「男と女」

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小説「お色気ママの物語」

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お色気ママの物語−40−(最終回)

お色気ママの物語−40−

  日曜日、今日はいよいよ私から三宗さんへの逆プロポーズの日です。

私は、朝からそわそわして何を着て行こうかと何度も迷っていましたが、結局グリーンのワンピースに

して家を出掛けました。

今日行くことは、洋子さんは知っていますが、三宗さんは知りません。

玄関のチャイムを鳴らすと、三宗さんが出て来ました。

「やあ、いらっしゃい。」

最近ではすっかり慣れてしまって、三宗さんも自然に私の訪問を受け入れてくれるようになっていました。

私は、三宗さんに案内されて応接間に入ります。

「あらっ、いらっしゃい。」

洋子さんがそう言いながら、コーヒーを出してくれます。

私の持ってきたケーキと、洋子さんの出してくれたコーヒーで3人でしばらく談笑していましたが、し

ばらくすると洋子さんがちょっと買い物に行って来るからと出掛けて行きました。

これも打ち合わせどおりの行動です。

  二人きりになると、私は急に胸がドキドキして来ました。

「洋子さんは、本当に物覚えが良くて、今では料理も私より上手になられましたわ。それに・・・・・」

相変わらず世間話のようなことばかりを話していて、なかなか本題が言い出せません。

三宗さんは、穏やかな笑顔を浮かべて、私の話を聞いているだけです。

「洋子さんは、とても料理のセンスがいいんですのよ。味覚が敏感というか、私なんかではとてもとても・・・」

私は喋り続けていましたが、ふと話が途切れたとき、三宗さんが言いました。

「香さん、話があるんだ。」

「はい!」

「僕と結婚して欲しいんだ。」

「はい。えっ!」

「香さんが僕に好意を持ってくれていることは、最初からわかっていたんだ。」

「はい。」

「僕も、ずっと香さんのことを好きだった。でも、いくつか気にかかることがあった。ひとつは洋子の

ことで、これは今では解決しているね。でももうひとつのこと、それはお墓のことなんだ。いずれ僕も

死ぬことになるだろうし、香さんだっていつまでも生き続けることはできないだろう。いずれはみんな

お墓に入ることになる。僕には妻がいた。どういうふうにお墓に入るか、これは現実の問題としてけっ

こう大切なことだと思うんだ。だからひとつだけ了解しておいて欲しいのは、僕は洋子の父として死ん

だ妻といっしょにお墓に入る。香さんには、その隣にお墓を作って、そこに入って貰いたいんだ。この

ことを納得して貰って、改めてプロポーズしたいんだけど、どう?」

「はい、よろしくお願いします。」

私は大きくお辞儀をしながら返事をしました。

「ありがとう。こちらこそよろしく。実は、洋子からも香さんはいい人だから、お父さん結婚してはど

うかって、けっこう早い時期から言われていたんだよ。」

「まあ、そうでしたの。」

「それから店のことだけど、香さんが続けたければ続けていいよ。」

「はい、考えてみます。」

そうは言ったものの、私は店は続けるつもりでいました。

あの店は私が自分で作ったもの、それなりに常連のお客さんも来ますし、少しでも町の人達の憩いにな

ればと思っていました。

それにこの私の魅力ある体を見せるのを三宗さんだけにするには、まだちょっと早いような気もしたも

のですから。

                                 −終り−

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お色気ママの物語−39−

お色気ママの物語−39−

  それから2日ほどして、三宗さんとお嬢さんが店に来てくれました。

お嬢さんの結婚式まであと一か月と少し、二人はそんなにお喋りするでもなくカウンターで静かに飲ん

でいました。

こんなときの三宗さんはとても幸せそうですが、どこか寂しげでもありました。

二人がカウンターで他にお客さんもいませんので、私も話に加わります。

