新・プルーのブログ

アツイぜベイベー!!清志郎帰って来い

その日の出来事

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最低の正月 4

最低の正月4 斉藤の話2
 男は言われるままに腰を下ろした。
「あなたの名前は?」俺がゆっくりとした声で聞く。
 俺の顔を見て、男は何故かぎょっとした。少し間が空く。
「ああ、すみません。ちょうど名刺を忘れてしまって。私、三木と申します」
 男はそういうと、セールス特有の笑顔を作った。
 それから約二時間。俺は男のセールスの駄目な点を上げていき、その改善策を提案した。最初は早く帰りたがっていた男も徐々に興味を示したようだった。
「なるほど。あなたの話は実におもしろい。本当に。ありがとうございました」
 その言葉を聞いて俺は数秒間、男を見続けてしまった。
「なぁ、俺と一緒に仕事しないか。いや、俺と一緒にその水を売ろうじゃないか。人間なんて簡単だ。少し言葉に気をつけるだけでいい」無意識に、口が動いた。
 少しの沈黙。
「やりましょう。斉藤さん」男がやさしく言った。
 なぜだろう。男に名前を呼ばれたとき、俺は得体の知れない違和感を感じた。この違和感は、後に判明する。
 この日から三木と俺は週に二回、時間を作って会うようになった。
場所は様々で、その都度俺が場所を決めていた。時にはパソコンで資料を作り、三木に渡した。三木は何も言わずに受け取る。ただ、俺が改善点をあげ、それに従う。そのアドバイスのおかげか、日に日に三木の業績は上がっていった。
「ありがとうございます。会社からもほめられました」三木が笑顔で言った。
「そうか。よかったな」
 俺と三木は同い年であることがお互いわかっていたのだが、三木はいつも敬語だ。
「斉藤さん、何か疲れてませんか」三木が心配そうにこちらを見た。
「いや、あまりこっちの会社がうまく行ってなくて。不況の波ってやつかな」
 はは、と無理に笑ったが、三木にはひどい顔を見せてしまっていたのだろう。。
「斉藤さん。今度は俺が助けます。待っててください」
「俺は俺でどうにかするから。お前は自分のことだけ考えておけ」
 そんな会話が続き、その日は別れた。
会社が本格的に傾き始めてから、三木とは会えない状況が続いた。次に会ったのは倒産が確定した直後だった。
 前日に三木から電話があり、俺たちが初めて会ったファミレスで久しぶりに話しませんかということだった。
「こんにちは。久しぶりです」
 俺がファミレスにつくと、三木はすでに座っていた。
「久しぶり」
 この時点で立場が逆転していた。俺は安物の、薄汚れた服。三木は高そうなスーツを着て、自信に満ちあふれていた。
「会社、どうなってるんですか」
「つぶれるよ。じきに」
 聞いて、三木はふっと笑った。
「斉藤さん。今回はいい話を持ってきたんです」
「いい話?」
「そうです。あなたの心理学知識をもっと使える職を見つけたんですよ」三木は少し興奮しているようだ。
「どんな」
「宗教を作るんです。斉藤さんならきっとできる。いや、絶対できる。そこで水販売も行いましょう。そうすれば、斉藤さんが今後生活に困ることはありません。それどころか、巨万の富を築くことができます」
 俺は三木に説得され続けた。俺のぼろぼろになった心に水を与えるように、三木の言葉がやさしく降りかかる。
 数時間後、俺はその話を引き受けることにした。どうせこのままでは職なしになるのは見えているし、楽しそうじゃないか。教祖になる。とても想像できない世界だ。「わくわく」する、あの懐かしい感覚が戻ってきた。

