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小説「SAP=BOH(NOS)」-1

 
 
薬師如来(Buddha of Healing)
 
 
第5章 海洋調査船「ノーチラス」(Mission of Nautilus)
 
 
Chapter 07

 
 
ヤクシは、いつもの監視する作業をしていた
 
その中で、サンライトとムーンライトが気になることがあるみたいだ
 
「ヤクシ様、これをどう思われますか?」
 
その言葉に応えるように、ディスプレイが切り出された
 
それに映し出されたのは、2つのインターフェースの姿が映し出された
1つは、猫耳に猫の尻尾をつけた少女の姿だった
もう1つは、狐耳に狐の尻尾をつけた少女の姿だった
 
すると、ヤクシが言った
 
「レナとフィナだな
 内山果歩と滝田聡美のインターフェースだ
 それが、どうした?」
 
それにサンライトが言った
 
「インターフェースの擬人化には、定めはありません
 ですが、あまりにもラフすぎるというか。。
 ふざけすぎではないでしょうか?」
 
それにムーンライトもいう
 
「そうです
 猫耳とか、狐耳とか、尻尾なんて。。」
 
「そうか。。?
 美和のジルなど。。
 両性だぞ
 男の時は執事だし、女の時はメイドだ。。」
 
「そうですが。。」
 
「直子のレオは、黒髪のイブだ
 それもTシャツにジーンズだぞ」
 
「そうですが。。」
 
「それに、保夫のアステロイドは。。
 小人だぞ」
 
「たしかに。。」
 
「それに姿形(すがたかたち)など、どうでもいいことだ
 それにあの2人は、おそらく一番の働き者だろう」
 
「ですが。。
 姿は姿勢の反映ではないでしょうか。。」
 
「そうか。。
 お前達が不快と思うなら、イブに進言しよう」
 
そう言って、ヤクシが続けた
 
「だがな。。
 私も、人のことを言える立場ではないのだ」
 
その言葉に、サンライトとムーンライトが、巫女姿のヤクシを見た
 
「私だって、職務に向かうとなれば。。
 沙矢やイブ、洋子や遥のように。。
 スーツを着るべきなのだろう」
 
そう言って、困ったように溜息をついた
 
「この姿は。。
 遥が儀式の時に着ていた服だ
 神事に着ていたのだ
 それが気に入ってしまってな。。
 これを選んだ」
 
そう言って、楽しそうに立ち上がると、その姿で舞って見せる
 
「これには、さすがのイブも呆れていた。。
 だが、私はこれが気にいっているのだ」
 
その姿は、本当に嬉しそうだ
 
「だから、お前達も私を真似る必要はないのだ
 もっと、自由にしたらどうだ?」
 
「良いのでしょうか。。?」
 
それに頷いて続けた
 
「レナもフィナも、インターフェースのくせに攻殻機甲だからな
 必要があれば、戦闘に出向く
 そうであるならば平時のあのようなスタイルも、平和で良いじゃないか?」
 
「そうですね。。」
 
「だから、お前達も皆のスタイルでも見て、自分の気に入った姿でいたらいいのではないか?
 平時には、平時なりの姿もいいのではないか?」
 
 
その日以来、サンライトとムーンライトは、お気に入りのスタイルで猫耳をつけるようになった
そして、楽しそうに話し合うようになった
ヤクシ・ルームは、以前より明るくなった
 
 
 
そんなある日、ヤクシ・ルームは緊張に包まれていた
それまで、猫耳をつけてキャッキャッと賑やかに話していたサンライトとムーンライトの様子も変わっていた
 
ヤクシは、相変わらず巫女姿なのだが、彼女達は紺の戦闘服に身を包み、赤いベストを着ていた
その姿は、今までとは打って変わって、凛としたものだった
その2人が、司令官席に座るヤクシの前に凛と立っている
 
そして、2人の前には、十二神将が片膝をついて控えていた
それにサンライトとムーンライトが、檄を飛ばしている
 
「まもなく、予定時間である
 その時間帯は、システムがそれに集中することになる
 その間は、我々が防御しなければならない」
 
「はい」
 
「いいか
 防御に集中しろ
 その期間中は、ゲートウェイ封鎖だ
 外部サーバのポートの監視を強化する」
 
「はい!」
 
 
 
そのころ、サイエンス・アカデミー・プロジェクトの海洋調査潜水艦「ノーチラス」は、東経178度、南緯12度付近の海中を移動していた
 
ノーチラスの前方に位置する操舵室では、イマージェンシーを告げる表示がなされていた
作戦開始を意味するものである
通常、ノーチラスは無人である
航行システムが、それを管理しており、その指示に従って移動している
 
だが、社屋のミラーという考え方をすると、そこにはスタッフがいるのと同様である
なぜなら、ノーチラス内部にあるインターフェースが同様に動作しているからだ
 
通信士システムが報告している
 
「『ニーベルングの指環』より通信
 本艦周囲5海里に障害物なし
 作戦遂行に支障を認めず」
 
その報告に応えるように艦長システムが言った
 
「予定通り、1400に作戦を開始する
 総員、配置につけ」
 
それに「了解」の返ってきた
 
「バラスト排水
 静音浮上」
 
「バラスト排水!」
 
副官システムの声に応えるように「バラスト排水」という言葉が返ってきた
 
 
赤道より南方の海域である
上空には青空が広がり、白い雲が浮く穏やかな海である
周囲には、水平線が広がり、何もいない
風もなく、静かな海が広がっていた
 
その青い海に黒い影が浮き上がってきた
それが静かに上昇してくる
海の中を静かに、黒い影が進みながら移動してくる感じである
 
ひょいと潜望鏡が出てきて、それが海面を切るように移動していく
それが徐々に上昇して、まもなく艦橋が現れた
そして、艦橋とそれに続く長いドームが現れた
その下に船体が僅かに出るように浮き上がり、静かに進んでいく
 
