らんどくなんでもかんでも 7

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「きけ わだつみのこえ」にその手記を収録されている佐々木八郎さんは、
東京大学経済学部の学生で昭和18年暮れ軍隊に入団されました。

佐々木さんは「愛と戦と死」と題して、宮澤賢治の「烏の北斗七星」について感想を書いておられます。

佐々木さん曰わく、
宮澤賢治は最も敬愛し、思慕する詩人の一人であり、
「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」
という言葉に集約される賢治の理想、正しく、清く、健やかなものが、
佐々木さん自身の理想にぴったりあうとおっしゃっています。

そして「烏の北斗七星」の中に描かれた戦争観が佐々木さんの気持ちを現しているような気がしたので、
この文章を書いたとのこと。

ちなみに佐々木さんは鴉(からす)とあだ名されていたことがあり、
かつ海軍航空隊に志願していたことから、この作品に非常な愛着をもっておられたようです。

佐々木さんが最も心を打たれるのは、
物語における烏の大尉の台詞に表れる最も美しいヒューマニスティックな考え方であるとし、
ここには本当の意味での人間としての勇敢さ、強さがはっきりと現れていると言われます。

もう佐々木さんが大学に入られた頃は、対米戦争突入期で戦争回避の道は取りようがなかったのでしょう。
とすれば残る道は戦争において自分はどういう行動を取るべきか。
信条的には憎みたくない敵と戦いたくはないけれども、来るところまで来てしまった以上互いに全力を尽くし、
自分もそれに参加して力を尽くすしか術はない。
お互い全力を尽くしたところで、ひょっとしたら世界の進歩につながるような何かきっかけみたいなものが、
見いだせるかもしれないと、一途の望みを託していらっしゃるのがせつなく感じます。

そして佐々木さんはおっしゃいます。
人間は世界が良くなるために一つの石を積み重ねてきたが、
自分もなるべく大きく据わりのいい石を先人の積んだ塔の上に重ねたい。
不安定な石を置いて、後から積んだ人の石までもろともに倒す石でありたくないと。

佐々木さんは一朝一夕に世界が変わり得ないことをよくご存知だったんでしょう。
一世代が石をひとつずつ置くように、自分も石を置く者として先人の遺したものを壊すことなく、
また後輩が石を置きやすいように受け継いだものをしっかりと受け渡していきたい。
という心情が胸にしみ入ります。

佐々木さんの手記は最後の最後まで自分は何何をしたかった、何何ができなかったことが心残りだ
といった自分自身の望みめいたことが一切出てきません。
物語の中で
「どうか憎むことのできない敵を殺さないでいいやうに早くこの世界がなりますやうに、
そのためならば、わたくしのからだなどは、何べん引き裂かれてもかまひません。」
と烏の大尉が北斗七星に祈った姿と重なります。


佐々木さんは昭和20年4月14日特攻出撃して沖縄海上にて亡くなられました。享年23歳。

烏の大尉のように、仲間全員で戦を生き延び、
嬉しくてみんなで熱い涙をぼろぼろこぼしあうようなことは遂にありませんでした。

生きていらっしゃれば今年で89歳になられたはずです。
夜独り手記を読んでいると、
66年の時を超えて亡くなられた二十歳そこそこの佐々木さんと宮澤賢治の作品について
静かに対話をしているようななんとも不思議な気持ちになります。

このように自己の置かれた運命に悩み、決意し、人類の未来を信じて、
一途の望みを託して戦場で亡くなった青年がいたことを、
ぜひ頭の片隅に入れておいていただければと切に願ってやみません。
 
 
 
 
 

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こんな素晴らしい青年を死なせてしまう仕組みが許せないです。生きていればどんなに素晴らしい大人になり、沢山の人に愛され、社会に貢献してくれたでしょうに。私は敢えて、本は読まないようにしています。私の安っぽい心では、読むだけでどことなく満足してしまい、動かなくなってしまうのです。宮沢賢治はアメニモマケズしか知らないのですが、賢治が生きていたら東北のために、具体的にどう動いたのだろうかとは
良く思います。偉人は死んでも死なないということなのでしょうが。

