東電福島第一原発事故では、チェルノブイリと比較して、住民への被ばくはより低いレベルに帰着し、これによる健康影響の可能性はとても低い
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東電福島第一原発事故では、チェルノブイリと比較して、住民への被ばくはより低いレベルに帰着し、これによる健康影響の可能性はとても低い
東日本で大地震が発生し、巨大な津波が引き起こされ、多くの人命が失われて村や家屋が破壊された。この惨劇に加えて、福島の原子炉3 基で冷却水が失われ、それによりウラン燃料が溶融して放射性物質が大気中に放出された。
放出された放射性物質の大半は海に降下したが、一部は人口集中地域に広がった。放射性物質の環境放出の程度に関する一般市民への情報提供には反省点が多く見受けられるものの、当局は適切に行動を開始し、住民の被ばくを最小限に抑える措置を取った。これらの迅速な措置により、将来放射線放出に起因する健康影響が生ずる可能性が低減された。
当局は何をしたのか?原子炉の危機的状況が認識されてすぐに、福島第一原子力発電所周辺の住民を避難させ、これによって被ばくが抑制された。放射性物質の有無に関して食糧供給の監視が行われ、汚染された食品が流通しないよう規制が行われた。住民の放射線レベルも監視され、のべ20 万人以上のスクリーニングが行われた。
子ども達も甲状腺に放射性ヨウ素があるかどうかを測定され、検出された子ども達の放射性ヨウ素のレベルは非常に低いものであった。しかし、原発作業員らは冷却水と電気の復旧に努めたため、放射線被ばく量は上昇し、一部の作業員では将来の生涯がん罹患リスクが約1%程度、わずかに上昇した。
しかし、作業員らは、高線量の被ばくはしておらず、急性放射線障害が報告された症例はなかった。
それに比べ、チェルノブイリ原発事故では、作業員に深刻な健康影響が直後から生じ、その後、一般市民にも生じ始めた。チェルノブイリの原子炉には格納容器がなく、原子炉が溶融した際に爆発して火災が起き、その後10 日間、放射性物質が環境中に放出され続けることとなった。 初動対応者らと消防士らは、文字通り自分の命をささげて燃え盛る原子炉の消火にあたった。被ばく線量は相当量で、過剰な放射線被ばくにより数ヶ月内に28 名の作業員が亡くなった。彼らは旧ソ連の英雄と呼ばれてしかるべきである。しかし旧ソ連は、一般市民に原子炉事故を知らせる、住民をチェルノブイリ原発周辺地域から避難させる、などの迅速な措置をとらなかった。
放出された放射性物質は牧草の上に降下し、それを牛が食べ、その牛乳を母親達が子ども達に与えた。子ども達は非常に高レベルの放射性ヨウ素を摂取し、子ども達の当時の甲状腺測定値は非常に高いレベルを示していた。その後事故から約5 年後に、これらの子ども達の間で、飲んだ牛乳中の放射性ヨウ素に関連する甲状腺がんが多数発生した。日本の笹川財団が、甲状腺がん発生の増加を検出した初期の調査の幾つかに貢献したことは注目に値する。
その後、旧ソ連は汚染除去作業のため50 万人を超す作業員をチェルノブイリに送り込み、破損した原子炉を覆った。これらの作業員は復旧作業中に比較的高線量の放射線を被ばくしたが、事故から25 年経った今日でも、これまでの調査においては、がんの過剰(発生)に関する確証は得られていない。 しかし、白内障と視力障害が増加する傾向は観察されている。
従って、福島はチェルノブイリとは異なる。福島の原子炉は格納容器があり、格納容器は無事であった。放射性物質は環境に放出されたが、放出された放射性物質の全てではないが大半は太平洋に向かって飛んでいった。
放射性物質は人口集中地域に堆積したが、当局が周辺住民を迅速に避難させて食糧供給を制限したため、有意な集団被ばくには至らなかった。被ばくが低線量であったことは、住人の測定やスクリーニングで裏付けられた。原発作業員についても、主に作業中の慎重な放射線測定と交替のおかげで、急性放射線障害を経験した作業員はいなかった。
それにもかかわらず、放射線被ばくレベルがいわゆる国際的な参考レベルである20 mSv に近づいている地域があり、この参考レベルを超えているかもしれないという懸念が高まっている。さらに、余命が大人より長く、成長中で組織分裂が速いなどよく言われる理由により、大人よりも放射線に対する感受性が高い子ども達の被ばくが特に心配されている。 しかし、放射性物質は崩壊し、風化作用により土壌中の組成が変化するため、環境中の放射能レベルは時間と共に低減する。つまり、来年の放射能レベルは現在よりも低くなっていく。
とはいえ、避難者達が元の居住地に戻れるようになる前に、人口集中地域の放射線レベルを慎重に評価しなければならない。長期的に見れば、この地震・津波・原子炉溶融という三重の災害と、それに伴う最愛の人達や財産の喪失、および、避難による生活の崩壊から生ずる精神的問題や心理・社会的問題が増えるのではないかという懸念もある。
今日までのところ、周辺住民や作業員らに対する放射線被ばくレベルはとても低く、仮に1名にがんが生じるとしても、疫学調査においてがんリスクが増加することを検知できないだろう。現在評価されている低線量では、生涯におけるがんリスク42%※注1((放射線に関係なく)100 人のうちの42 人が一生の間でがんになるというリスク)の増加は観測されないだろう。
しかし、住民は、被ばく線量がある程度正確に推定でき、将来健康影響が生じる可能性が低いという安心が得られるよう、現在行われている健康調査に参加したほうがよいと考える。
ジョン・ボイス教授
(ヴァンダービルト大学 医学部教授、ICRP 主委員会委員) 訳者注1 日本人の生涯におけるがん罹患率を以下の論文を根拠に述べているもの。厚生労働省が発表しているがん死亡率(平成22 年人口動態統計月報年計(概数)の概況)は約30%である。 K.Kamo, K.Katanoda, T.Matsuda, T.Marugame, W.Ajiki and T.Sobue, Jpn J Clin Oncol 2008,38(8)571–576 |




