春風と共に釣りぬ
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また青木から釣りのお誘いがあった。また高知へ行こうと言う。 わしは即座に断った。 「いやじゃ!」「わしは難破覚悟で釣りに行くような命知らずではない。」 「ボートのことなら床板もカバーも補修したから大丈夫だよ。」「もう水は入って来ない。」 ほほう、ボートを直したかと一安心したが、油断はできない。 なにしろ古いボートである、修理したとはいえ、いつどこで沈むかわからない。信用できない。 そんな危ないものにたった一つしかない命を預けるわけにはいかない。 「釣りに行くのはいいが、今回は周参見(和歌山)か尾鷲(三重)にしないか?」「あっちでは最近、 50センチ級のグレもバンバン釣れているそうだ。」 50センチ級のグレがバンバンというのはウソである。そんなでかいグレが釣れるわけがない。 高知でまた、あのボートに乗りたくないが為のウソであったが、青木はこれにすぐ食いついた。 「おお、50センチが!?それはすごいな、よし行こう。尾鷲に行こう、すぐ行こう、この週末にでも行 こう。」 青木をダマすのは簡単である。 ということで、3月14日(土)尾鷲に行くことになった。尾鷲にはきちんとしたプロの磯渡し業者がい る。船はもちろんゴムボートではない。安心である。 ところが、土曜日のお天気は大荒れだった。 春二番だか三番だかが吹き荒れ、天気予報は大雨で三重県沿岸の波予測は5メートルにもなるという。 釣りどころではない。死ぬ。 釣りの前日、うちでネットの波予測を見ながらビールを飲んでいたわしらは既にあきらめムードであっ た。 「明日はあかんな、こりゃ。」 「あさってに延期するか?」 「う〜ん、日曜日もまだ波が残りそうやな」 「せっかく三重まで行っても海が荒れて釣りが出来んかもしれぬ」 「今回は中止かな」 その時、青木が何かを思いついたらしく、「おお、そうだ!」と三本目の缶ビールを空けながら大声でわ めいた。 「そういえば、去年の今頃、やっぱり海が荒れたときに徳島のワンドで大釣りしたことが あったな・・・」 わしもそのことはよく憶えていた。 あまり期待していなかった釣り場でよく釣れたから、非常に得をした気分になったものである。 「うむ、あそこのワンドなら少々海が荒れても釣りができるかもしれん。」「日曜は天気も 良さそうだし、行ってみるか・・・ボートにも乗らなくてもいいし。」 そして、3月15日(日)午前8時、わしらは去年も来た徳島のワンドにいた。 月日の経つのは早いものである。 ここを訪れたのはついこのあいだのような気がするが、もう一年経ったのだ。 あたりを見わたせば、やはり少し波は高いが、もう既に何人かの釣り人が竿を出している。 「いかん、いかん、早くしないと魚をみんなあいつらに釣られてしまう。」 などとさもしいことを言いながら釣り支度を始めるわしと青木であった。 さて、今年も魚は釣れるのか? 続く。
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