演奏会いいたい砲台

「海外オーケストラ来日公演記録抄」の「いいたい砲台」(ゲストブックにリンク先あり)にある2006年以降に行った演奏会の感想です

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(会場)日比谷公会堂
(座席)階上O列11番
(曲目)
ショスタコーヴィチ:交響曲第5番
ショスタコーヴィチ:交響曲第6番


 「日露友好ショスタコーヴィチ交響曲全曲演奏プロジェクト」の第二日目の公演。日比谷公会堂はほんとうに久しぶりで、ここで海外のオケを聴くのは初めてとなります。ここで本格的なクラシック演奏会を聴くのはほんとうに久しぶり…、だったのは自分だけではなかったようで、携帯でこのホールを中から外から、とにかく撮影されている方が多かったです。

 それにしてもホールの中はいきなり昭和にタイムスリップしたかのようで、その椅子のギシギシ感、ホール外のフロアの椅子がふんだんに置いていある贅沢感とそれに反比例するかのような狭さ、そして同じく階段の狭さ、さらに上下階への階段とフロアを仕切る驚くほど堂々とした扉、どこにあるのかというくらい不意打ち的な場所にあるトイレ、二階ホール内の高さと幅が不均衡な階段など、とにかくトラップが随所に仕掛けてあるようでスリル満点なところもある。だがこのホール、今回一番改めて強く感じたのはその「演奏會」と言う雰囲気がじつにあっているということです。

 ホールが人で埋まり、そしてオーケストラがホール上にずらりと並んだその光景は、それこそかつて図書館でみた、シンフォニー・オブ・ジ・エアやレニングラードフィルの初来日公演の写真とまったく同じ光景で、まるで自分がその歴史的公演にタイムスリップしているかのようでした。そしてそこから自分がかつて失っていた、「演奏會」に対するわくわく感、そしていかにも「交響楽団」という名前がぴったりとしたオーケストラの風景というものが感じられ、こういう懐かしい雰囲気の演奏会っていいなあという気がしたものでした。

 さて前半の交響曲第5番、このホールの残響の無さとロシアオケ独特の立ち上がりの遅さからか、第一楽章展開部すぎまでちょっとオケの活気がいまいちだったのですか、そこから急にオケが目を覚ましたのかとても迫力と気合の入った音楽が鳴り始めました。それにしてもこのサンクトペテブルグ交響楽団、いわゆるフィルハーモニーの通称第二交響楽団とよばれたもので、現在はドミトリエフのオーケストラとしても知られていますが、この日はホールのせいもあるのでしょうが、いつもの落ち着いた響きとは違う、荒く粗い響きが、格調よりも本音というかオケのスピリットで聴かそうという雰囲気が全編にみなぎっており、まるでかつての「レニングラードフィル」のような響きすら感じさせられるものがありました。特に木管のあの剥き出しのような強い、それこそ朴訥ともいえる響きは自分がかつてNHKホールで聴いたかのレニングラードフィルのそれと極めて酷似したものとなっていました。そういえばかつてショスタコーヴィチのこういう響きを、「またか」と言って眉をひそめたり、楽器が裸で鳴っているといって嫌悪したりする発言がありましたが、この音を聞いていたら急にそのことを思い出してしまいました。もう三十年以上も前のことです。不思議なものです。

 井上さんは一度にいくつものことを考えながら、最も理にかなったシンプルな答えを出していくような指揮をしており、それがこのホールの響きをそのまま利用したかのような、明晰かつ古典的ともいえるほどしっかりとした造詣の音楽をつくり、そしてある部分オケにかなりのものを任せていたのでは?というくらい自分を退いたような音楽をつくっていました。それは指揮をしながら、このオケの持つ「伝統」のようなものを最高の席で聴くということを両立させているかのようで、ちょっと微笑ましいかんじすらしたものでした。それにしても表情豊かではあるものの、感傷的とも諧謔的ともまた扇動的とも一線を画するような厳しい響きを軸にした演奏で、聴いていて自分がかつてショスタコーヴィチをリアルな作曲家として聴いていた時期の旧ソ連の演奏とどこか似たような感覚がこの演奏にあったような気さえするものがありました。それにしてもあのコーダの力強さは素晴らしかったです。

