飛耳長目 国際紛争の心理

飛耳長目(ひじちょうもく)は、吉田松陰が強調した言葉です。世界の紛争の心理的背景に迫ります。

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分析の書棚4 精神分析の最愛の子、ヒステリー患者ドラ 小川豊昭 現代のエスプリ317 1993/12

フロイトのドラの症例は精神分析の最愛の娘といえる、宝のような事例研究である。私は、これをすでに何度も読んでいるが、今回ちくま学芸文庫版(あるヒステリー分析の断片)で通読してみて、翻訳の違いもあってか今まで見えないものが見えた。いつかこのセラピーのプロセスで何が本質的だったかをまとめたいと思っているが、ドラの症例をまとめる事はきわめて難しいだろう。ドラの症例を概説しているものを見ると、皆どこかはずしている。なぜなら、フロイト自身が本文では父親転移でまとめているのに、注釈では同性愛でまとめているからである。
これを見事に解説し抜いたのがジャック・ラカン(エクリ1951、およびセミネール1955)であり、それを引用した小川豊昭である。

そこでは、この治療には3段階の転移の弁証法的展開、つまり変容のプロセスがあるのだが、フロイトは全部は行わなかった、と論じている。

1番目は、「ドラ自身も4角関係の共謀者だ」というフロイトの指摘で展開していく。
ここから、ドラの無意識の幻想であるオーラルセックスが、咳、吐き気、失声などと関連している事が展開されていく。
2番目は、「ドラの父親への嫉妬は、実はK夫人への嫉妬である」。「お前(ドラ)の欲望の対象は彼女だ、お前は男だ」というフロイトの解釈からである。
ここから、K夫人との関係が展開されていった。
そして、第3の弁証法的逆転は、なされていない次の解釈である。「お前が男性(K氏)に同一化して対象として欲望としたこの女性(K夫人)はお前自身だ。お前は、K夫人の魅惑的白い体だ。偽対象なのだ」。

つまり、フロイトは2番目の途中ぐらいまでしか行っていない。フロイトが注釈で気づいていた同性愛の部分を拡大していくと、ドラは男性の視点でK夫人を欲望の対象としているということになる。また、更に進めると、男性を拒否するシスティナの聖母像に同一化しているという事である。

さらにおもしろい事に、小川はこの事例にフロイト自らが現われているとし、女性の側から見ていると指摘する。つまり、ドラの症例の記述にはフロイトの女性的部分が現われているといえる。

ドラを現代に置き換えたらどうなるか、小説にしてみるとおもしろいと思う。私の友人の作家、中村伊佐奈が書いてくれるといいのだが。呼吸困難、ぜんそくはそのまま起こりうる。しかし、もっと現代日本では抑制がなくなるので、15歳の湖畔での出来事は、受け入れるであろう。つまりK氏と関係を持つだろうと想像した。

更に考える。フロイトがもっと長く分析をしていたら、どう変わっただろうか。これの方がおもしろいかも知れない。きっと魅力的な女性性を身につけるようになったと思う。

まだ想像はふくらむ。フロイトのように性的なもの一色に連想をふくらませず、現代の分析家達のように多方面の連想をふくらませたらどうなるだろうか。それは、例えばユングが分析したらどうなるかという問いでも良いし、ウィニコットならというのでもよい。ウィニコットにさせるとしたら、彼のような創造的な解釈をどのように編み出していくか、作家の力量が問われるだろう。あるいは、現代の人ならミンデルにさせてみたい。ドラの成長から言って、それがいいような気がする。

私が誰のファンかを言っているようなものであった。失礼しました。私は一度2005年にミンデルのセミナーに出たことがある。彼はひょうきんな老人であった。空想力がゆたかで、経験も豊富であった。私は彼のやっているワールドワークからもっと学べるような気がしている。それこそ、臨床と国際紛争をつなげる世界である。

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