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ここまでやるか?アンゲロプロス監督のこだわり

 テオ・アンゲロプロス監督作品の凄さの一つとして、ダイナミックで壮大な演出が挙げられます。
 ゆったりとした話の展開が続き、やや退屈だなと思った時に、ここぞとばかりに画面に映し出される光景。
 その壮麗さには、否応なしに釘付けにされてしまいます。
 この瞬間のためだけに、アンゲロプロス作品を鑑賞する、というのも大いにアリかもしれません。

 中には、作中のあるシーンを撮るために「ここまでやるか??」と思わずにはいられない事までやってのけてます。
 アンゲロプロス監督の映画作りのこだわりと情熱は、ただごとではありません。
 (曇天や降水時のみを狙って撮影するこだわりっぷりも半端じゃないですが)
 その例をここに紹介してみることにします。



 ◆『こうのとり、たちずさんで』
  ⇒「河の水量が足りない」⇒ダムを特設して増水
イメージ 1
 
 この作品の後半で、国境の河を挟んで結婚式が行われるという、一番の見せ所であるシーン。
 この国境の河、アンゲロプロス監督は「水量が足りない」という理由で、市長や住民の了承を得て、半年間に渡って水を塞き止めたらしい。
 そして、水量が最大になったときに放水し、一挙に撮影を行ったそうだ。
 おかげで非常に効果的で印象深い結婚式のシーンが出来上がることに成功したわけですが、この撮影のためのこだわりっぷりはただごとでなない。
 アンゲロプロス監督だからこそ慣行出来た、「作中には出てこない凄さ」がここにあります。



 ◆『エレニの旅』
  ⇒村を実際に水没させてしまう
イメージ 2
 
 この作品の舞台の一つである「ニュー・オデッサ」という村は撮影のために作られたもので、教会や学校を含めて100軒以上もの家々が造られました。
 作品の中盤、村が大洪水に襲われて大半が沈んでしまうシーンがありますが、これは造った村を本当に沈めてしまったらしい。
 この村の撮影場所は、アルバニア国境に近いケルキニ湖という所で、四つの季節をかけて撮影。
 ちなみに、上記の『こうのとり、たちずさんで』の撮影場所もケルキニ湖であり、実際にダムを特設して水を塞き止めたこの方法をベースにして撮影されたようだ。
 CGが主流となっている昨今、それに頼らず本当に村を造って沈めてしまうこのスケールのでかさには驚かされるばかりだ。



 ◆『アレクサンダー大王』
  ⇒200人を超える人々を引き連れ、−20℃の酷寒の山岳の村で撮影
イメージ 3
 
 この作品の主な舞台となっているのは、ギリシャのイピロス地方北部の険しい山中にあるドツィコという寒村。
 気温−20℃にまで下がるという冬、わずかな羊飼いを残して住民がいなくなってしまうという僻村でもあります。
 そんな中に、撮影隊、エキストラ含めた総勢200名ほどのクルーを引き連れ、撮影を慣行してしまいます。
 その撮影状況は、スタッフがストライキを起こそうとするまでに過酷さを極め、「アンゲロプロス、お前がアレクサンダー大王(=作中の独裁者)かよ!」と思ったことだろう。
 さらには、村に橋や時計台まで建設し、家々までもが石造りの屋根に変えられた。
 しかも、アレクサンダー大王を演じる陽気な名優オメロ・アントヌッティには役になりきってもらうために、数十キロの衣装を着せて待機中も孤立させ、ふざけたり笑ったりすることも禁じてしまう過酷な条件を強いるほどの徹底振り。



 ◆『蜂の旅人』
  ⇒蜂の巣箱をひっくり返して、本当に蜂を放ってしまう
イメージ 4
 

 マルチェロ・マストロヤンニが蜂の巣箱を次々とひっくり返していって、そのまま刺されてしまうラスト。
 このシーン、撮影時には本当に蜂が巣箱から放たれていたらしい。
 マストロヤンニはマスクなしで演じるため、全身に薬を塗ってガード。スタッフも全員同様にして撮影に挑んだらしい。
 この時ばかりは、長回しを多用するアンゲロプロスのスタイルを密かに悔やんだスタッフもいたそうだ。
 蜂の羽音のみや小道具、合成などで代用が効くような感じがしますが(映画の画面じゃ、蜂の変わりにハエが飛んでいたとしても分からないような気がする)、実際に蜂を放ってまで撮影しようとするアンゲロプロス監督のこだわりは半端ではない。
 