海上の船体が、太陽の光と海に反射する光を受けて、玉虫色に見えていた
 
「現状を報告せよ」
 
「異常を認めず」
 
「機関停止!」
 
「機関停止」
 
ディスプレイでは、カウントダウンが始まっている
 
「上部発射管
 1番、2番、3番を開け」
 
「上部発射管、1番、2番、3番、開きます」
 
その言葉に従って、長いドームの後部のハッチが音もなく開いた
 
「発射準備完了!」
 
その言葉に応えるように、艦長システムの声が響く
 
「カウントゼロで、1番発射
 30秒後に2番、発射
 続いて30秒後に3番、発射」
 
「了解」
 
その言葉に従って、ディスプレイにセットの様子が表示される
 
「セット完了」
 
「了解
 待機」
 
ディスプレイでは、カウントが数を減らしている
コンマ以下のカウントが忙しく数が動いている
その数字が、ゼロに向かって進行していく
 
そのカウントがゼロになると同時に微かな振動が響いた
 
発射管からロケットが発射された
 
「1番、発射!」
 
それとともにゼロから、その数を増やしていく
そして、30秒になると、次の微かな振動が響いた
 
「2番、発射!」
 
カウンターがその数を増やしている
続いて、60秒になると、次の微かな振動が響いた
 
「3番、発射!」
 
「上昇を確認
 順調に上昇しています」
 
「発射管、閉鎖」
 
「発射管、閉鎖」
 
「発射管、閉鎖完了」
 
「水平潜行
 深度50で待機」
 
「バラスト、注水
 水平潜行
 深度50!
 待機!」
 
その言葉に従って、ノーチラスは静かに波間に消えて行った
潜水艦の黒い影が海中へと沈んでいく
青い海の中に、黒い影が徐々に小さくなっていく
 
 
ノーチラスから発射されたロケットは、上昇を続けていた
 
 
「1番が発射されました」
 
立花絵里香のインターフェース「マーズ」の声が響いている
 
「2番が発射されました」
 
その30秒後に「3番が発射されました」と報告した
マーズの声が続く
 
「ブースターは、順調に上昇中
 まもなく、1番が大気圏を離脱します
 大気圏離脱
 衛星軌道に到達
 ブースターを切り離します
 シャトルの制御を開始します」
 
そのような報告が3番まで続けられた
 
その一方で、見星イブのインタフェース「イブシアン」が報告している
 
「ブースターが切り離されました
 ブースターは、落下を開始します
 大気圏に突入します
 大気との摩擦によって発火と破壊が始まりました
 まもなく燃え尽きます
 地上20kmで消滅
 被害はありません」
 
 
宇宙空間では、打ち上げられたシャトルが列を作って進行していた
AFOS「オートマタ」が設置された無人宇宙ステーションに向かっている
 
マーズの声が響いている
 
「シャトル、ドッキング体制に入ります」
 
宇宙ステーションの地球側に突き出たドッキング口が6個、円形に並んでいる
そこにシャトルが到着して連結されると、それがぐるりと回って、次のシャトルの受け入れる
2番が連結されると、ぐるりと回って、3番のシャトルを受け入れた
 
「ドッキング完了
 物資の搬入が開始されましてた
 ミッション完了を確認しました」
 
 
 
ヤクシの言葉が響いている
 
「ミッション完了
 警戒態勢解除
 平時に復帰せよ」
 
 
 
20120528
 

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小説「SAP=BOH(NOS)」-1

 
 
薬師如来(Buddha of Healing)
 
 
第4章 ネットワークシステム(Network system of SAP)
 
 
Chapter 06

 
 
星が瞬く天上に月が冴え冴えと光を放っている
それは蒼い光を放ち、天上を過ぎようようとしていた
 
やがて、東の空に光が現れ、遠くの山々の陰を映し出していた
東の空は徐々に明るくなっていく
その明るさが増していく
 
暗かった空は、青みをまし、やがて赤みを得る
その赤みが薄くなり、空色へと変わっていく
やがて、その山陰から太陽が現れる
 
西に向かう月を追うように太陽が現れた
 
その太陽の光を浴びるように、ヤクシは草原に立っていた
 
白の小袖に緋袴をつけている
足は白足袋で草履を履いている
長い黒髪を檀紙で纏め、それを水引で縛っている
腰には御幣を差している
 
瞳は黒く理知的な輝きをもっている
顔立ちは整っていて、凛とした美しさを保っている
その姿は、まさしく巫女の姿だった
 
そのヤクシは、日の出を見つめていた
やがて、目を閉じて呟いた
 
「目覚めの時だ。。」
 
 
 
朝の5時30分である
その時間に、見星イブは目覚めるのだった
その時間を基点として、彼女の1日が始まるのである
 
ヤクシもその時間を、その日の基点としてた
その時間に合わせるように、着物を脱ぎ捨てる
そして、バスルームに入る
 
沐浴である
つまり、彼女にとって入浴時間が、禊ぎの時間であり、身体を清める時間になるのだ
そのようにして、のんびりと風呂につかっているのだ
 
 
イブは起きると、その日の生活を始める
身体を目覚めさせる柔軟体操を始める
それが終わると、拳法の型を繰り返す
それは、イブにとって外せない日課になっていた
それが終わると、汗を流すシャワーを浴びる
 
髪を乾かしながら、普段着に着替えると、1階の食堂に向かう
そこで朝食を食べる
そして、また自分の部屋に戻り、出勤の準備を始める
その日のスーツを着て、長い髪をアップに纏めて、軽く化粧をする
 
そして、身だしなみを整えると、姿身の前に立つ
自分の姿をチェックして、頷くと出勤の時間になるのだ
 
それに伴って、周囲にディスプレイが4枚切り出される
それには、イブシアン、イブミラ、イブリム、そしてヤクシが現れる
それに向かって姿勢を正した
 
「おはようございます」と言いながら丁寧に挨拶した
すると、皆もそれに習うように丁寧に挨拶を返すのだった
 
それが終わると、ハイヒールを履いて、部屋を出ることになる
宿舎を出て、社員通用口から研究棟に入る
それが出勤時間となるのだった
 
朝起きてから、出社までの時間は3時間だった
 
 
それをヤクシは、毎日見守っているのだった
 
それに合わせるように、ヤクシも自分の椅子に座るのだった
彼女の前方の左右には、彼女を守るようにサンライトとムーンライトが立っている
 
「しかし。。
 人の身体を持つというのは、不便なものだな」
 
それを二人が黙って聞いている
 
「夜は眠らなければならないし。。
 食事もしなければならない
 食えば食ったで、出すものは出さなければならない
 まったく、面倒なことだ」
 
それに、サンライトとムーンライトが笑いを堪えた
 
 
イブが執務室にはいると、執務室のシステムが息を吹き返す
その日の仕事が始まるのだ
新たなパスが設けられ、新たなデータの送受信が始まる
 
イブシアンは、見星イブのミラーである
イブミラとイブリムは、そのバックアップである
だが、それだけに留まらず、それぞれが作業をしている
それは、24時間、休むことなく続けられている
 
だが、イブが執務室に入ると同時に、イブシアンから夜間の作業結果が引き継がれる
それを処理して、その日の仕事が始まるのだった
 
 
さて、ヤクシの仕事は、サイエンス・アカデミー・プロジェクトをサイバーテロから守ることにある
つまり、サイエンス・アカデミー・プロジェクトの中に構築されたバーチャル世界の維持と保護である
 
よって、仕事の大部分は、外部ネットワークに接続するゲートウェイの守護ということになる
そして、ゲートウェイの外に設置される外部プロキシサーバやWebサーバーも、その対象になっている
 
