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今年319日に行われた内閣府の「雇用戦略対話」で興味深いデータが示されている。従来とは異なり、20代後半、30代で非正規雇用率が改善しなくなってきているというのだ。
 下記が、その引用と表である。
 
 
「若い世代では、20歳代後半でも正規につけなくなってきている。正規になろうとする者、なった者のいずれも減少する傾向。」
 
男性                                   (%)

男性
2001
2006
正社員になろうとした者
正社員になった者
正社員になろうとした者
正社員になった者
1819
37.7
27.0
16.7
1.3
2024
63.1
43.2
45.9
23.2
2529
84.9
66.2
67.3
46.3
年齢計
73.4
54.9
50.5
29.7

(資料出所) 小杉礼子(平成18年)「若者と初期キャリア」より。
(注) 元データは、日本労働研究機構(平成13年)「大都市の若者の就業行動と意識広がるフリーター経験と共感」及び労働政策研究・研修機構(平成18年)「大都市の若者の就業行動と移行過程包括的な移行支援に向けて」
 
 
なるほど、01年と比較して、06年では年齢を重ねても正社員になろうとせず、正社員になれてもいない。この問題には三つの論点がある。
 
 
・ロスジェネが「若者」を代表する問題
 第一に、01年時点で30歳前後に相当する、いわゆる「ロスジェネ」とそれ以後の世代で現実が大きく食い違っている。ロスト・ジェネレーションといえば、08年ごとに朝日新聞が「格差問題」の本質として連続記事を書いて、大きく注目された。
 ロスジェネはちょうど就職氷河期の時期に大卒期を向かえ、景気のハザマで「割を食った世代」であるという説明がされる。この観点に立つと、若者の格差や貧困の問題は、たまたま卒業する時期の契機のよしあしの問題だということになってしまう。この時点ですでに、現実の社会構造の変化を省みない粗雑な「世代論」だったということができる。
 実際、0608年くらいまでのいわゆる「格差論壇」あるいは「若者論壇」と呼ばれるような、「格差ブーム」的言説は、すべからくこの世代の論者によって構成された。当時発売された雑誌媒体として、『ロスジェネ』、『フリーターズ・フリー』、『VOL』が思い当たるが、すべてロスジェネ世代による、ロスジェネ世代の、ロスジェネ世代のための媒体であった。
 ところが、である。当時から就職氷河期に関しては二つの論点が提起されていた。第一に、就職氷河期世代は、実は正社員にその後、ほとんどがなれている、という実証研究からの問題提起で、これは玄田有史氏の『人間に格はない』でも実証研究されている。玄田氏の論によれば、初職が非正規であったとしても、むしろそれは「正社員への入り口」として捉えることが可能であったという。
 第二に、実際には「自ら選択して」非正規雇用になっているロスジェネ世代も相当数に上っていたというのだ。確かに、現在の非正規雇用と比べて、当時の非正規雇用が「明るかった」という話はよく耳にする。日本型雇用が残存する中で、その外側の「自由」を満喫するという若者像は、まったく的外れではなかったようである。日本型雇用の長時間・過酷労働を思えば、当時の若者が非正規を「自由」と受け取っても無理からぬことであろう。
 だが一方で、正社員になれなかったことを、大きな恨みをもって語るロスジェネ世代も多数に上る。その代表格が赤城智弘氏である。彼らの主張は、受験競争を経て、大学を出て、本当だったら上のバブル世代と同じようにおいしい思いができるはずだったのに、何で俺らだけ就職できないんだ、という恨みぶしである。
 実はこの両者は共通して上の世代の日本型社員と対比して自分たちを表現している。日本型の「会社人間」にならずにすんだ、という「自由」の実感と、「会社人間」が得ていた報酬を得られないことへの不満である。どちらにしても、まだ「日本型」の希望があり、その希望からの距離感が、彼らの怒りの源泉であった。
 こうした「ロスジェネ世代」の実感と、それ以後の「ポストロスジェネ」世代の実家は大きく隔たっている。私たち「ポストロスジェネ世代」にとっては、かれらのような「日本型雇用の夢」ははじめから存在しない。彼らの言葉は、私たちの世代にはまったく届かないのだ。そもそも就職できる可能性がはじめから閉ざされ、学校教育の中でも「非正規雇用率」や「生涯賃金の格差」を強調されて育った世代。はじめから暗い世の中で、希望もない。日本型雇用との比較・参照軸などもっておらず、怒りすら沸かない。現状をただ受け入れるしかない。実際の過酷さでも、ロスジェネ世代なんかより、私たちの世代のほうが非正規率も高く、その後の正社員転換も少ない。
 それなのに、「若者」や「格差」といえば、就職氷河期のオピニオンリーダーが独占的に現れてくる。というか、彼ら、もう「若者」じゃなかろうに。最近の取材では、ロスジェネ以下世代の記者が目立つようになった。彼らは口々に「取材先と感覚があわない」という。ロスジェネ世代の論者が、すでに若者としての実感を代弁できなくなっていることは明らかだろう。
 