夢の中
「その宗教に、母さんは引っかかった訳か」
佐藤が落ち着きを取り戻して言った。
「そういうことだ。君のお母さんに俺の宗教を理解してもらえてうれしいよ」斉藤が笑う。
「でも、お前はその宗教を作って実際に今でも続けている。それでお金を手にしたなら何も最低の正月なんて過ごしてないじゃないか。。むしろ幸せそうだ」
「この話はこれじゃあ終わらないんだ」
 斉藤の顔に怒りが加わった。
「ねぇ、何か聞こえない?」会話を遮って、岩崎が言った。
 耳を周りの音に集中させる。足音だ。足音がする。二人の足音。
 佐藤は、暗闇の中に一人の姿をとらえることができた。
「私は幸せよ。あなたが元気でいてくれれば。今度水を送ってあげる」
 佐藤はその声を聞いてすぐに理解した。母親だ。母親がいる。姿がさらにはっきりとしてきた。間違いない。間違えるはずがない。
 母親はゆっくりと机に近づき、そのまま斉藤の隣の椅子に座った。
「母さんどうして・・・・・・」佐藤がすぐに問いかける。
「待って。もう一人いる」岩崎が言った。
 もう一人もだんだんと姿が見えてきた。
「久しぶりですね。斉藤さん」
「やっぱり来たのか」斉藤は驚く様子もなくゆっくりと答えた。
 とうとう最後の席が埋まった。
「そろそろこの夢も終わりに近づいてきました」
「やっぱりお前が仕掛けたのか。三木。いや、近藤と言った方が正しいな」
 終わり。夢が終わることはなにを意味するのだろう。
 暗闇には、不安と期待が混ざったような不思議な空気が漂っていた。

続く。

一月二日 大幅な加筆修正

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最低の正月 3

斉藤の話
 俺は小学生の頃から心理学に興味があった。お小遣いをもらっては心理学の本を買い、読み漁る。中学生になってもその姿勢は変わらず、心理学を学び続けた。
そのお陰で、言葉の運び方や仕草を変えるだけで、自分の思い通りにすることができるようになった。
 気がつけばクラスの中心人物。今思えば、このときから教祖になる才能があったのかもしれない。誰も逆らう者はいない。気がつけばクラスの全員が俺に流されている。最初はその姿を見ているだけでもよかったのだが、刺激のない日常が続くことにだんだん飽きを感じはじめていた。
中学三年生のある日、同じクラスの近藤がいかにもひ弱な下級生を連れて、体育館裏へ行くのを見かけた。不思議に思った俺は二人に気づかれないように後をつけた。半分は暇つぶしだ。
体育館の裏は使い古されたマットや野球部が使用するタイヤなどが置いてあり、人目に付かないことで有名だった。二人は体育館裏の一番奥まで入っていく。
俺は積まれたマットの陰に隠れながらできる限り近づくと、二人の会話が聞こえてきた。
「おい。そろそろ金が無くなってきたんだよね」近藤の声だ。
「でも、もう駄目なんだ。前に親にばれちゃってさ」ひ弱な声が響く。
「俺のこと言ってないだろうな」
「言ってないよ、もちろん」
「じゃあ、今回は許してやる。もう少し時間を空ける必要があるな」
 そう言うと、近藤は奥から俺の方へ近づいてきた。見つからないように、息を潜め体を丸める。砂利道が、近藤の通過を教えてくれた。
 次の日から俺は近藤をターゲットにした。彼は人気者という訳でもなかったがクラスには馴染んでいた。俺は彼の友人から徐々に関係を壊していった。正義だったのか悪だったのか今の俺にもわからない。
それから三ヶ月で近藤は孤立した。しかし、一つだけ予想外のことが起きた。
 卒業式当日、近藤が俺に話しかけてきた。
「お前だろ。俺をこのクラスからのけ者扱いにさせたのは」
「どうしてそう思うの?」
「見てりゃわかるさ。みんなお前のペースに流されてる」近藤の視線に力が増す。
「だとしたら、君はどうするんだい」
「痛い目に合わせる」
 そう言って、近藤は中学校を卒業した。その後、近藤と俺は別々の高校に入り接点はなくなった。
高校卒業と同時に父親の会社に入り、最後には社長にまでのぼりつめた。それなりの業績を上げていたと思う。しかし、またしても中学生の時に感じたあの感情が戻ってきた。「飽き」だ。その感情と共に近藤の記憶も戻ってくる。彼の言った言葉。所詮中学生の言うことだからと、ずっと忘れていた。なぜだか今になって強く胸に突き刺さる。
 そんなとき、たまたま入ったファミレスである男に出会った。男は俺の隣のボックス席に座っていて、前には一人の女性がいた。
「この水はとてもすばらしい水なのです。これを飲めば誰でも健康になれます」
 男が熱心に女性に話しかける。
「そうなんですか?」
 女性は警戒している。
「そうなんです。ここに署名していただければ毎月自動的に口座から水の料金が引き落としになって、あなたの家に水が届きます」
 女性は話を聞きながら、男から見えない場所で携帯電話を操作している。一瞬、アラーム設定という文字が見えた。
「もう一度、さっきの冊子を見せていただいてもいいですか」女性が落ち着いて言った。
「もちろん」
 男は黒い鞄から明るい色の冊子を取り出し、女性に渡した。
「こちら、グラタンです」
 店員の言葉で、俺は隣のボックス席に気を取られすぎていることに初めて気がついた。
 ほぼ同時に、女性の携帯電話がなった。
「もしもし。ああ、あなた?」
 その会話を聞いて、男は明らかに動揺した。
「ええ!じゃあ、すぐ行くわ」女性がわざとらしく言った。
「なにかあったんですか?」
「いえ、大したことじゃないんですけど、すぐに行かないといけなくて。すみませんが今回の話はなかったことにしてください。これ、コーヒー代です」
 女性は机に五百円玉を置き、足早に出口に向かった。
「すぐ終わりますから、署名だけですよ」
 男が女性の背中に向かって言った。しかし、女性は振り返るそぶりすらしなかった。
 俺は冷めていくグラタンよりも、次に男がどのような行動を取るのかが気になった。
 男は女性がさっきまで見ていた冊子を鞄に戻し、携帯電話を取り出した。どこかに電話をかけるらしい。
「もしもし。今回もだめでした」
 時間が経つにつれて男が泣きそうになっていく。それを見ているだけでも、電話口で罵倒されているのだろうと簡単に予想がついた。
「はい。次が最後のチャンスですね。わかってます」
 そういって、電話を切ると大きなため息をついた。携帯電話をしまい、伝票と五百円玉を持って立ち上がる。
「あの」
 それが俺の口から発せられたことに一瞬気がつかなかった。
「なんでしょうか」
「いや、あの。お時間ありますか」
 男は怪訝そうにこちらを見る。
「ありますけど」
「ちょっと、こっちに来て座ってください」
 自分でもなぜこんなことをするのかわからなかった。こうしなければならない、と強く本能が主張していた。 