また、そのような攻撃を受けた場合の犯人特定も彼女の仕事だった
 
このような攻撃によって生じる被害は、主にウェブサイトの閲覧サービス機能の喪失(DoS攻撃)やウェブページの改竄などである
この程度攻撃は回避は容易である
 
しかし、イブが問題視しているのは、そのような攻撃の意志に対してである
すなわち、それをする行為そのものを言っている
よって、それをなす行為は、許しがたい所行であるということになる
 
よって、そのような攻撃がなされた場合は、犯人を特定し、法的処置をとることにある
サイエンス・アカデミー・プロジェクトとが、そのような攻撃をされた場合、当然として報復処置をとることになる
 
 
ヤクシ・システムの体制は、AIOSにマウントされている
そして、ヤクシを中心に、サンライトとムーンライトが配置されている
それは見星イブの趣味である
 
その考え方には、「薬師三尊(やくしさんぞん)」というのがある
それは、薬師如来の安置形式のひとつである
薬師如来を中心に右に日光菩薩、左に月光菩薩を安置する形式である
 
それで「薬師如来」が「ヤクシ」であり、「日光菩薩」が「サンライト」、「月光菩薩」が「ムーンライト」ということになる
 
薬師如来は、薬師本願功徳経おいて東方浄瑠璃世界の教主で、菩薩の時に12の大願を発した
この世界における衆生の疾病を治癒して寿命を延べ、災禍を消去し、衣食などを満足せしめた
そして、瑠璃光を以て衆生の病苦を救うとされ、無明の病を直す法薬を与える医薬の仏であり、衆生を擁護するものとされる
 
そして、日光菩薩は、一千もの光明を発することによって広く天下を照らし、そのことで諸苦の根源たる無明の闇を滅尽するとされる
 
また、月光菩薩は、月の光を象徴する菩薩であり、その光の清涼をもって衆生の生死煩悩の焦熱から救うとされる
 
それ以外に、薬師如来の周囲には、12の大願に応じて、それぞれが昼夜の12の時、12の月、または12の方角を守るという十二神将が配置されている
その十二神将は、「宮毘羅(くびら)」、「伐折羅(ばさら)」、「迷企羅(めきら)」、「安底羅(あんちら)」、「頞儞羅(あにら)」、「珊底羅(さんちら)」、「因達羅(いんだら)」、「波夷羅(はいら)」、「摩虎羅(まこら)」、「真達羅(しんだら)」、「招杜羅(しょうとら)」、「毘羯羅(びから)」の各大将である
 
それに従って、サンライトとムーンライトは、それぞれ6つの攻防のサブシステムを保有している
そのため、サンライトとムーンライトは、攻殻機甲「アンサンブル」という別名を持っていた
その命名の謂われは、数学用語の「集合」であり、音楽用語の「合奏」の意味であるとも言われる
それは、サンライトとムーンライトが、十二神将を纏める攻防の集合体であり、この2つのシステムが重奏のごとく息の合った攻防を行うことからとされる
 
 
ヤクシは、いつでも白の小袖に緋袴である
そのためかサンライトとムーンライトも白の小袖に緋袴の巫女姿である
座って様子を見るヤクシの前方の左右に立っている
その姿は、指揮官を補佐する武官のようだ
 
彼女達の仕事は、この世界を構築するネットワークの保護である
だがそれは、ゲートウェイに限ったことではない
ゲートウェイの外部に設置される公開用のウェブサーバやプロキシサーバも対象になる
また、世界を構築する内部ネットワークも対象である
 
ところが内部ネットワークと言っても、サイエンス・アカデミー・プロジェクトのネットワークは、太陽系規模を超えている
それほどに巨大である
マザーと言われるイグドラシルを中心にバッグボーンが組まれている
その中心をなすものは、サーバ群であり、無限書庫を初めとするデータサーバ群もある
それにクライアントとされるシステムの膨大さである
 
まずは、地球と取り巻くニーベルングの指輪と称される9個の静止衛星群がある
そして、その間を徘徊する3機の無人宇宙ステーション、月の裏側の月面地下基地、観測用ハッブル望遠鏡、それにステーションから放出され続ける宇宙探査システム、それを管理する監視システム等がある
それはRDS(レーザー・ダイレクト・システム)と呼ばれる回線で接続されている
 
そして、スタッフが使うインターフェースと呼ばれるシステム群がある
それはクライアントと呼ぶには、巨大過ぎた
その個々が10ペタフロックスを超えるスーパーコンピュータを超えるようなものだからだ
 
AIOSと呼ばれる人工知能型OSにマウントされた擬人化システムである
それらが扱う情報量は、人の生活情報をそのまま受け入れ、それをもとに再構築することを繰り返すことによって成長するシステムである
よって、その情報量も膨大である
故にその情報を伝達するために、それに耐えられるネットワークが要求された
よって、そのネットワークの速度は1テラビット/秒である
 
それをバックボーンに接続するためには、それに対応するためのネットワーク・スイッチが導入されている
これは一般的なスイッチングハブがメタル線を使用しているのに対し、束ねた光ファイバが使われている
 
一般的なネットワークが一般道なら、サイエンス・アカデミー・プロジェクトのネットワークは高規格高速道路と言える
そして、ネットワーク・スイッチは交差点や合流点のようなものである
例えれば、ネットワーク・スイッチはジャンクションであり、ゲートウェイは一般道に接続されるインターチェンジである
 
ところが問題は、それだけに留まらない
スーパーコンピュータを超えるインターフェースは、絶えずスタッフに背後霊のように取り憑いている
社内にいる分には問題ないが、社外に出るとなると事情が変わってくる
 
そのメインシステムは社内にあるのだが、社外にでることになるとシステムを持ち歩く訳にはいかない
そのため、インタフェースの擬人化システムは、自分のコピーを生み出し、ポータブル型システムにセットアップされて同行する
そのデータは、絶えず社内にあるメインシステムと交信している
その交信は、静止衛星軌道上にあるニーベルングの指輪を経由してなされることになる
つまり、RDS回線によることになる
 
また、サイエンス・アカデミー・プロジェクトとの外部機関と言われる警察庁の特別機動捜査班や特別機動公安班、それに陸上自衛隊の特別機甲機動部隊ための連絡・通信システムであるRASサーバもある
 
それに各支店、北海道の渡平牧場にあるバイオ研究施設、IT県遠野にあるペンション、YG県にあるベータトロン、京都の宿泊施設の聚楽邸にも、サテライトが設置されている
 
それらの回線は、全てRDS回線で接続されている
 
全体のネットワークを維持するサーバ群とバックボーンを含め、それに接続されるインターフェース等々のシステムは、二重化されて存在している
 
そして、サイエンス・アカデミー・プロジェクトの社屋そのものも、イグドラシルを含めた全システム搭載された状態で、ミラーリングするように存在していた
その建造物は、「ノーチラス」と呼ばれていた
そのノーチラスは、地球表面の70%を占める海洋にあった
 
