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ついにBPOの決定が出ましたので、その全文を掲載します。PDFからWORDに変換したものです。

かなりの長文なので、何回かに分けて載せます。






        放送倫理・番組向上機構[BPO]


放送と人権等権利に関する委員会(放送人権委員会)

2017年(平成29年)2月10日放送と人権等権利に関する委員会決定 第62号
 

「STAP細胞報道に対する申立て」に関する委員会決定


勧 告
 

申 立 人  小保方 晴子

被申立人  日本放送協会(NHK)苦情の対象となった番組

     『NHKスペシャル 調査報告 STAP細胞 不正の深層』

放送日時  2014年7月27日(日)午後9時〜9時49分
 

【決定の概要】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2ページ

【本決定の構成】

事案の内容と経緯・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4ページ

1.放送の概要と申立ての経緯

2.論点

委員会の判断・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6ページ

1.委員会の判断の視点について

2.ES細胞混入疑惑に関する名誉毀損の成否について

3.申立人と笹井芳樹氏との間の電子メールでのやりとりの放送について

4.取材方法について

5.その他の放送倫理上の問題について

結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21ページ

放送概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34ページ

申立人の主張と被申立人の答弁・・・・・・・・・・・・・・ 42ページ

申立ての経緯および審理経過・・・・・・・・・・・・・・・ 49ページ
 


【決定の概要】
 
NHK(日本放送協会)は2014年7月27日、大型企画番組『NHKスペシャル』で、英科学誌ネイチャーに掲載された小保方晴子氏、若山照彦氏らによるSTAP細胞に関する論文を検証した特集「調査報告 STAP細胞 不正の深層」を放送した。

この放送に対し小保方氏は、「ES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたと断定的なイメージの下で作られたもので、極めて大きな人権侵害があった」などと訴え、委員会に申立書を提出した。

これに対しNHKは、「『STAP細胞はあるのか』という疑問に対し、客観的な事実を積み上げ、表現にも配慮しながら制作したものであって、申立人の人権を不当に侵害するようなものではない」などと反論した。

委員会は、申立てを受けて審理し決定に至った。委員会決定の概要は以下の通りである。

STAP研究に関する事実関係をめぐっては見解の対立があるが、これについて委員会が立ち入った判断を行うことはできない。委員会の判断対象は本件放送による人権侵害及びこれらに係る放送倫理上の問題の有無であり、検討対象となる事実関係もこれらの判断に必要な範囲のものに限定される。

本件放送は、STAP細胞の正体はES細胞である可能性が高いこと、また、そのES細胞は、若山研究室の元留学生が作製し、申立人の研究室で使われる冷凍庫に保管されていたものであって、これを申立人が何らかの不正行為により入手し混入してSTAP細胞を作製した疑惑があるとする事実等を摘示するものとなっている。これについては真実性・相当性が認められず、名誉毀損の人権侵害が認められる。

こうした判断に至った主な原因は、本件放送には場面転換のわかりやすさや場面ごとの趣旨の明確化などへの配慮を欠いたという編集上の問題があったことである。そのような編集の結果、一般視聴者に対して、単なるES細胞混入疑惑の指摘を超えて、元留学生作製の細胞を申立人が何らかの不正行為により入手し、これを混入してSTAP細胞を作製した疑惑があると指摘したと受け取られる内容となってしまっている。

申立人と笹井芳樹氏との間の電子メールでのやりとりの放送によるプライバシー侵害の主張については、科学報道番組としての品位を欠く表現方法であったとは言えるが、メールの内容があいさつや論文作成上の一般的な助言に関するものにすぎず、秘匿性は高くないことなどから、プライバシーの侵害に当たるとか、放送倫理上問題があったとまでは言えない。本件放送が放送される直前に行われたホテルのロビーでの取材については、取材を拒否する申立人を追跡し、エスカレーターの乗り口と降り口とから挟み撃ちにするようにしたなどの行為には放送倫理上の問題があった。

その他、若山氏と申立人との間での取扱いの違いが公平性を欠くのではないか、ナレーションや演出が申立人に不正があることを殊更に強調するものとなっているのではないか、未公表の実験ノートの公表は許されないのではないか等の点については、いずれも、人権侵害または放送倫理上の問題があったとまでは言えない。

