詩的な昼下がり 〜ブロッコリーの小説〜

詩的で私的な短編小説などを書いています。よかったらお立ち寄りください

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小さい感動なら要らない

   



         
  『小さい感動なら要らない』






「無感動な時代だからこそ、どこかにきっと、ドでかい感動が眠ってるんだと思うんだよね、オレは」


フクロモモンガのガブリエルが僕に言った。


おはようがまだだったけど、ガブリエルは先にそれを言った。


半分は独り言な感じに、小さな丸い目の焦点を窓の外の大きなブナの木に合わせていた。


僕はまだ起きたばかりで頭がボーッとした状態でそれを聞いた。


「おはよう、ガブリエル」


僕は朝食の準備をしている彼に言った。


ベーコンが焼けた香ばしい匂いがした。


その匂いはいつも僕の朝に新たな太陽の誕生を予感させた。


「ああ、おはよう、とりあえず顔を洗ってきな」


フクロモモンガのガブリエルは自分の体よりも大きな食器をテーブルに並べながらそう言った。


僕はガブリエルの頭を指の腹でなでてから洗面所に向かった。


「一晩寝たら、気が変わっちまったかい?」


ガブリエルが僕の背中に向かってそういったのが聞こえた。


その言葉に僕は強く気圧されたような気がした。


―――――――― 一晩寝たら、気が変わっちまったかい。


彼はいつだって僕の気持ちを的確な言葉で言い表してくれた。


でも、それは、僕が望んでいたことでもあったはずだ。


なのに・・・・。


どうしてそんなことがわかったのかを確かめるために僕は冷たい水で顔を洗ったあとで鏡に映った自分の顔をじっくりと見てみた。


昨日までの僕と特に変わりはないみたいだった。


でも、ガブリエルは僕の胸のうちを見透かしているみたいだった。


きっと、彼は、僕の朝に何らかの手がかりを見つけたんだろう。


すっかり朝食の準備が整ったテーブルに僕が戻ると、ガブリエルはその小さな手で腕組みをして僕を待っていた。


僕とガブリエルはいつもどおり向かい合わせになって座った。


そしてテーブルの中央には拳銃が置かれていた。


黒くそして鈍く光を放つその拳銃が、できたての朝食をすべて凍りつかせていた。


物質における温度の下限であるマイナス273.15℃、


すなわち絶対零度的な冷たい意思がそこにはあった。


少なくとも僕はそういう雰囲気をそこに感じた。


銃口は僕のほうを向いていた。


そのことが何を意味しているのか僕はわかっていた。


でも僕はあえてそのことには触れなかった。


「おいしそうだね。食べてもいいかな」


僕は笑顔を作り、そして、フクロモモンガであるガブリエルのその小さな瞳を見つめながらそういった。


「もちろんさ、お前さんのために作ったんだからね」


ガブリエルは永遠に近いくらいの長い瞬きの中でそう答えた。


僕は手を合わせてから祈りの言葉を神にささげた。


その時にはガブリエルも神に祈っていた。


祈りの言葉はところどころで重なり


ところどころでは重ならなかった。


ところどころで・・・・・・、今日は・・・・・・・。


今日は銀行を襲う日だった。


街で一番の銀行を二人で襲うことになっていた。


計画は緻密に練られていた。


逃走経路と余生を送るための候補地は三つずつ用意されていた。


そしてそこに僕らは僕らなりの『ユートピア』を建設するつもりでいた。


この世に存在しうるもっとも洗練された国家、そういうものを僕らはつくりたかった。


どこにもなかったから


つくるしかなかった。


そのために金が必要だった。


理想との距離は金で埋めるしかなかった。


それが僕とガブリエルの結論だった。


「それじゃあ、いただきます」


僕はフォークを手に持ち、ベーコンに突き刺してから口へと運んだ。


そして特に味わうこともなく僕はそれを噛んでそして飲み込んだ。


その様子を黙ってみていたガブリエルが口を開いた。


「お互い言いたいことがある、違うか?」


それは問いただすという感じの声音ではなかった。


でも、じゃあ、なんだといわれても僕にはわからなかった。


「僕には何もないよ、言いたいことなんて」


僕はコーンスープの上に視線を落としたままでそういった。


「本当か?」


「ああ、本当さ」


「ならば、この銃に聞いてみよう」


そういうとガブリエルはテーブルの中央にある拳銃のところまでいきその上に抱きつくような姿勢で乗っかった。


ガブリエルの体よりも拳銃は一回り大きいことがその時わかった。


ガブリエルは全身の力を使って拳銃を回転させたかと思うと、拳銃からすばやく飛び降りた。


テーブルの上で回転する拳銃を僕とガブリエルは無言で見つめた。


