全体表示

[ リスト ]

「ためしてがってん〜顔のしわ・たるみ」(2008.4.2NHK放映)に苦言!


形成外科・美容外科医・ごく一部の眼科医からの批判・批評を受けることを覚悟で...
2チャンネルで罵詈雑言を並べられることを覚悟で、
耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍び、この記事を書くことにいたしました。
この1週間、この番組を観られた患者さんからの問い合わせや患者さんの受診のため、
外来が機能不全に陥り、とてもブログを更新できる暇がなかったことをお詫びいたします。

「頭痛・肩こりがまぶたの手術で治る?!」

(腱膜性)眼瞼下垂症は、開瞼の主体となる挙筋腱膜が有効に働かず、
それを補うために、Muller筋が過剰に緊張し、
眉毛をつりあげないと(前頭筋を使わないと)瞼が開かない状態を指します。

「頭痛・腰痛・めまい・うつ・不安・便秘・首・肩のこり・冷え性・不眠・慢性疲労...」

これらは、Muller筋(瞼を挙げる筋肉の一部)の緊張によって引き起こされる
いわゆる「交感神経刺激症状」であり、Muller筋の緊張を取る手術
すなわち「眼瞼下垂手術」(保険適応となっています)を形成外科、及び一部の眼科で
施行することで改善しうる!          (信州大学形成外科 松尾清教授)

というのが番組の要旨のようです。

これらの不定愁訴で悩んでおられる方にとって、この放送は大きな福音であり、
「藁をも掴む気持ち」で病院に行ってみよう考えている方も多いのではないかと思われます。

信州大学形成外科 松尾清教授


1997年、それまで(日本では)明確にされていなかった「眼瞼下垂の発症機序」を
非常にわかりやすく説明された形成外科医です。
当時すでに多数の眼瞼下垂手術を行っていた私ですから、
眼科医でありながらも、松尾教授の論文に目を通さないわけにはいきませんでした。

松尾先生の発表された眼瞼下垂の発症メカニズムを大まかに説明すれば、
加齢・コンタクトレンズ使用・(開瞼器を使用した)目の手術後などにより、
→挙筋腱膜と瞼板のゆるみや離解が生じ、瞼板を挙上する力が低下する。
→皮膚を引き込む力が低下するため重瞼線が不定となったり消失する
→腱膜に付着する眼窩脂肪が挙筋とともに後退することにより、上眼瞼がくぼむ
→下垂の代償反応として前頭筋収縮による眉毛挙上と額の皺を生じる
→Muller筋が緊張する
→頭痛、肩こりなどの症状が出現することもある
これについては、解剖学的には至極正しい論説であり、
私自身、眼形成手術の講演時や患者さんへの術前説明もこのように行っています。

眼瞼下垂手術は視機能改善目的についてのみ保険適応となるはずなのに...


番組内にて「眼瞼下垂手術は保険適応手術です」というテロップが流れていました。
勿論、それは間違っていません。

しかしながらここで考えてみたいのは
「眼瞼下垂」の定義とは何か?ということです。
これについては(あえて)番組では触れられていませんでした。

眼瞼下垂とは
瞳孔中心から上眼瞼縁までの距離(MRD:Margin Reflex Distance)が3.5mm未満となった状態
とUnversalには定義されます。

簡単に言えば、
「見た目で明らかにまぶたが下がっている状態」を指します。

そして国内では、一般に
「QOV(Quarity of Vison)の改善、すなわち下垂のために、瞼を開けるのが困難となったり、
上方視野障害や乱視による視力障害を生じた場合」
のみが保険適応となると考えられています(都道府県によって解釈が異なるかもしれませんが...)

よって
「眼瞼下垂の定義(MRD<3.5mm)に該当せず、肩こりや頭痛、その他QOVの改善目的以外に
眼瞼下垂手術を行うことは保険適応外となる」
はずなのですが、信州大学のある長野県は保険適応の解釈が違うのでしょうか?

そして国営放送たるものが、キチンと調べもせず、この特例?を一般論で語ってよいのでしょうか?

眉毛をテープで吊り上げると楽になるのは眼瞼下垂症だけじゃない!!!


