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マイルス・デイヴィスの音楽。
それは現世に対する否定の音楽ではないだろうか?
この世の中はなんてバカげたものだろう。
人間というものは、いつだってズルく、悪だくみで頭が一杯、他人が転ぶの見て嘲笑い、欲望は尽きるところを知らない、弱い者、負けた者を足蹴にして進んで行く生き物である。
人間とは、自分以外はみんな馬鹿だと思っているバカ者、親を憎み兄弟を憎み、恋人を憎み妻を夫を憎み、先輩を馬鹿にし、後輩をこき使い、政治家、お偉いさんはみな金の亡者、世の中は汚い。自分より劣った者は人間ではないし、自分より優れたものは認めない。自分に理解できないものはすべて価値がないと思っているし、いわゆる人情も友情も結局は保身のための仮面。
だれもが塀の上を歩いている。そして一歩踏み外せば真っ暗な底なしの沼が広がっている。
マイルスのトランペットは、そんなどろどろとした粘着質の暗闇を切り裂く閃光である。
怠惰で安逸をむさぼる人間たちに下される怒りの鉄鎚である。
「普通に生きること」で犯している諸々の罪(普通に生きて何が悪いの?)を焼き尽くす劫火である。
正義なき世の中に突然宣告させる唯一の「正義」である。
「探し出す人間だけが見つける」隠させた秘密である。
選民思想的である。広い世の中から選ばれたエリートだけが到達しうる世界。おまえたちもそこまでついてこいと誘う。しかし実際にその世界を垣間見ることのできる人間は少ない。いや、垣間見たと思っている人間も、聳え立つオリンパス山の麓に辿り着いただけなのかもしれない。
このくだらない現世、そこから遠く隔たったユートピアである。
こういった世界観はすごく魅力的である。
特に若いころは、音楽に限らず芸術とはかくあるべきだと僕は思っていた。
だからマーラーとかシェーンベルグとかマイルスとか、プログレとのイエスとかが僕のスターだった。
僕の中では、偉大なマイルス・クインテット、ピアノにハービー・ハンコック、ベースにロン・カーター、ドラムにトニー・ウィリアムス、サックスのウェイン・ショーターを擁したこのバンドはそんな「芸術的」ジャズの最高峰である。「ソーサラー(魔術師)」と題されたこのアルバムには、彼らの到達したユートピアのすべてが詰まっている。一体、自分のことを「魔術師」と呼ぶ(呼ばれることを臆さない)マイルスはどんなことを考えていたのだろう?
☆☆☆
ところで、世の中、実はそんなに捨てたものではない。
僕は、この世に生れて本当に良かったと思っています。
やっぱり、「人でなし」の国はこの世よりもっと住みにくいはずだ。
僕はこの「現世」の生活を謳歌しています。
だけど、たまに、マイルスの音が聴きたくなるんだよね。。。
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