本件放送の問題点の背景には、STAP研究の公表以来、若き女性研究者として注目されたのが申立人であり、不正疑惑の浮上後も、申立人が世間の注目を集めていたという点に引きずられ、科学的な真実の追求にとどまらず、申立人を不正の犯人として追及するというような姿勢があったのではないか。委員会は、NHKに対し、本決定を真摯に受け止めた上で、本決定の主旨を放送するとともに、過熱した報道がなされている事例における取材・報道のあり方について局内で検討し、再発防止に努めるよう勧告する。
 
   
事案の内容と経緯

1.放送の概要と申立ての経緯

  NHKは2014年7月27日、大型企画番組『NHKスペシャル』で、英科学誌ネイチャーに掲載された小保方晴子氏、若山照彦氏らによるSTAP細胞に関する論文を検証した特集「調査報告 STAP細胞 不正の深層」を放送した。

  本件番組は、ネイチャーが同年7月にこの論文の取り下げを発表、「研究結果は白紙にもどった」ことを受け、そうした論文が「なぜ世に出たか」を検証するとして、論文の画像・グラフの点検やSTAP細胞の由来などについて調査報道したもの。番組後半では、論文不正が起こる背景や不正を防ぐ取り組みなども紹介している。

  この放送に対し申立人はNHKに「抗議書」(2014年10月20日付)を送付し、申立人に対して著しい人権侵害行為があったと主張、「謝罪を含めた適正な対応」を求めた。NHKは「回答書」(同年11月6日付)で、本件番組には「不公正」「偏向」はなく「著しい人権侵害行為」にはあたらず、申立人の権利を違法に侵害するものではないと答えた。

  その後、申立人は2015年7月10日付で「申立書」を委員会に提出。その中で本件放送(本件番組のうち、後述の「放送概要」において示した部分を指す)がタイトルで「不正」と表現し、「何らの客観的証拠もないままに、申立人が理化学研究所内の若山研究室にあったES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたと断定的なイメージの下で作られたもので、極めて大きな人権侵害があった」と訴えた。このほか、申立人への直接取材の際「違法な暴力取材を強行し」て、申立人を負傷させた、など様々な問題点を指摘した。

  NHKは人権侵害があったとする申立人の主張に対して、「今回の番組は、世界的な関心を集めていた『STAP細胞はあるのか』という疑問に対し、2000ページ近くにおよぶ資料や100人を超える研究者、関係者の取材に基づき、客観的な事実を積み上げ、表現にも配慮しながら制作したものであって、申立人の人権を不当に侵害するようなものではない」と答えた。申立人に対して直接取材を行ったことに関しては、「安全面での配慮に欠ける問題のある取材手法であったと反省している」としたものの、その他、指摘された点については「問題はない」などと反論した。

  委員会は2015年8月18日に開催された第223回委員会で、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らし、審理入りすることを決め、19回にわたる審理、双方へのヒアリング、4回の起草委員会の開催などを経て委員会決定の通知・公表に至った。

  本件放送の概要については後述の「放送概要」、提出された書面やヒアリングを通じて明らかになった申立人の主張とそれに対する被申立人の答弁の概要は「申立人の主張と被申立人の答弁」のとおりである。申立てに至る経緯及び審理経過は末尾「申立ての経緯および審理経過」に記載のとおりである。


2.論点

  申立人が主張する本件放送による人権侵害の有無と、それに係る放送倫理上の問題を検討するために委員会が取り上げる論点は以下のとおりである。

タイトルでの「不正」という表現の与える印象

専門家の指摘の与える印象

CGやナレーション、その他演出の与える印象

申立人が若山研究室のES細胞を盗んだという印象を与えるか

実験ノートの引用方法とその放送に著作権法違反があったか

申立人と笹井氏との間の電子メールの放送に問題があったか

取材方法に問題があったか
 


委員会の判断

1.委員会の判断の視点について

 はじめに、委員会が本決定を行う際の視点を述べておきたい。申立人らによって執筆され、英科学誌ネイチャーに掲載されたSTAP細胞に関する論文(以下、2本の論文を合わせて「STAP論文」と言い、これらに関わる研究を概括して「STAP研究」と言う)は、2014年7月に取り下げられている。また、理化学研究所(理研)が設置した「研究論文に関する調査委員会」による「研究論文に関する調査報告書」(2014年12月25日。以下、「第2次調査報告書」と言う)は申立人が2つの実験・解析について不正行為を行ったと認定し、また、STAP幹細胞、FI幹細胞、キメラ、テラトーマがすべてES細胞の混入に由来するものであるとした。