・非正規雇用は正社員への「経路」か
次の論点は、上でも紹介したように、玄田有史が述べる「非正規を通じた正社員への就職」が本当なのかというものである。
この点について、ロスジェネ世代の高年齢化に伴う正社員化の実態を実証解明した玄田氏自身も、最近の傾向の中では違った見方をしたほうがよいかもしれない、という趣旨のことを述べており、明らかに現状では「固定化」へと変化しつつある。
 海外でも非正規を通じた正規就労は議論がされており、「temp to perm」(一時的な雇用を通じた常用化)と呼ばれる。確かに、一度雇って見ないことには長期雇用でもやっていけるだけの適正を把握することは難しい。そうした意味で、非正規を通じていろいろな職をわたり、適職に落ち着くという論は一定の説得力を持っている。
また、長期の引きこもり経験者など、いわゆる「就労困難者」にとっては、いきなりフルタイムの長期雇用につくことは困難であり、非正規雇用が就労の「入り口」としての機能を果たすことは十分に考えられるだろう。
だが、それにしても、安易に非正規が正社員化の入り口だということはできまい。非正規雇用の場合には技能向上が難しく(経営者が育てようとせず)、固定化しやすい。日雇派遣などはその極致で、毎日ころころ仕事がかわり、どの職場でも「最末端」に配置される。私も日雇派遣はよく経験したが、毎日が「初心者」の扱いで、何も進まない。まじめに仕事を続けるモチベーションが剥奪される虚脱感を覚えたことが、印象深かった。
 こうした非正規・低技能への固定化が、ロスジェネ以後にむしろ進んできたということは、実感ベースでも正しさがあり、今回政府で正面から問題提起したことの意義は大きいように思われる。
 
・「正社員化」が解決策なのか
 三点目に、では「正社員化」は解決策なのか、という点について問題提起したい。私が以前製造業派遣の調査を行った際、若者で派遣に従事している方は、多くが正社員を経験していた。なぜ正社員を辞めて非正規に入ったかといえば、正社員の給料が低すぎたり、長時間残業で体をこわしてのことだった。
 つまり、「正社員化」は万能の解決薬ではないのだ。今では正社員だからといって必ずしも年功賃金や終身雇用が保証されているわけではない。POSSE07年調査では、定期昇給か賞与(ボーナス)がない正社員は調査対象500人の内半数近くに及んだ。
 
また、正社員の労働は過酷を極め、鬱病や過労死・過労自殺を蔓延させている。正社員が続けられないほどに過酷であることも、正社員化が進まない要因の一つだろう。以前ヒアリングしたあるIT労働者は、1年間働くと体の限界に達し、アルバイトで休む。また復職するということを繰り返していた。
その上、実際には正社員になっても「いつでもやめさせられる」状態にはかわりないことが、最近の研究で明らかにされている。濱口桂一郎氏の『日本の雇用終了』(JIL)は、「正社員化」の虚構を暴きだした。
 このように、「正社員化」だけではなく、正社員・非正社員を合わせた雇用改革が必要とされている。かつて小杉礼子氏は、正社員になることを「自立」と同義に捉え、政策論を展開された。今、研究においても、政策論においても、こうした基本図式の捉えなおし画迫られている。
 
参考文献
今野晴貴・川村遼平(2011)『ブラック企業に負けない』旬報社
JILPT編・濱口桂一郎著(2012))『日本の雇用終了』
玄田有史(2010)『人間に格は無い』ミネルヴァ書房
小杉礼子(2010)『若者と初期キャリア』ミネルヴァ書房
 

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