「香さんには、父がいつもお世話になってすみません。」

「いえいえ、こちらこそ。お父さんはうちの店の常連客ですから、そのお礼ですわ。」

「それにしても、香さん、お料理とてもお上手ですわね。」

「いいえ、とんでもないです。もうすぐお嫁入り、洋子さんだってお上手なんでしょう。」

「私、料理まるで下手なんです。香さんのところでしばらく修行させて貰おうかしら?ねえ、お父さん

このアイデアはどう?」

「うん、でもお前で香さんの腕に追いつけるかな?」

「あらっ!香さんに追いつくつもりなんかないわ。今より少しでも上手になればそれでいいのよ。」

「でも、私のは田舎料理、洋子さんはこれから外国に行かれるんでしょう。とても洋子さんに教える資

格なんかないわ。」

「いいえ、とてもお上手、それに一番私達の口に合っているのは和食です。しばらく外国で暮らすから

こそ、和食を勉強しておきたいんです。今月一杯で会社を辞めるつもりですから、そしたらこの店でお

手伝いさせていただけませんか?」

「それはかまわないけど、そんなに給料は払えませんよ。」

「いいえ、とんでもない。こちらから授業料をお払いしなければなりませんわ。」

二人のこんな会話を、三宗さんは黙って笑顔で聞いていました。

結局、その場で来月1か月洋子さんが料理の勉強がてら店の手伝いに来てくれることになりました。

  洋子さんは美人で気立てが優しいですから、あっという間に店の人気者になりました。

店では小まめによく働いてくれます。物覚えも良く、私が一度作った料理は、次からは教えなくても

ちゃんと自分で作れますし、予約があるときなどお客さんの年齢によってちゃんとメニューも考えて

くれています。

  三宗さんも相変わらず店に来てくれていますが、洋子さんと私が仲良くしているのを見て、本当に

嬉しそうにしていました。

私は、これも洋子さんの作戦ではないかと思い、あるとき聞いてみました。

「ねえ洋子さん、洋子さんがここに来てくれるのは、お父さんと私を仲良くさせるため?」

「はい、それもありますけど、私が料理の勉強をしたいのは本当なんです。お店の料理、本当に美味し

いですし、それに私達日本人が懐かしい料理ですもの。母もいろいろ料理を作ってくれていましたが、

その頃は私も自分で料理を作るなんて思っていない年頃でしたから。結婚を間近に控えた今になって慌

てて勉強するなんて遅いですわね。」

「いいえ、あなたは立派な料理人、今に私を追い越すわ。」

「その後、父の様子を見ているのですが、少しづつ心が解けてきているような気がします。そろそろ、

香さんの方から話をしてみてはいかがでしょう。直接的に、結婚を申し込んだ方がいいと思います。」

私は、洋子さんの配慮に頭が下がる思いがしました。

それから二人は、逆プロポーズの具体的な時間とか、方法について相談しました。

                                    −続く−

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お色気ママの物語−38−

お色気ママの物語−38−

「私、父を一人置いて嫁ぐのが気になって仕方がないんです。父はああ見えてもとても寂しがり屋な

んです。そんな父が一人で食事をしている姿を想像するだけで、私はいたたまれない気持ちになって

しまいます。誰か、父を見てくれる人がいればと結婚することが決まったときからずっと思っていま

した。」

彼女は、更に話を続けた。

「父はよくあなたの店に行っていますね。その時から、父があなたのことを好きなんじゃないかと思

っていました。そうでもなければ、一人でお酒を飲みに行く父じゃないんです。」

「私もお父さんのこと好きですわ。でも、お父さんは決して私を受け入れてくれないし、何かに遠慮

しているんじゃないかと思っているの。」

「いいえ、父があなたを好きなことは間違いないです。ひとつだけあるとすれば、死んだ母のことで

しょうか。優しい母でしたし、父もとても愛していましたから。」

「そうね、私もそう思っていたの。お母さんはとてもきれいな方だったって、誰かも言っていましたわ。

私なんかじゃ、とてもお父さんに愛される資格なんかないわ。」