 他方で、申立人は、STAP現象の実在をなおも主張している。また、第2次調査報告書による不正認定については、同報告書は「NHKが作りだした不公正な社会風潮のもと調査が行われ、作成されたもの」であって不正確なものであり、自身はPIすなわち研究室の責任者であった若山照彦氏に対して従属的な立場にあったもので、STAP研究の主たる責任は同氏にあると強く主張している。

 本来、STAP研究に関する事実関係をめぐる見解の対立について、調査権限を有さず、また、生物学に関する専門的な知見をもち合わせていない委員会が立ち入った判断を行うことはできない。こうした判断は委員会ではなく、科学コミュニティによってなされるべきものである。委員会の判断対象は本件放送による人権侵害及びこれに係る放送倫理上の問題の有無であり、検討対象となる事実関係もこれらの判断に必要な範囲のものに限定される。したがって、本件放送で触れられていない事情が考慮されるのも、こうした範囲内でのことである。
 

2.ES細胞混入疑惑に関する名誉毀損の成否について

1.申立人の主張と判断方法
申立人は、本件放送について、「申立人が理研内の若山研究室にあったES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたかのようなイメージを視聴者に想像させる内容」となっており、それが人権侵害に当たると主張する。ここでいう人権侵害とは、名誉毀損のことであると思われるので、以下その前提で判断する。  名誉毀損があったかどうか、すなわち本件放送が申立人の社会的評価を低下させるものかどうかについては、一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断すべきである。また、社会的評価の低下の有無を判断する前提として、本件放送によって摘示された事実がどのようなものであったかが問題となるが、これについても、一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断する( 高裁2003年10月16日判決[テレビ朝日ダイオキシン報道事件])。 
 
2.関係部分の構成 
 本件放送のうち、ES細胞混入疑惑に関する名誉毀損の成否に関わる部分(以下、「関係部分」とも言う)について、ここではまずは番組の流れを確認する。その上で、次の(3)において本件放送による摘示事実がどのようなものであったかを検討する。  関係部分は、「STAP細胞は存在するのか」と題するパートの一部であり、その流れは以下のようなものである。
  1. ハーバード大学のジョージ・デイリー教授(以下、役職名や組織名は本件放送当時のもの)のインタビューを交えた同教授の研究を紹介する部分
     STAP細胞の再現実験に取り組んだが一度も成功していないことが述べられた上で、細胞が緑に光る現象は細胞が死ぬ直前に起きる現象だと考えている旨、及び、今のところ、論文に書かれたような方法ではSTAP細胞はできないと考えている旨の同教授の発言が放送されている。
     
  2. 若山氏がSTAP細胞の有無について検証していることを紹介する部分
     ここではまず、STAP細胞だとして申立人から渡されて培養され、若山研究室に残っていた細胞の遺伝子の解析結果について若山氏が説明を受ける場面が放送され、「いずれも129ではないです」というテロップが表示される。129とはマウスの系統のことであるが、このこと自体についての説明はなされていない。
     同じく若山氏による検証の紹介部分では続いて、上記の遺伝子解析の結果が説明される。STAP細胞は、申立人が若山氏から渡されたマウスから作製していたはずであり、このため、作製されたSTAP細胞と元になったマウスとは遺伝子が一致するはずである。しかし、遺伝子解析の結果、両者は異なるものであったことが述べられる。これを受けて、「すべて僕のほうにミスがないっていうのを、自分で納得しないと先に進めない」などの若山氏の発言が放送されている。
     