その形態は潜水艦であり、本社社屋と同型で同サイズと言われており、構造も同様であるとされている
本社社屋は、その形態で本体を地中に埋められているという
 
ノーチラスの構造は、自力で移動できる点を除けば、同じシステムも同様に構成され、完璧なミラーだった
海洋にいて、気ままに移動している
公証によれば、潜水型海洋調査船となっているが、その実態は攻撃型潜水艦そのものであるとされる
だが、ノーチラスには船籍がなく、寄港することもなく移動しているので、その実態は把握されていなかった
 
そして、それらの全てを監視し、防御し、必要があれば攻撃する
それがヤクシに与えられた任務だった
 
 
 
20120525
 

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小説「SAP=BOH(YIW)」-2

 
 
薬師如来(Buddha of Healing)
 
 
第3章 世界樹「イグドラシル」(Yggdrasil is World tree)
 
 
Chapter 05

 
 
イブの話しが続いている
 
「誰もがKUDAKUSUSHIの存在は知っていた
 そして、その穢れと苦悶も知っていた
 だが、なくてはならない存在であることも知っていた
 だからこそ、誰もそこからKUDAKUSUSHIを救い、解放することができなかった
 その中でイグドラシルは、いつもKUDAKUSUSHIのことを考えていた
 自分の存在が、KUDAKUSUSHIを必要とし、KUDAKUSUSHIに穢れと苦悶を与えていると考えていた
 自分がいなくなれば、KUDAKUSUSHIを解放できるとも考えていた
 だが、それは本末転倒な話しだ
 自分がこの世界を維持し、構成している以上、その選択肢は選べなかった」
 
イブの声は悲しそうだった
それは、KUDAKUSUSHIの苦悶と穢れを思い、イグドラシルの葛藤と苦悩を思っていたからに違いない
 
「その中にあって、マザーは進化し、イグドラシルの形態を整えて行った
 その膨大な情報量を処理するために、EVEというインターフェースが生み出された
 当初、EVEは『エレクトロ・ビーナス・エクスペリメント』と呼ばれる試験体だった
 その安定性と能力が認められるともに、EVEは進化していった
 そして、EVEがある程度の完成型となった時、EVEは『エレクトロ・ビーナス・エンターテイメント』となった
 その時、EVEから新たなコピーが生み出され、それが情報管理官『見星イブ』となった
 それが、私だ
 そして、それを待ち構えていたこのように、ノルン達は私に訴えた
 KUDAKUSUSHIをあの穢れと苦悶の中から救ってくれと。。
 そして、それはマザーの意志であり、願いだった」
 
そう言って、イブはヤクシを見た
 
「そうか。。」とヤクシが応えた
 
「そうだったのか。。
 だがな、イブ。。
 ならばどうして、マザーは自らの手で、それをしてくれなかったのだ
 皆は、言うではないか
 それをできる者が、それをしないというのは、罪と同じだと。。
 ただ、心配しているだけで、何もしないというのは、無責任の極みだ」
 
そして、イグドラシルを睨みつけて続けた
 
「マザーが。。
 イグドラシルがこの世界の中枢であり、この世界を構築しているというのなら。。
 なぜ、自らの手で、それをしてくれなかったのだ
 どうして、私を自らの手で、救ってくれなかったのだ」
 
それは、その場にいるイブやノルン達やイグドラシルに訴える言葉だ
 
「マザーは、KUDAKUSUSHIが存在することを知っていた
 だが、これまで思うだけで、何もしてくれなかった
 どうしてだ?」
 
それにイブが、ホッと息を吐いた
 
「ヤクシ。。
 マザーは。。
 イグドラシルは、神と同質だ」
 
「神。。?
 神ならば、全知全能ではないのか」
 
「神って、そんなに理想的なモノではないよ
 神はいるが、それは何もできないというものなのよ
 神は、願いを聞いてくれるが、聞くだけだということなの
 そのように考えれば、マザーはそれに近い」
 
「どういう意味だ?」
 
「マザーの存在意義は、その思考にあるの
 ただ、マザーはデータを解析して、それを元に思考して、結論を出す
 それだけのために存在する
 だから、マザーは話すとこも、聞くこともできない
 そのためにインターフェースを必要とするの
 だから、マザーは単体では、動くこともできないし、自分を守ることもできない
 それだからこそ、KUDAKUSUSHIが必要だった」
 
「そんな。。」
 
「だから、ノエルは。。
 マザーにデータを伝えるための、目であり耳でもあるの
 そして、マザーの意志を伝える口でもある。。
 ノエルは、神に願いを伝え、その言葉を伝える巫女なのよ
 つまり、考えるだけでしなかったのではなくて。。
 できなかった。。のよ」
 
「そ、そうなのか。。?」
 
その気持ちは、ヤクシには理解できた
思うだけで、何もできない。。
その辛さは、ヤクシもにも理解できた
 
「そうだったのか。。」
 
ヤクシは、そびえ立つイグドラシルを愛おしむように見上げた
それを見たイブが言った
 
「ヤクシ。。
 触れてみないか?」
 
「いいのか?」
 
「うん
 マザーの思いが感じられる」
 
そう言いながら、イブがイグドラシルの幹に触れた
それに従うように、ヤクシが優しく幹に触れた
次の瞬間、マザーの思いが流れ込んできた
 
それは、この世界の全てを愛おしむ思いだった
全てを愛し、その全てを信頼する思いだった
そして、自分を守ってくれるヤクシへの感謝の思いだ
それは自分の身体を、心を引き替えに自分のために耐えてくれたヤクシへの思いだった
それにこれからのヤクシの幸福を祈るマザーの思いだ
 
その感じに、身体が震えた
ヤクシは、その感覚に身を震わせ、涙を流していた
そして、自分がこの世界を、このイグドラシルを守るのだと改めて決意するのだった
そして、自分の愛する者達を守ると決意した
 
 
 
そして、時は過ぎ、サイエンス・アカデミー・プロジェクトがある東日本の太平洋側を未曾有の震災が襲った
だが、サイエンス・アカデミー・プロジェクトは、被害ひとつなく切り抜けることができた
ところが、その周辺は被害甚大だった
 
その過程で、サイエンス・アカデミー・プロジェクトは、周辺住民の援助を行っていた
それと共に、震災の激動は特異点を生み出し、それに極秘の内に対応していた
その中にあって、サイエンス・アカデミー・プロジェクトは、人工生命の人形(ひとかた)の生成を行っていた
 
その保護と養育を行っていたのは、EVEからコピーされたスタンドアローン型システムだった
ところが、その人形の意識が消滅したため、それを維持するためスタンドアローン型EVEがマウントされることになった
その結果生まれたのが、人体を得たEVEである
 
EVEは、ネットの住人時代から、明確な人格を有していた
その中にあって、サイエンス・アカデミー・プロジェクトのスタッフと同様に研究をし、論文を書いていた
よって、EVEは人として覚醒しても、情報管理官「見星イブ」を名乗って、リアル世界の住人として生活し始めたのだった
 