番組中、司会者の志の輔やゲストに対しある実験が施されました。
眉を上方に引っ張り、テープで額に固定し、固定を外した後のまぶたの重みを自覚させるものです。
テープを外すと辛く感じた人は「開瞼時に前頭筋を使っている(眉をつりあげる)」、
すなわち「眼瞼下垂のため、Muller筋が緊張して肩こりの原因にもなっている」という解釈です。

ここで問題となるのは、同様の実験を行ってテープを外すと辛くなる(またはテープを貼ると楽になる)
のは「眼瞼下垂症」だけではない!!
ことを、番組ではまったく触れられていないことです。

この番組を観て「テープを貼って楽になった」として、当院にこられた患者さん数十名のほとんどが、
眼瞼痙攣という疾患でした。
眼瞼痙攣と眼瞼下垂はまったく似て否なる疾患です。

眼瞼痙攣とは
眉毛上の筋肉(前頭筋)や目の周囲の筋肉(眼輪筋)が無意識のうちに収縮(痙攣)するために、
目を開けようとしても開かない状態を指します。よって通常眉毛はつりあがるどころか、
下がっている(眉毛下垂)ことがほとんどで「ドライアイ」「眼瞼下垂」と誤診されるケースも
少なくありません。治療としては、筋肉の痙攣を一時的に止めるBotoxの注射や広範囲の筋肉除去
選択的顔面神経離断術などが行われていますが、なかなか治療が難しい疾患であります。
眼瞼痙攣の場合もテープで吊り上げると楽になるケースが多いことが番組では抜け落ちていると思います。

本当に「眼瞼下垂手術」で肩こり・不眠・うつなどの症状が改善されるのか?


私は患者さんにこのように聞かれた場合は
「よくわからない」としか答えないようにしています。
それは根拠がないというのではなく、根拠に欠けるからです。
下垂の手術で肩こりが治らないと言っているのではなく、
「下垂の手術を行ったからといって、必ず肩こりから解放される保障はない」
と考えています。

眼科医なら必ず目を通す眼科教科書「眼科プラクティス」の最新号「眼瞼下垂手術」の項に、
眼形成手術の世界的権威である柿崎裕彦先生がいみじくもこう書いておられます。

最近「Muller筋を介した」とされる自律神経症状に対して、
積極的に眼瞼下垂手術を推奨する向きもあるが、
眼球周囲に存在する大量の平滑筋の関与が、その議論から欠如している。
眼球周囲の結合組織は骨格を形成し、眼窩内構造は相互に影響しあうため、
現状では、Muller筋による刺激のみで自律神経症状を説明することはできない。
QOV改善以外の目的で眼瞼下垂手術を行うことは、
エビデンスに基づいた治療とはいえない。

近い将来、柿崎先生は海外雑誌にてこのことを明らかにされるはずです。

どうでもいい話ですが、
とある高名な眼科の先生が、以前幾多の学会で、松尾理論に心酔され、
「眼瞼下垂手術をすれば肩こりどころか、アトピー、下腿の浮腫までも治る」と
患者のインタビューを交えた学会発表をされていました。
その先生の手術ライブを見学する機会があったのですが、私が驚いたのは
手術台の上で手術中の患者さんに
「今手術の大事な部分を終えたのですが、肩こりどうですか?治ったでしょうか?」
と何度も問いかけている場面でした。
手術中ベッドに横になって肩を動かせない患者さんに「肩こりの改善は?」
と言って答えられるのでしょうか?
肩こりの改善は座位や立位でないと評価できないのは素人でもわかるはずなのに...
ライブを観ていた眼科医のほとんどは失笑していました。

眼瞼下垂手術は形成外科と一部の眼科で行われている?


番組のテロップにはこう流れていましたが、
「肩こりや頭痛改善目的で手術を行っているのは、一部の形成外科医と上記のような極々一部の眼科医のみ」
であるのが現状です。

そしてこの番組で欠落しており、敢えて私が付け加えたいのは、
眼瞼下垂の原因のうち加齢によるもの以外では、番組に取り上げられた花粉症などではなく、
「コンタクトレンズの長期装用」によるものが一番多いこと。
そしてドライアイの患者が安易に眼瞼下垂手術を受けると、ドライアイが悪化することがある
です。

この番組を観て眼科に殺到され、混乱を招いているクリニックがとても多いことを
昨日の広島県眼科医会講習会にて知らされました。
「どういう風に対応したらよいのか?」
眼科医の先生はみな困っています。
昨日講演された眼形成手術の権威である八子恵子先生ともお話ししたのですが、
八子先生も対応に困っておられるようです。

肩こり・頭痛などで苦しむ患者様は本当には気の毒だと思いますが、以上のことを踏まえた上で、
すなわち「松尾教授がおっしゃっていることをすべての眼科医が受け入れている訳ではないこと」
をご理解された上で、各クリニックに相談・受診されることをおすすめいたします。

この件については、しんや眼科新矢誠人先生も記事にして下さっておりますのでご覧になって下さい。
ためしてがってん「眼瞼下垂について」

ブログランキング参加中→広島ブログを一日ワンクリックして頂けると嬉しいデス
(皆さん押して下さってありがとうございます(*^。^*)
(いかがわしいサイトに飛ぶことはありませんのでご安心下さい(^^♪

この記事に

開く コメント(50) ログインしてすべて表示

開く トラックバック(2) ログインしてすべて表示


.


プライバシーポリシー -  利用規約 -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2016 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事