「いいえ、そんなことありません。父があなたを好きなことは間違いないと思います。ただ、父の心

の垣根をどうすれば取り去ることができるか、それが問題ですわ。」

「私は、結婚しなくてもいいんです。三宗さんはとても素敵な方、私も寂しさを紛らわせてあげられ

たらいいと思っているだけです。」

「ある意味で父はストイックなところがありますから、母と、もしかしたら香さん、あなたに遠慮して

いるのかも知れません。」

「私に遠慮ですか?」

「はい、結婚するとしたら母に対して遠慮があるでしょう。もし結婚しないでお付き合いするとしたら、

当然あなたに対して遠慮するかと思いますの。」

「そうなのかしら?」

「父は今の時代にしては古風なところがあって、結婚しないで男女が付き合うなんてことはなかなか

受け入れられないんじゃないかと思います。」

「そう言われれば、そういうところがあるわね。」

「でも、いい方法がある筈ですわ。父もあなたを好きだし、香さんも父のことを好いていてくださる、

お互いに相思相愛ならきっと解決の道がある筈ですわ。」

「あると、私も嬉しいわ。」

「私からも父に話してみます。今まで、父と香さんのことはそっとして置くつもりでした。いずれ何と

かなると思っていましたから。でも、父はこのまま放って置いたんじゃ、何もしませんわね。」

「ありがとう。でもしばらくこのままにして置いて下さいませんか。私からお父さんに話しますわ。

私、自分の力で何とかしてみたいのです。どうしても困ったら、そのときはお願いします。」

「わかりましたわ。取りあえず応援していますから、頑張ってください。」

「ええ、その言葉、とても心強いです。今日はありがとうございました。お父さんが帰って来られま

したらよろしくお伝え下さい。」

「はい、今度父と二人でお店の方にもお邪魔しますわ。」

「ええ、お待ちしています。」

 帰り道、お嬢さんと話をし、三宗さんとのことを応援してくれていることがわかって、私は心が浮

き浮きしていて、スキップでも踏みたい気持ちになっていました。

                             −続く−

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お色気ママの物語−37−

お色気ママの物語−37−

  私は焦らないことにしました。

私の急な接近に驚いている三宗さんに、焦ってはかえって逆効果であることがわかったのです。

今日だって黙って私の訪問をを受け入れてくれていますので、三宗さんが決して私を嫌いでないことは

わかります。

私は、ただひたすら優しく親切にすることにしました。

女の私だってそうなのですが、男だって親切にされると弱いはずです。

月曜日にはお嬢さんが帰って来るのですが、お嬢さんがいてもかまわない、座敷にあがらなければいい

のですし、お店に来たときにおみやげで渡してもいいのです。

  三宗さんが私を簡単に受け入れてくれないことで、私の三宗さんに対する好意はますます募ってい

きました。

最近、そんな私を見て、他のお客さん達は「最近、ますます艶っぽくなったね。恋でもしたの?」など

と言います。

無論、三宗さんとのことは知らないで言っているのですが、女が恋をするときれいになるというのは本

当のことかも知れません。

確かに、お化粧ひとつにしたって念入りになってしまいますし、着る物にもそれだけ気を使います。

私は、買い物に行って珍しい物や、美味しそうな物があると買って来て、簡単に料理して家に持って行

ったり、三宗さんが来た時に渡したりしました。

三宗さんはいつも、「ありがとう!」と言って、受け取ってくれました。

次の日お店に来たときに、お嬢さんが帰って来たからとお土産を渡してくれました。開けて見るとお菓

子でした。

三宗さんが何かくれたのは初めてのこと、私はすっかり嬉しくなっていました。

  店が休みの日、私は何度か三宗さんの家に料理を作っては持って行きました。

お嬢さんがいるときには料理だけ渡して帰りましたが、お嬢さんがいなければ座敷に上がりました。

お嬢さんがいる2回目の訪問のとき、お嬢さんが私に是非座敷に上がるようにと勧めてくれました。