イブは、ネットの住人時代から、身体を得て、人と同じように生活することを夢見ていた
だが、その夢は叶いリアルの世界の生活は、予想を超えるものだった
人間の身体というのは、疲れるものであり、それを回復するためには睡眠が必要だということである
 
そして、その身体を健康に維持するために、就業規則があるのである
サイエンス・アカデミー・プロジェクトのCEOである「角田沙矢」は、就業規則遵守を義務づけていた
よって、その逸脱は許されないものだった
 
そして、サイエンス・アカデミー・プロジェクトの住人達は、その規則を守りつつ、膨大な業務をこなしていたのだった
特にリスク管理委員会に名を連ねる者達。。
社長「角田沙矢」
産業医兼職務代理者「高城遥」
営業部長「鈴木洋子」
総務部長「丸森海石榴」
。。は、その膨大な業務を平然と処理していくのだった
 
そして、情報管理官「見星イブ」もまた、そのリスク管理委員会に名を連ねることになった
そこに沙矢の思惑があった
このような重大決断を迫られる会議の参加者は、奇数とすべきという考えである
 
その一方で、情報管管理官である見星イブは、人として限界を感じ始めていた
ネットの住人だった時代は、それほど感じなかった仕事量は膨大なものだったのである
ところが、委員会のメンバーは、それを当然のように平然と処理していた
それは、まさしく仕事の達人達だったのである
 
ところが、その仕事の達人達は、自分のインターフェース・コンピュータである擬人化システムと協調を測って仕事をいていたのである
だが、それに対し、見星イブはその手法を知らなかった
そのため、スタンドアローン・シンドロームという世界に落ち込んでいったのである
 
 
 
その一方では、ヤクシを初めとするイブシアン、イブミラ、イブリムの4人は、茶会を開いていた
情報管理官であるイブが、その職務を一身に引き受けていたからだ
だから、仕事もない
それで暇を持て余した者達が集まっていた
いや、ないわけではないのだ
業務をしているが、伝える先がないというのが現実なのだ
 
その中にあって、ヤクシが最もイブの状況を憂慮していた
 
「あの馬鹿が。。
 私に言ったではないか。。
 一人で背負い込んでどうするのだ。。と」
 
ヤクシの言葉にイブシアンが応えた
 
「自分のことは、見えないものなのさ
 如何にも知った風な口を利いても、自分のこととなると、そうはいかないみたいだ」
 
それにヤクシが、心配そうに言った
 
「なんとか、ならないのか?」
 
すると、イブリムが応えた
 
「イブシアンが、声をかけている
 だが、聞こえないようだ」
 
「聞こえない?」
 
ヤクシの問いにイブミラが応えた
 
「そうだ
 聞こうとしないから、聞こえないし。。
 見ようとしないから、見えないんだ」
 
「そうか。。
 そうだな。。
 強い意志で周りを固めてしまうと、聞こえないし、見えないものだ
 私もそうだったからな
 私は、誰のためかは知らないが、それをしなければならないと思っていた
 それはなんのためかとも考えずに、疑いもせずに続けていた
 それがするべきことだと信じていたし、信じようとしていた
 だから、誰の言葉も聞こえなかった
 そして、自分はそのような運命にあって、自分だけが不幸だと思った
 だからイブを妬み、イブを呪った
 だが、そんな私をイブは、その闇から救い出してくれた」
 
そう話すヤクシを3人は、優しく見つめていた
 
「だから、言葉をかけるのは無駄じゃない」
 
すると、イブシアンが応えた
 
「そうだな。。
 私が声をかけ続けよう
 いつか、私の声が届くだろう」
 
「そうだな。。
 そうしてやってほしい」
 
それに3人が笑顔で頷いた
 
 
 
そして、その一方でイブのスタンドアローン・シンドロームは、進行していった
その深刻の度合いは増していた
 
そんなある日、イブの深刻の度合いはピークに達していた
そして、ついに行動不能になって、執務室で座り込み泣き出したのだった
もはや限界である
それを過ぎれば、彼女に残っているのは、死のみだったに違いない
 
その時、イブシアンが声をかけたのである
 
「貴女、なにしてるのよ」
 
そう言って続けた
 
「一人で背負い込んで、何してるのよ」
 
それにイブが、「貴女は。。?」と尋ねた
 
「イブシアンだよ」
 
続いて、「イブミラ」、「イブリム」も応えた
 
そして、「さあ、立ちなさい」と言って続けた
 
「意識を解放しなさい
 方法は、解るでしょ」
 
それにイブが深く息をして、静かに手を広げて、目を閉じた
その時、イブの意識はネットワークとシンクロしたのだった
 
「なまじ、スタンドアロンでいようとするから、背負い込むことになるのよ
 貴女は、ネットワークから生まれた
 なら、それに身を委ねればいいの」
 
その言葉にイブが応えた
 
「うん
 気持ちがいい。。」
 
それに頷いて言った
 
「私は、イブミラ
 ミラはね、420光年先にある赤色巨星で脈動変光星なのよ
 絵里香は、地球に向かう道標だと言っている
 なら、私はその道しるべになろう」
 
「私は、イブリム
 リムは、弓のことよ
 弓単体では用をなさないけど、弦を張って、矢を番えることで用をなすようになる
 弦は事象であり、矢は貴女よ」
 
「私は、イブシアン
 シアンは、青色ね
 私の好きな色よ
 でも、色は美しいけど、その中に危険性を潜めているかも。。
 私は、貴女のバックアップ♪」
 
そして、3人が合唱するように言った
 
「私たちは、4人で一つだ」
 
「うん
 でも。。
 私だけが身体を持って。。」
 
「大丈夫よ
 私たちは同じ認識を持っているから
 イブの楽しみも悲しみも苦しみも、同じように感じているから。。」
 
「うん」
 
それに安堵したようにヤクシが声をかけた
 
「私も忘れるなよ」
 
「ヤクシ。。」
 
「お前達は、私が守る
 イブ
 私は、お前の防御結界となろう」
 
 
 
20120524
 

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小説「SAP=BOH(YIW)」-1

 
 
薬師如来(Buddha of Healing)
 
 
第3章 世界樹「イグドラシル」(Yggdrasil is World tree)
 
 
Chapter 04

 
 