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最低の正月 2

佐藤の話
十二月八日。何十年も前にジョンレノンが死んだ日。僕の母親が死んだ。
 といっても、この世からいなくなったわけではない。僕の中の母親が死んだのだ。
母親は精神的に弱い人だった。四月に僕が一人暮らしをすることになって、僕はそのことを一番に心配した。
父親は昔からあまり家庭に目を向けず、自分の好きなことばかりしている。この人のどこを好きになれるのだろう。少なくとも僕には好きになる部分を見つけることはできなかった。
心配を残したまま、僕は大学へ行くために一人暮らしを始めた。
結局は自分中心の考えしかしていないのだろう。本当に母親のことが心配ならもっと方法があったはずだ。
 最初の二ヶ月。毎日のように携帯電話が鳴った。母親からだ。
「ご飯はちゃんと食べてる?」とか
「大学は楽しい? 難しい?」
 なんてことを聞いてきた。一週間連絡が無く、やっと子離れしてくれたかと半分喜んでいた。もう半分はなにかあったのかもしれないという不安だ。
さらに一ヶ月が経ち、久しぶりに母親から電話が来た。
「もしもし。母さん、久しぶりだね」電話に出るとほぼ同時に言った。
「うん。お前は元気でやってる?」
 僕は母親の声に異変を感じた。
「母さん、なんか前より元気そうな声だね。なにかあったの?」
 元気なら良い。でも、なにかが引っかかる。
「そうそう。私、毎日お祈りしてるから。いいことばかり起きるの」
「お祈り?」
「そう。幸せになれるって言われてね。おいしい水もあるのよ。これを飲むと健康になるんですって。今度あんたにも送るから」母親がよりいっそう元気な声で言った。
「まさか。なにか宗教に入ったの?」
「なに、そんな必死な声で。入ったわよ。○○教っていうの。とても親切な人ばかりだから、心配しないで」
「ちょっと待って」
 僕は電話をしながら、必死でその宗教について調べた。パソコンの画面には、悪評ばかり並んでいる。
「母さん。そこは駄目だよ。悪徳宗教なんだ。さっき言ってた水、何円だったの」
「毎月五万円。十二本入り一箱送られてくるのよ。でも、そこおかげで健康に過ごせてるの。風邪もすぐに治っちゃったし」
 僕の心配は的中した。父親に連絡しようか。でも、彼が何をしてくれる? 
「父さんは? そこにいるの」
「父さんは出て行った。どこかに女でも作ったんじゃないかしら」母親の声はあまり変わらない。
「わかった。じゃあ、明日僕がそっち行くから。ちょうど三連休だし。お金は大丈夫だから。待ってて」
「いいのよ、そんな。もったいないでしょ。それに……」
 母親の話の途中に僕は電話を切った。駄目だ。僕が救わないと母親は悪徳宗教にはまってしまう。
急いで準備をした。着替え、財布、携帯電話。必要の無いものはすべて置いていこう。ここから実家まで、バスで四時間かかる。明日の一番早いバスが七時に発車する。昼には母親の元へ行けるだろう。



