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昨日、『一研究者』さんのところで、ワトソンさんの興味深い書き込みを見かけた。
次のような記述である。

「しかしですねえ、リジェクトならリジェクトでさっさと返事をよこせばいいのに、なかなか返事が返ってこないことがある。3ヶ月もたっているのにうんともすんとも言ってこないから問い合わせてみると、今詳細に審査中であるとか言う。で、それからさらに3ヶ月、やっと返事が来たかと思ったら、reviseの余地もなくあっさりリジェクト。ふざけやがってと思ったら、そのうち他のところ(たぶん査読者の誰かのところ)から、似たようなデータが出されてしまった。自分から先に出したいものだから、こっちを止めていただけだ。査読システムなんてそんなもの。少なくとも、そんなこと簡単にできてしまうシステム、よくないよ」

あっちのブログでは、おそらく、ワトソンさんの言ってることが何のことだか、よくわからなかった人がほとんどだろう。せいぜい、ワトソンさんの個人的体験談を恨みがましく語っているにすぎないと思ったに違いない。
しかし、私はこれを読んですぐにピンときた。以前に、まったく同じ話を読んだことがあるからだ。

たしか、ずっと以前にも、当ブログで紹介したことがあると思うが、それは、東北大学教授、山元大輔氏の話である。
山元氏は、ショウジョウバエのオスが同性愛となる「ゲイ遺伝子」の発見で知られているが、この研究の論文が発表にこぎつけるまでにアメリカの大学との熾烈な競争があったことを述べている。
日本側は三菱化学生命科学研究所が主体、アメリカ側はスタンフォード大学、ブランダイス大学、オレゴン州立大学、カルフォルニア大学サンディエゴ校という強力な布陣であった。研究そのものは、日本チームが先にゲイ遺伝子をみつけた。しかし、問題はその後である。どうやってその論文を発表するかである。
当時、このプロジェクトの総括責任者であった山元氏は、次のように述べている。

「論文を、『いい雑誌』に載せるには、なみなみならぬ苦労と努力が必要である。なぜかと言うと、投稿を受けた雑誌編集者は匿名の審査者二、三名にそれを送り、重箱の隅をつつくようなチェックをさせて、載せるべきか、載せざるべきか、決するからだ。この審査者とは、論文の内容を正しく評価できる、その分野に精通した者であるべきだろう。となると、一番精通しているのは同業者、つまり敵対しあっている敵チームの連中なのだ。
この世界で一番公正でなければならないはずの審査システムは、したがって競争者同士の足の引っ張り合い、蹴りあい、殴り合いの様相を呈することになる。‥‥
しかも、この審査の過程で、結果の詳細が敵にすっかりもれてしまうのである。審査を長引かせ、その一方で投稿論文から盗んだアイデアで実験を進めて、自分たちが先に発表してしまう、なんておぞましいことも、しょっちゅうある。科学の世界もビジネスなみにダーティーなのである」

どうだろうか。これは、ワトソンさんの体験談と、まったく同じではないか。
さらに、話には次がある。
山元氏らは、この論文を発表しようとしたが、『ネイチャー』も『サイエンス』も『セル』もライバルの息がかかって危ない。とくに、『セル』はスタンフォード大学のプロジェクトリーダー自身が編集している雑誌だった。
山元氏らの研究成果は、スタンフォード大学の影響の及ばない雑誌に掲載できたが、しかしその後スタンフォード大学らの研究グループは、二番煎じの論文を『セル』に発表して、手柄を自分たちのものにしようとしたという。しかも、日本のマスコミは、日本チームの成果は無視して、アメリカチームの研究発表の方を報道したという。なんとも呆れた話である。

私は、これと同じような話を、学生時代に生物化学の教授から聞いた。そして、ワトソンさんからも聞いた。そこで、これは事実だと確信したのである。
私の研究生活というのは、大学院時代に限られているので、たかがしれたものだが、化学・物理の分野では、このようなドロドロした話はおよそ聞いたことがない。生命科学の分野というのは、これほどまでにドロドロしているのかなと思ったものだ。

ワトソンさんの話には、自己のルサンチマンが色濃く反映されているのは確かだ。また、話がとんでもなく暴走するのも確かだ。しかし、その体験談の背景には、個人的な体験にとどまらない、この業界の深刻なドロドロの現状が横たわっている。
ところが、あっちの人間には、それがわからない。ワトソンさんの言う事がさっぱり理解できてない。そのくせ、ワトソンさんのことをエラソーに批判するのだ。学術論文を書いたこともなければ、読めもしないくせに。
まるで、バカ丸出しなのだが、自分自身でそれに気がついてないのが哀れですらある。

なんだかんだ言っても、ワトソンさんに対して実のある批判ができるのは、あっちのブログ主さんと、在米ポスドク氏くらいしかいないのだ。あとの連中は、わけもわからず、ただ外野で野次っているだけだ。
あっちは出入り自由で開放的だとの噂だが、こう何もかも、ごった煮というのは、いかがなものだろうか。貴重な意見がゴミの中に埋もれてしまう。

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私は有機化学専攻でDORAさんより少し上の世代かと思いますが、化学の世界でもありましたよ。JACSなんかで日本のもの米国のものと類似の研究が同じ号に載っていて、最初の投稿時期は日本のものがずっと前なんて、あからさまなものもありましたよ。

2015/12/21(月) 午前 8:37 [ hir*tan*3*wank* ] 返信する

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そうですか。化学の世界でもあったと言われればどうしようもないですが、私の生化学の先生は「醜いリジェクト合戦」という言い方をしていましたし、山元氏は「蹴りあい、殴り合い」「おぞましいことも、しょっちゅうある」という言い方をしてますから、不正腐敗がかなり恒常化している印象を受けます。程度の問題ということになりますか。

2015/12/21(月) 午後 1:02 [ DORA ] 返信する

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DORAさん、レスありがとうございます。伝聞ですが、上述のような状況を問題と考え、優れた日本の研究を適正に世界に発信するために日本の多くの学会は英文誌を創刊してきたという話もあります。
程度の問題ということですが、競争の激しい分野で自分の研究に関連して、自分らを上回るような他人の論文が査読で回ってきた時に、そこから何もヒントすら得ないという聖人君子を期待するのは難しいかとも思います。そんなこともあってか、雑誌によっては、論文投稿者が査読者についてある程度の要望(誰それを外してほしいとか)は出せるようですね。

2015/12/22(火) 午前 8:47 [ har*78d*n ] 返信する

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すみません。 複数のNNの選択を間違えました。
har*78・・・は、私です。

2015/12/22(火) 午前 8:48 [ hir*tan*3*wank* ] 返信する

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