  3. 理研の遠藤高帆上級研究員による解析結果を紹介する部分
     独自に検証に乗り出した遠藤氏が、公開されていたSTAP細胞に関連する遺伝子情報を解析し、若山氏が申立人から渡された細胞には、アクロシンGFPという精子で発現する特殊な遺伝子が組み込まれていることが分かったとされる。ここでは、アクロシンはSTAP研究にはまったく必要がないとか、STAP細胞は調べれば調べるほど存在自体がわからなくなってくるといった遠藤氏の発言も放送されている。
  4. 遠藤氏の解析結果を知らされた若山氏の反応とES細胞混入疑惑の提示部分
     若山氏にはアクロシンGFPが組み込まれたマウスに心当たりがあった。若山研究室では、そのマウスからES細胞を作製し保管していたからである。これを受けて本件放送は、「小保方氏から受け取った細胞に、このES細胞が混入していたのではないか」、と疑問を提起する。
     
  5. この疑問に対する若山氏と申立人の主張を紹介する部分
     若山氏は、自らの実験の過程でES細胞が混入する可能性がなかったか繰り返し調べたが、思い当たらなかったという。一方、申立人に関しては、ES細胞のコンタミ(混入)ということが起こり得ない状況を確保していた、という2014年4月9日の記者会見での発言を放送するなどしてその主張が紹介された。
     
  6. 不正疑惑の発覚後、申立人の研究室で使われる冷凍庫から見つかった細胞に関する部分
     の場面のあと、若山氏や申立人の研究室のあった理研CDB(発生・再生科学総合研究センター)の建物の映像を背景に、「取材を進めるとES細胞をめぐって、ある事実が浮かびあがってきた」というナレーションが入る。そののち、冷凍庫から細胞チューブの入った容器が見つかったという話題に移る。その内容物であるES細胞は若山研究室にいた元留学生が作製したものであり、申立人は、実験用のES細胞を若山研究室から譲与されて保存していると説明してきたと放送される。ところが、この細胞は、「去年」すなわち2013年に若山研究室が山梨大学に移転する際に持っていくことになっていたものであり、申立人の元にあるのは不可解であるという指摘があるとの紹介がされる。そして、このES細胞を作製したという元留学生が、電話インタビューで、これがSTAPと関係あるところに見つかったことに驚いたこと、それを申立人に直接渡したことはないことを述べる音声が放送される。これを受けて「なぜこのES細胞が、小保方氏の研究室が使う冷凍庫から見つかったのか。私たちは、小保方氏にこうした疑問に答えて欲しいと考えている」というナレーションが流れる。
     
  7. まとめの部分
     ここでは、さらに次のようなナレーションが流れる。「これまでの取材では、STAP細胞の再現実験に成功した研究者はいない。さらに残されていた細胞について解析したところ、実験に使われたはずのマウスとは異なる遺伝子が検出された。ES細胞ではないかという疑いも浮かびあがっている。次々と指摘される新たな疑惑に対して、理研は調査を先送りにしてきた。明確な答えを示さないまま、小保方氏によるSTAP細胞の検証実験を進めようとしている」等である。その上で、これらのナレーションへの反論として、CDBの竹市雅俊センター長が検証実験の意義を強調するインタビュー発言が放送され、次の「エリート科学者 問われる責任」と題するパートに移る。
     
    3.関係部分による摘示事実とその真実性
     一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準とすれば、関係部分による摘示事実は以下のようなものであると言える。
     
    a)STAP細胞の正体はES細胞である可能性が高いということ(からまでの全体、直接的にはより)
     では、「小保方氏から受け取った細胞に、このES細胞が混入していたのではないか」という疑問形が用いられており、STAP細胞の正体がES細胞であると断定的に述べたものとまでは言えないが、本件放送が、他の仮説に言及することなくES細胞説で全体の説明を組み立てていることからすると、可能性の高い仮説として提示しているものと理解される。
     