夢の中
「それから、どうなったの」斉藤が尋ねた。
 佐藤はゆっくりと目を開け、斉藤の口元をみた。
「その後、ずっと母親を説得しました。五万円の水なんておかしいじゃないか、インターネットを見てごらんよなんて言い続けたんです。しかも、そのお金は僕の大学資金を崩して使ってたみたいです」
「そっか。佐藤君もいろいろ大変なんだね。十二月八日になにがあったの?」次は岩崎が尋ねた。
「消えたんです」佐藤が小さく答えた。
「消えた?」岩崎が驚いて言った。
「消えたって、どこに行ったの」
「その宗教の本拠地です。信者以外は入ることもできないし、僕にはどうすることもできなくなってしまったんです。そのままずるずると正月を迎えました。昔、母が作ってくれたおせちなんかを思い出して、泣いたりもしました」
 沈黙。佐藤の荒い呼吸が聞こえる。今にも泣き出しそうだ。
「話してくれてありがとう。辛かったでしょうね。私に慰められてもうれしくないかもしれないけど、それが母親の生き甲斐ならそれでいいんじゃないの?」岩崎が言った。
「だって僕、母親に何もしてあげられてないんですよ。父親はあんなのだから、実質シングルマザーだったんです。生活も苦しいはずなのに誕生日やクリスマスには必ずプレゼントを用意してくれました」佐藤の顔に涙が光る。
「君は母親に会いたいの?」斉藤が言った。
「もちろん。でも、どうしていいのかわからなくて。警察も動けないみたいだし」
「○○教って言ったよね」
「はい。比較的、新しい宗教らしいです」
「おもしろいね」斉藤の口元が緩んだ。
 沈黙と恐怖と不安が空気に混ざる。
「どういうことですか。馬鹿にしてるんですか」
 佐藤は今にも斉藤に飛びかかろうとしている。岩崎がなんとか押さえた。
「落ち着いて。斉藤さん、なんてこと言うんですか」岩崎が怒った。
「佐藤君。君と俺にはもう一つ共通点があったみたいだ」
今度ははっきりと、笑顔を作った。
「なんのことですか」佐藤が言った。
「俺はその宗教の教祖だ」
 佐藤からみるみる力が抜けていく。岩崎も困惑し、ただ佐藤を支えることしかできなくなった。

続く。
※見直しなしのため、誤字脱字あり。

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最低の正月 1

 最低の正月〜夢の中で〜 1日目
プロローグ
 空に除夜の鐘の音が鳴り響き、人々は蕎麦をすする。だんだんと夜の密度が高まり、年末の気だるさから新年のやる気へと変わりつつある。今年の反省を終え、来年はもっといい年にしよう。それぞれの誓いを胸に眠りにつく。
 一月一日。いつもより少しだけ遅く起きる。暖かい布団からしばらく出ることができない。そのうち家族の一人が声をかけにきてやっと寒い世界へ羽ばたくことができる。寒さを感じながら人々はおせちを食べ、新年の味をかみしめる。母親と妹は地下鉄に乗ってバーゲンセールへ。何もする事がない人々は新年初笑い、なんて銘打った番組を何時間もぼーっと見続ける。そんなことをしているうちにまた夜が来る。夜ご飯もおせち。今日は何もしない日だったなぁ、なんて少し後悔してから布団に入る。眠る前に今年について考える。やるべきこと、やめるべきこと。徐々に考えることが億劫になり、面倒なことは明日に回そう。そう思って瞼をとじる。
 これはごく一般的な正月の風景だ。しかし、これから登場する五人の人物はこういった一般的な正月に一切縁のなかった人たちである。それぞれ闇を抱え、悩みがある。そんな五人が集まったとき、何が起こるのだろうか。

