するものである」 それを読んだフィンが気色悪そうに言った 「なんだこれは? 旧日本軍の軍国主義そのままじゃないか」 「それは、そうよ その論文は、開戦前に書かれたものだもの」 ここで言う開戦とは、太平洋戦争のことをいう 1941年(昭和16年)12月8日のマレー作戦及び真珠湾攻撃を基点とした米英への宣戦布告から始まったのである 1945年(昭和20年) 8月14日に、ポツダム宣言を受諾したことによって、終戦となった それにイブが続ける 「それを書いた人を見なさいよ」 著者名を見ると、「五嶋保明」となっていた 「これは。。」 「そうよ それが軍部の目にとまったのよ それで、帝国陸軍関東軍防疫給水部本部に入隊することになった」 「なるほど。。 これで、お前の仮説が立証されたという訳か。。」 イブの目的は、そこにあったのだ 派手な立ち回りをしたかと思えば、このような地道な調査も平気で行う彼女に、二人は深い溜息をもらした その翌日、イブ、フィン、クレアの金髪3人娘は、休日の一時を過ごしていた 買い物を兼ねて、街に繰り出したのである 陽気なフィン、クールなクレア、理知的なイブの3人が、街を何やかやと話しながら歩いている イブは、相変わらずの白地に青のグラデーション・ストライプのワンピースである フィンは、赤のタイトのスーツで、クレアは茶のパンツ・スーツだった その3人が、歩行者天国を楽しそうに話しながら歩いている この女性達は、外国人の3人友達のように見える その中にいる見星イブが、今をときめく歌姫だと認知する者はなかった 似てはいるが、他人のそら似という感じである イブにとっては、それは楽しい一時でもあった 3人がコーンに盛られたアイスクリームを食べながら歩いている 「あの教授先生がねぇ〜 こんなものも食べるんだな」 クレアが感心したように言っている それにイブが、楽しそうに応えた 「でもね〜 教授が食べるのは、ジェラートかシャーベットなのよ 特に柑橘系のね。。」 「そか。。 甘くない方がいいだろうね」 「そうみたい」 などと言いながら歩き回っていた 歩行者天国では、イベントが行われていた 色々な試食などを行っていた どうやら、産直食材のイベントのようだ テントが軒を並べている 菓子や料理の試食が提供されている その端にワインの試飲を行っているテントがあった どうやら地ワインなのだろう 無名のワイナリーだった 多くの人が紙コップに入ったワインを飲んでいる 「おい、クレア ワインがあるぞ」 フィンが、目を輝かせて、指さして言っている すると、クレアが応えた 「日本で作られたワインだ 我々の国のワインとは違うぞ 口に合うかどうか解らない」 フィンもクレアもアメリカ国籍である だが、フィンの生まれはフランスであり、クレアはドイツである どちらの国も有名なワインの産地を持っている 「合うかどうかは、試してみなければ解らないだろう?」 そう言うフィンにクレアが、イブを横目で見ながら言っている 「ここにSAPのスタッフがいることを忘れるな 試飲とはいえ、酒飲んで車を運転してみろ 角田沙矢に知れたら事だぞ」 それにフィンがイブを見る 彼女が白い目で見ている 角田沙矢の潔白な性格は有名だ 社内のささやかな賭け事でさえ、法令違反だから告発すると言ったという話しは特に有名だ その結果、掛け金は没収、特別の温情を持って告発はしないが、それに代わって懲罰が与えられたという それに、フィンが深い溜息をついた その時、周囲を異様な感覚が支配した ワインを飲んでいた人達が、その場に立ちすくんでいる 手から紙コップが、次から次へと落ちていく 次の瞬間、イブが周囲を見回していた 『PSI力場が、急速に拡大している』 「力場(りきば)」とは、物理量を持つものの存在が、別の場所にある他のものに影響を与えることである また、その影響を受けている状態にある空間のことを示す その言葉に、フィンとクレアが周囲を見回す イブが、心の中で言っている 『イブミラ! 力場の観測を!』 『了解。。 もうしている そんな。。 発信源が多数。。 今、掌握している。。』 『全記録を!』 『了解している 力場が集束している 上の。。。 屋上の広告塔だ』 その言葉にイブが上を見上げる 22階建てのビルの屋上にある四角形の広告塔のコンクリートの土台にヒビが入っていく 大きな力が働いているかのように動き始めている バキッバキッと土台が割れ砕け散る それがフッと浮いたかと思うと、横に移動いていく そして、道路上に出てくると、力場が消失した それとともに、それが歩行者天国の路上に落下してくる その場には数人の人々がいた それに3人がザッと跳んで、その下から人々を抱え、押し出し、弾き飛ばした だが、全ての人を救出できた訳ではない 無情にも広告塔は、その人々の上に落ちた ドーンと大きな音をたてて、広告塔は落下したのだった 呆然とそれを見ているフィンとクレアに比べ、イブはワインを提供していたテントを見ていた そこには、人の姿はなかった ただ、テーブルの上に、飲み残されたワインが入った紙コップだけが残っていた イブは、それに走りよるとそれを手にした 中を見ると、ワインが半分ほど注がれている 彼女は、ハンドバッグをテーブルに置いて、中から試験管ほどの大きさの装置を取り出す 蓋を開いて、中からスポイトを出して、ワインを吸い上げた 赤ワインだ いや、赤ワインの色をした液体である それをスポイトも一緒に入れて蓋をした そして、それをハンドバッグに入れ、何事もなかったようにその場を離れた その一方で、その様子を見ている者達がいた その通りが見渡せるホテルの一室から、それを見ていた それは佐川竜司とディアスだった それを佐川は笑みを浮かべて見ていた それに対してディアスは、それを冷静に見つめている それに佐川が鼻高々に言っている 「遺伝子への浸透性強化による覚醒までの時間の短縮 神経回路網の再編成のコントロールにおけるサイパワーの増幅 それに経口投与 その上、力も安定している どうかね?」 それにディアスが言う 「それで、実験台になった奴らはどうなる?」 それに佐川が応える 「ふん 希釈してあるからな 直ぐに元に戻るさ 自分が何をしたかも覚えていない」 その言葉を聞いたディアスが、「覚えていない?」と言ったが、それを打ち消すように続ける 「だが、これだけではな。。 実用性が確認できない」 「どういうことだ」 「それが安定しているかどうかだ 作戦遂行中にミイラ化されては意味がないだろう 現に、『くのいち』を仕留め損ねている」 「そうかね 充分安定していると思うがね」 「この程度では、安定とは言えないな その反証がなければな 君は、自己満足で完成と言っているようだが。。 私の求める反証ができない限り、認められんよ」 「私も飲んでいるよ」 すると、ワイン瓶が宙に浮いてグラスに注ぐ 佐川の手にワイングラスが、静かに飛んでくる それを手に受けると、それを飲み干した 「その程度では、反証にもならん その力を使い続けることを繰り返して、始めて反証と言えるのだ その力とは、相手を殲滅する力だ そんな子供だましでは、反証にもならんよ まあ、飲み過ぎは身体によくないよ」 それだけ言うと、ディアスは部屋を出て行った それを見送りながら、佐川はグラスを床に叩きつけた 20120223 |