    b)若山氏の解析及び遠藤氏の解析によれば、申立人の作製したSTAP細胞はアクロシンGFPマウスから作製されたES細胞である可能性があること(からより)
     遠藤氏の解析対象となったSTAP細胞がアクロシンGFPの組み込まれたものである点は番組中で明示されているが、番組で紹介された場面で行われた若山氏の解析の対象となった細胞については特に説明がない。実際には両解析において対象となった細胞は別のものであり、若山氏の解析対象となったSTAP細胞はアクロシンGFPマウス由来のものではない。しかし、STAP細胞にはいくつかの種類があることが番組では説明されていないため、そのような知識のない一般視聴者は、若山氏にアクロシンGFPが組み込まれたマウスに心当たりがあり、若山研究室ではそのマウスからES細胞を作製し保管していたとされた上で、「小保方氏から受け取った細胞に、このES細胞が混入していたのではないか」と放送されることによって(から)、若山氏が解析対象としたSTAP細胞も遠藤氏が解析したSTAP細胞と同じもの、つまり、アクロシンGFPの組み込まれたES細胞である可能性があると受け止めるだろう。
     
    c)STAP細胞は、若山研究室の元留学生が作製し、申立人の研究室で使われる冷凍庫に保管されていたES細胞に由来する可能性があること(からまでの全体、直接的には⑤⑥より)
     このように摘示事実を理解する前提には、「STAP細胞は存在するのか」と題するパートのうちの、からまでの場面ととを連続したものと捉えていることがある。それにより、遠藤氏の解析対象のSTAP細胞、若山氏の解析対象のSTAP細胞、若山研究室に保管されていたアクロシンGFPの含まれるES細胞、さらに若山研究室の元留学生が作製したES細胞という4つの細胞が同一のものであると断定こそされていないが、までの部分と連続したものと受け取られる編集によって、そのような可能性があるという上記の摘示事実が示されたと言える。  これに対してNHKは「場面転換の映像とコメントによって、構成上、区切りがつくように配慮した」として、までの場面とは独立したものであって、までの場面で登場するES細胞とで取り上げられるES細胞とは別のものとして放送されていると主張する。「場面転換の映像とコメント」とは、の場面のあと、CDBの建物を背景に、「取材を進めるとES細胞をめぐって、ある事実が浮かびあがってきた」というナレーションが入っていることを指していると思われる。
     しかし、まず、で若山研究室ではアクロシンGFPが組み込まれたマウスからES細胞を作製して保管していたとし、「小保方氏から受け取った細胞に、このES細胞が混入していたのではないか」とES細胞の混入疑惑を指摘している。そののち、では若山氏と申立人の双方が混入の可能性を否定していることを紹介した上で、では、取材を進めると、申立人の研究室にはES細胞が保管されていたことが判明したとし、元留学生の作製したES細胞が「申立人の元にあるのは不可解である」(したがって、混入の可能性もありうる)という指摘がなされている。以上のように、からは、いずれも混入の可能性に関わる内容であるから、一般視聴者はこれらを一連のものとして見ると理解するのが自然である。
     NHKの主張通りを独立した内容であると捉えるためには、次に述べる通り、との間に2年以上の間隔があることを意識する必要があるが、これらの場面においてこの点が強調されているわけではないから、一般視聴者がこうした時系列を意識して視聴するわけではないだろう。また、仮に、意識的に時系列に関心をもって視聴する者を前提とした場合には、次に述べる通り、の場面をおいた趣旨の理解は困難となってしまう。結局、いずれの場合でも、までの場面ととを連続させて捉えるのが自然であるといえる。
     すなわち、は、問題発覚後の申立人の冷凍庫から入手経緯の不明なES細胞が発見されたという内容であるが、STAP研究が行われていた時期(番組では、キメラ実験が成功したとされるのは2011年11月だと紹介されている)と、この元留学生のES細胞が発見された時期(番組中で明示されないが、「問題発覚後」が、STAP研究に疑義が呈され始めた時期を指すとすれば、それは2014年2月である)とは2年以上異なる。NHKが主張するように「までの場面とは独立したものであって、までの場面で登場するES細胞とで取り上げられるES細胞とは別のもの」とみるのであれば、なぜまでの場面に続けてSTAP研究から2年以上経過した時点における元留学生作製のES細胞の保管状況に疑問を呈する部分()が放送されたのか、その趣旨を理解するのが困難である。すなわち、アクロシンGFPが組み込まれたES細胞が混入したのではないかというSTAP研究当時の混入の可能性を指摘した部分(③④)を放送し、それに続けて、STAP研究から2年以上経過した時点における元留学生作製のES細胞の保管状況を紹介した後に、「なぜこのES細胞が、小保方氏の研究室が使う冷凍庫から見つかったのか」と疑問を呈するナレーション()がされたのか、までの場面で登場するES細胞とで取り上げられるES細胞とは別のものであるというNHKが主張する前提では、その意味が理解できないだろう。
     結局、一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方の観点からは、前述のようにからを一連のものと見るのが自然であるが、意識的に時系列に関心をもって視聴する注意深い視聴者にとっても、以上述べたように、⑤⑥は一連のものと理解されると言えるのである。
     NHKは、の場面を独立のものとして放送したのは、理研が当時、申立人の研究室に残存していた試料等についての調査に消極的であったことを指摘するためであると主張している。しかし、では、NHKの主張する上記のような趣旨についての明示的な説明はおろか、理研という言葉すら出てきておらず、逆に、最後のナレーションは、先ほども指摘したように「なぜこのES細胞が、小保方氏の研究室
    .....が使う冷凍庫から見つかったのか。私たちは、小保方氏にこうした疑問に答えて欲しいと考えている」(傍点は委員会による)というもので、問いかけの対象は申立人である。こうした点からすると、この部分が理研を批判する趣旨のものであると受け止めることはできないだろう。さらに、はあくまで「STAP細胞は存在するのか」について扱うパートの一部なのであり、その後が挟まれたうえ、「エリート科学者 問われる責任」という理研の対応を批判するパートに移るという構成になっているのである。
     以上からすると、の場面を独立のものとして一般視聴者は見るはずであるというNHKの主張には説得力がなく、一般視聴者はまでの場面ととを連続したものと理解するものと考えられる。
     