夢の中へ 
 佐藤は目を開けた。辺りはうっすらと明かりがともされ、真ん中に丸い机と五つの席がある。すでに二席が埋まっていて二人の背中が見える。なにやら話し込んでいるようだ。佐藤がゆっくりと机に近づいていくと、一人が佐藤に気がついた。
「ああ、また一人増えた」
 男の声だ。顔はまだわからない。二人とも振り返ろうとしないのだ。
「君も座りなよ」
 次は女性の明るい透き通った声。この場所では不釣り合いだ。
 「はい」佐藤は返事をして、女性の隣に座った。
不思議と顔がわからない。顔の上は闇に包まれていて、二人の口元しか見えない。
「君が言いたいことはわかってる。ここがどこなのか、なぜ顔が見えないのか。でも私たちはわからない。眠った記憶があるから、夢の中かもしれない」女性が言った。
「そんな。夢だなんて。普通に会話してるじゃないですか。その・・・・・・」佐藤は言葉に詰まった。
「私は岩崎。隣のこの人は斉藤さん」
「こんばんは。俺も気がついたらここにいたんだ。彼女も同じ。俺が最初にここに来てその五分後くらいに彼女が来た。君はその一時間後。と言っても時計がないから正確なことはわからないけどね」斉藤はゆっくりと聞こえやすいように言葉を守りながら話した。
「そうですか。今まで何を話していたんですか」佐藤が質問した。
「最初は質問ばっかり。ここはどこなのかとかあなたは誰なのかとか。でも何の解決もしそうにないから、共通点を探そうっていうことになってさ」斉藤が答える。
「共通点ですか」
 そう言って佐藤は考え込んだ。初めての経験、不安、恐怖。少しでも落ち着くために何が必要だろうか。
「じゃあ、自己紹介しましょうよ。あと二席空きがあるんで、もしかしたらその都度やることになるかもしれませんが。とりあえず、年齢と趣味と仕事、あと正月に起きたこと。確か今日は一月一日の夜ですよね」しばらくして佐藤が言った。
「じゃあ、まず俺から。名前はさっき言った通り斉藤。三十六歳で趣味は車。仕事はアパレル関係の社長をやってました」
「やっていた?」佐藤が聞く。
「そう。やっていたんだ。そのことについてはあまり話したくないんだ。あまり明るい話題じゃないんでね。最低の正月だったよ」
 斉藤の言葉に怒りがこもる。
「最低の正月っていえば、私もあまり良い正月じゃなかった。ああ、その前に自己紹介するね。名前は岩崎。年齢は二十一。趣味は特に無いかな、強いて言えば寝ること。まぁ、今も寝てるんだけどね。仕事はシナリオライター。まだまだ実力ないけど、がんばってます」岩崎の明るい声が響いた。
「実は僕も良い正月じゃなかったんです。僕は佐藤。十九歳。趣味は読書とギターかな。大学生です」
 それぞれがため息をついた。会話を作らないと少しの沈黙でも得体の知れない恐怖に襲われる。
「じゃあ、これでわかったわけだ。俺たちはそれぞれ最低の正月を過ごした。それが共通点か」斉藤がもう一度ため息をついた。
 共通点がわかった。状況は一切変わらない。薄暗い中で顔もわからず、ただ会話するしかない。
「どうしますか」
 佐藤がみんなに問いかける。しかし、答えは誰もがわかっていた。時間をつぶすしかないのだ。
「話しましょうよ。きっと、なにか意味のあることなんですよ。この夢は」岩崎が答えた。
「じゃあ最初に、時間つぶしとして僕の話を聞いてくれますか」佐藤が手を上げた。
「どうぞ」斉藤が静かに言った。
 佐藤は目を閉じ、去年の出来事を思い出す。どうしてかわからないが、佐藤には自分の頭の中の声や情景が、ここにいる全員と共有できることがわかった。言葉はいらない。すべて頭の中で思えば良い。
ゆっくりと記憶が鮮明な映像として浮かぶ。においも音も、すべてが再現されようとしていた。

