|
・経済学史学会の記念で企画された著作があり、その1つの章を引き受けていた。これの再校ゲラが届いていたので、校正を行い、送付した。これで校了である。
『古典で読み解く経済思想史』ミネルヴァ書房
***
戦間期ケンブリッジの経済学と資本主義観
― ケインズ,ロバートソン,ホートリー,ピグー
平井俊顕
本章では, 20世紀前半に活躍したケンブリッジを代表する経済学者4名 ― ジョン・メイナード・ケインズ [John Maynard Keynes (1883-1946)], デニス・ロバートソン [Dennis Robertson (1890-1963)], ラルフ・ホートレー [Ralph Hawtrey (1879-1975)], アーサー・セシル・ピグー [Arthur Cecil Pigou (1877-1959)] ― が, どのような経済理論を展開し, どのような資本主義観を抱いていたのか, そしてこの二点をめぐる彼らのあいだの関係はどのようなものであったのか, を主題とし, 合わせて混迷する現在の経済学にたいして彼らがどのような今日性を有しているのかを述べてみたい。
読者は, ケインズの名は聞いたことがあるかもしれないが, 他の3名についてはおそらくは聞いたことがないであろう。
だが, 以下に述べるように, 彼らは当時の世界の経済学界にあって中心的・指導的な活躍をした経済学者であり, 彼らが展開した独自の経済学には絶えず大きな注目・関心が寄せられていた。それに, 彼らは「たんなる」経済学者ではなかった。現実の資本主義システムのあり方と行方に深い関心と洞察を示し, その改革に心を寄せていた。この点でも彼らの発言・行動にはいつも大きな注目・関心が寄せられていた。
本論に先立ち, 簡単に4名 − いずれもケンブリッジ大学の出身 − を紹介しておこう。ケインズは, キングズ・カレッジの教員であるが, 大蔵省に勤めたこともある。多くの著作や時評を著すとともに, 自由党の知的指導者であり,「国際清算同盟案」をはじめとするさまざまの国際システムを提唱した。代表作は『雇用・利子および貨幣の一般理論』(1936)であり, これを通じてマクロ経済学に画期をもたらした。ロバートソンはトリニティ・カレッジの教員であり, 景気変動論の研究者として名を残している。代表作は『銀行政策と価格水準』(1926)である。ケインズと1920年代後半まで共同研究者の関係にあった(後年, ケンブリッジの教授になっている)。ホートレーは, 卒業後一貫して大蔵省官僚の道を歩み, そこでの研究を通じて独自の景気変動論を展開し続けた。代表作は最も初期の作品『好況と不況』(1913)である。独自の視点からケインズの理論に批判を投げ続けたが, 同時に彼はケインズが最も畏敬する経済学者の一人であった。ピグーはケインズと同じキングズ・カレッジの教員であるが, 若くしてケンブリッジの教授になった。代表作は『厚生経済学』(1920)である。上記2名に対するのとは異なり, ケインズはピグーにたいしかなり厳しかったといえる。『一般理論』で最も批判の標的に選ばれているのは, 他ならぬピグーであった。
本章は次のように進められる。第1節では4名が展開した独創的な経済学を個別に説明したうえで, 4名を比較評価する。第2節では彼らの資本主義観について個別に説明したうえで, 4名を比較評価する。そして第3節で, 現在にとっての彼らの意義を, 近年支配的な影響力をおよぼしてきた「新しい古典派」との対比で述べてみたい。
|