 続く後半の交響曲第6番はさらに厳しいというか、特に第一楽章など突きつけてはこないものの厳しい響きにみちたものとなっていました。それにしてもこの楽章の冒頭もそうですが、前半交響曲第5番の第二楽章における弦の物凄いほどの量感をともなったアタックの戦慄的な響きなどは、このホールだからこそ実体化したようなもので、これがサントリーやMUZAであったらこうはならなかっただろうという気がしたものでした。このあたりホールの響きの豊かさがすべてにおいてその音楽のベストの容量を引き出すわけではないということを痛感させられたものでして、ひょっとしたらたしかにいろいろと問題のあるホールではあるかもしれないものの、他の現存するホールには絶対無い、楽器の分離以外等において極めて凄い「売り」をこのホールは持っているのではないかとこのとき初めて感じたものでした。戦後来日したシンフォニー・オブ・ジ・エアやレニングラードフィル、さらにはボストン響やチェコフィル、そしてBPOやVPOが「凄い」と評されていたその部分には、オケそのものの凄さだけではない、このホールの持つ独特のものが左右していたのかもしれません。その後東京文化会館、サントリーホール、MUZA川崎と、よりホールは響きが豊かになり素晴らしくなっていったものの、そこからじつは抜けてしまったものもあったのではないかと、このとき初めて気づかされたものでした。しかしあの交響曲第5番第二楽章冒頭部の弦の響き!あんな重さと密度とキレが両立する響きなどそうそう聴けるものではありません。

 交響曲第6番の後半二つの楽章はやや落ち着いたテンポで堂々としかも表情豊かに常動的ともいえるほど華々しく演奏されましたが、こちらも極めて底辺に厳しい姿勢をもった演奏となっており、久しぶりに正面突破型ともいえるような見事なショスタコーヴィチとなりました。井上さんはいろいろと細かい表情を随所にみせているものの、聴いた後にはそういうこともすべて自然の流れに沿った必然的とも自然的ともいえるものに昇華されており、じつに聴いていて感心してしまったものでした。

 今回のこのショスタコーヴィチ、たしかに最近よく聴かれるような冷暖房完備のような至れり尽くせり方の演奏ではなく、ホールのそれも相まって、かなり荒く粗い部分も混在した演奏であり音楽かもしれませんが、じつにオケにも指揮者にも強いスピリットのようなものを感じさせられるものが随所にありましたし、それとともに自分には昭和懐かしい「交響楽団」による「演奏會」という、なんともいえない忘れていた大事なものを思い起こさせられた気がしたものでした。

 そういえば日比谷公会堂は日本でショスタコーヴィチの交響曲を海外のオケが初めて演奏したホールでしたが、この交響曲第5番をソ連&ロシアのオケがこのホールで演奏したのは、ひょっとするとそのときのガウク指揮レニングラードフィルによる49年前のそれ以来(1958年4月22日)だったかもしれません。あと井上さんの今日の後姿。なぜか妙にムラヴィンスキーのような格好にみえたことで、49年前にムラヴィンスキーが来日していたら、オケの配置等は違うもののこんな光景だったのかな?とちょっと想像したりしたものでした。

 新橋から歩いて10分。サントリーホールへ新橋駅から歩くこともある自分にとってはけっこう立地のいいホールという気がしました。 かのワインガルトナーが指揮台に立ち、ストラヴィンスキーが自作を指揮し、シャリアピンが歌う。(このシャリアピンの時は、その日の大雪により交通機関が止まったことにより、日比谷公会堂で一夜を明かした方が大勢いらっしゃたとか。)

 東京文化会館とは違った歴史をいろいろとみてきたこのホール。このホールもう少し顧みられていいかもしれません。そんな気持ちになったこの日の演奏会でした。しかし風邪がなかなか治りません。今日も交響曲第6番終了後すぐ席を立って帰宅してしまいました。もっと体調がよければもう少しこのホールの雰囲気を味わいたかったです。(因みに今からちょうど50年前の11月4日は、カラヤン指揮で初来日していたベルリンフィルの日比谷公演初日がありました。曲目は、モーツァルトの交響曲第35番、ワーグナーのトリスタンとイゾルデから前奏曲と愛の死、ブラームスの交響曲第2番でした。)

 余談ですが、今回のチクルス共通パンフレットは読み応えがなかなかあります。\2000ですが、自分には高く感じませんでした。あと入り口で売っていたロシアのお菓子、おいしそうだったのですが買い忘れてしまいました。これも残念…。

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ひろです。またご一緒だったんですね。^^
詳しい記事、とっても参考になりました。いろいろと共感してます。
共通パンフレット、是非欲しくなりました。♪

2007/11/4(日) 午後 10:03 ひろmahler=^・^= 返信する

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なかなか聴き応えのある演奏会でしたね。
共通パンフは写真も豊富ですし
けっこういろいろとデータも揃っていて良心的です。
ただ少しガウクとレニングラードフィルに関して触れてほしかったという部分はありましたが…。 削除

2007/11/4(日) 午後 11:51 [ 相佐和 ] 返信する

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