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アメショの体は震えていた。
弁証法的な震えというべきだろうか。
――――――――思考と存在を云々かんぬん・・・・。
僕は恐る恐るアメショが真剣なまなざしで見ているTV番組の内容を確かめてみた。
『ペットブームの光と影〜もしも涙をながせたら〜』サイドテロップにはそうある。
オルゴール音とソフトなナレーションで演出された番組の内容はだいたい察しがついた。
安易にペットをすてる飼い主達、動物に対する虐待、ずさんな動物医療の現場、ペットショップの裏事情などなどだろう。
猫と暮らしている僕としては、もちろんそういったシビアな現実に憤りをおぼえる。許せないとおもう。
でも、今日の僕はとにかく疲れていた。それもドラスティックなつかれだ。
アメショには悪いが今日はシャワーを浴びてそのまま眠るとしよう。
僕がシャワーをあびてからリビングにもどると、TVのチャンネルが切り替わっていた。画面ではお笑い芸人達が緩急なしで笑いを惜しみなくささげていた。
いわゆる『欲しがりすぎ』の状態になっていた。有酸素運動的な笑い声がこだまする。
僕はバスタオルでぬれた髪の毛を忙しく拭いた。バスタオルには少し余計なくらい抜け毛がついた。
アメショの肩はまだワナワナと震え続けていた。
テーブルの上の『週刊ニャンドル』は手つかずのままだ。
おそらく、あまりにも凄惨なシーンに思わずめをそむけてしまったのだろう。
こうゆう時は余計なことはいわないほうがいいだろう。
男は黙して感傷と対話すべきなのだ。
僕はアメショ用の飲み水をとりかえてから「おやすみ」とひとことだけいうと寝室のベッドの上で横になった。
■ ■ ■ ■
・・・・・・何かが聞こえた。
まどろみの中で僕を呼ぶ声が聞こえた。
おそらくは・・・・
アメショの声なんだろう。
「CQ、CQ。こちらアメショ。坊やきこえるか?どうぞ。」
電気的フィルターのかかったアメショの声だ。
「CQ、CQ。こちらはアメショ。きこえないのか?きこえているのか?冗談はその天パーだけにしてくれ坊や。どうぞ」
アメショの声は耳元から聞こえてきた。みると、耳元にはケンウッドのトランシーバーが置かれていた。
僕は反射的にアンパンマンの置時計に目をやった。まだ朝の6時だ。眠りについてから一時間くらいしかたっていない。
まったく勘弁してほしいものだ・・・。
僕はトランシーバーを手に取り、「こちら、坊や。よくきこえているよ。胸毛モジャモジャ、頼むからもうちょっとねかしてくれないか、どうぞ、どうぞ」と応信した。
「オレがいまどこにいるのかわかって言ってんだろうな、坊や」
今度はつばが飛んできそうなほどの大きな声が返ってきた。
「この家のどこかだろ? でなきゃ、ノルマンディにでも上陸したかい?」
部屋が乾燥しているせいなのか、ひどく喉が渇いた。
僕はセメダインみたいに非流動的なつばを飲み込んだ。
「いいか、坊や、耳の穴をボーリング工事してよくきくやがれよ。オレが今立っているこの場所はな『解放区』だ。これは解放区からの記念すべき第一報だ。」
ん?・・・・・かいほうく・・・・・。
僕はさっき寝る前にかんじた嫌な予感をそっくりそのままおもいだした。アメショの言葉がシルクハットのなかからそれをとりだしてくれたってわけだ。
何かことが起こる前に(もう起こってるのかな?)アメショを落ち着かせなくちゃだな、こりゃ。
僕はベッドから転げ落ちるように飛び出すと、急いでリビングへ向かった。
つづく
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