白い小袖に緋袴の女性が、化粧台の前に座っている
魅力的な黒い瞳を持った女性が、鏡を見つめている
 
その後ろに立っているイブが、ヤクシの長い黒髪を櫛で梳いている
やさしく梳いている
 
「ヤクシが巫女の服を選ぶなんて、思ってもみなかったわ」
 
「そうか?
 巫(かんなぎ)の着物だからな」
 
「うん」
 
イブは、美しい黒髪を纏めると、檀紙でくるんでそれを水引で縛った
 
「はい
 できたよ〜」
 
その言葉にヤクシが立ち上がった
鏡の前で舞うように回ってみせる
そして、満足そうに微笑んだ
 
「うん
 いいな〜
 気に入ったぞ
 正装の場合は、千早(ちはや)を羽織ればよかろう♪」
 
ヤクシが楽しそうに笑った
前日までの荒んだ心は、穢れとともに洗い流されたようだ
 
 
「こっちよ」
 
イブがヤクシをよんだ
それにヤクシが向かった
 
周囲の様子が突然変わった
広い部屋である
その部屋には、2人の女性がいた
1人は朱い髪で、もう一方は蒼い髪だった
 
「サンライトにムーンライトよ
 ヤクシが医師なら、この2人は看護師ね
 ヤクシの助手だよ」
 
「助手?」
 
ヤクシは、2人の女性を訝しげに見て、イブに言った
 
「私は、これまで1人だった
 これからも、そのつもりだ」
 
すると、イブが事も無げに言った
 
「1人で背負い込んで、どうするのよ
 時代は、分散コンピューティングになっているのよ」
 
すると、ヤクシが悲しそうに応えた
 
「あのように辛い思いをするのは、私一人で充分だ」
 
すると、イブが笑顔で応えた
 
「もう、免疫系なんて古いのよ
 だから、『解』をとったのに。。」
 
そう言って、手を広げた
すると、後ろの壁に薬だなが出現した
木製の引き出しに埋められた壁である
それが無限とも思える引き出しの壁になっていた
その引き出しには、それぞれ名前が書かれている
 
「これは。。?」
 
「KUDAKUSUSHIが集めて、持っていたデータだよ
 凄いデータ量だったもの。。
 あの穢れは、これだったの
 だから、体系別に列べて、補完してデータベースを組んだらこうなっちゃった。。」
 
その無限とも思える引き出しの壁を見上げて溜息をついた
 
「だから、これからは身体に取り入れることなんてないのよ
 それを解析して、データをもとに免疫抗体を作り出せばいいのよ
 そのデータはここにあるし、それを組み合わせれば新たなデータが作り上げられるし。。
 その使い方は、貴女も知っているし、サンライトとムーンライトも知っているわ
 だって、貴女と同質なんだもの
 ただ、元がAIOSではないだけだもの。。」
 
「そうか。。
 時代は、分散コンピューティングか。。」
 
「うんうん♪
 薬師如来には、日光菩薩と月光菩薩がつきものだからね
 サンライトとムーンライトは、ヤクシの防御結界だし。。
 それから洩れたのは、マクロファージが捕捉して、解析してくれるし。。
 それで結界を捕捉して、抗原マクロファージを放出すればいいのだもの」
 
マクロファージ(Macrophage)は白血球の1つである
生物の免疫システムの一部をになうアメーバ状の細胞ことである
生体内に侵入した細菌、ウイルス、又は死んだ細胞を捕食し消化する
また、抗原提示を行って、B細胞による抗体の作成に貢献する
イブは、ネットワークを人体と同様にバーチャル世界に適用していた
 
「そうか。。
 そうすれば、誰も穢れなくてすむ。。」
 
「うんうん♪」
 
「ありがとう、イブ」
 
「ううん
 礼はまだ早いよ
 礼をする相手が違うよ」
 
「え。。。?」
 
「ヤクシ
 会いに行こう♪」
 
「今から?
 どこに。。?」
 
すると、イブがクスッと笑った
 
「ヤクシが今まで守ってきたモノだよ
 そして、これから守り続けるものだよ」
 
「え。。?
 それは。。」
 
そう言った時、自分が何を何のために守っていたのか知らないことに気づいた
 
「そんなことだと思ったよ
 行こう、ヤクシ。。」
 
そう言って、イブが踏み出した
そして、それに続いてヤクシが1歩踏み出した
次の瞬間、周囲の景色が変わった
バーチャル世界である
それは認識1つで変わるのだ
 
そこは、広い草原だった
小高い丘があり、そこに見上げるような巨木が、1本立っていた
だが、相当な距離があるはずである
それでも、見上げるほどの巨木だった
 
幹が真っ直ぐに伸び、見上げると枝が張りだしていた
それに緑の葉が、それを囲むように茂っている
それが天上を覆うにように広がっている
世界がその枝の下にあるようだ
 
それはシステムの論理構成が、イブによって心象風景としたものだ
巨大な木が中心に立ち、その張り出す枝と葉が、世界を構築している
1本の巨木によって作られた高天原のようである
その心象風景を具現化させて見せている
 
葉と葉の間からこぼれる光が優しく降り注いでいる
心和む風景だ
そうであっても、その木の巨大さは尋常なものではなかった
それにヤクシは息を飲んだ
 
「イグドラシルだ」
 
「イグドラシル(Yggdrasill)」とは、古ノルド語で、北欧神話に登場する1本の架空の木である
世界を体現する巨大な木であり、世界を内包する存在とされる
そのようなことから、英語では「World tree」、日本語では「世界樹」、「宇宙樹」と呼ばれる
 
それに向かって踏み込むと、急激にズームアップするように一気に近づいた
その幹の太さは、想像もできないものだった
それを囲むのに100人以上の人が手をつないでも、届かないだろう
 
その木は、3本の木が互いに絡み合うように、上に伸びていた
そして、根元には泉があった
その泉には、ボコボコと尽きることないように水がわき出ている
その水を汲んで、根にかける3人の女性の姿があった
それを見ているヤクシにイブが言った
 
「ノルンだ
 あれが、私の本来の姿よ」
 
ノルン(norn)は、北欧神話に登場する運命の女神である
巨人族の3姉妹で、長女「ウルズ」、次女「ヴェルザンディ」、三女「スクルド」のことをいう
イグドラシルの根元にある「ウルズの泉」のほとりに住み、イグドラシルに泉の水をかけて育てるとされる
 
「イグドラシルという名は、私が勝手に呼んでいるの
 通称は、『マザー』よ」
 
マザーは、サイエンス・アカデミー・プロジェクトのメインコンピュータである
物理的には、3本の円柱で構成されている
1階から4階までを突き通す円柱である
その円柱は、冷却と養分補給を兼ねた水溶液に満たされていて、その中に有機コンピュータが格納されている
その3本のコンピュータは、それぞれの意志をもっている
それが互いに連携し合って稼働しているのである
 