2011/8/18(木) 午後 1:12 [ たかし ] 返信する

たかしさん、自分もブログを開くまでは本を読むだけで満足してしまい、その内容もほぼ把握していたつもりでした。
でもある時、読んだ本がほとんど実になっていないことに気付き、この読書感想のブログを始めました。
案外すらすらと感想書けないんですよ。
仕事の合間に何度も読み直したり、何度も書き直したり…
書きかけで放置してある記事も何十もあります。
ここで投稿している記事はなんとか自分の思いを文字にのせることができたのではないかというものだけです。
それで読んだ方から感想をいただくとその作品で新たに気付くことがまたたくさん出てくるんです。自分が記事を完成するのに頭を絞って絞って全部出し切ったはずですのに笑
それで感想に対する返事を書くのに作品や記事を何回も読み直すことがあるんです。
こういうことを可能にしてくれたブログというシステムにとても感謝しています。
もしなければ千冊万冊読んでも内容はほとんど通り抜けてしまっていたでしょうから。
たかしさん今後ともなにとぞよろしくお願いいたします。

2011/8/18(木) 午後 2:02 [ もたんもぞ ] 返信する

こんにちは。はじめまして。訪問履歴からきました。
最近 まともに 本を読んでない・・・。

佐々木さん 素晴らしい方ですね。
時代を受け入れ 為すべきことを為し 世界に目を向け 未来の礎なることを願う・・・。
今も 世界中で 多くの佐々木さんが 命を落としてることを思うと・・・。
それぞれが 足るを知り 欲張らず 譲り合えば 世界も変わって来るのでしょうに・・・。

2011/8/18(木) 午後 5:52 ko-todo 返信する

ko-todoさんはじめて。
ブログ少々拝見させていただきました。
ko-todoさんは世を憂うなかなか気骨のある方とお見受けいたしました(^^)

佐々木さんは彼がなし得る限りの大きく据わりのいい石を重ね、後進に託され亡くなられました。
佐々木さん達の置いた石の上に更に石を置くのは我々です。
どのようにしたら佐々木さんのような人を殺さない世の中が作れるのか、後進の我々は一生懸命考えなければなりません。そしてまた我々の後進のため据わりのいい石積んであげなければいけません。
そういうことを考える一助になればということも願ってこのブログを書いています。
またぜひ遊びにいらしてください(^^)

2011/8/18(木) 午後 7:07 [ もたんもぞ ] 返信する

訪問ありがとうございました。

またいつでも、いらして下さい。
お待ちしております。

2011/8/18(木) 午後 9:17 [ CHEZ LUIGI シェ・ルイジ ] 返信する

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今回のテーマ、神妙に拝読させていただきました。

自己のブログでも早慶戦について書きましたが、

これはいつまでも、いつまでも忘れることなく
語り継がなくてはいけない不変のテーマだと思います。

今年の15日は語り部として、もたんもぞさんの
ブログに出会えた事は大変、有意義でした。

生存されていたら、今年89才・・。三年前に亡くなった
おじいちゃんと一緒だなと思うと、ついホロっと・・・((+_+)

2011/8/18(木) 午後 9:50 [ 調音の夢日記 ] 返信する

CHEZ LUIGI シェ・ルイジさんこちらこそお願いいたします(^^)

2011/8/18(木) 午後 9:54 [ もたんもぞ ] 返信する

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もたんもぞさん、こんばんは。
パソコンの前であうもこうも考えながらついつい、居眠りどころか、寝むりモードになってしまいました。
大げさかも知りませんが国家の正義とは何か、そんな事を思いながら拝読させて頂きました。
一本の杭、頑張っている、原爆忌。
66年経った老杭の朱の舌呼がこえてきます。

2011/8/19(金) 午前 1:50 [ o k i ♪ ] 返信する

つげさんおはよう(^^)
実は最初「烏の北斗七星」と「佐々木八郎さん」の記事は1つの記事だったのです。
でもつげさんのブログの早慶戦の記事にインスパイアされて内容を書き足しふくらんだため2つの記事にしたんです。
ですから今回2つの記事を投稿できたのはつげさんのおかげなんです。
どうもありがとう(^^)

亡くなられたお祖父様が佐々木さんと同い年ですか。つげさんのような孫娘がいて幸せな人生でいらっしゃいましたね。

しかし男系がそこまで長生きなら、つげさんは100くらい行けそうじゃない? お菓子の大食いとか気をつけさえすれば(^_^;)

2011/8/19(金) 午前 8:24 [ もたんもぞ ] 返信する

しょうきさんおはようございます(^^)
書いた記事の問題はそういうところに行き着かざるを得ないんでしょうね。
いろいろ複雑に絡み合っていますが、人類が一本一本結論を出して解決しなければならない問題なのでしょう。

ところで恥ずかしながらお聞きするしかないと思って書きますが(^_^;)、しょうきさんのコメントの最後の文「老杭の朱の舌呼がこえてきます。」とはどういう意味なんでしょうか。何か古典を出典としたものですか?
調べたのですが、どうしてもわからず…
またお時間ある時に教えていただければと…
すみません(^_^;)