やがて拳銃が力尽き、その回転を止めたとき、


銃口はやはり僕のほうを向いていた。


そのことが何を意味しているのか僕にはよく分かっていた。


だから僕はため息をつき


そして


長い一日を覚悟した。




                           おわり

閉じる コメント(7)

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同じ理想と、ちょっと重ならない思いがあるのですね。
そのズレを確認しなきゃいけないのか、内包したまま突き進んだほうがいいのか。
銃口は何を意味していたんだろう。
なにかが大きく変わる朝っていうのは、きっといつでもこんなふうに陽射しが明るくて、朝ごはんができてて、そのすべてがいつもより少し遠ざかっているんでしょう。
始まるときも終わるときも、両方のときも、きっとこうなんでしょうね。

2010/7/20(火) 午前 0:51 [ Joe ]

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ブロッコリーさんの作品を全て読んだわけではありませんが、今回の作品にはかなりの物語性がありますね。
しかも、ところどころに出てくる象徴的な言葉「ガブリエル」「ベーコン」「273.15℃」「ユートピア」「拳銃」などが鮮やかに目に浮かんできます。このような物語性をどんどん組み込みつつ、象徴的な言葉をあちこちに盛り込みながら書いていけば、ブロッコリーさん独特の味のあるいい小説がどんどん書けるんじゃないかという気がします。そして、いずれ読者も沢山ついてくるんじゃないでしょうか。
心から応援しています。

2010/7/20(火) 午前 2:52 [ ysk ]

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Joeさん、人間は、そしてフクロモモンガは(?)、日々小さなほころびとかほつれとかを見過ごす努力に明け暮れているんだと思います。

うまく見過ごせたら、その関係は、延命されるんです。

朝は永遠の始まりであるはずなのに、朝のほんの少しの気の緩みがほころびを広げてしまう。

そして銃口は入り口なのか出口なのか、目標なのか終点なのか、とにかく僕をじっと見つめています。僕は銃口に気に入られたんです。きっと。

僕はもしかしたら、心のどこかで、明るい朝食時の風景を求めているのかもしれません。

2010/7/20(火) 午後 7:33 [ ブロッコリー ]

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yskさん、僕はいつも深い悲しみと大いなる喜びのその比重に思い悩みます。何かを書いて、誰かに読んでいただいて、その結果、その方に何かを与えることができれば、書いたことには意味が生まれ、書いた者にはある一定の救いがもたらされるんだと思っています。

でも、与えるべきものはなんなのか、深い悲しみと大いなる喜びそして矛盾そのもの・・・・。僕は困り果てます。

いつか、yskさんをうならせるようなものをかけるように精進します。

僕は年甲斐もなく奇跡とかを信じてるんです。

2010/7/20(火) 午後 7:44 [ ブロッコリー ]

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人それぞれ書く理由も目的も違うと思います。
ぼくも小説を書いてはいますが、恐らくブロッコリーさんとは全く違う理由と目的があると思います。
現在のそのブロッコリーさんの悩みが、いずれ霧が晴れるように解消される日が来ることを、ささやかながらお祈りしています。
何か困ったことがあれば、いつでも相談に来てください。僭越ではありますが、ぼくにできることがあれば、少しでも力になりたいと思います。

2010/7/20(火) 午後 9:18 [ ysk ]

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yskさん、『全く違う理由と目的』、ちょっと気になります。

そして親切な言葉をありがとうございます。

僕はまだしばらく書こうと思います。

2010/7/21(水) 午後 10:59 [ ブロッコリー ]

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余り気にしないでください。
それよりも、ただひたすら書いていれば、いずれ何かが見えてくるときが来ると思いますよ。
新しい作品を楽しみに待っています。

2010/7/22(木) 午前 0:10 [ ysk ]

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