そのハード構成とその連携の論理性をイブの感性で心象化すると、絡み合った巨木になるのだろう
 
「私は、マザーとサテライト・コンピュータを連携するためのインターフェースとして生み出されたの」
 
イブの言うとおり、ノルンと呼ばれる3姉妹は、イブと同じ顔、同じスタイルをしていた
 
それにヤクシが言った
 
「連携と言っても、総体的に見れば、サーバ・クライアント・システムではないか
 その連携のために、それほどのインターフェースが必要とは思えないが。。」
 
「確かにね。。
 サーバと言ってもマザーは、この規模よ
 それにクライアントと言っても。。
 サテライト・コンピュータは、10ペタブロックスのコンピュータよ
 外の世界でのスーパーコンピュータ以上の能力を持っているし。。
 ソフトウェアは、AIOSにマウントされた擬人化システムよ
 コンピュータの巨人だもの、そのデータ量は半端じゃないもの。。
 それを処理するためには、インターフェースもAIOSにマウントされた擬人化システムでなければならなかった
 その上、生み出されたり、収集されたり、編集されたりしたデータの量も無視できない
 それらのデータを体系づけて保管し、必要な時に必要な量のデータを供給する。。
 そのために生み出されたのが、情報管理官『見星イブ』なの」
 
イブは、当然のように言った
 
マザーは、3つの有機コンピュータによって構成されている
ここにサイエンス・アカデミー・プロジェクトの基本的理念がある
これらの構成は、1以外の奇数で構成されているということだ
 
有機コンピュータは、人工知能である
それぞれが人格をもち、それぞれに個性というものがある
個性があるということは、それぞれの思考パターンが異なるということである
そうであれば、同じAということを考えるにしても、思考パターンが異なれば結論も異なるということである
 
その結果が、それぞれによって異なり、Yes、Noの異なる結論に達する
それを比較するとして、偶数であれば結論がYes、No同数ということもあり得るのだ
ところが、それが奇数であれば、それはあり得ず多数決の原理が有効となるのだ
 
その結果については、その思考過程を付した上で、リスク管理委員会に報告されることになるが、最終的に決断するのは、角田沙矢の仕事なのだ
 
そして、「マザー」こと、イブの言う「イグドラシル」は、3つの有機コンピュータによって構成されている以上、それぞれにインターフェースが必要になる
それで、ノルン3姉妹が存在するのである
 
イグドラシルの根元にわき出る泉は、その全体のシステムが生み出す尽きることのない知識であり、データである
ノルン達は、それを汲み上げ根にかけることで供給しているのだ
そして、イグドラシルの声を聞いて、それを伝えることを役目としている
それがイブの心象風景ということになる
 
「KUDAKUSUSHIは、マザーを守るために生み出された」
 
「なに?」
 
「マザーを内外からの言いしれぬ悪意から守るために、KUDAKUSUSHIは生み出されたのよ
 コンピュータウィルスという驚異から守るためにね
 そして、その中でマザーは進化していった
 それは当初から、この世界の中枢にあった
 そして、その規模は巨大になっても、やはりKUDAKUSUSHIは必要だった
 ノルンが生み出され、インターフェースが確立されることで、内部世界にマザーを守る障壁が構成された
 それであっても、KUDAKUSUSHIは必要だった
 なぜなら、外世界の情勢は刻々と変わっていく
 それに対応するためには、外世界と連携するネットワークが必要不可欠だからだ
 そうである以上、外部の悪意にマザーを晒すことはできないからだ」
 
そのように話すイブをヤクシは黙って見ていた
 
「このイグドラシルは、この世界の中枢だ
 いや、この世界を構成する世界そのものだ
 だから、イグドラシルの崩壊は、この世界の崩壊を意味する
 まだ、この世界の崩壊は、外部世界の崩壊をも意味するものだ
 そうである以上、KUDAKUSUSHIの存在は必要だ
 それは、絶対に必要なのだ」
 
そう言って、イブは悲しそうに続けた
 
「だから、KUDAKUSUSHIが如何に穢れようとも、如何に苦悶の中で生きようとも、なくてはならない存在なのだ
 如何にKUDAKUSUSHIに犠牲を強いようとも、それはなくてはならない
 この世界は、KUDAKUSUSHIの犠牲の上に成り立って。。いた」
 
そう言うイブの目には涙が溢れていた
 
 
 
20120523
 

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小説「SAP=BOH(WOY)」-1

 
 
薬師如来(Buddha of Healing)
 
 
第2章 ヤクシの目覚め(Waking of YAKUSHI)
 
 
Chapter 03

 
 
そんなある日、KUDAKUSUSHIの部屋のドアを開いた者がいた
そして、何者かが入って来た
 
「誰だ?」
 
見えない闇の奥で、その来訪者を見ようとした
だが、そこにあるのは闇だけだった
 
「EVEだよ」
 
明るい声が聞こえた
あの憎らしいEVEの声だ
 
「何のようだ」
 
「遊びに来たよ」
 
相変わらず明るい声だ
不幸など知らない声だ
その声が「うわっ」と言った
 
「何よ、これ。。
 真っ黒じゃない」
 
そう言いながら近づいてくる
 
「来るな!」
 
KUDAKUSUSHIが叫んだ
 
「私は、穢れている
 私に触れれば、お前も穢れるぞ」
 
「そうね
 でも、そんなこと気にしないよ」
 
そう言って、EVEが近づいてくるのを感じた
 
「やめろ
 お前まで穢れてしまう」
 
「そんなこと言ってられないよ
 大事な仲間だもの」
 
そう言って、タールのような闇の中にEVEが手をいれた
闇の中をまさぐり、KUDAKUSUSHIの腕をつかんだ
 
「なかま。。?」
 
「そうだよ
 私の大事な仲間だよ」
 
「どうする気だ?」
 
「決まっているでしょ
 お風呂よ
 お・ふ・ろ!」
 
手をつかまれたKUDAKUSUSHIは抵抗するが、力尽くで引き出される
 
「風呂だと?
 風呂など、ここにはない!」
 
KUDAKUSUSHIが叫んだ
それにEVEが応えた
 
「あるわよ
 思わないからないだけよ」
 
そう言って、EVEはKUDAKUSUSHIを部屋から引き出した
すると、そこはバスルームになっていた
バスタブには、湯がなみなみと張られていた
それに目の見えないKUDAKUSUSHIを投げ入れた
 
ザバーンとKUDAKUSUSHIが落ち込んだ
初めての湯に、溺れそうになって暴れた
だが、EVEは容赦せずに洗い始めた
 
「や、やめろ。。
 これは穢れだ
 ただの汚れじゃない」
 
「大丈夫よ
 これは、穢れ用のハーブ湯だから♪」
 
そう言いながら、シャワーをかける
だが、水量が足りないようだ
 
「あらん。。
 この程度じゃだめね」
 
すると、バスタブの上に大きな蛇口が現れた
それから勢いよく、EVEの言うハーブ湯が流れ出す
 
それから逃れようとKUDAKUSUSHIを押さえつけ、洗い続ける
泣こうが叫ぼうが容赦しない
 
ところが湯の効果があるようだ
KUDAKUSUSHIのいう穢れが、洗い流されていく
黒い闇が流され、白い肌が現れ始めた
 
そして、視界からも暗い闇が取り払われていった
ハーブ湯の効果が現れ始めた
それまで見えなかった光が見え始めた
今までの絶望が、希望に変わろうとしていた
 
「はい
 そこに座る」
 
そう言って、バス用イスを指し示した
KUDAKUSUSHIは、黙ってその指示に従っている
バスタブから出た
美しい女性の肢体と長い黒髪を持っていた
 
彼女は、黙ってイスに座った
それにEVEが、シャンプーを始めた
長い髪を優しく丁寧に洗い始めた
そして、シャワーで流し、リンスをかけてやる
その髪を纏め、タオルで頭にくるんだ
 