    d)申立人は元留学生作製のES細胞を何らかの不正行為により入手し、混入してS
    TAP細胞を作製した疑惑があること(からまでの全体、直接的には⑤⑥より)  申立人は、「全体の構成として、申立人が理研内の若山研究室にあったES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたかのようなイメージを視聴者に想像させる内容になっている」とし、本件放送は、申立人がES細胞を盗み、それを混入したことを断定的に述べるものであると主張する。そこで、疑惑に言及するの場面について、疑惑の提示にとどまっているのか断定に至っているのかを検討する。
     番組では、具体的な不正行為を意味するような言葉は用いられていないものの、まず、このES細胞について、申立人が実験用のES細胞を若山研究室から譲与されたと説明してきたことを紹介した上で、それが本来は若山研究室の移転に伴って山梨大学に持っていくことになっていたと説明される。加えて、STAP細胞と関係のあるところに見つかったことに驚いた、申立人に直接渡したことはないという元留学生の発言を放送するという構成になっている。このような流れからすれば、このES細胞は申立人の研究室にあるはずのものではなく、何らかの不正行為によって入手したものであることが示唆されていると言える。しかし、それ以上に具体的な指摘はなく、の 後のナレーションが「なぜこのES細胞が、小保方氏の研究室が使う冷凍庫から見つかったのか。私たちは、小保方氏にこうした疑問に答えて欲しいと考えている」という問いかけにとどまっていることからすれば、本件では、何らかの不正行為によってES細胞を入手し、混入したと断定したとまでは言えず、疑惑の提示にとどまっていると考える。
     
     以上をまとめると、本件放送の関係部分による摘示事実は以下の通りである。
    a)STAP細胞の正体はES細胞である可能性が高い。
    b)若山氏の解析及び遠藤氏の解析によれば、申立人の作製したSTAP細胞はアクロシンGFPマウスから作製されたES細胞である可能性がある。
    c)STAP細胞は、若山研究室の元留学生が作製し、申立人の研究室で使われる冷凍庫に保管されていたES細胞に由来する可能性がある。
    d)申立人には元留学生作製のES細胞を何らかの不正行為により入手し、混入してSTAP細胞を作製した疑惑がある。
     これらの事実(とりわけd)の事実)を摘示することが申立人の社会的評価を低下させることは明らかである。
     

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