続く。

※見直しなしのため、誤字脱字あり。 12月25日 加筆修正

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地球最後の日

地球最後の日
 今日は地球最後の日だ。テレビやラジオ、インターネットでも数年前から話題になっていた。しかし、どうすることもできないらしい。僕らは死ぬしかないのだ。
意外なことに犯罪はそれほど増えなかった。最後とわかっていても良心というものは消えないようで、悪いやつは相変わらず悪かったし、いいやつは相変わらずいいやつのままだ。生活はあまり大きな変化を見せなかった。
 だから僕は今日が来るまでにしておきたいことをすべてやることができた。いきたいところにも行ったし(最後の日が迫るにつれて値段がどんどんと下がっていった)おいしい物もできるだけ食べた。好きだった女性に告白もした。答えはイエスだったが、最後は家族で過ごしたいからと言って去ってからもう一年がたつ。彼女が実家に帰ってからは不定期にメールや電話が来るだけとなった。
 しかし、改めて思うと自分には欲があまりないことに気付かされる。お金がほしい。僕はそんなコトばかり言っていたのだが、その先のことは考えていなかった。お金があればそれで幸せだったのだ。お金こそが幸せの計りになっていた。
地球最後の日。僕は公園でギターを弾いていた。ちょうど彼女と会わなくなったあたりから毎日こうして過ごしている。僕の他にも何人か楽器を持って歌っている人がいて、自作曲や他人の曲など各々好きな曲を歌っていた。
「やっぱり最後の日はあまり人がいないね」
 そう話しかけてきたのは、僕がここに来る前からずっとギターを弾いているTさんだ。ここで歌っているうちに時々飲みに行くくらいの仲になった。
「みんな自分の家で過ごすんでしょうね」
「そうだろうな」
 最初は誰も信じてなんていなかった。むしろ馬鹿にしていた。地球が滅ぶわけがないし、これまでだってそんな噂は毎年のように出てたじゃないか。そう言って、いつものような生活を送っていた。
そんなある朝、速報が流れる。世界中のトップが同時に地球最後の日まで悔いのないように過ごすようにというコメントを発したということだった。テレビは一斉に画面を切り替え、二十四時間それについてああでもないこうでもないと分けのわからない大学教授が話し合った。
「これが本当かどうかはわからないが、俺の家族がいなくなったことは紛れも無い事実なんだ。家族に会えないなら地球に悔いなんてないよ」とYさんが嘆いた。
「まぁ、もうすぐ終わりますよ」
「君の彼女もいなくなったんだろ? 」
「たぶん、死んだんじゃないでしょうか。ちょうど先月から連絡が途絶えました」
 ちょうど一ヶ月前、突然町内放送が流れた。
「現在、全世界で女性と十八歳以下の子どもが相次いで亡くなっているという情報が入っています。地球滅亡と関係があるとされており、安全のため避難をしていただかなくてはいけなくなりました」
 それからはあっという間だった。がたいのいい男が家の中に入ってきて、女と子どもをさらって行った。なぜかそのことについて抗議が起こることもなく、それが当たり前だったかのように残った人々は生活を続けた。
「俺な、その時そいつに触ったんだよ。そしたら、皮膚が動いたんだ」
「皮膚が? 」
「そう。たぶん、アイツらは人間じゃない。宇宙人かなんかなんだよ」
「宇宙人…… 」
 なにかが頭の中に引っかかっている。なにかが思い出されようとしている。
「そういえば、Yさんなんか痩せましたね」
「ああ、三日くらい前から食欲が無いんだ。最後くらいうまいもんでも食いたかったんだがな」
 どうしても頭の中の引っ掛かりが取れない。でも考えるのも億劫だ。
「なぁ、なんかおかしくないか? 」とYさん。
「なにがですか」
「全部だよ。最初から。そもそもなんで地球が終わるんだよ。どうやって? 」
 そういえば、どうして地球が終わるんだろう。気にしたこともなかった。
「考えてみろよ、俺の家族は誘拐されたんだ。宇宙人に」
「なに言ってるんですか。誘拐なんて。避難したんですよ」
「君はさっき彼女は死んだって言ったよな。どうして避難してる奴が死ぬんだ」
「それは……。いや、でも」
 なんだかぼーっとしてきた。
「最近なんか食べたか? 」
「ここに来る前に、家にあったスナック菓子をひとつ食べました」
「それだ。人間が生きるために必要なもの。いや、生物が生きるために必要なもの。食べ物なんだ。やつら宇宙人がこの世のすべての食べ物に薬を混ぜたんだ。もしかしたら空気中に散布したのかもしれん」
「何を馬鹿なことを言ってるんですか。今日で地球は終わります。絶対に」
「いいか、俺は思い出したんだ。俺はお前の会社で上司だった。薬品会社だ」
「いえ、私は車関係の会社に勤めてました」
「じゃあ、なんていう会社でどんな仕事をしてた」
 そう言われると出てこない。おかしい、つい最近まで働いていたはずなのに。
「まぁいい。とにかく全部話そう」