 ◆『霧の中の風景』
  ⇒トラック60台分の本物の雪を運び込んで積もらせる
イメージ 5
 
 霧だけでなく、雪も印象的な要素の一つとなっている『霧の中の風景』。
 ギリシャでは珍しい雪が降ったために人々が凍りついたかのように見惚れ、その中を駆け抜けていく少女ヴーラと弟アレクサンドロス。
 わずか2ショットしかないこの雪のシーンのために、わざわざ大掛かりな装置を用意して、人工雪を降らせたそうだ。
 さらには、トラクターで馬が置き去りにされ、アレクサンドロスが馬の死に涙するシーンでも、その周囲は雪に覆われていますが、この雪はトラック60台分の本物の雪が運び込まれて、敷き詰められたものらしい。
 わずか数ショットのためだけに、ここまでのこだわりを見せるアンゲロプロス監督、やはりただ者ではない。



 まだいくつか「ここまでやるか?」という例があるかもしれませんが、それは発見次第ここに加筆しようかと思います。
 (同時に情報求む)

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見えないところに膨大な手間をかけている。確かに凄いですよね。
華やかな演出、派手な演出はないですが、私は好きです。
「こうのとり、たちずさんで」というと、撮影地フロリナのギリシア正教からの嫌がらせがあったといいますね。中世の魔女狩り裁判のような、暗黒が未だにあるということに驚きました。そのエピソードを「ユリシーズの瞳」で描く監督の創作力にも感嘆しました。そのなかで「バルカンの現実は、アメリカより厳しい」というセリフがありましたが、現在にも通じた何かがありますね。

2012/2/6(月) 午後 7:51 [ テンテン ]

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恐ろしいほどの拘りにびっくりしました。そこまでしていたんですね。もしかしたら黒澤監督の比じゃないかも。

2012/2/7(火) 午後 7:35 shi_rakansu

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オドロキですね。何者ですか、彼は…。
アンゲロプロス作品、見たことないのです。
Mijahさんの記事で知りました。(-_-;)
スゴク見たくなった。

2012/2/7(火) 午後 10:45 グスタフ

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To テンテンさん>確かに派手さとは無縁のアンゲロプロス作品ですが、こういった壮大さと映画作りのための膨大な手間のかけようは、非常に素晴らしいと思います。
彼の作品が地味に見えて物凄く栄えているのもそのためなんでしょうね。
>ギリシア正教からの嫌がらせ
その陰湿な嫌がらせもひどい話です。アンゲロプロス監督、これで2度も入院したといいますし…。
ただ、これを『ユリシーズの瞳』の序盤のシーンに取り込む監督の凄さ、感服です。
>「バルカンの現実は、アメリカより厳しい」大戦から内戦まで、近年だけでも様々な争いがあったバルカンですからね…。しかも最近じゃユーロ危機。激動の時代はまだ続けられるのか…??深いセリフです。

2012/2/8(水) 午前 1:23 Mijah

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To シーラカンスさん>鑑賞中はせいぜい「凄いシーンだな」と思うにとどまってしまうんですが、影ではこれほどの手間隙をかけていたという事実。本当に驚くしかありません。
黒澤明監督の手間の掛けようも結構話題になりますね。彼の力の入れようも半端じゃないですし。

2012/2/8(水) 午前 1:26 Mijah

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To グスタフさん>あるシーンを撮るためにここまでの力の入れよう!単純に凄いの一言しかありません。
本当に何者なんだ??と思っちゃいますね。
アンゲロプロス作品、難解だと敬遠されがちではあるんですが、これほど力を入れて作り込んだ壮大な作品が多いのも事実です。
機会があれば是非とも鑑賞してみてください*

2012/2/8(水) 午前 1:33 Mijah

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