一旦は辞退したのですが、あまりに勧めるので上がりますと、三宗さんはいません。

「いつもいつも父がお世話になってすみません。」

お嬢さんはお茶を出しながら、丁寧にお礼を言ってくれます。

「いいえ、とんでもないです。私の方が勝手に差し上げているのですから気にしないで下さい。」

「私、今度結婚するんです。」

「はい、お父さんから伺っています。おめでとうございます。」

「ありがとうございます。でも実は父のことが心残りなんです。」

「そうですねえ。お父さん、寂しくなられますね。」

「しっかりしている父ですが、やはり男を一人で置いておくのは気になって!」

「でもお店でも、お嬢さんが結婚されるのを喜んでおられましたよ。」

「はい、でも寂しさと喜びが半々、むしろ寂しさの方が強いんじゃないかと思うのです。」

「そうかも知れませんよねえ。お嬢さんのことになると、日頃静かなお父さんが生き生きとお話なさる

んですよ。」

「それでお願いがあるのですが・・・」

「はい、何でしょう?」

「父をよろしくお願いしたいのです。」

「えっ?」

私は、「お願いしたい」という言葉の意味について、一瞬何のことだろうと思いました。

                                 −続く−

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お色気ママの物語−36−

お色気ママの物語−36−

  その後も、今までどおり三宗さんはお店に来てくださいました。

店に来ると、私がお宅に行ったことなどなかったように、いつもどおり黙って飲んでいます。

私も敢えてそのことは話しませんでした。

よほど「またお伺いしていいですか?」と言おうとしたのですが、もし断られたら行けなくなるので

あえて口に出しませんでした。

しかし、何か美味しい食べ物でもあったら、それを口実にお宅に行き、できれば冷蔵庫とか家具の裏な

どを掃除してあげたいと思っていました。

  季節は5月、この時期は鰹の美味しい季節です。

私はお嬢さんが帰って来る前に行かなければと思い、早速魚屋に行って新鮮な鰹を買って来ました。

これを刺身のように切って、醤油、みりん、酒などのタレに浸し、青葉、にんにく、生姜などの薬味を

たっぷりとかけて”づけ”にしたのです。

この料理は以前、高知の人から習ったもので、お酒の肴としては最高です。私は、これをタッパウエア

に入れて持って行くことにしました。

それとは別に雑巾も何枚か持って行きました。

  玄関のチャイムを鳴らすと、早速三宗さんが出て来ました。

「今日は、鰹の新鮮なのがありましたから、づけにして見ました。ご飯にかけても美味しいし、そのま

ま酒の肴で食べてもおいしいんですよ。」

私はそう言いながら、三宗さんに何も言わせないで座敷に上がって行きました。

「そうそう、この間冷蔵庫の後ろに埃がありましたわ。ちょっと掃除しますね。バケツを貸して下さい。

洗濯機の横ですね。あ、ありました。」

私は、三宗さんに構わずどんどん掃除を始めました。

今日もミニスカートをはいていましたから、後ろ向きに掃除をしていると三宗さんの位置からはお尻の

線が良く見えると思うのですが、これも私の作戦でした。

「あらっ、ソファの下も埃がたまっていますわ。」

そう言うと、今度は床に膝まづいて拭き掃除を始めます。今度は開いた襟から胸の谷間が見えるはずで

す。

30分ほどで、きれいになります。

「さあ、きれいになりましたわ。これ食べましょう。三宗さん、鰹はお好きでしたわね。」

そう言うと、棚から皿を出し、タッパーから鰹を出して盛り付けました。

三宗さんは、仕方がないなあというふうな態度でビールを出してくれました。

今日は最初から三宗さんの隣に座りました。

三宗さんは、鰹に箸をつけると、「これは本当に美味しいね。」と言ってくれます。

「今日こそは!」

私は、堅く心に誓って、ビールで乾杯をしました。

                                  −続く−

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