2011/8/19(金) 午前 8:36 [ もたんもぞ ] 返信する

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目下、お盆の行事で忙しくしておりまして、
じっくりと「青空文庫」読めませんでした。

学生の頃、キャンパスにわだつみの像がありまして、
十二月八日は不戦の集いがありました。
底冷えがするキャンパスで友達と集会に参加したものです。
また、ゆっくりとコメントさせていただきます。

2011/8/19(金) 午後 2:34 harumachigusa 返信する

harumachigusaさんまだまだ暑い日が続きます。お体に気をつけられますように。
記事はお手すきの折のんびり読んでみてください(^^)

2011/8/19(金) 午後 4:55 [ もたんもぞ ] 返信する

初めまして♪。履歴から来ました。
宮沢賢治は同じ県人なので、以前は読んでいたのですが、
最近は読書をする時間がなくて・・・
読んでいた時期は、よくわからなかったので、もう一度読んでみたいです。

2011/8/19(金) 午後 5:49 yu-na 返信する

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もたんもぞさんこんばんは
「老杭のしゅのぜっこ」は先の句に対して小生の主観でして、朱は血の意味、舌呼は、歯ぐきの奥から叫び、おまえは何をしているのだと。1時間かけてどうも上手い説明ではないですね。理解はしていたでけないでしょうが、うすらうすらにはどうでしょうか。
今後ともよろしくお願いいたします

2011/8/20(土) 午前 0:21 [ o k i ♪ ] 返信する

yu-naさんおはようございます。
自分は宮澤賢治の作品が好きで記事もいくつか書いてますので記事で気に入ったのがあったらぜひ読んでみてください(^^)
「いてふの実」「よたかの星」などはとても美しい物語ですよ。

どうかまたいらしてくださいね。

2011/8/20(土) 午前 8:36 [ もたんもぞ ] 返信する

しょうきさんどうもありがとうございました。
言葉というのは必ずしも説明がうまくできてないと思っても、直感的に理解できるところがあります。
月日は過ぎていくけれども自分は鞭打って頑張っているつもりなのだけど遅々として事を為し得ないという意味合いでおっしゃっられたのでしょう。

でもかりそめにも66年間戦争しないでやって来られたんですよ。
その間佐々木さんのような死に方をする人はいなかったわけですから、結果としてそれは素晴らしいことだと思います。

2011/8/20(土) 午前 9:18 [ もたんもぞ ] 返信する

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もたんもぞさん。
そのとうりです。その人たちの礎のおかげで私たちは今の平和の社会を破壊しないような努力は持ち続けることこそ義務なのですね。
もたんもぞさんの見識の奥の深さに感服いたしました。
小生、小商いのくせして会話が下手だねと、家内に言われ続けて46年自分でもそう思います。
これからも多事ご指導のほどお願いいたします。

2011/8/20(土) 午後 2:32 [ o k i ♪ ] 返信する

しょうきさんとんでもないです(^_^;)

しょうきさんの世代の方々はまさに戦後の生き証人でいらっしゃいます。その直接感じられたものをまたお話しいただけたらと思います。

こちらこそよろしくお願いします(^^)

2011/8/20(土) 午後 2:46 [ もたんもぞ ] 返信する

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はじめまして。南九州特攻最前基地串良について調べています。
串良同様鹿屋基地から出撃され散華された佐々木八郎少尉殿に関しては大貫恵美子氏の著書「ねじ曲げられた桜」で詳しく紹介されてますね。お勧めの一冊です。佐々木少尉殿が「烏の北斗七星」以下宮沢賢治を愛読されておられたようです。西洋の思想、哲学書を原書で愛読されるほど知識レベルの高い学生を学徒出陣で出征させてしまうという将来性豊かな青年達に死を強要した当時の軍部の責任は今現代ですら糾弾しなければならないと考えてます。 削除

2012/7/22(日) 午前 5:10 [ doll24 ] 返信する

doll24さん、はじめまして。ようこそおいでくださいました。
doll24さんの地道に記事を書かれて、特攻隊で死んだ若者たちのことを、世に知らしめようという活動に、心から応援を送りたいと思います。
自分も機会あるごとに記事を書き、僅かばかりですが、お役に立てればと思っております。

またそちらのブログにも、ご挨拶に参ります。
今後ともよろしくお願いいたします。

2012/7/22(日) 午後 5:06 [ もたんもぞ ] 返信する

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