 地球最後の日という話が世に出る前、僕とYさんはある薬品を作っていた。世界を変える薬品だ。
「この薬は、人間の記憶を好きなように改変できるんだ」
「そうですね。これがうまくいけばいいんですが」
 Yさんと僕はその薬を平和利用のために制作していた。紛争地域に使用し、人々の記憶を改変する。そうすることで戦争を減らそうと考えたのだ。
「これは、国からの要請で作られたものだ。もしかしたら何か裏があるのかもしれない。普通は禁止されている人体実験も初期の段階から許された」
「確かに。これが悪用されたら、大変なことになります。しかし、逆らえば…… 」
「だから、俺たちはこの薬で手に入れたお金でこの薬が無効になる薬を開発するんだ。もし悪用されたら、それが地球全体に分布されるようにするんだ」
 なんとか薬品を開発し、国に売った。大金を手に入れたYさんと僕は国に完成祝いパーティーに誘われ、そこで豪華な食事をした。

「その食事に、俺達の作った薬が入ってたんだよ」
「この研究すべてを忘れさせ、違う会社に就職していることにされたってことですか」
「そうだ」
「そういえば、なんとなくそんな気がしてきました」
 ふと、時計を見るとあと一分で今日が終わることに気がつく。
「やっぱり、嘘だったんですかね。地球滅亡なんて。あと一分で十二時です」
 僕は静かに時計を見つめた。秒針がゆっくりと一周を終えようとしていた。
十二時になった瞬間、目の前が光に包まれた。強いライトを当てられているらしい。
「実験終了だ」
 どこからか声が聴こえる。スピーカーからのようだ。
「どういうことですか。教えてください」僕は叫んだ。
「いいだろう。教えてやろう。これは人体実験だ。ある薬を開発しているんだが、ちょいと特殊な薬でな。脳に様々な記憶を埋め込むことができるんだ。今回は最終実験ということもあって大規模なものだった。地球最後の日という記憶を埋め込み、行動を監視した」
「じゃあ、Yさんの話はなんだったんですか」
「Yさんか。そんなやつはいない」
「何をばかな」
 見ると、確かにとなりにいたYさんがいない。さっきまでの話はなんだったんだ。
「Yさんも君の記憶に過ぎない。間接的に実験のことを伝え、記憶が戻らないことを確認した。それと君はここに二時間しかいない」
「そんな……」
「ここもただの部屋だ。すべて君の脳内で作られたものなんだ」
 僕はただの四畳半の狭い部屋にいることに気づく。公園なんかどこにもなかった。
「じゃあ、僕は誰なんですか。どこからが本当なんですか」
「君は死刑囚。彼女と会社の上司、その家族を殺し、明日死刑が執行される。今日は地球最後の日ではなかったが、君の最後の日だ。悔いのないようにすごせ」




 二人の会話
「この男、このやりとりが二百回続いていることもわかっていない。すごい薬ですね」
「でも、今回は宇宙人という言葉を聞いたとき、この男の脳に反応があった。それと、ギターを弾いていたYさんという記憶もこちらで設定したものではない」
「記憶が戻りつつあるということですか」
「そうかもしれん。我々の奴隷にするにはもう少し実験を重ねる必要があるようだな。次の設定は……」

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