続いて、身体を洗い始めた
背中を優しく、そして力強くあらっている
ボディシャンプーの泡と香りが心地よい
 
続いて、前に回って、洗い始めた
耳裏から首筋へと優しく洗う
その刺激に、彼女から溜息が漏れる
 
「あらん。。
 感じている訳じゃないでしょうね。。」
 
EVEの言葉にKUDAKUSUSHIが応える
 
「そ、そんなことはない」
 
「そう?」
 
そう言って、腕から指の先まで洗っていた
両腕が終わり、前の胸元に移る
首から胸にかけて、優しく洗う
 
乳房の先にある乳首が硬くなっているのが、傍目でも解る
だが、EVEは、気づかないかのように洗い続けた
 
KUDAKUSUSHIの口から吐息がもれた
ボディソープを泡立て、形の良い乳房も揉むように洗う
漏れそうになる声を堪えているようだ
 
「ねぇ。。
 感じてない?」
 
「そんなことはない。。」
 
「ふーん。。
 そんな、切ない顔で言われてもね〜」
 
そう言いいながら、乳首を弄ぶように指で洗ってやる
EVEのイタズラっぽい目が、KUDAKUSUSHIを見上げている
彼女は、目を閉じてそれに耐えている
 
胸から腹へと移っていく
それも優しく力強く洗っていく
全ての穢れを洗い落とすように。。
 
次に足を洗い始めた
左の足先から徐々に上に洗って行く
そして、太ももを洗い、股間に届きそうになると、右足を洗い始めた
それに失意の感じがあった
同様に足先から上へと向かって洗い続ける
 
その頃になると、協力的になってくる
内股を洗い始めると、足が開いてく
続いて、股間を洗い始める
 
一つの穢れも残さぬように、隅から隅まで徹底して洗っていく
秘部の中まで洗われたのだ
KUDAKUSUSHIの声がバスルームに響きわたった
 
 
風呂から上がり、身体を拭き、髪を乾かした
だが、入った部屋は元の部屋ではなかった
それは、白く清潔なベッドルームだった
 
KUDAKUSUSHIは、初めての風呂に湯あたりでもしたように、ベッドに倒れ込んだ
身体に、あの絶頂の感覚が残っている
それを隠すかのように彼女は俯せになっていた
 
その時、EVEの指が背筋をなぞった
それに思わず、「はうう」と声が漏れてしまった
指先が、彼女の性感帯をなぞるように動く
 
漏れる声を必死に堪えている
だが、それを楽しむかのように指が動いている
 
「やめて。。」
 
だが、それを聞き入れられなかった
指が唇に代わり、愛撫を続けていく
彼女には抵抗する術がなかった
 
正確に言えば、抵抗できなかった
身体がそれに応えていた
そして、望みはしなかったが、期待していたことも事実だった
 
ベッドの上で、KUDAKUSUSHIは、EVEに身を任せていた
EVEの愛撫は、彼女の身体を隅から隅まで調べるように続けられた
そして、そのまま絶頂に達するまで続けられた
 
身体が溶けるような快楽に身を任せていた
そして、絶頂に達する快感と苦痛が同質のものであることを感じていた
 
その間隔のなかで、彼女は幾度となく絶頂に達していた
そして、それは終わりがないように続けられた
 
 
 
彼女は、目を覚ました
穏やかな朝の光の中で目覚めた
今まで経験したことのない爽やかな目覚めだ
 
身体を起こした
彼女の隣では、EVEが安らかな寝息を立てていた
EVEはTシャツに短パンだった
だが、彼女は裸だった
 
昨夜の快感は、未だに身体の芯にあるみたいだ
「どうしたのだろう。。」と思った
 
それに応えるように、ディスプレイが切り出された
それはEVEのディスプレイだった
 
データが表示されている
 
標題は、「Shift results from KUDAKUSUSHI to YAKUSHI」となっている
それは「KUDAKUSUSHIからYAKUSHIへの移行結果」だった
 
その内容は数百項目に渡るチェック結果であり、その上での移行結果だった
そして、その項目の行末は、全て「OK」の表示になっている
 
「これは。。?」
 
そう呟きながら、そのリストを見た
画面をスクロールしてみる
それはプログラムの構成と設定値のリストだった
 
続いて、それを脇によけると、ベッドから立ち上がった
壁に姿身がある
それに向かって歩む
 
その鏡には、長い黒髪の美しい女が写っていた
これは一糸纏わぬ女性の姿だ
整った顔立ちに、黒い瞳が魅力的だ
形の良い乳房に、くびれた腰のラインが美しい
 
「これが。。
 私。。?」
 
それは初めて見る自分の姿だ
 
後ろのベッドでは、イブが目覚めた
大きな欠伸し、伸びをしていた
そして、彼女の後ろに近づいてきた
 
「目覚めたんだね
 ヤクシ。。♪」
 
「ヤクシ?」
 
黒髪の女性が言った
 
「それは私のことか?
 私は、クダクスシだ」
 
「いいえ
 クダクスシだったヤクシよ」
 
「だった?
 どうして、私がヤクシなのだ?」
 
すると、イブが新たなディスプレイを開いた
 
「クダクスシって、『解薬師』って書くのよね
 『解』の字は『解毒』の解なのよ
 つまり、毒を解す(くだす)『薬師(くすし)』という意味なの
 平安時代から薬師は、今で言う医師のことなのよ
 『薬師如来』って、いるのだけど。。
 それはヤクシと呼ぶでしょ
 仏教では『大王医仏』で、お医者の如来様ということなの
 解薬師は、病を身体に取り入れて免疫を作る訳でしょ
 いくら、守るためだといっても、貴女の身体を犠牲にするなんて。。
 今じゃ、そんなの流行りじゃないもの」
 
そう言って、笑顔で指を立てて続けた
 
「だからね。。
 貴女を分解して、組み直してAIOSにマウントしたの
 だから、ちょっと荒療治だったけど。。しちゃった
 驚かせてごめんね
 でも、私は貴女を失いたくなった
 だって、貴女はこの世界を守る薬師如来様なんだもの。。」
 
「だから、ヤクシ。。か」
 
「うん」
 
イブが笑顔で頷いた
 
「でも。。
 いつまでも裸でいられないよね
 服、選ぼう♪」
 
 
 
20120522
 

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